All Chapters of 犬猿の仲……いいえ、犬猫の仲です: Chapter 31 - Chapter 40

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第三十一話:瘴気の渦

ライトや彰兄さん。馳川家の人たちと過ごす穏やかな毎日の中で、僕は春菜だった頃よりのびのびと暮らしていた。 そんなある日、事件は起こった。 いつものように彰兄さんの運転で、父さんのお墓がある共同墓地に向かっていた。すると、ライトがいつも右折する交差点手前で、反対側に向かって吠え始めた。 「ウォン! ウォン!」 窓ガラスをガリガリと引っ掻き、外に出ようとしている。 「ライト、どうした?」 落ち着かせようと撫でても、止めようとしない。 「彰兄さん、ライトが何か訴えてる。……もしかして、瘴気があるのかも」 そう訴えると「春馬、あっちは狗飼家が守護する陣地だ。お互いに、縄張りを越えない約束になっているんだ」 と言われてしまう。「それなら、僕とライトだけで行く!──だから、ここで降ろして」ドアを開けようとする僕に、彰兄さんは深い溜め息を吐くと 「分かったよ。その代わり、猫柳家に連絡して狗飼家の陣地に入って瘴気を払う連絡をしてもらってくれる?」と言われた。僕は心の中で (なんだよ、そのシステム!)と思いながら、ライトが吠える方向に向かいながらじいちゃんに電話をした。じいちゃんの話では、今、狗飼家の陣地に瘴気が大量発生しているらしい。緊急事態なので、見つけて祓っても越権行為にはならないらしい。彰兄さんにじいちゃんの話を伝えると「全く……、狗飼来人は何をしているんだか!」とぼやいた。「え?」僕が驚くと「この辺は、狗飼来人が祓ってるんだよ。実際、狗飼来人が来てからの方が、瘴気が増えているんだよ」そう答えたのだ。『ザワリ』と胸がざわついた。僕の脳裏に、竜ヶ峰の姿が浮かぶ。彼の纏う空気は、黒く澱んでいた。あの頃、自分を守ることに必死で、竜ヶ峰の異変に気づく余裕なん
last updateLast Updated : 2026-02-12
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第三十二話:ライトと来人

車から降りると、ライトが勢い良く瘴気の渦に走り込んで行く。 「ライト! 待て!」いつもなら言うことを聞くライトが、瘴気の渦の中に消えてしまった。 「ライト!」慌てて追いかけようとすると、彰兄さんに腕を掴まれた。 「春馬! 一人で行動するな」そう言われたけど 「ライトは僕の相棒だ! 僕はライトを探しに行く」彰兄さんの腕を振り払い、僕は瘴気の渦の中に走り込んだ。 「ライト! ライト!」名前を呼びながら神社の境内に入り込む。濃い瘴気に、肺や全身が針で刺されたように痛い。呼吸が苦しくなり、無意識に勾玉を隠している麻袋を掴んでいたようだった。 『パァー』っと、麻袋の中で勾玉が光を放った。すると──瘴気が『パンッ』と音を立てて霧散した。 「勾玉……凄いなぁ……」思わず洩れた声に、なんだか気持ちが少し落ち着いた。 「さて、無鉄砲な相棒を探しに行きますか」そう呟き、浄化しながら先に進む。すると、瘴気が一際濃い場所からライトの鳴き声が聞こえた。 「ライト! 大丈夫か?」叫んで走り込んで行くと 「大丈夫だ」と、声が返ってきた。 (……ヤバい。この声、来人だ)そう思っていると、黒い瘴気の中で青白く光る光の剣を持った来人と一緒に、瘴気が吹き出している場所で対峙しているライトを見つけた。
last updateLast Updated : 2026-02-13
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第三十三話:共闘

