Tous les chapitres de : Chapitre 21 - Chapitre 30

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6.ここで寝ちゃ、ダメ?③

「あ……あ、のね、京ちゃっ……私っ……」 思いっきり泣いたせいで、そのつもりはないのにヒクヒクとしゃくり上げてしまう。それをもどかしく感じながら、どう説明しようか考えていたら逆にそれが功を奏したのか、「怖い夢でも見たのか?」と優しく涙を拭われて、芽生は渡りに船とばかりにコクコクとうなずいていた。頬に触れる京介の大きな手から香ってくる煙草のにおいにさえドキドキしてしまうのは、恋心のせいだろうか? それとも京介に嘘をついてしまっている罪悪感からだろうか。 (京ちゃん、嘘つきでごめんなさい) そう心の中で謝りながら、芽生は京介の服をギュッと握った。 「ひ、とりで寝るのっ、怖、いの。……こ、んやは……ここで寝ちゃ、ダメ?」 怖い夢を見て、つい京介に縋りついてしまった。 そんな体を演じながら京介をじっと見上げていたら、自分でも驚くようなセリフが口をついていた。 きっと京介を一人にしたら、またさっきの〝怖い京ちゃん〟に戻ってしまいそうで怖かったから――。芽生は何とも不埒なおねだりに、懸命にもっともらしい理由を付けた。 *** 腕の中でフルフルと震えながら、幼い頃から見知った娘が、大きな目で自分を見上げてくる。 その姿に庇護欲をくすぐられた京介がほぼ無意識、芽生の頬を伝う涙を拭ってやったと同時、「今夜はここで寝ちゃ、ダメ?」とか……。まるで添い寝を求めているとも取れるとんでもない言葉が彼女の口から飛び出してきて、京介は思わず瞳を見開いた。 もちろん、異性から一緒に寝て欲しいと請われたことなんて初めてじゃない。実際その望みを叶えてやったことだって何度もあったし、その見返りにそんな女たちの身体を有難く頂いてきた京介だったが、芽生からそんなことを言われるとは思ってもいなかった。正直物凄い不意打ちを喰らった気分だ。 だが、芽生の泣き濡れた瞳を見下ろして、京介はすぐに自分の考えの愚かさに舌打ちする。
last updateDernière mise à jour : 2026-02-15
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6.ここで寝ちゃ、ダメ?④

 出火時、芽生の家にはまるで在宅時のように明りが煌々と点っていたというし、もしかしたら芽生を狙っての凶行という可能性もあると懸念したからだ。 京介はこういう渡世の性で、十中八九そうだと思った。そうして残念なことにこういう野生の勘めいたものは大抵の場合当たる。(俺の愛人だと思われでもしたか?) 無論京介にとって芽生はそんな対象ではないけれど、周りから見てもそうだとは限らない。 だが、現に京介は芽生のことを実際の情婦達より大切に扱っている自覚はあったし、芽生可愛さに美味いものを食わせに高級料亭へ連れて行ってやったり、変な男が付きそうになればそれとなくガードだってしてきた。そういうのは見ようによっては、特別な女に対する待遇だとも取れるだろう。(でなきゃ、孤児で、なんも持ってねぇ芽生が狙われる理由なんてねぇだろ)『カシラ。あの娘をこっちの世界へ引き入れる覚悟がないなら、あまり関わらないようにすることです。でないと、カシラにゃその気がなくてもこっちへ引きずり込むことになってしまいます』 いつか千崎から言われた言葉が今更のようにチクチクと胸を刺すが、起こってしまったことは取り返せない。 とすれば、京介に出来ることは今後これ以上芽生に危害が及ばないよう全力で彼女のことを守ることだけなのだ。***「構わねぇよ」「え?」「だからここで寝るの、別に構わねぇって言ってんだ」「……っ!」 自分から言い出したくせに、OKを出した途端真っ赤になる芽生が可愛くて、京介は思わず笑ってしまった。「何なら後ろから抱き締めて寝かしつけてやろうか?」 絶対に断ると分かっていて揶揄ったら案の定、「それは必要ないっ。京ちゃんのベッドすっごく大きいから、私、隅っこにちょこっと寝かせてもらえたら大、丈夫、なの、で」とゴニョゴニョ言う。 一応年頃の娘らしく、自分に対する警戒心と恥じらいは持ってくれているらしいと分かった
last updateDernière mise à jour : 2026-02-16
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7.外出禁止令①

