「あやめさんから今宮さんに贈り物です」大迫はそう言って、三人の前に置かれたテーブルへ白い大きな箱を差し出した。余計な動きは一切なく、ただ“届ける”という役目に徹している。言葉は不要なのだと、箱を見て迅は気づく。箱には金色の箔で優雅にブランド名が刻まれていた――AURELIUS。それを見た迅は少し驚いたものの、すぐに嘲笑を浮かべる。「JAPANの文字がないな」鼻で笑うように呟く。AURELIUSは日本にも店舗があるが、その中でも“JAPAN”の表記が許される本店は別格だ。本店は紹介制で、一見客は拒まれる。その価値を知っている者ほど、箱の意味を読み違えることはない。「急なお使い、ご苦労さん。どこの店舗まで行ったの?」迅の声音には、試すような色が混じる。急な帰国に合わせ、慌てて用意された取り繕いの贈り物―――そう断じている響きだった。しかし大迫は肩を竦め、あっさりと否定する。「どこの店舗にも行っていませんよ。ご自宅に届いたあやめさん宛てのそれを、さっき呼びつけられて、今宮さんに持っていけと言われてここにきただけですから」「……届いた?」その一言で、空気がわずかに変わる。AURELIUSにオンラインショップは存在しない。迅はゆっくりと箱を開ける。中に収められていたのは、一着のジャケット。迅も見たことのないデザイン。しかし、細部に宿るラインや仕立ては間違いなくAURELIUSの特徴があるものだった。「サイズは合っているはずだと言っていましたが、アメリカ生活は長いと五キロは軽く増量するらしいので一度ご試着ください」軽口のように聞こえるが、その内容は核心に触れている。迅は何も言わずにジャケットを手に取り、袖を通した。滑るように腕が収まり、肩が落ち着く。鏡など見なくても分かる。体に吸い付くようなフィット感。寸分の狂いもなく、迅のために誂えたように、ぴたりと合っている。その事実に、背筋を冷たいものが走った。迅は、自分の体型が既製品に収まるものではないことを知っている。だからこそ、この一致はあり得ない。これは既製品ではない。導き出される結論はひとつ―――AURELIUSのオーダーメイド。それが成立するためには前提が崩れている。今回の帰国も、アンバサダー就任も、極限まで情報は絞っていた。迅は、冬弥にすら知らせ
Last Updated : 2026-04-20 Read more