来人は、瘴気の渦から浄化しながら現れた僕を見て、目を見開いた。 「春……馬?」見た感じ、腕や首が既に瘴気にやられている。僕は舌打ちをして「あんた、なにしてるんだよ!」そう叫んで、来人の腕を掴んだ。「何をする!」驚く来人に「うるさい、黙れ! 気が散る!」そう言って、呼吸しながら自分の中の神気を集め、いっきに来人の身体に流し込む。『パンッ』と音を立て、来人の身体を侵していた瘴気が霧散した。「お前……凄いな」目を見開いた来人が呟いた。一瞬、気が緩んだのを感じたのだろう。瘴気が塊になって、こちらに勢い良く向かって来たのだ。 (しまった! 防御が間に合わない!)そう思っていると、ライトが唸り声を上げ、こちらに向かってくる瘴気の塊に飛びかかり、噛みちぎったのだ。「良いぞ、ライト!」思わず来人が居るのを忘れて叫んだ瞬間「ワン!」尻尾を振って答えるライトと「え……?」と呟く来人の声が聞こえた。(やばい! ライトの名前が、来人にバレた)僕が青くなっていると「そうか、お前もライトか。ライト、力を貸してくれよ」「ワン!」来人とライトが、僕の前に立って瘴気を滅して行く。(え? なに?この姫ポジション。恥ずかしいんだけど!)僕は心の中で叫び「後ろから、援護します!」と来人とライトに叫んだ。勾玉は──使わない。今は、僕の中の神気だけで充分だ。僕は手を合わせ、呼吸を整えて意識を集中させる。そして溜まった浄化の力を、来人とライトに背中から二人に結界を貼りながら送った。来人は視線だけこちらに向けると「援護、助かる」とだけ呟き「行くぜ、ライト」「ワン!」まるでずっとコンビだったかのように、来人とライトが瘴気を切り刻みながら仏像に向かって床を蹴って宙を舞った。『ザンッ』と音を立て、来人の剣が石柱を真っ二つに割った瞬間、吹き出した瘴気をライトが噛み砕いて消し去った
last updateLast Updated : 2026-02-14
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第三十四話:引き裂かれた番

唇が離れ、なんか恥ずかしくて来人の胸に顔を隠すと 「お前…………」そう呟いて、来人が天を仰ぐ。 「?」疑問の視線を向けると 「その、無自覚に煽るのやめろ!」と、鼻をつままれた。 「な……なんのことだよ!」 「そういう所だよ!」僕と来人が言い争い始めた時 「グルル……」と、低い唸り声を上げるライトに視線を送った。石柱を割って消滅した筈の仏像から、大量の瘴気が溢れ出し始めた。 「春馬、下がってろ!」 来人が僕を背に庇うが、どうやら瘴気が浄化されているのは、僕と来人とライトの周りだけらしい。恐らく、彰兄さんは瘴気の壁でこちらに来られないのだろう。あの過保護を絵に描いたような彰兄さんが、こんな長い時間、僕を放置するなんて有り得ない。 ──仕方ない。 僕は覚悟を決めた。 麻袋を外し、勾玉に息を吹きかける。 『パンッ!』と音を立てて手を合わせ、強く強く祈る。 「この世ならざるもの この世の悪しきもの達よ 今、我が祈りにより ──天へと還れ」そう唱えた瞬間、光が僕を包み込んだ。 「……その姿は!」来人の声が聞こえたけど、僕は瘴気の浄化に意識を飛ばす。瘴気の根源は──この土地の地下深く。そこに集中して、この一帯を浄化した。自分の中の力という力が、吸い取られていく。奥深く、根深く埋め込まれた呪い。これを解かないと、狗飼家は呪いによって瘴気に何度も襲われる。その時 「春馬……」知らない男性の声が聞こえた。 「春馬……、もう大丈夫だ。これ以上は、お前の命が危ない」浄化の力が止まり、枯れ木だらけだった廃神社が草花に溢れ返っていた。 「春馬!」遠くで、僕に駆け寄る彰兄さんの声が聞こえる。ゆっくりと来人を見ると 「あの日……俺を助けてくれたのは、春菜……いや、春菜だった春馬だったのか!」 愕然とした顔で言われ、僕は小さく来人に微笑んだ瞬間、ゆっくりと倒れた。
last updateLast Updated : 2026-02-15
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第三十五話:僕が倒れていた時間

