All Chapters of 組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~: Chapter 11 - Chapter 20

47 Chapters

3.家なき子④

 この上、今夜寝るところの確保までしなくちゃいけないのか……と芽生が吐息を落としたと同時、京介から「うちに来い」と誘われたのだ。「……いいの?」「いいも何も。そうしてもらわにゃ俺が不安なんだよ」「けど、その……め、迷惑じゃ、ない……?」 今まで京介が芽生の家や職場まで迎えに来てくれて、食事などへ連れて行ってもらうことはあっても、京介の家へ行ったことなんて一度もなかった。その家に招待されたのだ。不安に思わないわけがない。「は? なんで迷惑?」「だって……」 芽生はモゴモゴと口ごもってから、言いにくそうにぼそぼそと理由を述べた。「きょ、京ちゃんも、その……お、大人の男性だし。ほら……か、彼女さんと同棲しているとか、実はもう結婚してて、奥様やお子さんが家で待っているとか、そういうのだったりしないかな? って」 芽生は子供の頃からずっと京介のことが大好きで、彼以外の男性に目を向けたことはなかった。現に、養護施設から独り立ちした時、無謀にも京介に『私が三〇歳になっても独身だったらお嫁さんにしてね』と【婚姻届】を渡したことさえある。京介はそれを苦笑しながらも受け取ってくれたけど、きっと子供が駄々をこねているくらいにしか思わなかったに違いない。 あの時は京介がすでに妻帯者かもしれないとか、恋人がいるかも知れないとか、そんな可能性にさえ思い至る事も出来ないくらい考え方が稚拙だったけれど、京介ほどの男に女性の影がないこと自体あり得ないではないか。 そもそも芽生にとって京介は憧れの男性で、恋愛対象だけれど、京介はきっと違う。芽生のことは良くて妹、悪くて娘くらいにしか思っていないはずだ。 何より京介は惚れた弱みという欲目を差し引いてもかなりかっこいいし、きっと女性が放っておかないだろう。 そんなのは分かっていても考えたくなくて、頭の中から追い出すようにしてきた芽生である。でも、今回だけはそこをスルーするわけにはいかなくて……芽生は、あえて目を逸らしていたことを思い切って京介にぶつけてみたのだ。 だが、芽生が不安に駆られて瞳を揺らせた途端、京介がブハッと吹き出して「バーカ。そんな
last updateLast Updated : 2026-02-05
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4.京介の家①

いつも車を運転してくれる若い男性――石矢恭司――の送迎でたどり着いたのは、いかにも高級そうな二十三階建てのタワーマンションだった。 エントランス前にはホテルみたいに車寄せがあって、そこで京介とともに車を降りた芽生は、建物内に入るなり大理石が敷き詰められたエントランスホールに出迎えられて、その鏡面みたいにツヤツヤな床にただただ圧倒されてしまう。 「おかえりなさいませ、相良さま」 「ただいま」 これまたホテルのように自動ドアを通り抜けた正面にカウンターがあって、中にいた制服姿のコンシェルジュの美しい女性にペコリと頭を下げられた。 慣れないことにあわあわする芽生の様子を見てククッと笑うと、「行くぞ」と京介が手を引いて歩き出す。 エレベーターホールで京介がタッチパネルにカードキーをかざすとエレベーターのドアが開いた。箱へ乗り込むなり階数パネルに触れてもいないのに勝手にエレベーターが上昇を始めて驚かされてしまう。 「あ、あのっ、京ちゃん?」 ソワソワしながら京介を見上げたら「行き先か? 二十一階だ」とサラリと返されて、『私が言いたいのはそこじゃなくて、行き先階を指定してないことだよ?』と問い掛けたかった芽生である。けれど、芽生の心配をよそに、エレベーターはなんの指示もしなくてもちゃんと目的の階で勝手に止まった。 ドアが開くとちょっとした廊下があって、その先がすぐ玄関扉になっている。 「この階にゃー俺の部屋しかねぇから少々騒いでも平気だぞ?」 とか。 どうやら先ほどエレベーターに翳した鍵は、この階に止まることを指定するものでもあったらしい。 漫画や小説の中で時折見かけるお金持ち仕様のマンションなんかにある〝専用エレベーター付き物件〟というやつだろうか。 芽生は改めてこんなすごいところに来てもよかったのか戸惑って、オロオロと京介を見つめたのだけれど。 「ま、遠慮
last updateLast Updated : 2026-02-06
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4.京介の家②