 盗み聞きなんて愚行を誤魔化すためにバカなことを言ってしまったせいで、同棲(同居?)初日から京介と同じ部屋で眠ることになってしまった芽生は、京介に半ば無理矢理押し込まれた布団の中、息を吸い込むたびに大好きな京介の残り香を感じてしまって、絶対に眠れない! と思っていた。「……え?」 なのに、なんてことはない。いつの間にかちゃっかり眠り込んでしまっていたらしい。 まぁ、昨日一気に色んなことが起こったことを思えば、仕方ないのかも知れないが、ひとつだけ看過できない問題があった。(キャーッ! 私のバカ! なんで京ちゃんの方へ寄っちゃってるの!) 京介は、確かに昨夜ベッドを半分に仕切った右半分と左半分で、片側を芽生、もう片側を自分の割り当てだと宣言して決して領域侵犯はしないから安心して寝ろと約束してくれた。 だが目覚めてみると、芽生のほうが思いっ切り京介の陣地を侵していた。 何なら京介側で目覚めたといっても過言ではない。 でも、そこにいるはずの京介の姿はどこにもなくて――。(私がベッド占拠しちゃったから、ひょっとして京ちゃん眠れてないんじゃ……っ!?) そのことに思い至った芽生はガバッと起き上がってキョロキョロと部屋の中を見回した。「おぅ、子ヤギ、起きたか」 と、部屋の向こうのほう。昨夜京介が千崎と電話をしていた時にいた窓辺の辺りから声がして、芽生は慌てて京介のそばへ駆け寄った。「ごめんなさい! 京ちゃん。私がベッド取っちゃったから……もしかして眠れなかった!?」 申し訳なさに眉根を寄せれば「バーカ。俺も今さっき起きたトコだから変な気ぃ回すな」と寝癖のついた髪の毛をぐしぐしされて、さらに乱されてしまう。「俺がいなくなってからお前、俺の側に転がったんだよ」「でも……」 眠っている間の記憶がないのだからそう言われてしまえば信じるしかないのかも知れない。だけど、何となくそうじゃない気がして。
last updateDernière mise à jour : 2026-02-17
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7.外出禁止令②

「朝ご飯は私がっ」 何とか名誉挽回しようと意気込んでキッチンに立ってみた芽生だったのだけれど、冷蔵庫を開けてがっかりした。「京ちゃん、この冷蔵庫の中、飲み物しか入ってない!」 結構大きな冷蔵庫なのに、京介に許可を取ってカパッと扉を開けてみたら、清々しいくらい食べられそうなものが入っていなかった。 ずらりと並んでいるのはビールばかり。 それから昨日夕飯の時、芽生が飲ませてもらったと思しき飲み掛けの麦茶のペットボトルが一本。 水はウォーターサーバーが台所と、寝室にあるからそれで間に合わせているんだろう。入っていなかった。「いつもご飯とかどうしてるの?」 出鼻をくじかれた芽生が、あくびを噛み殺しながらコーヒーメーカーをセットし始めた京介へ恨みがましく問い掛ければ、「朝は食わねぇな」とか。ついでに昼や夜は基本外食で済ませるという。「不健康だし不経済だよぅ!」 朝は一日の基本だから食べないのは良くないし、昼と夜の外食にしたって、京介のことだからきっと安くはない出費を重ねているに違いない。 そう思いながらブーブー言い始めた芽生を、「どうした? 今朝はやけに機嫌悪ぃーな? あー、ひょっとして腹減ってるからか?」と犬でも可愛がるみたいに髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回してから、「ヨシヨシ。すぐに手配してやるからな」と言って、京介が電話を掛け始める。「石矢か? 悪ぃーけど迎えついでに牛乳と……」 そこまで言って、「何か食いたいもんのリクエストあるか?」と芽生の顔を覗き込んできた。「卵とハムと食パンとお米! あとお肉とか野菜とか……そういうのも沢山買いたい!」「いや、子ヤギ。そりゃ材料だろ。俺が言ってんのはすぐ食えるモンの話だぞ?」「卵もハムも食パンも、焼くだけですぐ食べられるもん! キュウリとかミニトマトとかレタスとか添えたら、それなりの朝食になるよ!? カップスープも買ってきたら完璧かも知んない!」 芽生はそこに関しては譲る気なんてな
last updateDernière mise à jour : 2026-02-18
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7.外出禁止令③

