All Chapters of 組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~: Chapter 121 - Chapter 130

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34.それは恋人の呼び名じゃない③

「京、ちゃん……」 ――なんにも心配なんてする必要、ないよ? そう言おうとした芽生だったけれど、もしそれが京介と他の女性だったら……と置き換えて考えて、凄くイヤな気持ちになった。「引いたか?」 芽生が眉根を寄せるのを見て、勘違いしてしまったんだろう。「俺の愛情表現は重いっ言ったろ?」 バツが悪そうにそっぽを向いたまま京介が吐息を落とすから、芽生は京介の手にそっと触れた。「私も……一緒、だよ……?」「……一緒?」「京ちゃんが……他の女の人と二人きりとか……絶対ヤダってこと!」 芽生がぷぅっと頬を膨らませて見せると、京介が一瞬キョトンとした顔をして、「そうか……」と微笑んでくれた。京介のそんな表情に、芽生は心底ホッとする。「じゃあ……佐山さんは殿様をここへ連れてきてくれて……飼育用品を設置し終えたらすぐに帰っちゃうって認識でいいかな?」 解熱鎮痛剤のお陰で随分楽にはなったけれど、熱のせいでぼんやりした思考回路のまま、懸命に考えた芽生が京介を見つめたら、京介が「ああ、佐山は、な?」と含みのある言い方をする。「どういう、意味?」 京介との会話で、自分を一人にしないというのは、殿様が帰ってくるからだろうと解釈していた芽生は、京介の真意を測りかねて困惑した。「ああ。実はもうちょっとしたらな――」 京介がそこまで言ったところでチャイムの音が鳴って、話が中断する。 どうやら誰か来たらしい。(ブンブンかな?) 飼育用品を買って、殿様を動物病院へ連れに行ったにしては早すぎる気がしたけれど、京介がいつ佐山に連絡を取ったのか、芽生は知らない。案外結構早い段階で彼に頼みごとをしていたのかも知れないよね? そう思った芽生の予想に反して、京介に|伴《と
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34.それは恋人の呼び名じゃない④

「ああ、それなんですがね」 千崎が言葉を継ぐより先、「初めまして……でいいよね?」 開けっ放しになっていた扉の向こうから、ショートカットの綺麗な女性が京介とともに入ってきて、びっくりさせられてしまう。 千崎や京介は付けていないのに、その人だけマスクをしているのは、恐らく京介たちから芽生のインフルエンザがうつらないよう気遣われ、大事にされているからに違いない。 右手に包帯が巻かれているのが痛々しいところから察するに、「百合香さん?」だと思った。 *** 芽生のすぐそば。先ほどまで京介がいた位置に椅子を置いて腰かけた女性――桐生百合香を見上げて、芽生は妙に落ち着かない。 芽生が熱を出してからずっと、芽生の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれていた京介は、千崎と連れ立って葛西組へ行ってしまった。 結果的に芽生の看病役として百合香が残されたのだけれど、元々面識があったわけではない。 下着や、相良組の面々からの話を通して存在くらいは知っていたけれど、実際に百合香と顔を合わせるのは初めて。 百合香の方も、京介や千崎伝手に芽生のことは知っていたようだけれど、芽生よりこちらのことに詳しいとすれば、芽生のスリーサイズを把握していることくらい。(そう、スリーサイズ!) 同性とはいえ、彼女にそれを知られているんだと気がついた途端、恥ずかしさが込み上げてきた。 それに、〝あの千崎さんの彼女さん〟なんだと思ったら、妙にドキドキさせられる。(京ちゃんは何を考えているのか割と分かりやすいタイプだけど……千崎さんは感情も何もかもセーブできる、精密機械みたいな印象だよ!?) そんな千崎と恋仲になれるだなんて、それだけで凄い人だというフィルターが掛かりまくりなのだ。「あ、あの……」 それで恐る恐る話しかけてしまった芽生だった
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34.それは恋人の呼び名じゃない⑤