「あ、あの、京ちゃん。けど、私……着替えがない……」 京介が言うように、身体中からはなんともいえない燻され臭――火災臭というらしい――と、細波のキツイ香水の香りが混ざった嫌なにおいがしている。 すぐにでも洗い流したいのはやまやまだけれど、せっかく身体を清めても風呂上がり、またこの服に袖を通したのでは台無しではないか。「ああ、それなら心配すんな。ちゃんと手配済みだ」 京介の言葉に芽生が「え?」とつぶやいたと同時、まるで見計らったようにチャイムが鳴った。 京介がインターフォンに応じて操作すると、程なくして姿を現したのは京介の補佐役・千崎雄二だった。 芽生は火災現場で迷惑を掛けたのみならず、京介の自宅にまで押し掛けていることを千崎から咎められやしないかとソワソワしたのだけれど、どうやら千崎も家を焼け出された芽生に対してそこまで非情ではないらしい。「災難でしたね」 淡々と告げられた言葉の中に、ほんの少し労りの情を垣間見た気がして、芽生は驚きのあまり大きく瞳を見開いた。そうしてすぐさま、千崎からの気遣いへの謝辞も述べられないことを叱られるかと構えたのだけれど、千崎は今の芽生にはそれすら求めていないらしい。ショックなことがあったから、お目こぼしいただけたという感じだろうか。「カシラ、頼まれていたものです」 言うことは言ったし……といったさま。もうキミに興味はありません、とばかりにスッと芽生から視線を外すと、千崎は京介に持っていた大きな紙袋を手渡した。「おう、疲れてるトコ、悪かったな」「まぁ、仕事ですから。――では、私はこれで」 千崎が、用は済んだとばかりにやけにあっさり引き上げることに、芽生は正直驚いてしまう。「あ、あのっ、千崎さん! 私、ここにいてもいいんです、か?」 てっきり、何か釘を刺されたりお小言を言われたり……下手をすると『二人きりにするのは心配なので私もここで寝泊まりします』とか言い出されてしまうんじゃないかとすら思っていた芽生は、思わずそう問い掛
last updateLast Updated : 2026-02-07
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4.京介の家③

(私、京ちゃんからは、いやらしい目で見られたいな……?) 千崎がいるというのにそんなイケナイことを考えてしまって、芽生は恥ずかしさから思わず視線を足下へ落とした。「――ま、なんにせよ、ここはカシラのプライベートな家です。カシラが神田さん可愛さで仕事をおろそかにするとか……そういうことがない限り、私もいちいち口を出すつもりはありませんのでご心配なく」「え……?」 芽生は、千崎の言葉につい反応して……うつむけていた視線を上げて千崎を見つめてしまう。「あの……千崎さん。京ちゃんが、私のせいでって……?」「おや、神田さんはお気付きじゃありませんでしたか」 千崎は芽生の言葉に心底驚いたという顔をすると続けた。「今日もそうでしたが、カシラは神田さんのこととなると色々暴走しがちで私としても手を焼いてるんですよ」「千崎、うるせぇぞ?」 すぐさま京介がそんな千崎をたしなめるから、芽生は真相を知りたくて大好きな男の顔をじっと見上げた。(ひょっとして京ちゃん、今日は仕事を放り出して私の元へ駆け付けてくれたの?) だけどその視線を遮りたいみたいに京介に頭をクシャクシャと掻き回されて、何となく『ああ、やっぱり……』と納得する。 千崎が言うほどは、自分が優遇されているとは自惚れられなかった芽生だったけれど、京介が自分を〝娘のように〟特別扱いして可愛がってくれているのは確かみたいだ。「私のせいで色々ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」 今日だって、自分がSOSを出さなければ、京介も、もっといえば千崎や石矢だってあんな火事場まで駆り出されたりはしなかったはずなのだ。そう思い至ると、罪悪感を覚えずにはいられなくて……。 芽生がしゅんとしたら、京介がまるで芽生を庇うみたいに話の矛先を変えてくれた。「千崎、バカなこと言ってねぇでさっさと帰れ。家で子供と嫁さんが待ってるんだろ? 悪ぃーが、例の件については帰宅後電話で聞かせてくれ」
last updateLast Updated : 2026-02-08
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4.京介の家④

