三度の流産を越え、極悪セレブ界を完全制圧 のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

104 チャプター

第51話

節子は、失望もあらわに都子を見つめ返した。「お母さん……いつからそんなに嫌な人間になっちゃったの?」「はあ!?あんた、親に向かって嫌な人間って……!」実の娘からの容赦ない言葉に、都子の顔が怒りで青ざめる。だが節子は怯まなかった。「星歌さんへの態度、本当に酷いじゃない。家柄で彼女を見下して、疑って、侮蔑して」「あんた……私を責める前に、あの女がやってる事を見なさいよ!夏蓮はただでさえ帝王切開で大変なのに、あの女のせいで何度も傷口が開いてるのよ!」都子は怒りで震えながら声を荒らげた。「あのね、飛鳥兄さんが夏蓮さんにつきっきりで出産を待ってる間に、星歌さんはお腹の子を失ったのよ!これで何もせずに黙って暴言を目こぼししろって言う方がどうかしてる!」節子は語気を強める。「この半年間、家族全員でどれだけ星歌さんを追い詰めたか忘れたの?私ならとっくに、全員刺し殺してるところよ!」「な、なに……!?」都子はあまりの剣幕にくらくらとよろめいた。「だ、だから言ってるじゃない!あの同意書は……」「同意書が偽造だって?鼻で笑うわ!」節子は冷笑した。「一昨日、病院に現れた星歌さんの顔が、どれだけ真っ青だったか……お母さんはあの姿を見ても、まだそんなこと言えるの?」都子は言葉を失った。チーンと、冷たい音が鳴ってエレベーターの扉が開いた。節子は怒りも露わに、掴まれていた腕を振り払って乗り込んだ。「ちょっと、あんた……!」忌々しげに声を上げる都子を、節子は冷たい目で見下ろした。「流産して身も心もボロボロだった彼女にあんな仕打ちをしたんだから。星歌さんがこれだけやり返すのも、自業自得よ」都子は言い返せなかった。無機質な音とともに、エレベーターの扉が閉まる。ホールに取り残された都子は、しばらく呆然としていた。星歌が本当に流産したなどと節子から聞かされ、一瞬、予想外の言葉に虚を突かれたのだ。だが、彼女の胸に罪悪感が湧くことはなかった。それどころか、すぐに自分の都合の良い解釈で「星歌の流産」という事実を頭から排除した。「まったく……元々妊娠なんてしてないんだから、流産するわけないじゃないの!」独り言を吐き捨てると、都子は足早に病室へと戻っていった。病室では、さらにヒステリーを加速させた夏蓮が暴れていた。
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第52話

冴島グループの本社を辞した星歌は、その足で「ライフソース・バイオテック」へと向かった。昼食はグロが手配してくれた。星歌が会社にいると聞きつけ、親友の江里子も一緒にランチを食べにやって来た。「あんたさ、あんな凄いお兄さんがいるのに、どうしてそこまで身を粉にして働いてるのよ。今の身体、一番休めなきゃいけない時でしょ?」呆れたように言う江里子に、星歌は箸を進めながら答える。「具合が悪いわけじゃないし、もし体調が悪かったらちゃんと休むわよ」それに、と星歌は続ける。「ここまできて休むわけにいかないの。ずっと注ぎ込んできた心血が、今まさに実を結ぼうとしてる大事な時期。放棄なんて絶対にできないわ」江里子も自身で会社を経営している身だ。プロジェクトの成果がどれほど重要か、そしてある程度の立場になれば、自分の時間を自由にコントロールできることがいかに有意義かはよく分かっている。「……まあ、確かにね」言い負かされた江里子は、納得したように頷き、小鉢の豚の角煮を一つ星歌の皿に取り分けた。「江里子も食べなよ、これすっごく美味しいわよ」と、星歌が言うと、江里子は笑って答えた。「うん、もういくつか食べた。ここのお肉、本当に最高だわ」星墨山の専属シェフの腕前は、相変わらず絶品だった。「そういえば」江里子は豚の角煮をつまみながら、ふと真面目な顔になった。「夏目陽子が、今日こっちに向かってるらしいわよ」「うん、知ってる」星歌は平然と答える。「あ、そっか。あんたには今、最強のお兄様がついてるんだったわね」アリ・フォグレという強大な後ろ盾があれば、どんな情報も筒抜けだろう。江里子は納得しつつも、忠告を付け加えた。「でも、気をつけてよ。あの女、表裏激しくて何してくるか分かんないから。絶対、裏であなたを陥れようと動いてくるはず」表向きは、曲がりなりにも夫である飛鳥が星歌を庇うだろう。だが、裏社会とも繋がりのある陽子のことだ。すでに星歌を始末するための汚い手筈を整えているかもしれない。「大丈夫よ。あの女に、そんなことに構ってる余裕なんてなくなるから」「えっ?」「まぁ見てなさいよ。愛する一人娘と、自分の富と権力……どっちが彼女にとって大事か、すぐに分かるから」星歌の自信に満ちた言葉に、江里子は察した。なるほど、すでに先回りし
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第53話