「ほら、お店が焼けちゃったでしょう? あの時にね」 要するに、髪の毛も火に当てられて、短く切らざるを得ない状態になったということなんだろう。「百合香さん、ごめんなさい。私……」 芽生は、百合香にそんなことを言わせたいわけじゃなかった。なのに、結果的に百合香にとって思い出したくないであろうことを話させてしまった。「バカね、そんな悲しそうな顔しないの。ほら、笑って?」 芽生が申し訳なさに眉根を寄せたら、百合香がムニッと芽生の頬をつまんで、自身も何の憂いも感じていないかのようににっこり笑って見せる。「実はね、シャンプーしてもすぐ髪の毛乾くし、案外いいかも? って思ってるのよ?」 クスクス笑いながら、「ほら。あんなことでもない限り、なかなか伸ばした髪の毛をこんな風にバッサリ切るとか出来ないでしょう? 雄ちゃんも似合ってるって言ってくれるし、これはこれでいいかな? って今は結構気に入ってるの」「百合香さん……」「もぉ、芽生ちゃん。スマイルよ、スマイル! 芽生ちゃんも今の私を見て綺麗って言ってくれたじゃない? きっかけは腹立たしいけど、結果オーライよ?」 言って、芽生の頭をヨシヨシ、と撫でてくれてから、百合香が嬉しそうにポンッと手を打った。「それにね。実はさっき、相良さんが新しいお店をすぐに用意してくれるって約束してくれたの♪ だから今はルンルンよ♪」「京ちゃんが?」「そうそう。あ、でも勘違いしないでね? 相良さんと私は上司と部下みたいな関係だから」「え? 上司と、部下……?」(それは、どういう意味だろう?) 百合香は別に相良組の組員ということもないだろう。だとしたら京介を百合香が上司と称するのには無理があるような? 何だか話が見えなくてキョトンとした芽生に、百合香が続ける。「うちのお店ね、相良さんのところのしのぎ……、あ、えっと…活動費?
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35.京ちゃんを「京介さん」と呼ぶ女性①

 佐山文至に連れられて、無事家に帰ってきた殿様は、過去に猫を飼っていたことがあるという百合香の指導(?)のもと、短期間で猫用システムトイレを上手に使えるようになった。「一回粗相をしちゃったんだけどね、それをトイレに入れておいて……トイレ行きたそうだな? って素振りを見せた時に連れて行ってたら……ちゃんとトイレだって認識してくれるようになったわ」 ニッコリ笑って芽生の枕元。膝に抱いた殿様を撫でる百合香からは、〝イロ〟についてあれ以上言及出来そうにない雰囲気が出ていた。 佐山は先に京介が宣言していた通り、本当に猫の飼育用品アレコレを設置――キャットタワーを組み立てる作業が主だった――し終えると、「お大事に」という言葉だけを残して帰ってしまった。 佐山は元々口数の多い方ではなかったけれど、久々だし……もう少しお話してくれてもよかったのに……と思ってしまった芽生である。 そうこうしている内に京介が帰って来て、百合香は「お店がオープンしたら来てね」と言い残して千崎とともに芽生の前から姿を消した。 芽生は、帰宅してきた京介が少し疲れているように感じて、千崎が京介も自分も徹夜明けだと言っていたのを思い出した。「京ちゃん、殿様がいてくれるから大丈夫だよ? 少し眠って?」 帰り際、百合香から渡された殿様を抱っこして言ったら、「お前も少し横になれ」と、芽生、殿様……の順で頭を撫でられる。 京介が寝室を出てすぐ、殿様も芽生の布団からスルリと抜け出して行ってしまったけれど、熱が上がり始める前に再度解熱鎮痛剤を飲んでおいたのが良かったのか、ピーク時ほどの辛さはなくて、寂しさも思ったほど感じなかった。 殿様が、佐山が買って来てくれたおもちゃをこちらへ持参してきて……芽生の眠っている寝室の片隅で遊んでいる姿が見えていたからかもしれない。 遊び疲れると、温かさを求めてのことだろう。芽生の布団の中へもぐりこんできてくれたから、芽生は京介が眠っている間も
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35.京ちゃんを「京介さん」と呼ぶ女性②

