スマートフォンの画面越しだというのに、伊吹の視線は鋭く琴葉の思考を読み取っていた。 背景には世良本社の洗練された執務室が見える。 しかし画面の半分を占めているのは、彼が手元の端末で表示している土井精機の稼働ログだった。「琴葉さん、僕の手元にある数字は、今も『最高品質』を維持していると主張しています」 伊吹の指先が滑らかに画面を弾く。表示されたグラフは、一点の揺らぎもなく理想的な直線を形作っていた。 琴葉は手元の合金パーツをカメラに接写したまま、苦々しく吐き捨てる。「その数字は嘘よ。現実を見て。このくすんだ表面、死んだ魚の鱗みたいな光沢。これが土井精機の合格品なわけないでしょう」(データが正常で、現物が異常。そんな魔法みたいなことがあっていいはずがない。機械が壊れているのでなければ、何かがおかしい) 伊吹は画面の向こうで、彫刻のような端正な顔をわずかに歪めた。 それは怒りというよりは、計算の合わない数式を見つけた学者のような、冷静な違和感の表明だった。『……ええ、わかっています。僕が言いたいのは、このログがあまりに「綺麗すぎる」ということです』「綺麗すぎる?」『はい。機械が動いている以上、切削抵抗や温度変化による微細なノイズが必ず発生する。ですが、このログにはそれがない。まるで誰かが事前に用意した「正解」を、機械に読み上げさせているかのようだ』 琴葉の心臓が嫌なリズムで跳ねた。 伊吹の指摘は、経営者としての冷徹な観察眼に基づいている。現場の勘とトップの分析、その2つが1つの不吉な結論に向かって収束していく。「……つまり、外部からのハッキングじゃなくて、現場で直接何かが行われているってこと?」『その可能性が極めて高い。機械が吐き出した信号そのものが、出口に届く前に書き換えられている。現場の構造を知り、かつ自由に立ち入ることができる人間。内部犯(ネズミ)の仕業です』(嘘よ。そんなの、うちの身内しかいないじゃない。佐藤さんや他の職人たちが、自分たちの城を汚すなんて……) 琴葉は無意識に、ライン
Last Updated : 2026-02-09 Read more