All Chapters of 犬猿の仲……いいえ、犬猫の仲です: Chapter 41 - Chapter 50

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第四十一話:不穏な空気

『パリーン』突然、僕が使っていたお茶碗が半分に割れた。「あら、古いからヒビでも入っていたかしら?」馳川の叔母さんが、慌ててお茶碗を片付けた。何だか、胸に嫌な予感が去来する。そういえば……今日、狗飼来人さんの姿を見ていない。ドクリと、胸の中に不安が渦巻く。その瞬間、突然、左側の腕に痛みが走った。「痛っ!」そう言って袖を捲った瞬間、蛇の鱗のような痣が浮かび上がっていた。「春馬、大丈夫か?」彰兄さんが僕の腕を掴むと「呪いだ……」ポツリとそう呟いた。「呪い?」「あぁ、しかも禁術だ。蛇一族に伝わる、禁忌の術だ。しかし……なんで春馬に?」そう呟いた瞬間、彰兄さんはハッとした顔をして何処かに電話を掛けていた。「あ……来人君か? ……え?……分かった。直ぐに向かう」兄さんはスマホの通話を切ると「大変だ。来人君が、瘴気に侵されているらしい」そう言って、上着を掴んだ。「彰君、きみが行ってもどうにもならんじゃろう。ワシが行く」爺ちゃんがそう言って立ち上がると、爺ちゃんのスマホが鳴り響いた。「どうした? ……なんじゃと?そんなバカな!」慌てた様子に、ただならぬ空気を感じて、僕は彰兄さんの服にしがみついた。そんな僕の手に彰兄さんが手を重ねた瞬間、『パンッ!』と音が鳴って鱗のような痣が消えた。その時、何故か、誰かが守ってくれたような気がした。見上げると、彰兄さんの瞳とかち合う。きっと、彰兄さんが守ってくれたんだ──そう思った、その時。「猫柳家の本堂に、瘴気の塊が飛んで来たらしい。急いで戻らないといかん!」そう叫んだ爺ちゃんの声が聞こえて来た。その様子から、緊急事態だと察した。すると母さんが「春馬、来人君を助けに行きなさい」と言い出した。「え?」「多分……来人君は、春馬を庇って呪いを一身に受けている可能性が高いわ」母さんの言葉に、僕は首を傾げた。「なんでそんなこと?」「良いから、行きなさい!」
last updateLast Updated : 2026-02-22
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第四十一話:記憶

急いで向かった狗飼来人さんの家。 インターフォンを鳴らしても、反応はない。 玄関のドアノブに手をかけた彰兄さんが、僕を見た。 「鍵が掛かってない。春馬、行くぞ」 そう言って中へ入っていく。 僕も慌てて後を追った。 リビングで倒れている狗飼来人さんを見つけた瞬間、息が止まった。 全身に、蛇の鱗のような痣がびっしりと浮かび上がっている。 「まさか……さっき春馬の痣が消えたのは……」 彰兄さんの言葉に、朦朧とした来人がうっすらと目を開けた。 「春馬……よかった。お前は無事か……」 苦しそうなのに、僕を見て笑う。 「バカじゃないの! そんな状態で、何笑ってるんだよ!」 怒鳴ると、来人は顔を歪めながら、それでも小さく笑った。 「なんだろうな……春馬が苦しむくらいなら、俺が苦しんだ方が楽なんだよ。……ざまぁねえな。こんな恋愛、絶対しないと思ってたのにな……」 その言葉に、胸の奥が熱くなる。 「今、浄化するから待ってて」 そう言うと、来人はゆっくりと首を横に振った。 「これは呪いだ。そんなに簡単に祓えるもんじゃない。また春馬が倒れるのは見たくない」 浅い呼吸のまま、続ける。 「それに、これは罰だ。祐希を傷付けた、俺の罰だ。だから俺が引き受ける」 その言葉に、腹の奥がぐっと煮えた。 「ちょっと待てよ。何ひとりでヒーロー気取ってるんだよ!」 気付けば叫んでいた。 「何が“春馬が倒れるのを見たくない”だよ! 何が“俺の罰”だよ! ふざけんな!」 胸が、焼けるみたいに熱い。 「大体さ、来人は勝手なんだよ! 人の気持ちも聞かないで、自分の考え押し付けるとこあるよね! 僕、来人のそういうところ、大嫌いだ!」 ──あれ? どうして僕は、こんなことを知ってるんだ。 彰兄さんと来人が、ぽかんと僕を見る。 「なに? 文句ある?」 勢いのまま睨み返すと、来人が震える声で言った。 「春馬……俺が分かるのか?」 その言葉で、はっとする。 「あれ……僕……」 「まさか……また忘れた、とかじゃないよな?」 不安そうに僕を見る来人を、気付けば抱き締めていた。 「ごめん、来人。不安にさせて、ごめん」 そう呟くと、弱々しい腕が僕の背中に回る。 久しぶりに感じる体温と匂い。 ああ── 僕の居場所は、こ
last updateLast Updated : 2026-02-23
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第四十二話:光の粒

