「教育と言いますか、育て方の方向性について、ご相談を」「方向性、ですか?」「はい」水原は指を組み、わずかに視線を落とした。その仕草には、かつての強引さではなく、相手の考えを汲み取ろうとする慎重さがにじんでいる。「昔のやり方を押しつける気はありません。ただ、いまの時代に合う技能がない者もいまして……」言葉を選びながら紡がれるその声音は、現状への理解と、同時にどうすべきか分からないという逡巡を含んでいた。あやめはそれを遮ることなく聞き、紅茶を一口含む。「教育……ですか」「何人かは、きっかけさえあれば伸びると思うんです」その言葉に、あやめはわずかに目を細めた。その表情は、評価と試しの両方を含んでいる。「変化は、受け入れるべきかと……いいえ。変わらなきゃいけないと教えられましたから」その一言には、外から押しつけられた教訓ではなく、自分自身の経験から滲み出た実感があった。「姐さんには、感謝しています」「なにか、ありました?」問いかけに、水原の頬がわずかに赤らむ。「倅が、帰ってきまして……いまの蛟組なら継ぎたいと、頭を下げてきやして……」「あら」早苗が思わず声を上げる。「俺は親父みたいにはならねえって言って、奥さんの実家に無期限の家出をしていた子が帰ってきたのですね」「……説明を、どうも」苦い顔を作りながらも、その奥にある喜びは隠しきれない。あやめは柔らかく笑った。「おめでとうございます」「からかわないでください」そう言いながらも、水原の表情には確かな誇りと安堵が宿っている。「教育について、案はありますか?」あやめが改めて問いを戻すと、水原は姿勢を正した。「若い連中には、組の仕事を教えつつも、普通に社会と接点を持たせたいと思っています」その言葉には覚悟があった。従来の枠組みを壊す決意と、それによって生じる反発を受け止める覚悟だ。「いいと思いますよ」あやめは即座に頷き、再び紅茶に口をつける。「いいのですか?」「黒と白を知らなければ、灰色が理解できませんからね」その一言は、穏やかな声音とは裏腹に、冷徹な現実認識を含んでいた。裏の世界に生きる以上、白だけでは生きていけない。しかし、黒に染まりきれば、この時代ではいずれ行き詰まる。だからこそ、灰色を選び続ける判断力が必要になる。「龍神会として、予算を組んでみまし
Last Updated : 2026-04-25 Read more