琴葉は座椅子に深く腰を掛け直し、再びディスプレイに意識を集中させた。 画面には、いくつものターミナルウィンドウと、複雑な配線図が重なるように展開されている。 来月、東京都内の高級ホテルで開催される「世良グループ世界同時発表会」。そこが琴葉の反撃の舞台だ。 地下のラボに残してきたあのAI筐体には、琴葉が仕掛けた構造共振の罠が眠っている。 発表会の当日、最高のパフォーマンスを世界に見せつけるため、世良峻嗣は必ずシステムの稼働率を100パーセントまで引き上げるだろう。 その瞬間、極限までパーツが密着したあの筐体は逃げ場のない振動を引き起こす。自らのパワーによって内側から完全に粉砕される。(でも、ただ機械が壊れるだけでは意味がない) 琴葉は考える。 物理的な破壊が起きた瞬間、世良側は即座にメイン電源を落とし、「軽微なハードウェアのトラブルが発生した」と嘘の発表をして隠蔽を図るはずだ。 それを防がなければならない。 琴葉が今組んでいるのは、発表会当日にホテルのメインスクリーンと音響システムを外部からジャックするプログラムだった。 AIが粉砕されると同時に、内部のエラーログと熱暴走のデータを全世界のメディアに向けて強制配信する。(言い訳ができないほど、完璧に叩きのめさなければならない) 琴葉がここまで徹底的な破滅を狙うのには、3つの理由があった。 第一に、実家の土井精機を守るため。 もし隠蔽を許せば、世良の権力と資本は無傷のまま残る。 彼らは裏で密かに原因を探す。設計に細工をした琴葉を特定すれば、報復として土井精機ごと社会的に抹殺するだろう。 それを防ぐためには、世良の権力が及ばない全世界のメディアの面前で、「世良の最新AIは、人間を排除した欠陥設計のせいで自壊した」という事実を確定させ、彼らの社会的信用を地に堕とすしかない。 第二に、技術者としての矜持。 峻嗣と宗佑は、現場の人間が持つ技術や、メンテナンスのための空間という概念を「無駄なバグ」と呼び、徹底的に貶めた。
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