「大迫武流です」軽い調子の挨拶とともに現れた男を見た瞬間、冬弥は大きくため息をついた。「……本当に来たのか」「もちろんです。姐……あや……姐さんの護衛募集に、俺が来ないわけないでしょう」言い直した一瞬を、冬弥は見逃さない。「今、『あやめちゃん』と言おうとしたな」「……失礼しました」口では謝るものの、その表情に反省の色は薄い。どこまで踏み込めるか探っている――そんな軽さだった。(境界線を測っているな)冬弥は内心でそう判断する。大迫は誤魔化すように頭を掻き、懐から一通の封筒を取り出した。「兄貴に持っていけと言われた推薦状です」封筒の中央には、達筆な字で【履歴書在中】と書かれている。「……履歴書?」「転職活動なんだから必要だろ、って」冬弥は無言で封筒を受け取り、一度だけ眺めた。そして次の瞬間、何の迷いもなく丸め、そのままごみ箱へ放り投げる。紙の塊は綺麗な放物線を描き、吸い込まれるように入った。「お見事っ!」「……接待ゴルフか」「場を読むのは得意なんですよ。下っ端で、大物組長の隠し子なんて立場でしたからね」軽い口調だったが、その一言に積み重ねてきた年月が滲んでいた。(軽い男だ。だが、軽さに芯がある)冬弥は静かに大迫を見据える。人懐こさと図太さを武器に生きてきた男。その生き方は、自分とは正反対だった。(だからこそ鼻につくのか)「若」鷹見の声で思考が途切れる。冬弥は小さく息を吐き、立ち上がった。「鷹見。面接その一を任せる」「その一?」大迫が首を傾げても、誰も答えない。ただ鷹見だけが静かに歩き出した。案内された先は、神崎邸の道場だった。「同じ敷地に道場まであるのか」広くはない。しかし、逃げ場もない。「なるほど。試験会場ってわけか」畳へ足を踏み入れた瞬間、大迫の目つきが変わる。「ルールは?」問いに答えたのは、すでに構えを取っていた鷹見だった。「死ななきゃいい」「怖いですねぇ」口では笑っていても、視線は鋭い。重心、呼吸、間合い――相手を細かく観察している。(やはり場慣れしている)冬弥は黙って見守る。鷹見の構えは元ボクサーらしい前傾姿勢。しかし足運びには柔道の重心移動が混じっていた。「よろしくお願いします」爽やかに頭を下げた次の瞬間、大迫が滑るように踏み込む。床を蹴る音より先に身体
Última atualização : 2026-02-12 Ler mais