「とにかく、来人を浄化するから!」そう言って首に掛けている麻袋に手を掛けた瞬間、来人が僕の腕を掴んだ。「いい! また、春馬が倒れるのを見たくない」「まだ言うの! 僕、いい加減怒るよ!」叫んだその瞬間、弱々しい身体で来人が僕を抱き締めた。「もう……春馬の記憶から、消されたくないんだ」声も身体も、震えている。こんなにも不安にさせていたんだと、僕の胸が軋むように痛んだ。「ごめん……来人。そんなに不安にさせて、ごめん」抱き締め返すと、来人は小さく微笑む。「思い出してくれた。それだけで、いい」そう言って、僕の頬に触れた。弱々しいその姿に、涙が止まらない。「……死なせない。僕が、来人を死なせない」そう呟いた時、ふと思い出した。──運命の番と力を合わせて祓えば、僕の力は吸われない。でも、どうやって?考えがまとまらない。その時、ライトが鼻をピーピー鳴らしながら、来人の手を舐めている。「ライト……心配してくれているのか?」小さく笑った来人が、痛みに顔をしかめた。どうしたらいい?どうすればいい?焦りだけが胸を締め付ける。来人の呼吸が、だんだんと浅くなっていく。「嫌だ! 来人、一緒に闘うって約束しただろう!」涙がぽたぽたと、来人の頬を濡らしていく。来人の瞳から、生気がゆっくりと抜けていく。「嫌だ、来人! 僕が好きなら、ずっと傍に居てよ!」そう叫んで、そっと唇を重ねた。その瞬間――閃光が僕たちを包み込んだ。『パンッ!』破裂音が響き、光の粒がきらきらと舞い上がる。次の瞬間、来人の全身を覆っていた鱗状の痣が、まるで潮が引くように消えていった。
last updateLast Updated : 2026-02-24
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第四十三話:番

来人の呼吸が穏やかになったかと思うと、そのまま意識を手放した。「来人! 嫌だ、来人!」泣きながら来人を抱き締める僕に、「春馬、落ち着きなさい。気を失っただけだ」彰兄さんが肩を掴んだ。その言葉に、僕はようやく息を吐いた。腕のほんの少しの痣でさえ、あれほど痛かったのだ。全身を覆われていた来人は、どれほどの激痛だっただろう。青白かった頬に、ゆっくりと生気が戻っていく。そっと頬に触れた、その時。スマホの着信音が鳴り響いた。「春馬! 無事か!」じいちゃんのデカい声に、思わずスマホを耳から離す。「え? 何の話?」「今、空から浄化の粉が降ってきたんじゃ!」「あぁ……うん、大丈夫。それより、来人が大変なんだ。誰かこっちに向かわせてくれる?」じいちゃんが息を呑む。「まさか……」「うん。僕の分の呪いも、引き受けてたみたい」膝枕で眠る来人の頬を、そっと撫でる。「狗飼のバカ息子が?」「じいちゃん、怒るよ」僕の真剣な声に、じいちゃんは溜め息をついた。「そうか……やはり二人は番だったのか……」少し寂しそうな声。「え?」「春馬。この粉はな、番が揃わないと……いや、違うな。お互いの気持ちが一つにならないと、出すことはできんのじゃ」その言葉に、僕は来人を見下ろした。『すぅすぅ』と規則正しい寝息を立てる姿が、どうしようもなく愛おしい。……目を閉じているくせに、イケメンオーラ出しやがって。だんだん腹が立ってきた。「全く! 無茶ばっかりしやがって!」来人の頬を左右に引っ張る。反応なし。ニヤリと笑って、「豚鼻!」鼻先を人差し指で押し上げる。無駄に高い鼻しやがって。鼻を摘んで離すと、ピタッとくっついてから、ゆっくり左右に開い
last updateLast Updated : 2026-02-25
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第四十三話:目覚め

