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233 Chapters

【外伝2-12】理想とする女

【過去回想】結婚して神崎姓になっても、それは冬弥の妻になったというだけのこと。神崎の女。龍神会の姐御。そんな存在になるには、それだけでは足りない。一族や組員たちに、その力を認めさせなければならない。冬弥がそれをあやめに説明したことはない。だが、あやめ自身はそれを感じ取って理解しているようだった。(そして、特に気にしてもいないようだ)自分が「奥様」と呼ばれることを気にしない。自分は冬弥の妻なのだから、それで当然という顔をしている。逆に「姐さん」と呼ばれたときのほうが驚く。「映画の中みたい」と呟く姿に、この世界の女じゃないことを理解する。だが、生きてきた場所は違っても、根は同じ世界の女だとすぐに分かった。.神崎芸能に所属している狩野智和が女性トラブルを起こした。神崎芸能が力を入れて売り出している若手俳優で、清潔感と爽やかさが売りだった。ブランド戦略はうまくいき、ゴールデン帯の主演ドラマも決まった。大企業がドラマのスポンサーについた。なぜこの時期にトラブルを起こすのかと苛立った。相手の女性が保存していた証拠もあり、単なる噂では済ませられなかった。どう処理するか考えていたところ、あやめもその証拠を目にした。男性経験も乏しいであろう深窓のお嬢さんに見せるものではない。だが、あやめはあっさりとしていた。それどころか淡々と状況を確認し、本来なら被害者である女性を加害者として見せる形で解決させようとした。「それはそれ、これはこれ」朱雀会のことがある以上、龍神会の資金源である神崎芸能を弱体化できない。だから、なかったことにする。さらにあやめは、狩野智和の有効な使い道について提案してきた。具体的な手段を考えるのは冬弥に委ねられたが、そういう手を示唆したのはあやめだった。お嬢さんだと思っていた女が、その綺麗な手をどす黒い泥濘へ躊躇なく浸す。その姿に、背筋がぞくりとした。欲情した。「俺は相当怖い嫁を迎えたらしい」女として強く意識してしまったことを誤魔化すため、冗談めかした声音で言った。「光栄です」そう言って微笑む姿は上品だが凄味があり、自分が理想とする『女』そのものだった。 ◇◇◇「冬弥さん」あやめの声に、冬弥は現実に戻った。「お帰りなさい」「ただいま」いつの間にか、この挨拶が当たり前になっていた。「……
last updateLast Updated : 2026-07-22
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【外伝2-13】相応しい女

【過去回想】さくらのことは、結婚前にも何度か見かけていた。初めて言葉を交わしたのは、あやめとの結婚後に出席したパーティーだった。そのときは挨拶をした程度で、さほど印象には残らなかった。ただ、その後も顔を合わせるたび、自分への接し方に妙なものを感じていた。冬弥も鈍くはないし、そういう誘いにも慣れていた。顔を合わせるたびに「義姉上」と呼び、あくまであやめの姉として扱った。堅苦しいから名前で呼んでほしいと言われても、応じなかった。自分たちの関係は、あやめを介したものにすぎない。あやめの存在を忘れるなと暗に警告し、気づかない振りを続けていたあやめの姉として最低限の面目を保たせていた配慮が台無しになったのは、神崎芸能主催のチャリティーガラだった。表向きは、文化支援と慈善活動を目的としたもの。実際にはスポンサー企業や政財界との関係を強固にするための場。あやめとの縁で、柊家の関係する企業も多く招待していた。冬弥は主催者として招待客を迎え、必要な相手に挨拶をしていく。面倒ではある。だが、神崎芸能を龍神会の安定した資金源として維持するためには必要な仕事だった。「神崎社長」声をかけてきたのは、今回のチャリティーガラに多額の協賛金を出している企業の専務。無視できない相手だった。冬弥は足を止め、彼の隣にいた柊さくらには、あえて視線を向けなかった。真紅のドレス。下品に見えないよう計算されているが、大胆に開いた胸元。髪も化粧も完璧で、多くの男がさくらに称賛の目を向けていた。――これでは足りない。――もっと注目されたい。さくらの目はそう言っていた。あやめとは似ていないと思った。顔立ちがまったく違うわけではない。目元や輪郭には、姉妹だと分かる程度の共通点がある。だが、醸し出す雰囲気が違う。あやめなら、ひっ
last updateLast Updated : 2026-07-23
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【外伝2-14】ただ一人の女

【過去回想】「私なら、あなたを満足させられますよ」さくらが一歩近づく。冬弥は動かなかった。避けるほどの価値もなく、ただ冷めた目で見下ろすだけだった。(なるほど……)ようやく分かった。誘惑は露骨なのに、どこか冷めている。欲しい男を相手にしているわけではない。さくらにとって、自分はただの副産物。さくらが欲しいのは、あやめから自分を奪ったという事実。あやめから奪えれば、それでいい。そのためなら、自分と寝ることさえ厭わないという態度だった。「お前の目的は俺じゃないな」さくらの目が僅かに細くなる。「どういう意味でしょう?」「ただ、あやめから奪いたいだけだろう?」さくらの笑みは崩れなかった。だが、否定もしなかった。その沈黙で十分だった。 ◇◇◇さくらがなぜあやめにあそこまで敵意を持っていたのか。政治家の娘としての素質がない。女としての魅力がない。なぜそんなことを触れ回っていたのか。それを知ったのは、あやめが冬弥に紹介してみせた【愛人】で分かった。あやめの築いていた人脈。人の心を惹きつける才能。柊謙一の後継者として、誰が一番相応しいのか。それがあやめだと、さくらは気づいていたのだろう。ただそれを認めたくなかった。後継者として相応しい振る舞いができているのは自分だ、と。事実から目を逸らして、さくらは分からない振りをし続けていた。「……おっかない女だ」冬弥は腕に抱いているあやめに視線を向ける。あやめはぐっすり寝ていた。ソファに座る冬弥に甘えるように近づいてきたと思ったら、瞬く間に眠ってしまった。一度眠るとあやめの眠りは深い。冬弥の独り言で起きることはない。.
last updateLast Updated : 2026-07-23
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