会議室は、重苦しい空気に包まれている。広いはずなのに、室内が妙に狭く感じていた。原因は明白だった。沈黙が重いのではない。ここにいる人間全員が、“失敗すれば終わる”と理解しているからだ。長机の向こう側。広報部長、狩野のマネージャー、法務担当者たち。いずれも神崎芸能の中枢に近い人間でありながら、いまは揃って背を丸め、まるで裁きを待つように座っていた。彼らの視線は下がり、声は硬い。誰もが、冬弥の一言を待ち、固唾を呑んでいた。対して冬弥は、机の上に肘をつくこともなく、腕を組み、背筋を伸ばして座っていた。静かすぎるほど静かに。だがその静けさが、場の空気をさらに張り詰めさせていた。あやめは、その斜め後ろに控えるように座っていた。発言権はないことは理解している。あくまで“内側に入った存在”として、同席しているだけであるとも分かっている――のはずだった。.「週刊『真実』が来週号で例の件……狩野が未成年と飲酒、その後に関係を持った件で記事を出すそうです」広報部長の声は、明らかにかすれていた。言葉を選んでいるのではない。言葉を間違えれば、それだけで自分の立場が終わるとわかっている。その緊張で掠れていた。狩野智和。神崎芸能が現在、最も力を入れて売り出している若手俳優。清潔感と爽やかさで売ってきたイメージがある。来月にはゴールデン帯の主演ドラマが控え、スポンサーには名だたる大手企業が名を連ねていた。一本崩れれば、連鎖的にすべてが崩壊する。違約金、契約打ち切り、株価、対外信用――損失は、金額では測れない規模になる。冬弥は息を吐いた。「証拠が向こうにはあるんだな」冬弥の声は低く、感情は抑えられている。だが、その“抑え方”が逆に恐ろしかった。怒鳴られる方がまだましだと、誰もが思うほどに。「は、はい……写真、複数と、やり取りの一部を掴まれています」「データを寄越せ」短い指示。広報部長はすぐにタブレット操作を行い、データを転送した。冬弥の手元に情報が届く。彼はそれを無言で見つめる。ページを送る指先はゆっくりだが、視線は鋭い。一枚一枚、確実に“価値”を測っていた。そのとき。「奥様」低い声で呼ばれ、あやめが顔を上げると、鷹見が無言でタブレットを差し出していた。共有、というより――確認させる意図があった。「ありがとうございます」あやめは躊躇なく受け
Last Updated : 2026-01-26 Read more