All Chapters of 組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~: Chapter 31 - Chapter 40

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9.ひとりには出来そうにない②

「言、われた……けどっ! 京ちゃ、が怪我したって聞かされたら、じっとしていられるわけ……ない……じゃない!」「あ、おいっ、芽生……っ」 ポロポロと涙をこぼしながら訴える芽生を、京介が慌てたようにギュッと抱きしめてきた。そうしてそのまま、「三井……」と低めた声で先ほど労ったばかりの配下の名を呼ぶ。「はい、何でしょう?」「こいつ誘い出すのに、俺が怪我したとか嘘ついたのか?」 京介の威圧的な問い掛けに、慌てたように三井とは別の声が被さった。「お、俺がっ! 独断で嘘つきやした! アニキは知りません!」 京介に抱きしめられている芽生からは見えないけれど、恐らくこの声はマンションに来た木田だろう。「いや、木田に神田さんの誘い出しを任せたのはわたくしです。……咎は自分にあります」 そんな木田をすぐさま庇う三井の声がして、その雰囲気に我慢出来なくなったのだろう。「あのっ。カシラ! 姐さんに聞けばわかると思いますが……俺が彼女をぞんざいに扱ったのをアニキが諌めてくれましたっ! だから……三井のアニキは姐さんを傷付けるつもりなんて微塵もなかったんです! 誓いやす!」 恐らく佐山が、言わなくてもいいのに……と言う罪の告白をしてしまう。「芽生、本当か?」 京介の言葉に、芽生はどう答えたらいいのか分からなくてオロオロと視線を彷徨わせたのだが、どうやらそれを【肯定】と受け止めたらしい。「何があってもコイツに危害を加えるような真似はすんなって言ってあったよなぁ?」 低められた声に呼応するように、芽生を抱きしめる京介の腕に力が込められる。 今にも佐山に殴り掛かりそうな不穏な空気を感じた芽生は、京介の胸をトントンと叩いた。 その振動に、京介が険しい顔のまま自分の方を見下ろ
last updateLast Updated : 2026-02-25
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9.ひとりには出来そうにない③

「テメェらから酷い目に遭わされたコイツがいいっ言ってんだ。今回の件はそれで和解成立にしてやるよ。みんなもそれでいいよなぁ?」 京介の言葉に、あちこちから「構いません」とか「はい!」とか「塩大福楽しみです!」とか肯定の声が上がって、芽生はホッと胸を撫で下ろした。***「まぁそれはそれとして、だ――」 腕の中に囲ったままの芽生を、力を緩めて真正面から見下ろすと、京介が声のトーンを低める。「子ヤギは塩大福、お預けな?」「えっ!?」 提案したのは芽生なのに、何故そんな意地悪を言うの? と芽生が非難がましく眉根を寄せて京介を見上げたと同時、ピシッとデコピンをされてしまった。「痛いっ」 じんじんと痛むおでこを押さえて京介を睨んだら、「俺の言い付け守れなかったくせに、褒美があると思ってんのか、バカ娘」と怖い顔をされる。「でもっ」「でももカカシもねぇわ。お前の命に係わることだぞ? 分かってんのか?」 今まで命を狙われるような生活なんてしたことのない娘だったから、芽生にそういう感覚が薄いのは京介にも分かっていた。分かっていたからこそ、散々出掛けに釘を刺して……それでも気になったから組員を使って試すような真似までしたのだ。 なんせ放火犯の目的だって不明なままなのだ。芽生自身が命を狙われた可能性だってあるし、真相がハッキリするまでは自分のそばへ置くことになる。そうなれば京介自身を狙う輩からターゲットにされる可能性だってあるのだから、嫌でも警戒してもらわなきゃ困るのだ。 なのに――。 まさか今朝の今でこんなにいとも容易く芽生が誘き出されてくるなんて、誰が考えるだろう。 あえて部屋のキーを渡さずに身動きを封じたというのに、有事の際、マンション内へ逃げ込めないだけ、キーを持たせていない方が悪手に思えたほどだ。「とりあえず、これ」 そう考えながら、自宅マンションのスペアキーを芽生に渡すと、「もう出来たの?」と小首を傾げられた。
last updateLast Updated : 2026-02-26
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9.ひとりには出来そうにない④