「佐山よ、俺も口止めしたわけじゃねぇ。多分石矢辺りから漏れてるだろうが、芽生は正式に俺のモンになったから」 言うなり、芽生の左手をグッと持ち上げて、例のチューリップモチーフの婚約指輪を佐山に見せ付ける。「あ、あの……京ちゃん!?」 まさかこのタイミングでいきなりそんなことをされるとは思っていなかった芽生がビックリして京介を見上げたら、「ってことで、こいつは近い将来、お前らの〝姐さん〟になる」 そう続けた上で、「芽生。面倒くせぇからブンブン呼び、解禁してやるよ」とそっぽを向かれた。「え……?」「言っても直んねぇんだろ? ……佐山のブンブン呼び」 言われて、(ひぇっ。バレてる!)と京介をオロオロと見つめた芽生に、「ただ、佐山だけそれだと他の奴らに示しが付かねぇ。なぁ、芽生。手始めに石矢にもつけてやれよ、可愛い愛称」とか。(この人は一体何を言い出すんでしょうね!?) と思ってしまった芽生である。「カシラ……」 それは佐山も同様だったみたいで、「俺のことはホント、佐山呼びしてもらえたら」と、我慢出来ないみたいに言い募ってきた。「それを決めるのは芽生だ。お前じゃねぇよ」 途端、冷たく言い放ってそんな佐山を一瞬で黙らせると、「ちなみに石矢のフルネームは石矢恭司だ」 京介が酷薄な笑みを浮かべて芽生を見下ろしてくる。「なぁ芽生よ。まさか俺と同じように〝きょうちゃん〟ってわけにゃーいかねぇよな? ――どうする?」 ブンブン呼びは許すと言ってくれたくせに、この感じ。京介は絶対意地悪をしている。 そう確信した芽生は、悔し紛れ。ムーッと唇を突き出してちょっとだけ考えてから「キョンキョン」とつぶやいた。 途端京介と佐山二人から同時に何とも微妙な空気を醸し出されて、芽生は選択を間違えたと思った。 だが――。「今日の運転手はその〝キョンキョン〟だ。車に乗ったら『そう
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35.京ちゃんを「京介さん」と呼ぶ女性③

 余りに近付き過ぎてしまったからだろう。芽生の吐息でガラスがほわりと曇る様が、京介にはたまらなく愛しかった。 京介はふっと表情を緩めると、「……そんなに気に入ったなら買ってやる」と芽生のすぐ背後から声を落とす。 だが芽生はあたふたと首を振ると、「見るだけで楽しいから!」とそんな京介にニッコリ笑ってみせた。 それと同時、凍えるような冷たい風が鋭く吹き付けて、芽生は思わずギュッと肩をすくめてマフラーを掴む。急に冷えた空気を鼻腔に取り込んだ鼻がツンと痛んで、目尻に涙がにじんだ。 その様子に気付いた京介が、「寒いのか……」 病み上がりの芽生を気遣って眉根を寄せる。 低く優しい京介のバリトンボイスが、芽生の鼓膜を揺さぶってから、街の喧噪へそっと溶けていった。 芽生は京介の声音にやたらと照れてしまってから、慌てて笑顔を作ると、「だ、大丈夫だよっ?」と答える。 だが京介はそんな芽生の小さな身体をそっと自分の方へ抱き寄せると、ふわりと自らのコートの中へ包み込むのだ。「ひゃっ」 温かな京介の体温とともに、いつも彼が好んで吸っている煙草のにおいが、京介愛用の香水の香りと混ざり合って芽生の鼻先を甘くくすぐった。 冷たいビル風を遮る京介の温もりに、芽生の身体が一気に熱を帯びる。 芽生は頬を赤らめながらも、小さく「……ありがとう、京ちゃん……」と呟いた。 その瞬間だけ、あんなに騒がしく聞こえていた街のあらゆる音が、かき消されてしまったような錯覚に襲われるから不思議だ。芽生は京介の腕の中で幸せをかみしめた。 だがそんな時――。「わぁー、そこにいるの、ひょっとして、相良さんじゃなぁーい?」 不意に背後から投げかけられた甘ったるい声音に、芽生はビクッと身体を跳ねさせて、思わず京介から離れた。「玲奈……」 眉間にしわを寄せた京介が目の前の女性のものと思しき名を苦々
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35.京ちゃんを「京介さん」と呼ぶ女性④