写真の隅に印字された撮影日時は三年前の十月。あの辺りの紅葉が一番美しかった時期だ。こんなにも完璧な写真を、啓介が持っていたなんて……さらに写真をめくると、今度は分厚い図面の束を抱えた夏蓮が観光局に入っていく様子を捉えた監視カメラの画像が出てきた。手元の図面部分が拡大され、入室時間もはっきりと記録されている。星歌は驚きを隠せなかった。啓介が「証拠を渡す」と言った時、せいぜい関係者の通話録音か何かだろうと思っていたのだ。これほど鮮明で、言い逃れのできない決定的な物証を突きつけてくるとは。星歌は資料を丁寧にファイルへ戻した。「高峰さんは?」「分かりません。秘書の神崎さんがお持ちになったので」と真希は首を横に振る。星歌は少し考えた後、再びファイルから資料を出し直し、一枚ずつスマホで撮影した。念のため自分のクラウドにもバックアップを保存し、原本はオフィスの金庫へと厳重に保管した。「お疲れ様。あなたももう上がりなさい」立ち上がり、オフィスのドアまで向かった星歌は、真希を振り返った。「あとで、高峰さんの連絡先を私に送っておいて」これほど緻密で強力な武器を提供してくれたのだ。直接、ちゃんとお礼を伝えるべきだろう。......バイオ会社のビルを出て広場へ向かうと、遠目からでも目立つ、黒光りするGクラスが停まっていた。間違いない、飛鳥の車だ。そしてそのすぐ後ろには、グロが手配したロールス・ロイス・ファントムも到着していた。歩いてくる星歌に気づいたグロが、うやうやしく後部座席のドアを開ける。Gクラスの中でその光景を見ていた飛鳥の脳裏に、部下の一真から送られてきたメールの文面がフラッシュバックした。【星歌様が、高峰氏の車に乗られました】今目の前にいるこの異国人。そして、親友であるはずの啓介の影。すべての状況が、星歌と啓介の間に「裏切りの関係がある」と告げている。飛鳥の怒りはすでに沸点を突破していた。親友の妻に手を出しておいて、啓介のやつ一体何のつもりだ?こうして異国の人間まで星歌の傍に張り付かせて、世話を焼かせるなど……飛鳥は冷酷な眼差しで星歌を睨みつけた。今日という今日は見てやる。夫である俺の前で、この女が本当に他の男の用意した車に乗り込めるのかどうかを。そして――彼女は躊躇なくそれを
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第54話