「なんだ、オレオレ詐欺か……」 声ですぐ、相良だと分かったくせに、わざとそう揶揄えば、電話口でククッと笑う声がした。『情ねぇこと言うなよ。俺と長谷川の仲だろ』 悪友は、あくまでも名乗るつもりはないらしい。「何の用だ、相良」 仕方なく将継の方から折れてやったら、『なぁ長谷川よ。お前、向こう数時間、そこ動く予定はねぇか?』と問うてくる。 そこ、とは会社のことだろう。 そういえば、いつもなら携帯の方へ直接掛けてくるはずの相良が、珍しく会社の電話を鳴らしたのも、自分が在社しているかどうかを確認したかったからかも知れない。「出る予定はないが……なんかあるのか?」 将継の言葉に、すぐ前の席へ座る静月が小首を傾げる。さっき電話口で相良の名を呼んだので、電話先の相手が自分の知り合いでもある男だと分かって、気になるんだろう。そんな静月を安心させるみたいに微笑んでみせた将継に、相良が言う。『じゃあ、今からちぃーとそっち行くわ。美味い和菓子持ってくからそのつもりで待っててくれや』*** 京介は電話を終えるなり、芽生に「出かけるぞ」と声を掛けてきた。 いつもなら石矢の運転で出掛けるところだが、今日は佐山が指名されて、強面の皆さんに甲斐甲斐しく見送られる形で、よく分からない事務所(?)をあとにした芽生である。「あ、あの……京ちゃん?」 さっきの電話の相手は、恐らく昔京介とよく児童養護施設『陽だまり』を慰問してくれていた長谷川社長だろう。 なんとなく話の流れで彼の元へ向かうことになったのは分かった芽生だったけれど、(どうして私も?)と思わずにはいられない。 途中『たちばな庵』へ寄ってくれたので(塩大福!?)と期待した芽生だったけれど、残念ながら今日の分はすでに売り切れていた。その事実に佐山が恨めしそうに芽生を見てから、渋る店主に結構無理を言って明日の塩大福二〇個の予約を入れているのを横目
last updateLast Updated : 2026-02-27
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10.長谷川建設①

 京介に連れられて出向いた先は、『長谷川建設』という看板が出た平屋建ての小さな事務所だった。 建設会社というだけあって、既存のプレハブとかではなく〝ちゃんと建てられた建物〟という感じの佇まいは、外観からしてそこはかとなく可愛い。ぱっと見レンガ造りっぽいけれど、実際はそう見える外壁パネルを使用しているらしい。 引き戸を開けて中に入るなり、いくつも並べられた机が見えて、入り口から真正面にあたるデスクに人影がひとつあった。「おう、長谷川、仕事中に悪ぃな」 引き戸を開けて京介が手を挙げるなり、眼鏡を掛けた作業着姿の男性が立ち上がってこちらへやって来た。「まぁ私もお前にはいつも世話になってるからな。お互い様だ」 レンズ越しでも分かる色素の薄い瞳と、ふわふわとした印象の薄い髪色。穏やかな立ち居振る舞い。(わー、長谷川社長だっ) 京介と違って、十八歳の時に施設を出てからは会っていない人だったから、およそ五年ぶりか。 太ったとか老けたとか……そういうわけではないのだけれど、どことなく五年前よりちょっぴり年を重ねて燻し銀の風格を兼ね備えたように見えるのは仕方ないだろう。 京介の肩越しに彼を観察していたらバッチリ目が合って、芽生は慌ててぺこりと頭を下げた。それと同時、長谷川社長が瞳を見開いて息を呑んだのが分かった。「ちょ、ちょっと待て、相良……。お前のそばにいる女性、ひょっとして……『陽だまり』にいた子かっ!?」 というより、五年の歳月はお互いの上へ平等に降り注いだのだと、長谷川社長が自分のことを〝女の子〟ではなく〝女性〟と称してくれたことで実感させられた芽生である。「ああ。神田芽生。――覚えてるか?」「覚えてるも何も……一人だけ相良に懐いてた奇特な子じゃないか。確かお前もいつも彼女のためにチューリップを用意してたよな」 ククッと笑って「久しぶりだね」と眼鏡の奥の目を細められた芽生は、
last updateLast Updated : 2026-02-28
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10.長谷川建設②

