「本当ですか! はい、もちろんです。最高のハンバーグにしてみせます」 伊吹の顔がパッと明るくなる。嬉々として合い挽き肉のパックを選び始めた。 ◇ 伊吹が満足そうにパン粉やナツメグをカゴに入れているのを横目で見つつ、琴葉はレジへと向かった。 琴葉は何気なく買い物カゴの中身を覗き込む。 牛乳、卵、野菜、合い挽き肉……。 その隙間に、見慣れない派手なパッケージの小袋が紛れ込んでいるのを発見した。「……ちょっと、伊吹」「はい、何でしょう」「これ、あんたが勝手に入れたのね」 琴葉は小袋を2本の指でつまみ上げた。 それは、特売の猫用おやつだった。まぐろ味のペースト状で、小分けのパックになっている。 伊吹は一瞬、目を泳がせた。「……あの子も、たまには美味しいものを食べたいはずですから。毎日同じカリカリばかりでは、きっと飽きてしまいます」「私が言いたいのは、余計な出費をしてるんじゃないかってことよ。生活費は限られてるんだから」「僕のお小遣いから出します」 伊吹は即答した。 琴葉が渡しているごくわずかな生活費の余りを、自分のために使うのではなく、あの名無しの猫のために使おうとしている。「……ふうん。随分と親バカになったものね」「親バカではありません。あの子への責任を全うしているだけです。それに、これを見せればあの子は喜んで僕の足にすり寄って来るでしょう」 子猫が甘えてくる様子を想像しているのだろう、伊吹は妙に嬉しそうだ。「それが親バカだって言ってるのよ」 琴葉は呆れ果てて、猫用おやつをカゴに戻した。 レジに並びながら、伊吹はカゴの中のおやつを愛おしそうに見つめている。 彼の中で、あの猫の存在がどれほど大きくなっているのか、よく伝わってくる表情だった。
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