 芽生は呆然とそれを見つめながら、心の中で懸命に『やめて!』『京ちゃんに触らないで!』と叫んだ。 だが、玲奈の指先が京介に触れる寸前、京介が彼女の手をスッと躱す。 芽生が思わず見上げた京介の表情は、氷のように冷たかった。「……何度か寝たくらいで何を勘違いしてんのか知らねぇが……俺、てめぇに下の名で呼ぶ許可を与えた覚えはねぇんだがな?」 芽生は、前に京介のこういう声を聞いたことがある。あれはたしか、家を焼け出された夜。京介が電話で千崎雄二を責めていた時と同じ――。 芽生が京介の変化に立ち尽くしたまま動けずにいたら、京介の手が伸びてきて、芽生の腕を取った。「行くぞ、芽生」 言って、さっさと踵を返した京介に、だがハッキリと彼から拒絶されたはずの玲奈は納得がいかないらしい。さらに縋りつくように一歩詰め寄ってきた。「どうして玲奈のこと、そんな邪見に扱うの? 相良さん、ちょっと前まではどんな女の子にも平等に優しかったじゃない! だから玲奈もあなたのこと、沢山悦ばせてあげようって思えたのに!」 キッ! と京介を睨みつけるようにして投げつけられた玲奈の声音は、さっきまでのような甘ったるい猫撫で声とは一変、嫉妬の滲む醜いものに変わっていた。「玲奈、相良さんのことが忘れられないの! ここ数ヶ月、電話しても出てくれなくなっちゃったのは何で!? 玲奈、相良さんを怒らせるようなこと、何かした!? それともやっぱり、そこの女のせい!?」 悲痛にすら聞こえるその金切り声は、怒りの矛先を芽生へと転じた。芽生は肌を刺すような敵意に、耳を塞いでその場にしゃがみ込みたくなる。でも京介に片手をギュッと握られていて、叶わないのだ。 玲奈に比べたら、自分が女性としての魅力で劣っていることなんて、分かりすぎるくらいに理解している。 でもこの数ヶ月間、京介があんなに綺麗な人を無視していた理由があるとすれば、それはやっぱり自分のためなのだ。(私が……京ちゃんを独り占めしてたから……?)
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35.京ちゃんを「京介さん」と呼ぶ女性⑤

「……ただ単に、そういう欲求に駆られた時、たまたまお前が俺にすり寄ってきた。それだけの話だ」「京ちゃん!」 思わず芽生が京介を呼んでしまったのは、これ以上言わせたくないと思ってしまったからだ。「京介さん、酷い!」 なのに、さっきそう呼ぶことを許可していないと断言されたばかりの呼び名で玲奈が京介を非難する。それは、まるでその名を呼ぶことで京介を自分に引き付けたいみたいな悲痛な叫びだと、芽生は思った。 だが、玲奈が京介をそう呼んだ瞬間、京介の中から温かみのようなものがスッと消えたのが、芽生には分かった。「京ちゃん、ダメ!」 今の京介はきっと、玲奈を完膚なきまでに叩きのめす言葉を平気で告げてしまう。さっきまでの言葉だって十分に酷い文言だったけれど、それよりもっと決定的な言葉を――。 直感的にそう思って京介の胸元をギュッと握って止めようとしたのだけれど、遅かった。「お前を抱いたのは別にお前が特別どうこうってわけじゃねぇ。お前が俺にとってただの欲望のはけ口だったっての、まだ分かんねぇのか?」 京介にそう言われた瞬間の玲奈の表情。彼女は芽生にとって、歓迎すべき相手ではないはずなのに……それでも情を寄せた相手から言われるのに、これほど辛い言葉があるだろうか? と考えてしまったら、胸の奥がズキンと痛んだ。「あとな、さっきも言ったが俺は下の名を呼ばれんのが好きじゃねぇ。自分の感情押し通すためにそう呼んでくる女は虫唾が走るくらい嫌いだ。一回忠告してやったのに、二度も同じことをするようなバカ女とは話す価値もねぇわ。とっとと俺の前から失せろ」 京介の声はどこまでも冷たい。芽生は、子供の頃から京介のことを知っていて、何となく彼が自分の名を他人から呼ばれることを嫌悪している気配は薄々感じていた。どんなに親しい間柄の相手でも、彼のことを京介と呼んでいるのを聞いたことがない。あの長谷川社長でさえ〝相良〟と苗字で呼んでいる。 京介が自分のことを揶揄うように〝子
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36.こたえの手前①