「あの……静月さんって、長谷川社長の……」「ああ、自慢の伴侶だよ?」 それを確認したくて問いかけようとしたら、やや食い気味に長谷川社長から配偶者宣言をされてしまう。「キャー、素敵です! 私もいつか好きな人からそんな風にスパッと連れ合いだって断言されたいです!」 京介をチラチラ見つめながら言ったら、長谷川社長が「もしかして神田さんは相良のこと……」と言いかけてから、ハッとしたように口をつぐんだ。「バカなことを言うなよ、長谷川。見ての通り、こいつぁー俺の娘みてぇなもんだ。子ヤギだって俺のことは保護者としか思ってねぇわ。――な?」 有無を言わせぬ京介の物言いに、芽生はグッと言葉に詰まった。 いつもそうだ。 芽生が他者に対して京介への好意をあからさまにしようとすると、こんな風に予防線を張られてしまう。それが芽生には悲しくてたまらないのだけれど、そのことを深く追究すれば、今のような関係も壊されてしまう気がして……芽生は一線引かれる度に気持ちを飲み込んで誤魔化す癖が付いてしまった。 でも、さすがに『そうだね』と京介の言葉を肯定することは出来なくて曖昧に微笑んだら、長谷川社長が何か言いたげに芽生と京介を見詰めてくる。 その視線にわざと気付かないふりをして目線を落としたと同時、背後の扉が静かに開いて、「あの、将継さん。お茶……よく分からなくて……」と、芽生より二〇センチ以上は背が高いと思える男性が姿を現した。 黒髪に、泣いているわけではないのに何となくうるうると潤んで見える黒瞳。 一目見るなり余りの美青年ぶりに、芽生は現状も忘れてつい彼の美貌に見惚れてしまった。「お帰り、静月」「おう、静月ちゃん、お帰りぃー」 すぐさま長谷川社長と京介からそんな声が聞えてきて、芽生は「えっ!?」と思わず声を上げていた。 だって……凄く綺
last updateLast Updated : 2026-03-01
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10.長谷川建設③

「あー、コイツは俺の娘みてぇなモンだ。あんま静月ちゃんと年も違わねぇはずだし、見ての通り害はねぇ。ま、仲良くしてやってくれや」 すかさず京介に〝娘〟呼ばわりされてグイッと前に押し出された芽生は、チクリと胸の奥を針で刺されたような痛みを感じつつも、「初めまして。京ちゃん……えっと相良さん? のところでお世話になっています、神田芽生と申します。京ちゃんはああ言ってますけど、彼とは血の繋がりとかありません」とぺこりと頭を下げた。 そんな芽生に、慌てたように静月が「え、えっと……ぼ、僕は……将継さ……、じゃなくて長谷川さん? のところでお世話になっています、朧木静月です。その……僕も将継さんとは血の繋がりとかないんですけど……い、色々あって家族だと言ってもらえています」としどろもどろで答えてくれる。 何だかお互いに似たような自己紹介になってしまったのが可笑しくなって、芽生がクスクス笑ったら、静月が戸惑ったように芽生を見詰めてきた。「ごめんなさい。なんだか私たち、言い訳するみたいに同じようなこと言ってるなって思ったら可笑しくなっちゃって」 芽生の説明に、静月も「あ……」と気が付いたようにつぶやいて恥ずかしそうに笑ってくれる。 芽生はそんな静月を見ながら、(確かに恥ずかしがり屋さんなのかな?)と思いつつも、静月のことを好ましく思った。*** とりあえず座って話そうということになって、京介とともに事務所の一角に設けられた応接セットへ通された。 京介が「おう。そういやこれ」と、手にしていた『たちばな庵』の袋を長谷川社長へ手渡して、長谷川社長が「練り切りとはまた上品な差し入れだな」と笑って、袋を手に静月とともにパーティションで仕切られた先へと向かう。 カチャカチャと音が聞こ
last updateLast Updated : 2026-03-02
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11.親密さの罠①

