星墨山の別荘へ移ってからの星歌は、至れり尽くせりの環境に身を置き、ひたすら美味しいものを味わいながらのんびりと過ごしていた。夕食の時間が近づいた頃、江里子が様子を見にやってきた。「いいもの食べてるじゃない。ちゃんと世話してくれる人がいて安心したよ」江里子自身も、今は会社の仕事で頭を抱えている時期だった。最近になって父親から事業を引き継ぐよう命じられ、目の回るような忙しさが続いている。星歌にとてつもない権力を持つ実の兄がいると知らなかった頃は、江里子が実家の家政婦を派遣して面倒を見させようと手配までしていたのだ。だが、こうして何不自由なく過ごしている姿を見れば、もう心配はいらないだろう。「一日中食べてばかりだから、今は全然お腹が空いてないのよね」「お腹が空いてなくても食べなきゃダメ。流産後の体は徹底的に休ませないといけないんだから、しっかり養生しなよ。……まあ、あんたはこうしてゆっくり休める状況にあるだけマシだわ。ある人なんて、休むどころの騒ぎじゃないみたいだからね」その『ある人』とは、もちろん夏蓮のことだ。今日一日、夏蓮は一滴の水すら口にしていないという。普段なら過保護なまでに彼女を甘やかす都子でさえ、今は食事の心配などする余裕を完全に失っていた。冴島家の人間たちは、世間を巻き込んだあの大炎上騒動をどうやって鎮火させるか、ただそれだけで頭がいっぱいなのだ。何しろ、夏蓮には『既婚の義弟にすがりつく泥棒猫』という最低のレッテルが貼られてしまった。そんな彼女を総出で庇い続けてきた冴島家もまた、世間の冷たい目に晒され、今や体裁も何もあったものではなかった。「一緒にどう?」星歌が促すと、本当に腹を空かせていた江里子は、向かいの席に腰を下ろしてさっそく箸をとった。お椀に口をつけ、お吸い物を一口すすると、パッと目を輝かせた。「わあっ、なにこれ。すっごく美味しい!」「それ、鯛の潮汁よ」と星歌が答えると、江里子は一瞬動きを止めた。「……もしかして、夏蓮が飲みたがってたやつ?」夏蓮の話題を出すだけで反吐が出そうになる。この半年間、実家で飛鳥を独占し続けただけでも大概なのに、自分が出産した後は星歌に自分のための潮汁を作らせようとしていたのだ。一体どの口が言っているのか。典型的な厚顔無恥。金持ちの実母や
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