(し、下着のサイズもジャストサイズだよ!?) なんとなく恥ずかしくて袋から取り出さないままにタグだけ引っ張って確認してみたブラジャーとショーツのセットは、下のみならず、上の方も芽生がいつも身に着けているものと同じサイズだった。ただし、日頃芽生が愛用しているものとは値段に雲泥の差があるハイブランドのもので、施された花柄レースが上下ともに物凄く緻密だった。 (えっと……私、さすがに京ちゃんに下着のサイズまでは言ったことない……よ、ね?) ブラから視線を上げてソワソワと京介を見詰めたら「ん?」と小首を傾げられて、「なっ、んでもないっ」と芽生は慌てて誤魔化した。 そういえば、このところ京介に抱きついたり抱きしめられたりする機会が何度かあったけれど、もしやその時にサイズの目測を付けられていたのだろうか? もしくはバイト先の制服! あれがキツイと訴えた時に何かピンとくるものがあった……とか? などと有り得ないことをぐるぐると考えてしまって、芽生はチラチラと横目に京介の様子を窺わずにはいられない。 芽生の着替えを買ってきてくれたのは千崎だが、まさか彼が芽生のスリーサイズを把握しているとは思えないし、きっと京介の指示に従っただけのはずだ。 女性用の服を選んでいる千崎も何だか似合わなさ過ぎて想像が出来ないけれど、下着屋さんにも行ってもらった? とか思ったら申し訳ない気持ちまで込み上げてきて、キャパオーバーになる。 「うー」 袋をギュッと抱きしめた状態で思わず唸ったら 「芽生、さっきからどうした? ひょっとして千崎がそれ買ってるトコ想像して気後れしちまったか?」 サイズ問題には思い至らなかった様子の京介だったけれど、そちらにはすぐ気付いたらしい。 そこも気になっていたのは確かなので、芽生がコクコクとうなずいたらククッと笑われた。 「ここへ運んできたのは千崎だが、選んだのはあいつの|情婦《
last updateLast Updated : 2026-02-09
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5.家事は私が!①

京介に案内されて入った風呂場は、広い洗面・脱衣所と大きなユニットバスを備えていた。 脱衣所の片隅には作り付けのリネン棚があって、真っ白なバスタオルやフェイスタオルなどが整理整頓されて綺麗に並べられていた。 京介がそこからバスタオルを一枚取り出しながら、 「タオルはここから好きなのを好きなだけ使え。洗濯は毎日組の若い者が来てするから、心配しなくても補充もちゃんとされるぞ?」 なんて言うものだから、芽生は黙っていられなかった。 「あ、あのっ。京ちゃん、洗濯機は……」 聞けばLDK横のユーティリティースペースに二台並んで設置されているという。乾燥機もあるそうなのでかなりハイスペックだ。 「お洗濯、私がしちゃダメ、……かな?」 使い方さえ教えてもらえれば、洗濯くらい芽生にだって出来る。 誰かがタオル類を洗いに来てくれるということは、下手するとそれ以外も人の手にゆだねることになるんじゃないだろうか? 例えば――。 (下着とか下着とか下着とかっ!) そんなのを他人様――それも恐らくは若い男性――に任せるなんて絶対無理! 恥ずかしくて死ねる! いま身に着けている服だって、出来れば自分で洗って干したい。 そう思って京介を見詰めたら、京介は少し考える素振りを見せた後、「まー、確かにお前が一人で家へいる時によく知りもしねぇ男が出入りするのは気詰まりか」とつぶやく。 そんな京介にコクコクうなずきまくったら、「張り子のトラかっ」と笑われてしまった。 「うちの若い衆に限って間違いは起こさねぇって断言はできるが、それとお前が安心できるかどうかは別問題だよな」 京介は少し考えて、「……じゃあこれからは洗濯、お前に任せてもいいか?」と聞いてくる。 芽生は「もちろん!」と答えてからハッとした。 「あ、あの、それって京ちゃん
last updateLast Updated : 2026-02-10
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5.家事は私が!②

