All Chapters of いつかの一枚のために: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話

「手紙と書類と絵…?」真剣な顔で考え込む亮に「亮くん何か心当たりあるの?」「いえ、すぐには思い当たりません。でも、もう一度いろいろ思い出してみます。」「お願いしたいけど、無理はしないでくれよ。一人で抱え込んでもだめだ。これからは些細なことでも私たちに相談してから動いてほしい。今度は君に何かあるかもしれないからね。」「そうよ、亮ちゃん気をつけてね。」「姉さんその…、”ちゃん“づけは止めてくれない?」照れくさそうに抗議する亮に「あらごめんなさい。つい、でも、そうね。こんなに大きくなったんだものね。これからは亮くんで…。」「“くん”もいらない!亮でいい!」「わかったわ、亮。」涼禾の回復の連絡を受けるやすぐに双子が中村さんと共に駆けつけ、ひとしきり泣きついた後、夕方には颯太と健人もお見舞いに訪れた。検査の結果特に問題もなさそうなので、翌日のお昼前には退院し、自宅に戻ることができた。涼禾が倒れたことはできるだけ周囲には知られないようにしておいた為、隼翔は会いに来ることはできなかった。その代わり、果奈のプレゼントとカードに付いて細かく調べることができた。あの日、朝になって初めて果奈は隼翔の中京市行きを知ったらしい。彼女はすぐに彼女付きのアシスタントに指示して移動手段を確保した後、瀬川グループの兄の秘書室の者に協力してもらい、会場の確認やプレゼントの手配を依頼した。隼翔より早く目的地に着いてしまった果奈だが、隼翔が移動したのは間違いないので、彼がいつも利用する出口で待っていたということだ。プレゼントが類似したのは、会社と贈答品について取引がある店に依頼したため、時期も近く人気商品ということで重なったのではと言うことだった。では、カードは?そこだけがはっきりしない。カードを添えるように指示したのは果奈だが、書いたのは果奈ではないと言う。送り主を連名にしたことを問いただすと、隼翔がプレゼントを用意できていないのでは、と気を利かせたが、訂正の連絡を忘れた為に起こってしまったミスで他意は無かったと言った。あまり強く追及して、涼禾親子に関心を持たれても困るのでそれ以上は聞けなかった。兄の秘書室の誰かなのか、店の誰かなのかは不明のままだ。以上のことから考えると、やはり果奈か彼女の周辺の人物が関係している可能性が更に強まった。今後も隼翔は言動に気をつけ
last updateLast Updated : 2026-02-20
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第32話

そう指摘されてしまえば、隼翔も強行できない。もう自分は三人のいない人生は考えられない。慎重に慎重を重ね、何としてでも安心して家族一緒に暮らせる日々を手に入れて見せる。そう決意するしかなかった。涼禾が退院して1週間が過ぎた。『安藤』で開発された素材は軽くて丈夫で防水性に優れている。そして薄く引き伸ばして布状にもできる。しかし、原色はグレーで着色が困難で数色しか成功していない。その上、縫製や接着も困難なため加工も難しく、商品化は難航していた。そんな中、特殊な薬品により接着が可能なことが判明した。更に皮革加工の技術で縫製も可能になった。そこで、靴とバッグを製作してみることにした。まずはシンプルな日用使いの安価なもの。更に趣向を凝らした高価なものの二種類を手掛けることに決定した。涼禾は趣向を凝らした商品のデザインに挑戦してみることになった。絵を描くことの練習から始めて、並行して商品の性質や使用される場面など様々な学習も進めていったりと、とても忙しい日々となっていった。その為に、知らず知らずのうちに警戒心が薄れつつあった時に事件が起きてしまった。その日涼禾は休日で、デザインの参考になればという思いもあり子供たちと街の中心部にあるショッピングモールに出掛けた。子供たちの洋服を買った後、おもちゃ売り場に行くと、二人はそれぞれの興味のある売り場に駆け出してしまった。とっさに夏蓮を捕まえてぬいぐるみ売り場の所で動かないように言った後、少し離れた陽亮を捕まえに行き、二人でぬいぐるみ売り場に戻ると、夏蓮の姿が見えなくなっていた。