「……それが、『例の案件』か」 宗佑は手元の書類から目を離さず、ペンの先で琴葉を指した。 息子の結婚を祝う雰囲気は少しもない。 まるで検品待ちの不良在庫を見るような仕草だった。 琴葉は挨拶をしようと口を開きかけたが、喉が張り付いて声が出ない。 宗佑から放たれる圧倒的な威圧感が、室内の酸素を薄くしているようだった。「赤字工場の娘を妻にするなど、正気とは思えんがな」 宗佑がようやく顔を上げ、冷ややかな視線を投げつけた。「お前の結婚は手札(カード)だ。政界とのパイプ作りや、他財閥との提携……より有利に使わなくてどうする」 琴葉の存在を目の前にして、彼女の価値を「無」だと断じる。 怒りよりも先に、ぞっとするような寒気を感じた。だが隣に立つ伊吹は平然としていた。「コストパフォーマンスの問題です、父さん」 伊吹は淡々とした口調で切り返す。「政略結婚で得られるコネクションは一時的なものに過ぎません。ですが、彼女の脳内にある独自の技術データとノウハウは、長期的に見て買収額の10倍以上の利益を生みます。これは浪費ではなく、確実な投資です」(……は?) 琴葉は自分の耳を疑った。 この男は今、妻となる女性を「高機能な部品」としてプレゼンしている。 宗佑は鼻を鳴らし、値踏みするように目を細めた。「……いいだろう。好きにしろ」 宗佑は再び書類に視線を落とす。「せいぜい使い潰せ。利益が出なくなれば捨てればいい」「心得ております」 伊吹が深々と頭を下げる。 琴葉は拳を固く握りしめた。爪が皮膚に食い込む痛みで、どうにか理性を保った。 この親子にとって、人間は数字か、ゲームのカードでしかないのだ。(使い潰すですって? 上等じゃない) 琴葉は伊吹の横顔を睨みつけた。彼は完璧なビジネスマンの仮面
Last Updated : 2026-01-25 Read more