あれからじいちゃんが寄越してくれた人たちによって、来人は病院に運ばれた。「来人!」久しぶりに会った狗飼家のご当主は、僕に全く気付かずに来人に駆け寄った。そして震える手で来人の頬に触れると「この……バカ息子が……。心配かけやがって」そう、小さく呟いた。「でも、良かった……来人」そう言って、ご当主様が涙を流していた。ずっと来人に厳しくしていたのは、当主だったからなのだと分かった。屋敷や狗飼家の使用人たちの手前、甘やかせなかったのだろう。僕がそっと席を外そうとすると、ようやくご当主様が僕に気付いた。「春……菜さん?」目を見開くご当主様に「久しぶりね。この子は、春馬。春菜の双子の兄なの」と、いつの間にか母さんが登場していた。「……お久しぶりです」なんだろう?親のぎこちない空気って、いたたまれない。そっと逃げ出そうとした瞬間、来人が小さく呻いた声が聞こえた。「来人!」ご当主様と僕が駆け寄ると、来人が僕の顔を見るなり「おかえり、春馬」ってふわりと微笑んだのだ。「来人!」そう叫んで思わずベッドにダイブすると「バカ、春馬!痛たたっ!」と、顔を歪めた。「あ!ごめん」慌てて離れようとした僕の腕を掴むと、抱き寄せた。「熱烈な歓迎、ありがとう」「はぁ?べ、別に、歓迎なんて……してないし?」「ふうん?」余裕の笑みを浮かべる、来人が憎い!「離せよ!」「離さない!春馬の匂いだ!」「バカ!どこの匂い嗅いでんだよ!」僕を抱き寄せ、項に顔を埋める来人を唖然とした顔で見るご当主様。抱き締められて、ジタバタする僕と、楽しそうに僕をハグする来人に、母さんが「ここじゃ……なんですから」と、ご当主様を外に連れ出した。特別室のドアがパタンと閉じると「で?本音は?」「心配させやがって、このバカ息子!」「はぁ?息子?俺の方が春馬より年上だけど?」「そういう意味じゃない!」
last updateLast Updated : 2026-02-26
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第四十四話:残された影

あの事件の後、竜ヶ峰祐希の消息は途絶えたらしい。来人と僕、そして猫柳家の領地を襲おうとしたことで、彼は一族から追われる身となった。さらに、彼が身に纏っていた香水が、蛇一族で禁忌とされ使用を禁じられていた禁術の一つだと判明した。それは人の意思を操る術。あの香りを嗅げば好意を抱き、思うが儘に操られてしまうのだという。そんな禁術を、なぜ竜ヶ峰が使えたのか。調査の結果、竜ヶ峰の母親が、蛇一族で根絶やしにされた「祐巳一族」の生き残りだと分かった。姓を変え、竜ヶ峰家に入り込んだ彼女は、自分に容姿がよく似た祐希に一族の名を一文字入れ、再起を図っていたらしい。そして来人に近づいたのも、そのためだろうと判断された。来人は父親に「きちんと愛し合っていた」と訴えたらしい。……あの真っ直ぐな目で。けれど、すべてを竜ヶ峰祐希のせいにした方が丸く収まる。そう判断したトップの意向で、話はその線で進められた。今、竜ヶ峰一族も含め、全十三家紋が祐希とその母親を探しているという。そんな状況で、来人は口には出さないけれど、きっと心配しているのだろう。時折見せる横顔は、どこか悲しげだった。僕は好きじゃなかった。けれど、来人と一緒にいる竜ヶ峰は、本当に幸せそうだった。二人が並ぶ姿は、仲睦まじく愛し合う恋人同士だった。……だからこそ、竜ヶ峰は僕を排除しようとしたのだと思う。僕は来人の『運命の番』だ。どれだけ抗っても、惹かれ合ってしまう存在。そんな僕を脅威に思ったからこそ、竜ヶ峰は執拗に僕へ絡んできたのだろう。そんなことを考えていると、背後から来人が抱き締めてきた。退院してから、僕たちは二人で暮らし始めた。気持ちを確かめ合った後で引き離されるのが、どうしても辛かったから。背後から抱き締める来人にもたれかかり、ゆっくりと見上げると、唇が重なる。少
last updateLast Updated : 2026-02-27
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第四十五話:拭えない影