陽亮の手をしっかり握ったまま周辺を探しても見当たらない。すぐに店員に助けを求めて探してもらうと同時に監視カメラを調べてもらうと、男女の2人連れが夏蓮を抱き抱えてエレベーターに乗る姿が確認された。泣きながら暴れる夏蓮は売り場でぐずる幼児にしか見えず、周囲は見て見ぬふりだ。陽亮はすぐに隼翔に電話をして「パパ、助けて!夏蓮が連れて行かれた!」と叫んだ。社長室で書類の確認をしていた隼翔の行動は素早かった。すぐに斉藤に指示を出し、夏蓮の位置をGPSで検索してもらい、最寄りの警察と警備会社に助けを求めた。涼禾から連絡を受けた安藤家からも警備会社に連絡を入れ、すぐに後を追わせた。ぬいぐるみ売り場でうさぎのぬいぐるみを見ながら涼禾たちを待っていた夏蓮は
last updateLast Updated : 2026-02-20
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第33話

陽亮からの一報を受け、必要な指示を出した隼翔はすぐに駅に向かっていた。『取り敢えず行かなくては』その一心で今から間に合う最も早い便の席を確保させた。移動中の車の中で、携帯に着信があったのでイヤホンにして受けると、夏蓮の泣き声と男の怒鳴り声が聞こえてきた。とっさに声を抑え、通話を録音にして聞いていると「うるさい!いい加減に鳴きやめ!」「うあ~ん、ママ〜。」「ちょっと!怖がらせないでよ!お嬢ちゃん心配しないで。おねえさんたちね、ちょっと教えてほしいことがあってきてもらっただけなの。ちゃんと教えてくれたらすぐに帰してあげるから。」「ぐすっ、おしえてほしい?なあに。この車けんじおじさんのといっしょ?色はママのといっしょ。」「けんじおじさん?誰それ。そんなことじゃないの。あのね、お嬢ちゃんのママね、お名前二つあったりする?「ママ?ママはあんどうすずか。」「そうね。もう一つのお名前で呼ばれてたりしない?」「しらない。」「そっか、じゃあね、おじさんの中で亮おじさんっている?」「おじさん?おじさんはそうたおじさんとけんじおじさん、あとは、えざきのおじさん!」「他には?」 「うーん、おじさんとおねえさんのおなまえは?」「えっ?おじさんは田…」「馬鹿!乗せられてんじゃねえよ!」「あっ。」「こいつ、妙に賢くねえか?気をつけねえと…。」と、言いかけた所で男が何かに気付いたように、周囲を見回した。「おい、何か囲まれてねえか?」「えっ?」慌てて女が見回していると、背後からパトカーが近づいてきて、「前の車、止まりなさい。もう逃げられません。」とアナウンスしてきた。犯人たちは諦めたようにすぐに車を脇に寄せて止まった。一緒に前後と横の車も止まり、すぐにスーツ姿の男達が降りてきて車を取り囲んだかと思うと、犯人達を車から降ろし両腕を確保した。安全を確認した後、夏蓮もすぐに助け出された。犯人たちが車から降ろされていた時、夏蓮のポシェットから隼翔の心配そうな声がした。「夏蓮、大丈夫か?」「うん、だいじょうぶ、パパありがとう。」と、答えて夏蓮はすぐに通話を切った。その直後警備員たちがドアを開けて助けてくれた。すぐ後に迎えに行った涼禾と陽亮と一緒に夏蓮が家に着くと、慌てふためいた佐和子が玄関に迎えに出てきた。「夏蓮!よかった!痛いところはない?怖か
last updateLast Updated : 2026-02-25
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第34話

今回の犯人たちは、ネットで雇われたアルバイトだと自供した。彼らによると、親戚の子供を連れ出して幾つか質問した後、指定の場所まで連れてきて欲しい、と言う依頼だった。家族間のトラブルなので多少強引でもかまわない。但し、怪我をさせたりなどの危害は加えないことと言う条件が付いていた。届け先は安藤家の近くの公園だったらしい。便利屋のような仕事をしている彼らは、少し怪しいとは思ったもののすぐに送り届けるし、危害を加えるわけでもないので犯罪とまでは思わなかったと言う。今回彼らが得た情報は、依頼者に伝える前に捕まってしまったので伝えていない。が、犯行に利用した車は依頼者が用意したものであり、車内から盗聴器も見つかったので伝わったと考えられる。