 日頃はウインドウショッピングしかしないようなお店で、ブランド品の服やら高級コスメブランドの化粧品などを買いそろえられながら、芽生は思ったのだ。(全部デパートで買うとか高すぎるよぅ!) と。 いつもならメイクグッズはドラッグストアなどでプチプラのモノを買っているし、服だってファストファッションを扱っている『ウニクロ』とか『ファッションセンターしまむた』なんかで買うようにしている。 京介に連れられて入った店は、ブラウス一着で、芽生がいつも買っている服なら上から下まで二セットずつはそろえられそうな値段だったから、店員に試着を勧められるたびタグを見ては心臓がバクバクしてしまった。 それを懸命に訴えた芽生だったのだけれど、京介の言い分ではあちこちウロウロする方が面倒だし時間の無駄らしい。要するにタイムパフォーマンスとコストパフォーマンスを天秤にかけた結果、タイパが重視されたということだ。 高すぎる買い物に戸惑いは隠せなかったけれど、京介のみならず石矢にも仕事の時間を削って買い物に付き合ってもらっているという負い目がある芽生は、それ以上言い募れなかった。***「じゃあ芽生、俺は仕事に行ってくるが……俺の留守中は絶対家から出ねぇようにすんだぞ?」 デパートから帰ってきて大量の荷物をリビングへ置くなり京介の携帯が鳴って、千崎が下で待っていると連絡が入る。 車で待機している石矢からの電話に、京介が高級そうな腕時計に視線を落としながら、芽生にそんなことを言ってきた。「えっ?」 京介がいない間に一人で近所のスーパーへ出向いて、もう少し食材を買い足そう……とか考えていた芽生は、京介からの言葉にキョトンとしてしまう。「京ちゃん、私、お買い物に行こうと思ってたんだけど」 ちらちらと冷蔵庫を気にしながら言ったら、京介がすかさず「バカだな、芽生。お前、この家の鍵、持ってねぇだろーが」とエレベーターを動かしたりするために使用していたカードキーを見せられる。 今手配中だと
last updateDernière mise à jour : 2026-02-19
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7.外出禁止令④

「京ちゃん?」 なんとなく違和感を覚えて芽生が京介をじっと見詰めたら、京介は決まり悪そうにそんな芽生から視線をふっと逸らせると「まぁー、その話はあとだ。時間ねぇからもう行くな? ほら。千崎のヤローはあんま待たせっとネチネチうるせぇからな」とか。 京介は絶対に自分に何かを隠していると確信した芽生だったけれど、きっと今は何を聞いてもはぐらかされてしまうと思って「行ってらっしゃい。気を付けてね」と見送るに留めておく。 モヤモヤとしたものはありつつも、玄関先で大好きな人を送り出すことが出来るとか、新婚さんみたい! と思ったら、少しだけ気持ちが晴れた。 笑顔で手を振る芽生に、京介は玄関を出る間際、もう一度だけ「いいな? 絶対外出禁止だからな? あと、誰が来ても居留守使え。勝手に応対するなよ? 分かったな?」と念押ししてきて。芽生は(京ちゃんってば心配性ね)と思いながらも、「はーい」と返事をしておいた。 京介が過保護なのは、なにも今に始まったことではない。 芽生としては、そんな軽い気持ちだったのだ。その気の緩みがあんな結果を産むだなんてこと、その時の芽生は思いもしなかったのだから仕方がない。*** 買い出しには行けなくなった芽生だったけれど、リビングにどっさり積み上げられた有名なアパレルブランドの袋や、高級コスメブランドの包みの山を見て、はぁーっと溜め息を落とさずにはいられなかった。 とりあえずあれを仕舞うだけでも結構時間を食いそうで、もしかしたら京介に外出禁止令を出されなくても、買い物に行くのは難しかったかも知れない。 買ってもらったばかりの品々を少しずつ自室に持ち込んでは袋から取り出してタグなどを切り離して整理していた芽生は、全てのタグから金額の部分だけ綺麗に切り取られていることに気が付いた。 ショップでは確かにここへ価格が表示されていたはずなのに、そういうところが全て綺麗になくなっていて――。それはコスメに関しても同じで、価格部分のシールが剥がされていたり別のシールで隠されていたりするその徹底ぶりに、京介の〝女性慣れ〟を垣間見てしまった気がした芽生は、なんだかモヤモヤしてしま
last updateDernière mise à jour : 2026-02-20
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8.さらわれた芽生①