 車で待っていた佐山に練り切りと茶の差し入れをして、二言三言雑談を交わしてから事務所内へ戻った芽生は、京介に促されるまま愛らしい兎の練り切りが待つ席へ座った。それと同時、京介から「明日からここで働かせてもらえるよう長谷川に話付けといたから」と言われて面食らってしまう。 長谷川社長と静月は、芽生と京介の二人で話をした方がいいと判断したのか、応接セットからは離れて自席で仕事をしていた。時折チラチラと視線を感じるので、気にはなっているんだろう。「あ、あのっ、京ちゃん? 知ってると思うけど私、ファミレスで働いてる、よ?」「そっちは辞めさせてもらえるよう手配するから心配すんな」 有無を言わせぬ調子でまくし立てられた芽生は、なにがなんだか分からなくて戸惑った。「でもっ。そんな急に辞めるとか……お店に迷惑が掛かっちゃう」 芽生としては至極当然な理由を述べたのだけれど、京介から腹立たし気に舌打ちされてしまう。「なぁ子ヤギ。お前はそんなにあの臭ぇ男に付き纏われてぇのか?」「えっ!?」 臭い男、とはきっと細波鳴矢のことに違いない。京介だって、芽生が彼のことを嫌っているのは知っているはずなのに、何故そんな意地悪を言うんだろう。「そんなわけないじゃないっ! 京ちゃんの、バカ!」 芽生が京介の言葉を全否定したのを見届けるなり、したり顔で京介が続ける。「なぁ子ヤギ。前々からずっと言おうと思ってたんだがな? あそこに勤めてる限りお前、あの嫌味な男に追いかけ回されるの、回避できねぇんだぞ?」「そ、それはそう……だけど……」「俺だっていつもいつも駆けつけて助けてやれるわけじゃねぇ。それも分かってるか?」 京介が来てくれて事なきを得たことは沢山あったけれど、確かに一人きりで細波の暴挙に対処しなくてはいけないことも多かった。 芽生がグッと言葉に詰まったのを確認して、京介が追い打ちを掛けてくる。
last updateLast Updated : 2026-03-03
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11.親密さの罠②

「うん、大丈夫」 京介から自分の送り迎えは佐山にさせると言われた芽生は、初対面の時はすごく怖く思えた佐山という男が、よくよく話してみると物凄く気さくで話しやすい性格だと分かった。 というより、塩大福を二〇個という代替案は良くなかったらしいけれど、怖い思いをさせたはずの自分たち――というより佐山にとっては大切な存在の三井を懸命に庇おうとしてくれた芽生のことを仲間として認めてくれたらしい。 そんな佐山のことを思い出しながら一度はOKを出した芽生だったが、すぐさま申し訳なさが沸々と込み上げてきた。「けど京ちゃん。……そんなにしてくれなくても私、バスとかで行けるよ?」「攫われそうになったのを忘れたのか」「いや、あれは京ちゃんがっ」 京介の言いつけを守らずに家を出て攫われたのは確かだけれど、あれは全部京介が芽生を試すために仕組んだ罠だったはずだ。それを引き合いに出されても……と眉根を寄せた芽生に、京介が続ける。「外をフラフラほっつき歩いてたら、また細波に見つかるかも知んねぇぞ? それに――」 そこで言いにくそうに言いよどんでから、京介は胸ポケットから煙草を取り出して咥えようとして、芽生が目の前にいたからかグシャリと箱ごと握りつぶして元に戻した。「さっきうちの事務所に来て分かったと思うが……お前は俺の女……身内だと思われてんだよ」「それの何がいけないの?」「俺の稼業考えたら良くねぇの、分かんだろ」 要するに、京介の弱点として自分が使われるかもしれないのだとハッとした芽生は、「ごめんね、京ちゃん」と力なくつぶやく。「何でお前が謝んだよ」「だって……」「いや、むしろ俺の配慮が足りなかったせいでお前を巻き込んじまってすまねぇって謝らなきゃいけねぇのは俺の方だろ」 芽生の頭をワシワシ撫でながら、京介が「んな泣きそうな顔すんな。俺まで泣きたくなるわ」と、言葉裏腹に
last updateLast Updated : 2026-03-04
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11.親密さの罠③