車がどうにか路肩に停車するや否や、星歌は転がるようにして外へ飛び出し、道端で激しく嘔吐した。苛立ちに任せて髪を掻きむしり、飛鳥は車を降りるとミネラルウォーターのボトルを星歌に差し出した。だが星歌は、その手を思いきり払いのけた。弾き飛ばされたボトルは地面に落ち、蓋が外れて中の水が芝生の上へドクドクと流れ出していく。飛鳥は顔をしかめたが、無言で車に戻り、もう一本ボトルを取ってきた。しかし振り返ると、星歌は自分のバッグから水を取り出して口をゆすぎ、そのままこちらを一瞥もせずに道路沿いを歩き出していた。最近の星歌は、飛鳥に対して常にこういう態度だ。隙あらば彼を拒絶し、徹底的に冷徹な顔しか見せない。その姿が、飛鳥の苛立ちにさらに火をつけた。運転席に戻ると、車を徐行させて彼女の横に並んだ。「乗れ」星歌は無視して前を向いたまま歩き続ける。飛鳥は再び車を降り、強引に彼女を助手席へと押し込んだ。今度は、先ほどより随分と落ち着いた速度で車を走らせた。向かった先は墨霞邸だった。外壁の石にこびりついていた焦げ跡は、すでに執事が手配して綺麗に消されていた。飛鳥は星歌の腕を掴み、半ば引きずるようにして邸内へ連れ込んだ。リビングのソファに座らされた星歌は、ひたすら沈黙を貫き、冷たい目をしたままだった。飛鳥は苛立たしげに酒のボトルを開け、グラスに注いで煽った。「……お前、まだ何を隠し持ってる?」夏蓮に関するネタのことだ。昨日から今日にかけての騒動で、飛鳥は星歌の手札の恐ろしさを骨の髄まで思い知らされていた。まさか星歌が牙を剥いた時、ここまで容赦のない手段に出るとは思っていなかった。世論を操るその手際の良さもだ。彼女は決して、これまで自分が見てきたような「従順で純真な愛玩動物」などではなかった。星歌は彼を見て、鼻で笑った。「たくさんあるわよ。いくら出すつもり?」「……」金を要求するその口ぶりに、飛鳥の眼差しがスッと冷え込んだ。再び酒を注ぎ、一気に飲み干す。「どうしてそこまでアイツを目の敵にするんだ。この半年、俺と夏蓮さんの距離が近すぎたってんなら、そんなの気にする必要ないだろ。俺とアイツの間には何もない。お前が嫌がるなら、今後はもう関わらないようにする。それでいいだろ」まるで大したことではない
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第55話

バツの悪さを誤魔化すように、飛鳥は苛立たしげに再びボトルを手に取り、グラスに酒を注ぐ。「二年前のあれが故意かどうかなんて関係ない。私の子は、確実にあの女のせいで死んだのよ!」星歌の語気が強まる。「数日前の本家でも、私を突き飛ばしたのはあの女。飛鳥、あいつのやってきた数々の所業を――」「要するに、本家で夏蓮さんに突き飛ばされたから流産したって言いたいんだろ?」飛鳥が遮った。その不埒で投げやりな口調には、明らかな嘲りが混じっていた。そのデザインが、夏蓮自身の手で描かれたものだと本気で信じているのか――そう追及しようとした星歌だったが、飛鳥のあからさまな不信と嘲笑に満ちた声を聞いて、ふと馬鹿らしくなった。わざわざ口を開く労力すらもったいない。反論をやめた星歌に、飛鳥は悪びれもせず続けた。「デザインの件は、夏蓮さんを責めるな」「……は?」「あの時、夏蓮さんが担当してたプロジェクトの申請で、どうしてもあの設計を組み込む必要があった。だから俺が使わせたんだ」「あなたが使わせた!?何の権利があってそんなことしたのよ!あれはあなたの設計なの!?」星歌の怒りが再び燃え上がった。「たかがデザイン一つだろ。お前にとってそんなに大事なものだったのか?」飛鳥は平然と言い放つ。「それに、あの時のお前は気にしてなかっただろ」星歌は絶句した。部屋の空気が、重く張り詰める。目の前にいる飛鳥という男が、赤の他人のように感じられた。「たかがデザイン一つ?私はあの現地調査で、土砂崩れに巻き込まれて死にかけたのよ!なのに、たかがデザインですって?」星歌は震える声で詰問した。「私が気にしてなかった?どうしてあなたが勝手に決めるのよ!」『たかがデザイン』『気にしてなかった』――妻の思い入れや苦労など、すべて夫である自分が都合よく判断していいとでも思っているのか。もう彼とまともに言葉を交わす気にもなれなかった。『土砂崩れ』という単語に、飛鳥の顔がわずかに強張る。泥まみれで病院のベッドに横たわっていた星歌の姿が、脳裏を掠めた。あの時、あまりの無茶をして大怪我を負った彼女に対して、飛鳥は怒りのあまり何日間も口を利かなかったのだ。星歌は無言で立ち上がり、玄関へと向かった。背後から声が飛ぶ。「またどこへ行く気だ」無
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第56話