「はい」 芽生はこういう高級マンションには不慣れで、応答はしてみたものの何をどう操作したらいいのかさっぱり分からなくて……すぐに不用意にチャイムへ反応してしまった自分を悔やんだ。「すんません。自分、木田って言うんっすけど組長が出先で怪我をしまして……上から貴女のことを迎えに行くように言われまして」「えっ!?」 京介が怪我をしたと言われて、芽生はにわかに慌ててしまう。「あのっ、京ちゃんはっ」 モニターに映っている顔は、千崎でも石矢でもない、見たことのない男だった。というより、目深に帽子を被っているせいで、ほとんど顔が見えない。 だが、京介から石矢以外にも事務所に住まわせている〝部屋住み〟という若手の男の子たちが何人かいると聞いたことがある芽生は、その中の一人かな? と思った。「すんません。俺にも詳しいことは分かんないんっす。とりあえず一緒に来てもらえたら分かりますんで……下まで降りてきてもらえますか?」 言われて、彼に指示を出したのは千崎さんだろうか? と思った芽生は、テンパる余り、京介に部屋を出たら自力で中へ戻るのは無理だぞ、と言われていたことも忘れて、「はい、分かりましたっ。すぐ降ります!」と答えてしまっていた。*** 芽生がいそいそと下へ降りると、コンシェルジュが「行ってらっしゃいませ」と声を掛けてくれる。 そんな彼女に小走りのまま立ち止まらずにペコッと頭を下げて通り過ぎると、芽生は木田に指示されたエントランスまで急いだ。 中へ入るのは色々とセキュリティが働いて大変なマンションだけれど、出るのにはそれほど手間が掛からないらしい。エレベーターだってカードキーなしに動いてくれたし、芽生がエントランスにある自動ドアのところへ立つと、すんなりと一つ目のドアが開いた。この扉は、確か外から入ってくる時にはすぐそこに見えるタッチパネルへカードキーを翳すなりなんなりしなければ
last updateDernière mise à jour : 2026-02-21
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8.さらわれた芽生②

(あれ? この辺って繁華街じゃない?) 芽生には余り縁のない、飲み屋やバーなどが立ち並ぶ、いわゆる夜に活気づく一画へ車が入ったのに気が付いて、芽生の頭の中は疑問符で一杯になる。「あの……この辺って病院ありましたっけ?」 芽生が知らないだけで、京ちゃんの組御用達の個人病院なんかがあるのかも知れない。 そう思って問い掛けた芽生だったのだが、ミラー越しに確かに目が合っているはずなのに、木田は何も答えてくれない。そのことに、芽生は段々不安になってきた。「木田さん?」 ソワソワと運転席に座る彼の名を呼んだ丁度その時、ちょっぴり古めかしい雰囲気の雑居ビル前で車が停まった。(ひょっとしてこのビルの中に病院がテナントとして入っているの?) などと思った芽生だったけれど、どう見てもそんな雰囲気ではなさそうだ。「あの……京ちゃんは……」 芽生が眉根を寄せて再度運転席へ向けて口を開いたのと同時、自分が座っている側のスライドドアが外から開けられてビクッと身体が跳ねる。 運転席に座る木田にばかり気を取られていて、車外に人が寄ってきていたのに気付けなかったからだ。「降りろ」「ヤッ」 ぶっきら棒に言うなり、ヌッと伸びてきた木田と同年代くらいの男の手から思わず逃げるようにシート上を逆サイドへ移動しようとした芽生だったのだけれど、シートベルトのせいで思うように動けなくてすぐさま捕まってしまう。「イ……――」 イヤぁーっ! と叫びたかったのに、悲鳴を上げようとした口をグッと大きな手で塞がれて、声を封じられてしまう。 おまけにもう一方の手でがっしりと抱え込まれて動きを封じられた芽生は、恐怖で身体がすくんで思わず涙がポロリとこぼれ落ちた。「佐山、手荒な真似はするなって上から言われてるだろ」 泣きながらくぐもった声を上げる芽生を捕まえた男――佐山――の背後から、木田や佐山より二十ばかり|年嵩《としかさ
last updateDernière mise à jour : 2026-02-22
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8.さらわれた芽生③