僕が倒れて、馳川家と猫柳家は大騒ぎだったらしい。猫柳家のじいちゃんとばあちゃん。そして母さんも呼び出され、駆け付けた馳川家の僕の部屋には、今にも死にそうな来人が付き添っていたんだそうだ。叩き出そうにも、僕の手を離さない来人に馳川家が折れて、猫柳家の三人を馳川家に呼び出したらしい。 (※猫柳家では、来人は出禁だからね)「また……貴様か!」じいちゃんが来人の胸倉を掴んでも「お願いします……。春菜の……いや、春馬の傍に居させて下さい」そう言って頭を下げ続けられてしまい、じいちゃんは折れたらしい。ほとんど寝ないで僕に付きっきりだったらしく、見兼ねて母さんが僕のベッドの横に、簡易ベッドを用意したんだそうだ。食事も僕のそばで取り、ずっと手を握り締めて祈っていたんだって……。「そんなに心配しなくても、大丈夫よ。前も一週間、寝込んできちんと目覚めたから」そう伝えると、来人は涙を流しながら「俺を助けた時も……こんな状態だったんですよね?」と母さんに聞いたらしい。母さんは深い溜め息を吐いて僕の足元に座ると「そうね。……でも、あの頃の方が心配だったわ。能力を初めて使った反動が、大きかったから……」そう答え、来人の背中を撫でた。「大丈夫よ。この子は、私たちを残して死んだりしないから。ねぇ、来人君。一つだけ聞かせて」「はい、なんでしょう」「あなた……もしかして、春菜の時から……春馬を好きだったの?」そう聞かれて、来人は片手で顔を覆うと「失ってから気付くなんて、バカですよね」と答えたらしい。すると母さんは手を叩いて「良かった~! 来人君、鼻炎なんじゃないかって心配してたのよ」そう言って「そうよね。運命の番が、分からない訳ないものね」と頷いていたらしい。僕は母さんのせいで、後から来人に「なんで鼻炎の疑いをかけられていたんだ?」って聞かれて、回答に困ることになるんだ。そんな事も知らず──みんなが心配してる間、僕は深い深い眠りについていた
last updateLast Updated : 2026-02-16
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第三十六話:失った記憶

僕は深い深い海の底にたゆたっていた。 「春馬……春馬……」優しい声が聞こえる。誰?……僕を呼んでいるのは、誰?ふわりと、優しい手が僕の頭を撫でた。「頑張ったね」大きい手が、父さんの手だと……なんとなく分かった。 「春馬……きみたちには、この先たくさんの試練が待っている。だからね、きみの番には最終課題を与えようと思うんだ」そう言われて、僕は父さんを見あげた。彰兄さんが、父さんに面差しが似ているって聞いていたけど、実際は父さんの方がガッシリしていて男らしい。 「……あまり虐めないであげてね。来人、ああ見えて繊細なんだよ。すぐ泣くし」僕の言葉に、父さんはふわりと優しく笑った。 「春馬は、彼が好きなんだね」 「……うん、悔しいけどね」照れて答えると、父さんは声を上げて笑った。「春馬、幸せになりなさい」「うん」「でも、彼には試練を受けてもらわなくちゃならないんだ。春馬を傷付けた事を、俺も許した訳じゃないしね」「僕としては、あまり虐めないで欲しいけどね」「この試練を乗り越えられない男なら、春馬の一生を任せられないからね」 「父さん……」「さぁ、もう行きなさい」背中を押され、僕は振り返る。「もう……会えないの?」そう聞くと、父さんは優しく微笑み「俺はいつだって春馬のそばに居て、きみを守っているよ」と答えた。「春馬、母さんの事も……よろしくな」そう言われて、僕は笑顔で頷いた。すると、ゆっくりと世界が明るくなって行く。 『春馬……目を開けてくれ。春馬……』来人の泣き声が聞こえる。一緒に、犬のライトもピーピー鼻を鳴らしている。 (全く……、ライトも来人も……泣き虫だな)声の方へと走って行くと、光が僕を包んでいった。目を開けると、超絶イケメンが僕を見下ろしている。 「春馬!」名前を呼ばれて、目を瞬かせる。「春馬? 分かる?」超絶イケメンの横から、母さんが顔を出した。「
last updateLast Updated : 2026-02-17
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第三十七話:複雑な気持ち