以上が、後日颯太が警察から知らされた情報だった。安藤家の面々は厳しい顔付きで話を聞いていた。内容からして、涼禾が香子ではないかと気付いた誰かがいるということだ。その上で、こんな手段でそれを確かめようとしてきたことから、友好的な相手ではない。一体誰が何の為に。安藤家と江崎家はこれからも密に連絡を取り合い、安全確保と情報収集に力を入れることにした。8月も半ばを過ぎ、亮がA国の大学に戻ることになった。彼は17歳でA国の大学に進学し、今年既に卒業した。9月からは修士に進むことになっている。両親と同じ薬学を学び、有名な教授のもと企業のプロジェクトに参加したこともある。もう暫くは現在の師のもとで学び続ける予定だ。「準備もあるし、明後日には出国するよ。」「また暫くは会えなくなるけど、これからいつでも連絡ができるから安心だわ。何かあったらすぐに教えてね。」「姉さんも。それからもし機会があったら東都のマンションの様子も見に行ってみて。時々掃除の人には入ってもらってたんだけど。姉さんのものとかそのままだし。」「そうね。考えてみる。」「でも、無理はしないでね。」「わかってる。」「おじさん、こんどいつあえるの。」「ちょっと先になるかな。今度会うときはお土産いろいろ買ってくるよ。楽しみにしてて。」「うん!おじさんげんきでかえってきてね。」「まってるね!」亮は休暇中、ほとんど東都には帰らずこちらで過ごしたまま、大学に戻って行った。亮がいた時は外出時には何時も送迎してくれていたので安心できたが、これからはそうもいかない。在宅でデ
last updateLast Updated : 2026-02-25
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第35話

音楽教室に行く日、出発の30分前に付き添いの人が着いたと声を掛けられ、涼禾たちがリビングに降りていった。リビングには20代前半位のやや背の高いスラリとした女性が立っていた。黒っぽいパンツスーツに身を包んだ彼女はドラマで見たボディガードそのものだ。涼禾は、『カッコイイ!でも、ちょっと大袈裟…なのでは…。』と、思いながら、「お世話になります。本日はよろしくお願いします。」と、少し硬めの挨拶をした。騒動以来しっかりメイクを施し、ワインカラーのワンピースに黒のジャケットという派手な感じの服装をした涼禾と、その両手に繋がれた賢そうな双子を見て彼女は緊張した様子で、「こちらこそよろしくお願い致します。私はSG警備の加藤と申します。全力で三人をお守りいたします。」と気合いの入った挨拶をした。『やっぱりちょっと大袈裟かも…。』と、少し不安に思いながら車に向かおうとすると、サッと三人の前に出て左右を確認し、自ら後部座席のドアを開け中を確認するや慎重に誘導して乗車を促した。彼女の中には一体どんな凶悪な相手が想定されているのだろう。ますます不安に思いながら出発した。その日は、往復約1時間半と授業2時間の約4時間の付き添いをしてもらった。結果、常に鋭い目で周囲を警戒し、トイレなどの移動時も近くに寄り添いテキパキと誘導をするという活躍ぶりで、同じクラスの子どもたちやママ友たちまで緊張状態になってしまった。その為、三人は申し訳なさで小さくなりながら急いで帰りの車に乗り込むことになった。家に着いて、加藤が帰った後ぐったりしている三人を見た佐和子は、『やはり久しぶりの外出で疲れてしまったのか。』と思った。そして、「やっぱり慌てて教室に通わなくてもいいんじゃない?もう少し家でゆっくりしてたら…。」と言いかけたたが、陽亮が、「ちがうよ、おばあちゃん。」と、今日の加藤の活躍ぶりをちょっと大袈裟ながらに語って聞かせた。最初は驚きながら聞いていた佐和子だったが途中から呆れたり困ったようになったり、最後には我慢できずに笑ってしまった。「それは大変だったわね。警備会社に一体どんな依頼の仕方をしたのかしら。」「誰が依頼してくれたの?おとうさん?颯太兄さん?それとも…。」四人が一斉にハッとした表情になった。それからちょっと遠い目をした佐和子が、「隼翔くんだったと
last updateLast Updated : 2026-02-25
