レオーネは通話を切らせなかった。 私が何か言うより先に、彼は船の白い階段を上がっていく。 その背中は、こちらがついてくると疑っていない。 『澪、今どこにいる』 怜司の声が、電話の向こうで低く響く。 「……港です」 『港?』 「仕事です。レオーネに、連れてこられて」 言った瞬間、自分でもひどい説明だと思った。 怜司の沈黙が刺さる。 『怜生は』 「一緒にいます」 少しだけ、空気が変わった。 『そこを動くな』 「それは」 答える前に、レオーネが振り返った。 「動くなと言われたなら、なおさら動け。君は誰の荷物でもない」 電話の向こうで、怜司の呼吸が硬くなる。 『その男に代われ』 「代わりません」 自分でも驚くほど、はっきり言っていた。 怜司に会いたい。 今すぐ来てほしい。 でも、ここで言われた通りに止まれば、私はまた誰かに運ばれるだけの女になる。 「後で連絡します」 『澪』 切った。 切ってしまった。 なんてひどいことをしたんだろう。 だけど、切らなければ戻ってしまう気がした。 怜司の声のする場所へ。 守られて、抱きしめられて、何もかも忘れてしまえる場所へ。 それでは、ルミナス・ガラでは勝てない。 レオーネは満足そうに笑った。 「よくできた」 「褒めないでください」 「では、始めよう」 *** 案内された船室は、部屋というより小さなホテルのスイートだった。 壁一面の窓。 海へせり出したバルコニー。 磨かれた木の床。 低いソファ。 銀のトレイに並んだ果物と、子ども用の小さなグラス。 怜生は、青い布見本を抱えたまま固まっている。 「まま、ここ、おうち?」 「違うよ」 違う。 違うはずなのに、船室の奥にはすでに子ども用の椅子と、絵本と、ミニカーまで用意されていた。 背筋が冷える。 「用意がよすぎます」 「王族の子どもも乗る船だ。子どもに退屈させる方が失礼だろう」 レオーネが軽く手を上げると、女性スタッフが二人、静かに入ってきた。 片方は怜生の前に膝をつき、やさしく微笑む。 「Bonsoir, petit prince」 怜生は少し考えてから、首を振った。 「れお、王子じゃない」 女性スタッフが笑う
Last Updated : 2026-06-12 Read more