「ライト、来い!」「わん!」眠りから目覚めた僕は、神力を使い過ぎて身体が悲鳴を上げた状態だった。医者からも絶対安静を言われてしまい、ベッドから出られない。そんな僕の代わりに、人間の来人さん……狗飼さんがライトの散歩に朝夜の2回通ってくれている。あの日から、1ヶ月が経過していた。……今まで僕の傍から絶対離れなかったライトが、狗飼さんにだけは絶対服従で懐いているのが少し寂しい。 あの日、目を覚ました僕は、狗飼さんの記憶だけすっぽり抜け落ちていた。他人行儀な僕に気を遣い、早々に立ち去ろうとした狗飼さんを、ライトが上着の裾を噛んで鼻を鳴らし、離そうとしなかった。じいちゃんの話では、狗飼家の守護神は『犬神様』だから、ライトも服従しているのでは?……って事だけど……。庭から楽しそうな狗飼さんの笑い声と、ライトの鳴き声にムウっと頬を膨らませる。「こら、春馬。狗飼さんがライトの面倒を代わりに見てくれているのに、そんな顔しない」膨らんだ僕の頬をつつき、彰兄さんが微笑む。僕は兄さんに抱き着き「だって……ライトが……」そう呟くと、頭を撫でられながら彰兄さんに「春馬には、僕がいるだろう?」と言われて、頬が熱くなる。「そんな風に、期待させること言わないでよ」彰兄さんの胸にしがみついて呟くと「え?」彰兄さんが驚いた顔をした。僕の記憶の中で、ずっと支えてくれていた彰兄さん。今回も、記憶を失って不安な僕の傍にずっと居てくれた。 (狗飼さんもいてくれたけど、よく知らない人だから、なんか緊張しちゃうんだよな) そんな生活の中で、僕はいつしか、彰兄さんを特別に思うようになっていたのだ。
last updateLast Updated : 2026-02-18
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第三十八話:遠くなった人~side 来人~

あの日──目を覚ました春馬は、俺を、知らない人を見る目で見つめ返した。数日前、やっと互いの気持ちを確かめ合ったばかりだというのに。春馬は、俺のことだけを忘れてしまっていた。まるで、初めて会ったあの日のように。俺の存在を、まるで知らないものを見るような瞳で。 ◇◆◇◆春馬と初めて会ったのは、まだ彼が「春菜」と名乗っていた頃だった。俺は、生まれた時から許嫁がいると父親から聞かされて育った。十三家紋の一族が決めた、家同士の縁談だ。しかし、その許嫁は身体が弱いらしく、一族が集まる場に一度も姿を現さなかった。 正直、互いの家が牽制し合うだけの集まりに意味を感じられず、俺自身も途中から顔を出さなくなったが──幼い頃は、許嫁に会いたくて父について行ったこともある。結局、一度も会えないままだった。噂では、成績優秀、スポーツ万能。深窓の令嬢と呼ばれるほどの美少女だと聞いていた。「会いに来ないのは、お前に興味がないからだろ」誰かが、そんなことを言っていた。それが、ひどく腹立たしかった。だから、俺も会いに行かなかった。相手が来るまで、無視してやると意固地になっていた。だが、婚約の期限が迫る高校卒業間近になっても、彼女は会いに来るどころか、手紙一つ寄越さなかった。そんなある日、偶然──婚約者の猫柳春菜を見掛けた。彼女の傍には、いつも同じ男が付き従っていて、まるでネズミ一匹近寄れないような雰囲気を纏っていた。「あの男、恋人なんじゃないの?」優希の囁きが耳に残る。春菜とその男が楽しそうに話す姿を見て、胸の奥がざわついた。気付けば、考えるより先に俺は彼女へ近付いていた。「おい」声を掛けた瞬間、彼女の瞳が金色に輝いた。──一族に伝わる、古い伝承。運命の番に出会った時、互いの瞳は金色に輝くという。見つけた……俺の番だ!そう確信した、
last updateLast Updated : 2026-02-19
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第三十九話:春を待つ犬~side来人~