「ライト!」「ワン!」僕の声に、ライトが元気よく駆け寄る。「今日は隣町だっけ?」話しながら後部座席にライトを乗せ、僕は助手席へ滑り込んだ。「あぁ……少し距離があるが、大丈夫か?」来人の指先が頬に触れる。どくり、と心臓が跳ねた。「昨夜は無理させ過ぎたから……」心配そうに頬を撫でられ、思わず赤くなる。来人とライト、そして僕。三人で暮らし始めて、もう一年が経った。未だに竜ヶ峰は見つかっていない。……まぁ、一緒に暮らしているのだから、当然、そういう関係にもなるわけで。翌朝の、この甘ったるい空気に、いまだ慣れない。「うん、大丈夫だよ」微笑んで答えると、来人の顔が近付いてくる。目を閉じ、キスを受け入れながら──ふと、春菜だった頃とえらい待遇が違うな、と思い返す。ゆっくりと唇が離れ、来人が運転席側に身体を戻した。「じゃあ、行くか」エンジンが静かに唸り、車が走り出す。……きっと、今までは竜ヶ峰がこの位置にいたのだろう。二人の関係を知っているがゆえに、その考えはどうしても頭から離れない。初めの頃は、抱かれるたびに、春菜だった頃に聞いた竜ヶ峰の声が蘇った。身体が強張り、なかなか先へ進めなかった。自分の声に、竜ヶ峰の声が重なってしまうのだ。最近ようやく、そこから抜け出せてはいる。けれど──抱かれるたび、夢を見る。『そこは僕の場所なのに……』泣きながら、恨むような視線を向けてくる竜ヶ峰。あの夢を見るようになったのは、いつからだろう。来人は何も言わない。でも、察しているのか、必ず僕の名前を呼んでくれる。──俺が愛しているのは春馬だよ。そう、分からせるように。それでも。理屈では説明できない何かが、僕の背中に冷たい影を落としていた。
last updateLast Updated : 2026-02-28
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第四十六話:怪しい影

猫柳家と狗飼家、馳川家は、あの日、舞散った金粉のお陰で、瘴気の被害は出ていない。じいちゃんの話では、あの粉は全てを無に変えてしまうらしく、元々あった瘴気はもとより、後から発生する瘴気を抑制する効果があるのだとか。その代わり、他の家紋の土地が瘴気被害が酷く手が回らないらしい。僕たち十三家紋は、猫柳家を真ん中に、十二支の苗字を授かった家紋で構成されている。十二支に猫がいないのは諸説あるが……、僕たち家紋で言い伝えられているのは、猫は神様の直属の眷属だった。常に神様と一緒に居たことから、神様のお祭りに招待する側だったので十二支にいないということだった。その中でも、猫と親しかった犬も神様に可愛がられており、いつしか何年かに一度、番が現れるのだとか。今回は、僕と来人だった訳だけど……。僕たち番が気持ちを1つにした時、あの粉が舞い散るらしい。あの粉は元々、猫柳家の者なら出せたらしいけど、例の掟を破った先祖様から、狗飼家と猫柳家の番が気持ちを1つにしないと現れなくなったらしい。だから、僕たちの力を求めて、あちこちから救援要請が来るようになったのだ。僕たちは、ただ想いを確かめ合っただけなのに……。それがいつの間にか、十三家紋を救う“切り札”のように扱われている。来人が運転する車の助手席で、ふとそんな事に思いを馳せていた時、寝ていたライトが突然起き上がり、窓の外に吠え始めた。ちょうど、信号は赤だった。「ライト、どうした?」ライトの視線の先を見た時、目深にフードを被った人物と目が合った。ドクリと、心臓が嫌な音を立て脈打つ。(竜ヶ峰祐希だ……)遠目でも、僕には分かった。竜ヶ峰の目は、僕を憎々しげに見つめていた。僕たちは、決して仲良くはなかった。だけど、あんなにもどす黒い憎悪の感情を向けられたのは初めてだった。「ヒュッ」と思わず息を飲んだけど、確証も無いのに「竜ヶ峰が居る」と口に出せずに居ると「春馬、どうした?」一点を見つめて固まる僕に、来人が顔を出した。その一瞬早くフードの男は目元を隠すと、人混みの中へと消
last updateLast Updated : 2026-03-01
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第四十七話:失踪?

