「冬弥さんって、極道の組長って聞いていたけれど……本当に誠実な方なのね」神崎邸の応接間。午後のやわらかな陽光がレースのカーテン越しに差し込み、磨き上げられたテーブルに淡い影を落としている。その静謐な空間に、さくらの声は妙に艶を帯びて響いた。さくらは今日も「妹に会いにきた」と言って神崎邸に来ていた。「お代わりを頂戴」まるで自分の家のような口ぶりで、さくらはカップを軽く掲げる。仕草は優雅で、当然のように振る舞う。あやめは無言でティーポットを取り、紅茶を注いだ。早苗が慌てるのが視界の端に見えたが、あやめh自分のやっていることに、違和感を感じなかった。むしろ、どこにいても「自分の場」にしてしまうのが、さくらという人間であり、あやめ自身もこうして傅くのが自然だと思えた。(女王様……)ふと、あやめの頭に浮かぶ言葉。そして同時に、以前冬弥が口にした言葉が重なる。―――キング。(それに……)さくらの「冬弥さん」という呼び方。その音の響きが、妙に甘く、柔らかく、耳に残る。あやめが同じ名を呼ぶときと、以前とは違って、今は同じ音。さくらの音にも、いまのあやめが抱くのと同じ、女としての意識が確かに滲んでいた。華やかな美貌。自信に満ちた微笑み。視線の運び方ひとつで、場の空気を変える力。(綺麗……)姉としてではなく、一人の“女”として見たとき、さくらは圧倒的だった。「冬弥さん、本当に素敵よね」 わざとらしく目を細めながら、さくらはカップを傾ける。その横顔は、どこか夢を見る少女のようでありながら、同時に狩人のようでもあった。「そうですね」あやめは、静かに応じる。すると、さくらはふっと笑みを深めた。「冬弥さん、あなたにずいぶんと優しいじゃない」その言葉に、あやめの指先がわずかに止まる。「まるで本物の夫婦みたい」さらりと言われたその一言が、胸の奥に小さな波紋を広げる。「……でも」さくらは、続ける。「そう見えるように気にかけているのかしら。あなたの立場を守らないといけないし、政略結婚なのだから」―――立場。その言葉が、あやめの胸に鋭く突き刺さった。脳裏に蘇る。―― せめて、私の立場を守ってください。あのとき、自分が口にした言葉。それがそのまま返ってきて、心を抉る。「お姉様……」思わず、さくらを呼ぶ。警告と……懇
Last Updated : 2026-01-29 Read more