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第36話

数日後、その日は子供向けの絵画教室に行く日だった。出発の三十分前近くに涼禾がリビングに降りていくと、ちょうど付き添いの人が到着した。年齢は40代位で、平均よりやや背が高くまあまあ整った顔立ちで…、ひと言で言えば少し好感の持てる普通のおじさんだった。彼は穏やかな笑みを浮かべながら挨拶をした。「おはようございます。本日警備を担当させていただく島田です。よろしくお願いします。」物腰も柔らかく、安心感もありとても好感が持てた。涼禾と佐和子がほっとした表情になり、「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします。」挨拶を返し、まもなく降りてきた子供たちも元気に挨拶をして出掛けて行った。彼は人当たりもよく、周囲に溶け込んで見守ってくれる感じで、その日はとても安心して外出を終えることができた。今後は可能な限り彼に付き添ってもらうことでようやく三人も元の生活に戻る目処が付いた。安心した安藤家に対して、島田の方は帰途につくなり何か考え込む様子を見せたが、軽く頭を振ると気持ちを切り替えてこの仕事を引き受けることにした。子供たちが日常を取り戻したのと同じく、涼禾自身も落ち着いてきたおかげでデザインも捗り、3種類の作品を描き上げることができた。早速健人がデザイン部に提案し、作成上の不具合を一部修整した上で試作品を作り上げることができた頃には秋も終わりが近づいていた。そんなある日、紅葉が落ち葉となり、枝ばかりになった木々の間を冷たい風が吹き抜ける中、笑顔で両手に沢山の紙袋を下げた客が安藤家を訪れた。試作品を実際に確認し、今後のスケジュールなどを検討するために数日間の予定で出張して来た隼翔である。彼はこの予定が決まるとすぐに安藤家に連絡し、滞在中の宿を依頼してきた。初夏に対面してから子供たちとは頻繁に電話やメールのやり取りをして、すっかり親子らしくなれていた。しかし、会えたのはほんの数回だけで、それもほんの数時間ずつの限られた時間でしかなかった。涼禾に関しては、弟の亮はすぐに思い出してもらって元の関係に戻れたというのに、自分には相変わらず何処かよそよそしいままだ。だが、不安が残る中無理も言えず、ずっと我慢してきたのだ。この機会に是非ゆっくり家族の時間を過ごしたい、と言う強い願いを安藤家側も断れずに今回の滞在となったのだ。「こんにちは!今日から数日よろし
last updateLast Updated : 2026-02-25
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第37話

隼翔は週末のこの2日間でひとつの目標を掲げていた。それは涼禾との関係を深めること。再会してから半年近くなるが、子供たちとはすぐに距離を近づけることが出来た。それに対し、涼禾とは相変わらずよそよそしさが拭えない。隼翔にとっては何年も想い続けた恋人であるが、涼禾にとっては初対面も同然の異性に過ぎないのだ。この温度差を埋めるのは容易ではない。隼翔だって再会前後は不安が無かったわけではない。しかし、いざ会って話してみると、5年前の香子の穏やかさやおおらかで優しい感じはそのままで、更に母としての強さや、安藤家で確かな愛情に包まれてきた為であろうか、落ち着きと自信に満ちているような眩しさも加わっていた。容姿も、以前は色白で滑らかな肌にはっきりとした目元、すっと通った鼻筋に少しふっくらとした唇という可愛い感じの美人であった。それが5年経ち輪郭がスッキリした為か大人びた色香が加わりますます魅力的な女性になっていた。果たして今の自分は、この女性に相応しい男として認めてもらえるのか。だんだん自信も薄れてきていた。とはいえ、あきらめる気は全くない。過去にすがるのではなく、今の自分で今の彼女に誠心誠意気持ちを伝えよう!と、重い想いを抱えての来訪だった。隼翔の密かな意気込みは、安藤家一同と子供たちには何となく伝わってきていた。が、肝心の涼禾がどう思っているのかは今ひとつ掴めていない。隼翔を応援したい気持ちもあるが、涼禾が望まないことを許す気はない。なかなか興味深い週末となりそうだ。今日の夕食は全員集まっての賑やかな時間となった。