一方、病院では。病室に到着した陽子は、開口一番から都子に対して露骨な不快感を示していた。ちくちくと棘のある嫌味で、『夏蓮への配慮が足りない』『星歌のような小娘一人まともに管理できていない』と、都子を暗に責め立てたのだ。腹に据えかねた都子だったが、陽子が夏蓮の病室に入っていくのを見計らい、適当な理由をつけて亜季と共に新生児室へと逃げ出した。エレベーターの中で、亜季は不満を爆発させた。「何なのよ、陽子おば様!お母様は、騒動が起きてからずっとお義姉様を庇ってきてあげてるのに!あれはないんじゃない?」「もういいわよ。あの人の言うことも一理あるもの。全部星歌の管理ができてないせいだわ」都子は苛立たし気に言った。女にとって、出産は最も脆くデリケートな時期だ。それなのに、星歌が暴れ回ったせいで、夏蓮も陽子も、そして冴島家全体までもが社会的に泥を塗られている。「そうだけど、それは全部星歌が悪いんであって、お母様のせいじゃないじゃない!」都子自身、内心腸が煮えくり返っていたが、本港市の裏社会に通じる陽子と正面からやり合う度胸はない。それに、夏蓮が不憫であるという思いも本心だった。その頃、病室では。夏蓮と陽子の他には、飛鳥が手配した女性ボディガードが二人残っているだけだった。鋭いショートカットヘアに、隙のない洗練された装いの陽子が、不快そうにボディガードたちを睨みつける。「何なの?母親が娘の見舞いをしているところまで、あんたたちに監視されなきゃいけないわけ?」凄まれた二人は顔を見合わせた。結局、そのうちの一人が外に出て飛鳥に指示を仰ぎ、許可が下りてようやく二人は病室を出ていった。ドアが閉まると、陽子はベッド脇の椅子に腰を下ろし、冷酷な目で娘を見据えた。「まったく、情けないわね。たかが孤児院上がりの小娘一人に、ここまでコケにされるなんて」陽子は苛立ちを隠そうともしなかった。Y国での重要なビジネスが佳境を迎えており、まだ正式な契約も済んでいない大事な時期だったのだ。それにもかかわらず、本港市での騒ぎがあまりにも酷いため、自分自身でケリをつけるために急遽帰国したのである。これを片付けたら、明日の午後には再びY国へトンボ返りしなければならない。「星歌のやつ、急に人が変わったみたいで……誰の言うことも
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第57話

離婚後の逃げ道として用意していた巣を粉々にされ、瓦礫の中でみじめに泣き崩れているであろう姿を想像し、夏蓮はついに星歌への『復讐』の快感に酔いしれた。「それと、飛鳥さんのことだけど……お母さん、私……」飛鳥の名を口にした途端、夏蓮の胸から先ほどの快感が消え失せた。この半年、飛鳥はずっと自分の傍にいてくれた。彼も自分に特別な想いを抱いていると信じていたのに、ここ数日の星歌に対する彼の執着ぶりを見て、夏蓮はかつてないほどの強い危機感を覚えていた。陽子は冷ややかな目をした。「飛鳥くんのことは焦っちゃ駄目。まずは星歌を排除するのが先決よ」「……ええ、分かったわ。お母さんの言う通りにする」頼もしい母親の言葉に、夏蓮はようやく心の支えを取り戻した。さらに何かを言いかけたその時。陽子のバッグの中でスマートフォンの着信音が鳴った。陽子はバッグからスマホを取り出し、画面に表示された名前を見て電話に出た。「どうしたの、柴田」相手は彼女の側近だった。「陽子様……国際ベイサイドの本邸で、火災が発生しました」電話越しの柴田の声は、ただならぬ緊張を孕んでいた。「なんですって!?」陽子は弾かれたように椅子から立ち上がった。その勢いで椅子が背後に倒れ、ガシャンと大きな音を立てる。青ざめた顔で、スマホを握る手にギリッと力がこもった。「どういうことよ!?」「出火原因は現在調査中ですが、火の手が早すぎて管理会社では手の施しようがなく……現在、消防が向かっています」国際ベイサイドの豪邸は、陽子がこれまで築き上げてきた富と権力の象徴だった。女手一つで娘を育てながら、死に物狂いで這い上がり、ついに手に入れた上流階級の証。本港市に滞在する際は、必ずあそこに宿泊している。私が本港市に戻った直後に、足を踏み入れるより先に家が燃えるなんて。単なる偶然か?それとも人為的なものか?「管理会社が手をつけられないほどの火事って、どういうことなのよ!」陽子の全身が怒りでワナワナと震えた。あの家には、重要なビジネスの書類や、とてつもない価値の宝石や美術品が多数保管されているのだ。火の粉が抑えきれていないと聞き、血圧が一気に跳ね上がる。「火の勢いが凄まじく、管理会社も全力で消火に当たってはいるのですが……」全く消える気配がない
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第58話