「今日は色々あって疲れただろ。風呂、ちゃんと湯張りもしてあるし、ゆっくり温もって身体ほぐしてこい。……あー、それから脱衣所、内側から鍵も掛けられるから。不安なら掛けとけ」 そのままの流れでひらひらと手を振りながら京介が立ち去るのを呆然と見送った芽生は、着替えとバスタオルに顔を埋めるようにして、いま彼が出て行ったばかりの扉へもたれ掛かって空気の抜けた風船みたいにズルズルと座り込んだ。(きゃー、私のバカ! 京ちゃんの下着任されるとかっ。絶対照れ臭いやつー!) 言葉とは裏腹。ちょっぴり新婚さんみたいで嬉しいな? と思ったのも事実。*** お風呂から上がって、買ってもらったばかりのモコモコ部屋着に着替えた芽生は、LDKに戻ってきて恐る恐る扉を開けた。 途端、出汁の芳しい香りが鼻先をくすぐって、お腹がグゥッと鳴ってしまう。「京ちゃん」 それを誤魔化すみたいにお腹を押さえながらキッチンに立つ男の名を呼んだ。「おう、子ヤギ、風呂上がったか」「うん」 不思議だ。 いま京介自身が問いかけてきたように、芽生が風呂から上がったばかりだというのに、何故か京介もまるで風呂上がりででもあるかのように髪がしっとりと濡れそぼっている。それを裏付けるように、肩へ引っ掛けられた真っ白なタオルが、湯上がり感をいや増させていた。 外で会うときにはいつもきっちりセットされた髪の毛も、無造作にタオルでワシワシ拭いた後みたいにラフな感じで下りている。それが、全体的になんとも言えない男の色香を漂わせていた。 加えてさっきまではきちっとしたスリーピースのスーツを着こなしていたはずなのに、今は白のTシャツの上に上下揃いのジャージ姿。そんなラフな服装の京介を見たのも初めてだった芽生は、妙に緊張してしまった。「芽生、千崎に持って来させたパジャマ、似合ってるじゃねぇか。可愛いぞ」 ちらりと芽生に視線を投げ掛けてフッと笑うと、京介が芽生の部屋着姿を褒めてくれる。 ほわりと柔らかな印象を受ける薄桃色のモコモコパ
last updateLast Updated : 2026-02-11
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5.家事は私が!③

 京介自身は夕飯をすでに済ませた後だったのか、小さなデミタスカップを手にしている。中身はエスプレッソマシンで淹れたエスプレッソコーヒーらしい。じっと見つめすぎたのか「子ヤギも飲みてぇのか?」と聞かれて京介が飲んでいるカップをスッと差し出された。(キャー、京ちゃん! それ、間接キスになるやつ!) 思いながらも、あえて京介が口を付けていない側からちょっとだけ中身を口にした芽生は、その苦さに驚いてギュッと顔をしかめた。「苦ぁーいっ!」 不満を漏らして、「まるでコーヒーの香りがするソースみたい!」と付け加えたら、京介にブハッと吹き出された。「お子ちゃまにはエスプレッソはまだ早かったか」 クスクス笑われて、芽生はムッとする。お砂糖がたっぷり入っているとか、牛乳で薄められているとかすれば芽生だって飲めたはずだ。「京ちゃん、そんな苦いの夜に飲んで眠れなくなっても知らないんだからっ!」 うどんとともに供されていたよく冷えた麦茶で苦みを追い払いながら京介を睨んだら「コーヒー飲んだくれぇーで眠気なんて飛ばねぇわ」と一蹴されてしまう。 その上で、「あのマシンな、フォームミルクも作れるからカフェラテも淹れられるぞ? 明日の朝飲ませてやろうな」とか、優し過ぎでしょ! 美味しそうにコーヒーソース……もといエスプレッソを味わう京介をチラチラ見ながら、芽生は目の前の鍋焼きうどんに集中した。*** 京介の家は本当に広くて、五〇畳以上はあると思われるLDKの他に九畳ちょっとの洋室が二部屋、十畳の洋室が一部屋、十八畳ちょっとの洋室が一部屋あった。すべての部屋にWICが備え付けられているうえ、トイレと風呂場が各々二つずつあった。 なんでも片方は来客用で、芽生が使わせてもらったのはまさにそっち側。芽生が湯船に浸かって激動の一日を思い出してぽやぽやしている間に、京介はいつも自分が使っているバスルームでササッととシャワーを浴びて身体を清めたらしい。「お前にくっ付かれてたからだろーな。俺にもあの男の香水が移っちまってたわ」 「京ちゃんもお風呂
last updateLast Updated : 2026-02-12
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6.ここで寝ちゃ、ダメ?①