 芽生が京介とともに帰宅すると、「お帰りなさい。カシラ、神田さん」と佐山がリビングの扉を開けて出迎えてくれた。「あっ! こら、待て!」 その瞬間、殿様がチャンス到来! とばかりにトトトッとドアの隙間を抜けて駆け出て来て、二人の足元へすり付いた。 佐山の静止の声なんてどこ吹く風。 京介と芽生の間を8の字を描くようにぐるぐると回り続ける殿様に、靴を脱げなくて芽生が弱り顔をしたら、京介が殿様をスッと抱き上げた。「こら、殿様。いくらなんでも歓迎がしつこすぎるわ」 迷惑気に告げる言葉とは裏腹。殿様の喉下をくすぐるように撫でる京介の人差し指はどこまでも優しい。 芽生はそんな京介の様子を見つめながら、(彼は子供が出来たときもきっと、こんな風に可愛がってくれるんだろうな?)と無意識に考えて、そうするための行為に思い至ってぶわりと頬が熱を持つ。 ギクシャクとした足取りで靴を脱いで玄関の隅っこへ寄せていると、京介が「どうした、芽生。動きが変だぞ? 疲れたのか?」と眉根を寄せた。 京介は芽生が病み上がりなことを未だにとても心配しているらしく、芽生がちょっとでもおかしな素振りを見せると過保護モード全開になる。 今回も玄関先で所在なく立ち尽くしたままでいた佐山へ殿様を手渡すなり、芽生の額へ手を伸ばそうとしてきた。芽生は頬を中心に身体が上気して熱を持っているのを悟られたくなくて、慌てて京介から距離を取ると、フルフルと首を横に振った。「大丈夫、どこもしんどくないっ。ちょっと色々想像しちゃって……」 馬鹿正直に言って、(しまった!)と御思ったけれど後の祭り。「想像って……何を――?」 当然そう問い掛けられて言葉に詰まってしまう。 玄関先、大の大人三人+一匹でそんなやり取りをしていたら、チャイムが鳴った。 そのお陰で京介からの追求から逃れられてホッとした芽生である。聖夜 皆でリビングへ戻って、家主である京介がインターフォンへ応答すると、モニター画面に二人の男性が映し出された。 
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36.こたえの手前②

「あー、いや、別に嫌いってわけじゃないんですけどね」 歯切れの悪い物言いをして、佐山がほぅっと吐息を落とす。「あの、逆に神田さんはイヤじゃないんっすか? その……カシラに……自分以外の女がいるってなったら」 佐山のスッキリしない物言いに、芽生は昼間に街中で出会った玲奈のことを思い出した。「もちろんイヤ。だけど……」 でも、百合香にしても玲奈にしても、京介たちから〝情婦〟と呼ばれる人たちにも、その人たちなりの想いがあるのだと芽生は思い知らされている。 特に百合香に関しては――千崎の正妻をしらないからかもしれないけれど――悪い印象を抱いていない。 それよりもむしろ、千崎を困らせないようそんな立ち位置に甘んじている百合香さんのことを強くてかっこいい女性だけれど、同時になんて悲しい生き方をする人だろう、とも思っている。 中途半端に言い止したまま止めた言葉の先を待っている風な佐山に、芽生は殿様を抱く腕にほんの少し力を込めて、「あのね、上手く言えないんだけど……」と前置きをして言葉を続けた。「イロって言われる人たちもみんな……私と同じように色んな事を考えて……傷ついたり喜んだり……そういう当たり前の感情を持っているって知ってるから……だから……イヤって理由だけで私、そんな彼女たちを突っぱねられる自信がないの」「ちょっ、神田さんっ」 芽生の言葉に佐山がなにか言い募ろうとしたと同時、リビングの扉が開いて京介と将継、静月が入ってきた。 芽生はこの話は終わり、とばかりに佐山から視線を外すと、京介たちの方へ駆け寄った。***「神田さん、すっかり元気になったみたいで良かったよ」「……あのっ。でも! 病気は治りかけが一番大事って
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