「それにしてもイケナイお嬢さんですね」 芽生の手を引いて歩きながら、三井が苦笑する。「――?」 彼の発した言葉の意味が分からなくて、芽生がすぐ横を歩く三井を見上げたら、三井が建物横にある鉄扉そばへ取り付けられたインターフォンを押しながら吐息を落とした。 インターフォンとは別に壁の際へは防犯カメラと思しきものもあって、それがあからさまに芽生たちへ向けて動くのが見えた。それと同時、『はい』という応答があって、防犯カメラの映像と一緒にインターフォンへ取り付けられたカメラの画像も確認したのだろう。『お帰りなさい、アニキ。お入りください』という言葉とともにガチャッとドアの方から開錠音が響いた。「家から出てはいけないって言われなかったんですか?」 重そうな鉄扉を押し開けながら芽生を先に中へ入れると、すぐ背後から三井の声が降り注いでくる。 扉を抜けた先は一直線に階段が続いていて、芽生は背後から促されるままにステップへ足を掛けた。「あ、あの……どうしてそれを……?」 確かに京介からは何があっても外へ出てはいけないと言われたし、もっといえば、チャイムが鳴っても居留守を使えとまで言われていた。(でもっ。京ちゃんが怪我をしたって言われたんだもん。仕方がないじゃない) そう言い訳をした芽生の心中を見透かしたみたいに、三井がはぁーっと大きな溜め息を落とす。「年長者の言うことを聞かないからこういう目に遭うんです。それがなけりゃぁわたしだって、わざわざ下まで降りる必要もなかったんですがね」 まるで芽生のせいで自分も面倒ごとに巻き込まれているんだと言わんばかりの物言いに、さすがに違和感を覚えずにはいられない。 さっきまでは怖くて堪らなかったはずなのに、三井と話していると警戒心が薄れてしまうのは何故だろう。 十数段の階段を登り切った先には、またさっきみたいに鉄で出来た重そうな扉があって、芽生たちがその前で立ち止まるなり、見計らっていたように扉が内側へ向かって開いた。 先程外で見たときと同じように、階段の途中――天井
last updateDernière mise à jour : 2026-02-23
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9.ひとりには出来そうにない①

 盛大な溜め息に振り返った芽生の視界に、大好きな京介の姿が映った。  部屋に入ってすぐの時には京介の姿は見えなかったはずだ。とすれば、あえて死角に入っていたのだろうか? でも何故?  そう疑問に感じながらも、芽生は「京ちゃんっ!」と彼の名を呼んで、駆け寄らずにはいられなかった。 怪我をしたと聞いていたのに、パッと見、京介はどこにもそんな様子はなくて、ひとまずホッとした芽生である。でも、すぐさま服で見えないところに怪我を負っているのかも? と思い至って不安に駆られた。 「京ちゃん、怪我はっ? じっとしてなくて平気なのっ!?」  四面楚歌に思えていた状況の中、周りを怖い顔の男性たちに囲まれているのも忘れて、芽生は京介の身体をペタペタと触りまくる。  途端、周りがザワザワし始めたのだけれど、ちょっぴり殺気立ったその雰囲気にも、京介の安否確認に夢中な芽生は気付けない。  いつの間にそばへ来ていたのだろう? 芽生と京介のそばに千崎がいて、咳払いとともに京介から芽生のことを引き剥がした。 「千崎さん……?」  いつもなら少々スキンシップをはかったところで目をつぶってくれるはずの千崎なのに、今日はいつもに増して芽生のことを苦々しい表情で見下ろしてくるのは何故だろう?  その雰囲気に気圧されて、芽生が京介を見上げたら、京介も何だかとっても怖い顔をしていた。 「あ、あの……京、ちゃん……?」  そういえば、いつもなら芽生が駆け寄れば、呆れながらもすぐさま抱きしめてくれる京介なのに、今回はそれがない。ばかりか、物凄く怖い顔で見下ろされていることに、芽生はにわかに不安になった。  (怪我のせいでピリピリしてる?)とふと思ったけれど、どうやらそういうわけでもなさそうな……。「三井、木田、佐山、手間ぁ掛けたな」  そればかりか、芽生をだましてここまで攫ってきた(?)三名に労いの言葉まで掛ける京介に、芽生はますますわけが分からなくなる。  京介からの心遣いに、皆を代表したみたいに三井が「いえ、カシラのご|命《
last updateDernière mise à jour : 2026-02-24
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