陽子の病室。今日は彼女の人生最大の屈辱の日だった。少し身じろぎするだけで全身に激痛が走り、一人でトイレに行くことすらままならない。「っ……あのいまいましい星歌め……っ」骨という骨が砕けたような痛みで、ベッドの上でまともに動くこともできない。今の陽子の頭の中は、星歌を八つ裂きにしてやりたいという凄まじい憎悪で満ちていた。だが、どうしても腑に落ちないことがある。なぜ、あの高峰啓介がわざわざ星歌の手助けをしたのか?まさか、彼に『あのこと』がバレたから……?そう考えた瞬間、傷だらけの顔が強張る。いや、あり得ないわ。何年もの間、啓介には気づかれておらず、今になって突然露見するわけがない。そう打ち消してみても、彼がなぜあれほど躍起になって星歌を救ってみせたのか、陽子にはどうしても理解できなかった。考えを巡らせていると、不意に病室のドアが開いた。入ってきたのは飛鳥だった。周囲の空気を凍りつかせるような冷気を纏う彼が現れた瞬間、病室の温度が急激に下がったように錯覚する。「飛鳥くん?どうしたの?」予期せぬ訪問に、陽子は目を丸くした。飛鳥と彼の双子の兄・翼は、同じ顔をしていても性格はまるで違った。翼は人当たりが良く、常に温和な空気を漂わせていた。裏でどんな顔を持っていたかはともかくとして。だが、飛鳥は違う。表だろうが裏だろうが関係なく、底知れぬ恐ろしさを平然と剥き出しにする。今も、彼の瞳の奥底に淀む冷酷な光に触れ、陽子は無意識に胸をすくませた。飛鳥は無言でベッド脇の椅子を引き、どっかりと腰を下ろした。そしてポケットからタバコを取り出すと、ゆっくりと火をつける。瞬く間に、病室内に紫煙とタバコの匂いが充満した。目上の人間の病室でタバコなんて、常識を疑うわ……内心では不満が爆発しそうだったが、面と向かって咎めるほど命知らずではない。「……それで、私に何か用かしら?」陽子はわずかに顔をしかめつつ、あえて重々しい口調で尋ねた。自分が『敬うべき目上の存在』であることを、暗に思い出させようとして。飛鳥はゆっくりと二度ほどタバコを吸い込み、紫煙を吐き出した。その煙に巻かれ、陽子はたまらず咳き込む。「ゲホッ、ゴホッ……!」「――柴田悟(しばた さとる)という男、あんたならよく知っているはずだよ
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