「こんな夜に……どこかへ行くつもりだったのか?」揶揄うように言えば、あやめは潤んだ瞳で睨む。その視線には怒りよりも、押し込めた感情が滲んでいる。「こんな姿で……どこへ行け、と……あっ」冬弥が腰を揺らせば、あやめの唇から艶めいた声が零れる。夜会用のドレスの裾は乱れ、肩を覆っていたチュールはずり落ちている。纏められていた髪はほどけ、化粧も涙で崩れている。その乱れた姿が、かえって生々しく、冬弥の視線を逸らさせない。「……そうだな」低く笑い、冬弥は指先でチュールをよける。露わになった肌に唇を寄せ、そこを強く吸うと、あやめが小さく声を漏らした。「あっ……」同時にその細い腰を引き寄せる。ぐちゅりと、水音が立つ。背徳と羞恥が絡み合う気配が、空気を濃くした。「……っ」あやめは唇を噛み、声を堪えた。冬弥の視界の端で、常夜灯に照らし出されて揺れる影と、あやめの体から延びる布の動きが重なった。.*.(あ……)冬弥の唇の端、かすかに残る赤にあやめは気づく。何度も交わしていた口づけの名残だと気づき、あやめの頬がさらに熱を帯びる。(いま、すごく、恥ずかしい)壁も、窓もない、開放的な四阿。ほぼ野外のこの場所で、抱かれている。こんな場所で乱れる姿を、逃げ場のない冬弥の腕の中から、逃れられない間近な距離で、すべてを見られている。「……逃げるな」「……逃げて、いません」「嘘だ」腰を引こうとした動きを、冬弥が逃さない。腕の力だけで引き寄せられる。立つ水音。戦慄く身体。「隠すな……思いきり乱れろ」冬弥からの静かな命令。ここが寝室ではなく野外であるという事実から、あやめはしばらく抵抗した。冬弥の思い通りになりたくないという抵抗もあった。それを、冬弥も察していたのだろう。窘めるように、懇願するように、抽挿が激しくなる。やがて、あやめの体から力が抜いた。同時に、あやめの気力も消える。「冬弥さんだけ……」その言葉とともに、涙がこぼれる。今までの生理的な涙とは違う、内側から溢れる感情。「……あやめ」あやめは冬弥の胸を叩く。しかし、胸に落ちる拳は弱い。だが、確かに訴えを持っていた。「誰もいらない、代わりなんていらない……」震える声が出た。冬弥が息を飲み、言葉を失うのが分かった。「……すまない」それだけか、とい
Last Updated : 2026-04-17 Read more