子供も合わせて8人の食卓には、涼禾と中村の手料理がいっぱい並んでいた。「凄いご馳走ねぇ、どれもとっても美味しそうよ。」「久しぶりにみんなが集まれるって聞いて、あれもこれもと思ったらいっぱいになっちゃって。」「ママ、ぼくはじめはハンバーグ!」「パパ、わたしはオムレツ!」子供たちのリクエストを合図に、皆思い思いの料理を取り分けながら話も弾み楽しい時を過ごした。「はぁ〜、食べたぁ〜。涼禾の作った煮物って美味しいよね。」満足そうに健人が言うと、「 僕ははポテトサラダが好き。」颯太も続く。「私は野菜スープが好きだわ。」「えっとね、ママのごはんはみーんなおいしいの!」「パパはなにがすき?」無邪気な陽亮の問いかけに、黙々と食べていた
last updateLast Updated : 2026-02-25
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第38話

隼翔のために用意した客間に、お風呂を済ませてパジャマに着替えた双子が枕を抱えて入ってきた。「「パパ、ねるよういできたー?」」ちょうど隼翔も入浴と着替えを終えてバスルームから出てきたところだった。「できてるよ、おいで。」隼翔は、入り口に立っている子供たちを招き入れると、二人の後をのぞき込んだ。「ママは?」 「ママはまだようじがあるから、きょうはパパとねなさいって。」「そうか。じゃ寝ようか。」と言って夏蓮を真ん中にして三人で横になり布団を掛け、明かりを落とし、サイドテーブルの小さな灯りだけにした。薄明かりの中、ポツリポツリと言葉が行き交う。「パパあしたおしごとおやすみ?」「そうだよ。」「じゃ、ずっといっしょにいられるの。」「ああ。そうだよ。」「じゃあね。いっぱいあそぼうね。」「いいよ。」「おでかけもしたいなぁ。」「そうだね。どこにいきたい?」「あのね……。」「えっとね……。」子供たちの温かさや、甘い香りと無邪気な声にすっかりリラックスした隼翔は、二人と一緒にぐっすりと眠ることができた。明け方、肌寒さで目覚めた隼翔は掛け布団が蹴り飛ばされ、ベッドから落ちかかっているのに気付いた。陽亮は大の字、夏蓮は小さく丸まってぐっすりと眠っている。布団をかけ直し、二人の無防備な寝顔を眺めていると自然と笑みが零れ安心感に包まれるような気がした。世の父親たちはこんな幸せを毎日味わっているのか…。と、改めて羨ましく思い、自分も早くこんな日々を手に入れたいと願った。隼翔は、まだ早かったのでもう少し眠った後、子供たちを起こしにきた涼禾に二人の支度を任せて、自分も身支度を整えて階下に降りた。ダイニングでは既に朝食の用意が整っていた。安藤夫妻も揃っていて一緒に朝食を摂り始めた。「隼翔くん、昨日はよく眠れたかい?」「ええ、ぐっすりです。」「よかったわ、子供たちはご迷惑じゃなかったかしら。」「全く。温かくて心地よかったです。」「ぼくたちパパのおふとん?」「パパもあったかかったからパパもおふとん!」「三人ともよく眠れたようで何よりね。ところで今日はお天気も良いそうだけど、何か予定は?」「まだ決めてないですが…、」「いっぱいあそぶの!」「おでかけもするの!」「慌てなくても明日も休みだから今日はどちらかにしよう。」隼翔の提案に、涼禾が申し
last updateLast Updated : 2026-03-01
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第39話

お湯を沸かして準備していると、二階から隼翔が降りてきた。 「いい匂いだね。僕にも淹れて貰えるかな。」「はい、いいですよ。」二人は向かい合って座り、温かいカップから漂う甘い香りに癒されながらどちらからともなく2日間の出来事を話し合った。次から次へと楽しかった場面を思い出しては笑顔が溢れた。ひとしきり語り合い、ふと話題が途切れたので一口ココアを飲んだ。その後同時に顔を上げると、しっかり目が合ってしまった。とたんに、なぜだか急に気恥ずかしさが込み上げてきて、また俯いてしまった。少しして隼翔が顔を上げ、今度は意識してしっかりと涼禾を見つめながら言った。「涼禾さん、僕を父親にしてくれてありがとう。」 涼禾は少し驚いたが、すぐに穏やかに微笑みながら、「こちらこそ、とっても素敵な父親になってくれてありがとう。」