あの日を境に、僕はフードを被った人間に過敏になっていた。そんな中、朝一番にじいちゃんから電話が入る。「春馬、咲月はそっちに行っていないか?」「え? 母さん? ……来てないけど」そう答えると、「そうか……」じいちゃんは短く返し、「なら良いんじゃ。忘れてくれ」そう言い残して切ろうとする。「待って! 母さん、いないの?」胸の奥に、不安が渦巻いた。「大丈夫じゃ。咲月がふらっと何処かへ出掛けるのは、いつものことじゃろう?」僕を安心させようと、じいちゃんは明るく言う。けれど――あの日見た竜ヶ峰の目が、頭から離れない。母さんも猫柳家の人間だ。浄化能力を持っている。だから大丈夫だとは思う。思うけど――バクバクと、心臓が嫌な音を立てる。今まで母さんがふらりといなくなる理由は、父さんの墓参りだった。でも、真実を知った今――そんな理由は、もうない。電話を切った僕の顔を見て、来人が近付いてきた。「春馬、どうした?」そっと頬を撫でる来人の胸にしがみつく。「母さんが……いなくなったらしい」ぽつりと呟くと、来人が僕を抱き締めた。「春馬のお母さんって、自由人なんだろう? 友達と遊びに行ってるんじゃないのか?」「友達と遊びに行くなら、必ず僕かじいちゃんに声を掛けるよ」そう言うと、来人は少し考え、「心配なら、電話してみたらどうだ?」母さんに連絡してみる。――繋がらない。すぐに留守番電話へと切り替わる。「なんか……嫌な予感がするんだ」そう呟いた瞬間、今度は来人のスマホが鳴り響いた。「どうした?」来人が出る。「え? オヤジが?」来人は僕を見る。「分かった。俺も心当たりを探してみる」通話を終えた来人の顔色は、明らかに悪い。「どうしたの?」問いかけると、来人は僕を強く抱き締めた。「親父も……行方不明らしい」「え?」僕と来人は顔を見合わせ、言葉を失った。ライトが鼻を鳴らし、僕の手を舐める。「ライト、心配してくれてるの?」抱き締めると、温かさが少しだけ現実に引き戻してくれる。それから僕たちは、思いつく限りの場所を探した。父さんの墓。馳川家の親戚。母さんの友人。来人も同じように連絡を回している。だが――手掛かりは、何一つ掴めない。すっかり日が暮れた頃。僕が、来人に竜ヶ峰らしき人物を見たと話そうとした瞬間。
last updateLast Updated : 2026-03-02
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第四十八話:新しい人生の始まり

「え? どういうこと?」事情が掴めず、来人と顔を見合わせたその時──インターフォンが鳴った。慌てて玄関へ向かうと、「はぁ~い、春馬」母さんが手を振って立っていた。その隣には、なぜか狗飼家のご当主様。「お、親父?」驚く来人に、ご当主様は気まずそうに頭をかきながら、「やぁ……げ、元気そうだな」と、どこか照れくさそうに言う。……なんだ、この甘酸っぱい空気は。「と、とりあえず中へ」二人を招き入れると、相変わらず自由な母さんと、落ち着かない様子のご当主様。お茶を用意しながら様子を窺っていると、来人が隣に来て小声で呟いた。「親父も、ようやく新しい幸せを手に入れたみたいだな」「え?」「え?って……」顔を見合わせる僕たち。すると、「あらあら。本当に仲良しなのね」ソファに座った母さんが、生暖かい視線を向けてきた。なんでそこで僕らを見るんだ。お茶と菓子を並べ、向かい合って座る。その時、母さんがご当主様を見上げた。優しく、自然に。……ああ。親の恋愛って、こんなにもむずがゆいものなのか。「あー、なんだ。その……実はな」ご当主様が咳払いをして、「咲月さんと再婚することになった」僕は思わず仰け反りそうになった。「さ、再婚!?」「そうなの。それでね、亮二さんの奥様と、春馬のパパのお墓参りに行ってきたの」自然に握り合う二人の手。それが、すべてを語っていた。「いつから?」来人が落ち着いた声で尋ねる。「来人君が病院に運ばれた日。本当に久しぶりに再会したの。不思議ね。止まっていた時間が、また動き出したみたいで」母さんの言葉に、来人が小さく微笑んだ。「そっか……。母さんは俺を産むために父さんと出会った。俺と春馬を出会わせるために」そう言って、僕の手を握る。僕も、その手を握り返した。温かい空気が流れる。……けど。僕は目を細めた。「で? だからって、みんなを心配させていい理由にはならないよね?」母さんを睨む。「あら? 春馬、怒ってる?」「当然だろ。今どれだけ大変な時か分かってる? ご当主様まで巻き込んで」「やだ~、怖い~」母さんがご当主様に抱きつく。ご当主様は困ったように笑う。息子の前でデレるわけにもいかないらしい。来人は無の顔で天井を見ていた。僕らは顔を見合わせ、同時にため息をつく。そして、それ
last updateLast Updated : 2026-03-03
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