夜。牧野さんが作ってくれた夜食を軽く胃に流し込み、星歌はそのままゲストルームのベッドへ向かった。飛鳥がどこで何をしているのかは知ったことではない。横になった直後、グロから着信があった。「星歌様。すべて手配通りに完了いたしました」「あの本邸はどうなった?」星歌にとっては、東郊外の別荘二棟を全壊させたことなど、ついでにやっただけのただのオマケに過ぎない。陽子にとっての本当の急所は、国際ベイサイドにある超高級本邸だ。普段からあの本邸を拠点にしている陽子のことだ。重要な資産や値打ち物の大半は、おそらくあの中に保管されているはずだ。陽子は、星河レジデンスの一室を叩き潰すことで星歌に警告を与えたつもりなのだろう。だからこそ、これがお返しだ。「本邸は完全に火の手に包まれました。消防が駆けつけて鎮火させたとしても、残るのはただの骨組みだけでしょう」「上出来。尻尾は掴まれないでね」つまり、中身はすべて灰になるということ。悪くない結果だ。「ご安心を」グロは長年アリ・フォグレの側近として、この手の仕事を数え切れないほど熟こなしてきた。事後処理こそグロの最も得意とする分野だ。それにしても、さすがは血の繋がった兄妹だ、とグロは思う。グロは、電話越しの星歌のその声に、主であるアリと全く同じ容赦のない冷酷さを感じていた。グロとの通話を終えて間もなくのことだった。飛鳥が戻ってきた。ゲストルームのドアを開け放ったものの、中には入ろうとせず入り口に立ち尽くしている。廊下の光を背に受けているせいで、その表情は窺えない。星歌には毎晩ベッドでゲームをワンプレイする習慣があった。開いたドアから、スマホの派手な銃撃音が室内に響いている。星歌はヘッドボードに寄りかかったまま。飛鳥がやってきても、微塵も顔を上げようとしなかった。帰宅中からずっと煮えたぎっていた飛鳥の怒りが、呑気にゲームをしている星歌の姿を捉えた瞬間、限界を突破した。ずかずかと歩み寄るなり、星歌の手からスマホをひったくり、床に向かって思い切り叩きつけた。ガンッ!激しいゲームの戦闘音が唐突に途切れる。ここで初めて星歌は顔を上げた。漆黒の瞳には、ただ氷のような冷酷さだけが宿っている。布団を跳ね除け、ベッドを降りる。そしてサイドテーブ
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第59話