「じゃあさ、お昼、一緒に食べようよ」「いや、俺が離れてる間に車へ何か細工されたらまずいだろ」 佐山自身、そんなことは滅多にないとは思っているが、放火の件もある。京介からは、その辺も徹底するよう言われているのだ。 だがそれを聞いた芽生が雇い主に頼んでお昼時、車に弁当を持って乗り込むようになったのはさすがに計算外で、正直驚かされている。「なぁ、カシラから言われなかったか? 運転手のことは基本いない者として扱……」「言われてるけど! 私はそういう風には思えないんだもん、仕方ないじゃない。それにブンブンとはいつも二人っきりで移動してるんだよ? 私ずっと後部シートでだんまりなのは耐えらんないし、ブンブンも私が話しかけたらちゃんと反応してくれるでしょう?」「そりゃあ、まぁ」 ――あのね、ブンブン……と明らかに自分へ向けて紡がれる言葉を無視できるほど、佐山も鬼ではない。車へ乗り込むなり、後部シートから色々話しかけてくる芽生に、いちいち律儀に受け答えしているのは事実だ。 いつの頃からか自分のものだけではなく佐山の分まで弁当を用意してくれるようになった芽生のことを、佐山も京介の命令としてだけでなく、自主的に守りたい対象だと考えるようになっていた。 そんな感じ。佐山の中で芽生はすっかり〝姐さん〟認識なのだが、肝心な京介がそれを認めない。芽生の様子を見ていれば、こちらは満更でないと分かるのだが、こればっかりは片側がどう思っていても実らないから厄介だ。 そんなこんなで大事な姐さん(候補)を〝芽生さん〟と呼ぶのには抵抗があって、結局ブンブンと親し気に呼んでくる芽生に〝神田さん〟なんてよそよそしい物言いをしている佐山だ。 実際このくらいの距離感は保っておかないと、何となく京介から酷い目に遭わされそうな気がしている。 というのも、三井のアニキに同じように付き従っている兄弟分の木田から、「なぁ佐山、お前姐さんに横恋慕とかまずいんじゃねぇか?」と言われたことがあるからだ。 その時は、「そんなんじ
last updateLast Updated : 2026-03-05
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12.内緒の寄り道①

「今日ね、前の職場のお給料日なの」 (そういや、今日は二十日か) チラリと自分のスマートフォンに視線を送りながら、「で?」と問い掛けた佐山である。 「銀行に振り込まれるから……ATMに行かないとお金が引き出せないの。だから……」 「ああ」 なるほどな、と思った。 「けどわざわざ下ろさなくても小遣いぐらい――」 「京ちゃんにいつまでもおんぶにだっこはイヤなの! 出来ればいま持たされているお金も、使わせてもらった分も含めてきっちり返したいって思ってる」 ルームミラー越し、後部シートから強い眼差しでこちらをじっと見詰めてくる芽生に、(ポヤッとしているように見えて案外しっかりしてるじゃねぇか)と思った佐山は、「で、俺にお願いって何だよ」と、答えなんて分かり切っているくせに問い掛けてしまって、「帰りにATM、寄りたい」と言われて(だよなぁー)と頭を抱えたくなった。 「俺、カシラから寄り道禁止って言われてんだけど」 「だから……そこをなんとか! ってお願いしてるんじゃない」 そういうことは前もって伝えてくれていればいいものを、当日になって言うとか。実は結構策士なんじゃないかと思って芽生をジトッとした目で見詰めたら、悪びれもせず「ダメ?」と大きな目でじっと見返されて小首を傾げられた。 ここで気まずげに視線を逸らされたら「別に給料日当日じゃなくてもいいだろ。カシラの許可取ってからな」と突っぱねることも出来たのだが、真っすぐに見詰め返されたうえ、「お願い、ブンブン」とそっと後部シートから顔を近付けられて肩口に触れられた佐山は、ヒッと飛び上がりそうになった。 それじゃなくても組の中で変な噂を立てられていて弱っているのだ。これ以上スキャンダルになりそうなことは避けたい。 「金! 下ろしに寄るだけだぞ?」 自由になる金が出来たから買い物に付き合って欲しいとか、そういうのは無しだ、と言外に含ませたら「えぇっ」と瞳を見開かれた。やはり、金を下ろしたらその足で買
last updateLast Updated : 2026-03-06
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