と答えた。隼翔はそのまましっかりと見つめ続けながら、真剣なまなざしで更に言った。「涼禾さん、僕をあなたの夫にしてくれませんか。」涼禾は今度は驚いて目を大きく見開いた後、寂しそうに微笑んで答えた。「無理、しなくてもいいですよ。」その答えを聞いた途端、隼翔は立ち上がり身を乗り出して言った。「違う!僕はずっとあなたが好きだった。会えなかった間もずっと想い続けてきた。再会できてからも、改めて好きだって思った。無理なんてしてない!」熱心に気持ちを伝えようとする隼翔を相変わらず寂しそうに見つめながら、涼禾がポツリと言う。「思い込み…じゃないですか。」「思い込み…?」「ええ。幸せだった時に突然会えなくなって、思い出がどんどん美化されて。意地になって探し続けて、やっと再会できた。子供たちもいる。だから………。」涼禾の言葉を一つひとつしっかり聞きながら、隼翔も自分の気持ちを確認するかのように考えた。暫くの沈黙の後、顔を上げた隼翔の目は強い輝きを放ち、迷いのない口調で語りかけた。「僕を見くびらないでほしいな。多少そそっかしいところが有るのは自覚している。でも、自分の気持ちは間違えないよ。信じて貰えないなら信じて貰えるまであなたの好きな所伝えていこうか?」「………?」「まずは、響きが柔らかくて優しい声が好き。穏やかな目で微笑んで貰えるとそれだけで幸せな気持ちになれる。それから、僕が空気読めなくて空回りしても誤解せずに受け止めてくれる所も安心する。人
last updateLast Updated : 2026-03-02
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第40話

涼禾は顔を覆ったまま小さく頷いた。「全部、では、ないの。」「そうなのか?」「ええ、ちょっとした、言葉や、仕草や、表情とか。」「言ってくれたらよかったのに。」「だって、迷惑かけたくなくて。優しくて責任感の強い人だから。もう忘れかけてたのに、思い出したなんて聞いたら、無理して責任取らなきゃなんて考えそうで。」隼翔は、嬉しいやら悔しいやら残念やら自分でもよくわからない気持ちになりながら、ゆっくりと彼女に寄り添える場所へと移動した。そして恐る恐る彼女の肩を抱き寄せた。避けられないことに安心しながら、「君はまだまだ僕のことをわかってないね。僕は同情や責任感で人生のパートナーを決めたりしない。自分に正直な人間だよ。これからもっと知っていって欲しいな。」と、言いながら更に両手ですっぽりと包み込むように抱きしめた。胸元で涼禾の頭が小さく上下するのを確かな温もりと同時に感じて、嬉しくてしみじみと顔を上に向け目を閉じた。隼翔はやっと届いた温もりを暫く堪能し、顔を正面に戻してゆっくりと目を開けて、固まった。彼の腕の中で懐かしい香りと温もりに包まれて安心感に満たされていた涼禾も、隼翔の腕の微かな強ばりと息を飲み込む様子に気づいてそっと彼の様子を伺った。すると彼は呆然として前を見つめていた。何事かと彼の視線の先を追って振り返って見て、涼禾も固まった。二人の目の前には、ダイニングの入り口で手を繋いだ双子が眠そうに目をこすりながら自分たちを見ていた。「君たち、いつからそこに?」「さっき。パパがね、ママのことぎゅっとしたとき。」「めがさめたらね、パパもママもいなくてさみしくてね、おにいちゃんとおりてきたの。そしたらね、こっちでこえがしたの。それでね、」「わ、わかったから、もういいわ。」と、涼禾が慌てて夏蓮を止めようとすると、「ママだけずるいの。」と、夏蓮が駆け寄ってきて隼翔の足にしがみついた。「かれん、じゃましちゃだめだよ。」と言いながら、陽亮も後から近づいてきて涼禾にしがみついてきた。涼禾と隼翔は慌てて離れてしゃがみ込むとそれぞれ子供たちを抱きしめ返して、「ママだけじゃないよ、陽亮と夏蓮も大好きだよ。」「邪魔なんかじゃないわ。」と答えた。少し気まずかったものの、子供たちにも少しだけ温かいミルクを飲ませた。それから子供部屋に連れていき、隼翔と涼禾
last updateLast Updated : 2026-03-02
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