一方、病院。すべての真相を調べ上げた陽子は、いまにも発狂しそうになっていた。部下の柴田からかかってきた電話が、彼女を完全に壊した。国際ベイサイドの超高級本邸が、文字通り『空っぽの骨組み』だけを残して全焼したというのだ。家の中のありとあらゆるものが灰と化した。あれほど集めたジュエリーも、保管してあった大量の現金も、すべてが燃え尽きてしまったのである。全身を小刻みに震わせながら、陽子は冷ややかな目で都子を睨みつけた。「都子さん、この一件……冴島家としてきっちり落とし前をつけてもらうわよ?」「うちの娘はあなた方の家に男女の双子を産んで尽くしたというのに、次男の嫁のあんな狂気じみた真似を野放しにしておくおつもり?国際ベイサイドの本邸に、別荘二棟よ。一体どれほどの被害が出たと思ってるの?この損害、当然そちらで全額弁償してくれるんでしょうね!」都子もまた、こめかみに青筋を浮かべていた。あの星歌とかいう女、どこまで常軌を逸すれば気が済むのか。一体どうしてあんな恐ろしい真似ができたというのか。都子は深く息を吸い込み、陽子をなだめるように言った。「陽子さん、ご安心ください。この件は冴島家として、必ずあなたに納得のいく対応をとらせていただきます」「……ふん」陽子は鼻で笑った。「本当に、私の目も節穴だったわ!大切な娘を、冴島家なんかに嫁がせるんじゃなかった!」夏蓮が嫁いでからというもの、陽子自身が冴島家のおかげでどれほどの恩恵を受けてきたかを知る者からすれば、あまりにも傲慢な物言いだった。都子の顔色が一気に険しくなる。「必ず対応をとると申し上げましたよね!」都子は元来、こちらに非があることには素直に頭を下げられる人間だ。しかし今の陽子の言葉は、明らかに冴島家そのものを格下と見なして蔑んでいた。これには都子も苛立ちを隠せなかった。長年、冴島家の威光を利用して甘い汁を吸い、分不相応な地位まで昇り詰めたのはどこの誰だ。いっぱしに身分が上がった途端、冴島家を見下す気か。どういう風の吹き回しだ。都子の冷え切った声色を受け、陽子もさらに顔をしかめた。「じゃあ、どうやって落とし前をつけるおつもり?」口で言うのは簡単だ。だが、あの飛鳥という手に負えない男を、今の冴島家の誰がコントロールできるというのか。長男の
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第60話

都子という女は、プライドの塊だ。自分から受けた屈辱の怒りの矛先を、今度は必ず星歌へ向けるだろう。星歌に安息の日々など与えてやるものか。都子だけではない。当然、私自身もあの小娘をこのまま生かしておくつもりはない。よくも私のベイサイドを消し炭にしてくれたわね。あの死に損ないめ、どう料理してやろうか――!夏蓮は母が何らかの裏の策を用意していることに気づいていた。だが、どうしても気にかかることがある。「じゃあ、高峰啓介の件はどうなの?どうして星歌のそばに人をつけたの?」先ほどの調査で、星歌の周囲に外国人の男が一人いることが判明した。最近、星歌が飛鳥の親友である啓介と親しくしているため、夏蓮たちは『その男は高峰啓介が星歌の護衛として派遣した部下だ』と勝手に思い込んでいた。高峰家の絶大な権力を背負う啓介を敵に回せば、いくら陽子でもただでは済まない。夏蓮は、母が怒りにまかせて過激な行動に出れば、啓介の逆鱗に触れるのではないかと危惧していたのだ。「そんなの、理由なんてどうでもいいわ。一つ確かなのは、結婚歴があって、しかも何度か妊娠したこともあるような女に、あの高峰啓介が本気で惚れるわけないってことよ」陽子がせせら笑うと、夏蓮は「……」と押し黙った。陽子の瞳に計算高い光が宿る。「高峰啓介が星歌に手を貸す本当の理由……おそらくね」もったいぶって言葉を区切ると、さらに嘲るような調子で続けた。「男なんてそんなものよ。『親友』なんて綺麗事を並べても、目の前に巨大な利益が転がっていれば、煙幕の一つや二つ平気で張るわ」陽子の見立てでは、啓介は飛鳥が進めている何らかの大型プロジェクトを狙っているのだ。わざと星歌に近づくことで飛鳥の意識を嫉妬に向けさせ、ビジネスで出し抜こうとしているに違いない、と。夏蓮は顔を引きつらせた。「そ、そうなの……?」夏蓮の目から見て、啓介はそんな卑劣な裏工作をするような男には見えない。飛鳥と啓介の絆は本物で、長年ずっと親友同士としてやってきたのだから。「安心しなさい。誰に向かって口を利いてるの?私が今まで、どれほどの男の裏の顔を見てきたと思ってるの」陽子は自信たっぷりに鼻で笑った。啓介が星歌に恋愛感情を抱くなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。「あんたは、都子からの良い知らせを寝て待っていれ
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