時計を確認していないので正確に何時とは言えないけれど、恐らく真夜中に近い頃だろう。 芽生が喉の渇きにふと目を覚まして、水でも飲もうとLDKへ向かおうとした時のことだった。 芽生は自分の部屋とは結構離れた位置にある京介の部屋の扉の隙間から幽かに光が漏れているのに気が付いた。 (京ちゃんってばまだ起きてるの?) そう思って、少し迷ったけれどリビングとは逆サイド――京介の部屋の方へ足を向ける。 (ほらね。寝る前に苦いコーヒーなんて飲んだりするから) ふふん♪ と得意顔でそろそろと近付いた京介の部屋の前。 「ああ、――で?」 低められた京介の話し声が聞こえてきて、芽生は思わず息をひそめて聞き耳を立てた。 「ってこたぁ、やっぱりありゃぁ、……う……だったのか」 (京ちゃん? 一体なんの話をしているの?) 〝だったのか〟の前が良く聴き取れなかったからだろうか。そのことが妙に気になって、心臓が言い知れぬ不安でトクトクと打ち震え始める。 「あ? そこまで分かっててやった奴の目星がまだ付けられてねぇとか……。千崎よ、お前、それ本気で言ってんのか?」 芽生は今まで京介と一緒にいて、彼がこんな風に怒りを抑えた威圧的な声で話すところに遭遇したことがなかった。 それでだろう。これまでは京介が裏の世界へ身を置く人なのだと知ってはいても、実感することはほぼ皆無だったのだ。 もちろん京介自身からは「俺は『相良組』の組長で、『葛西組』の方じゃ若頭を張らしてもらってんだ」と聞かされていたし、「だからあんまし俺に構ってっと、ろくな目に遭わねぇぞ?」と注意喚起されてもいた。 初めて京介からその話を聞かされた時、芽生は小首を傾げたのだ。 『ねぇ京ちゃんはなんで二つのところに籍があるの? どっちが本業でどっちが副業?』 芽生と
last updateLast Updated : 2026-02-13
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6.ここで寝ちゃ、ダメ?②

(支店で組長さんやってる京ちゃんと、本店の若頭さんしてる京ちゃんって、どっちが偉いの?) 申し訳ないけれど芽生には理解の範疇を越え過ぎていて、なんのことやらチンプンカンプン。 一次とか二次とか。盃がどうのこうので親とか子とか。 はっきりいって、組長と若頭のどちらが偉いのかさえさっぱり分からなくて混乱しまくりだったから、正直どんなに脅されても京介は京介。それ以上でも以下でもなかった。 それこそ、ちょっと眼付きが悪くて口調が俗っぽいだけの京介は、芽生にとって誰よりも優しくてかっこいい恋慕の対象でしかない。芽生には、それだけがハッキリと理解できる真実だった。 だから、「お前と俺とは住む世界が違うんだよ」とことあるごとに言われていても、「また京ちゃんの屁理屈が始まった」くらいの印象だったのだ。 それがたった今、初めて京介から散々聞かされてきた言葉の真の意味が垣間見えた気がして、芽生の心は迷子になった。 大好きな京介が急に遠くへ行ってしまったような恐怖に、芽生はゾクリと身体を震わせる。 いつもの京介が恋しくて、芽生は盗み聞きしている立場だというのも忘れて、京介の部屋の扉をノックもせずに開けていた。「京ちゃん!」「芽生!? お前まだ起き……っ」 京介がこちらを振り返ったと同時、芽生は京介の言葉を遮るようにして、ギュッと彼にしがみつく。京介からは芽生と同じ石鹸の香りに混ざって、いつもより濃い煙草のにおいがした。 芽生は、京介が苛立った時や心配事がある時なんかに紫煙を燻らせる頻度が高まることを知っている。 現に今だって自分に抱きつかれた京介が、芽生に副流煙が及ぶのを気にしてくれたんだろう。手にしていた煙草をすぐそばの灰皿で揉み消したのが見えた。「おい、子ヤギ、こんな夜中にどうした?」(京ちゃんこそ、何に対してそんなに苛ついてるの?) 聞きたいのに聞けないもどかしさから、半ば無意識。芽生はまるで幼子がむずかるように京介の厚い胸板へグリグリと額を押し付けた。 先ほどから振動を
last updateLast Updated : 2026-02-14
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