そして春菜が実家に戻り、死亡したと聞くまで── 俺は何も考えず、祐希と快楽を貪る毎日を送っていた。全てがどうでもよかった。ほとぼりが冷めれば、また本家に戻れる。 ……そう、簡単に考えていた。そんなある日、瘴気の件で親父に呼び出され、一人で本家へ戻ることになった。地方で瘴気溜まりが多発しているから、片付けてこいと言われたのだ。本家に戻ったついでに、春菜と暮らした家へ足を向けた。中に入ると、家具はあの頃のまま。今にも二階から春菜が顔を出しそうな気がした。階段を上り、これまで一度も入らなかった春菜の部屋のドアを開ける。がらんとした室内が、もうここに彼女はいないのだと、無情に突き付けてきた。どうして……もっと優しくしてやれなかったんだ。ぼんやりと立ち尽くしていると、足元でカサリと紙が鳴った。拾い上げると、黒と茶の毛並みをしたデフォルメの犬の絵。その横に、春菜の文字でこう書かれていた。 『来人のバカ!』 「これ……俺か?」思わず、笑いが漏れる。この一枚だけが、彼女の本音を残してくれた気がした。それから間もなくして、春菜の死を知った。荒れに荒れた俺を見かねて、親父から祐希と距離を取れと言い渡された。祐希はかなりゴネたが、必ず迎えに行くと約束して、俺は一人で今の場所へ来た。その頃、親父の事業であるアパレル部門から、新ブランド立ち上げの話が持ち上がった。俺は迷わず、春菜のイラストを使わせてくれと申し出た。ブランド名は──『Spring Light Canis』春の光を待つ犬。理由なんて、うまく説明できない。ただ、もう一度春菜に会える気がしたんだ。いつだったか──親父が言っていた。番を失う喪失感は、半身をもがれるのと同じだと。だが、俺にはまだ、その実感がない。だからこそ──今度こそ間違えないように。俺は、この名前を選んだ。ブランドのキャラクターは、春菜が描
last updateLast Updated : 2026-02-20
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第四十話:決別~side来人~

俺はライトを届けた足で、祐希の待つ別邸へ向かった。祐希は嬉しそうに俺を出迎え、「遅かったじゃないか。もっと早く迎えに来てくれると思ってたのに……」と、唇を尖らせた。祐希を可愛いと思う自分は、まだ確かにいる。だがそれは情であって、もう愛ではない。俺の心は、春馬で埋め尽くされていた。「ねぇ、久しぶりにあの店にご飯を食べに行こうよ」隣に座り、腕を絡めて甘えてくる祐希の手を、ゆっくりと解く。「来人?」不思議そうに小首を傾げる仕草は、男の庇護欲をそそる。……だが、もう揺れない。祐希と正面から向き合い、息を吐いた。「祐希……ごめん。俺と別れてくれ」頭を下げる。「え……?」唖然とする祐希に、はっきり告げた。「他に、好きな人ができた」祐希は乾いた笑みを浮かべた。「嘘……だよな? そんな……」俺が何も言わずにいると、「来人、どうして? 僕に飽きたの?」縋る声が、胸を掠める。「祐希は悪くない。悪いのは……全部、俺だ」そう言った瞬間、祐希の表情が歪んだ。「猫柳春菜に悪いと思って? あいつはもう、死んだんだよ!」祐希は俺に縋りつく。「嫌だ……絶対に迎えに来るって言ったじゃないか! だから僕、ずっと待っていたのに……」泣き崩れる姿は、確かに愛しかった。だが、それはもう愛ではない。俺は――番と結ばれた瞬間を知ってしまった。あれ以上のものは、存在しない。「祐希、すまない。俺はもう……お前を愛せない」その言葉を聞いた瞬間、祐希が俺の唇を奪った。ソファーに押し倒され、甘い香りが鼻腔を掠める。……だが、心は微塵も動かない。「嫌だ……来人。どうして? どうして、そんな冷めた目で僕を見るの?
last updateLast Updated : 2026-02-21
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