「私を、見る側を支配する女にして。……今のあなたならできるでしょう?」 レオーネがMIOの仮オフィスへ来た、その午前。 昨日までなら、私はセラフィナの母を思い出していたかもしれない。 けれど、今の彼女はもう、母の影から出たいだけの女ではなかった。 「脱いでください」 私が言うと、セラフィナは眉を上げた。 「命令?」 「仮縫いです」 「強くなったわね」 彼女は白いコートを脱いだ。 薄い黒のドレスには、飾りがほとんどない。 それでも彼女が立つだけで、視線が集まる。 セラフィナは、自分の身体が値段になることを知っていた。 「あなたの母の話は、もうしません」 私が言うと、セラフィナの目がわずかに動いた。 「いいの?」 「あなたは、もう母の続きじゃない」 セラフィナは答えなかった。 ただ、こちらを見返す目から、刃のような硬さが抜けた。 「今日見るのは、そこじゃありません」 「では、どこ?」 「あなた自身が、自分を神話として差し出してしまうところです」 セラフィナの表情が止まった。 レオーネの笑みも薄くなる。 私は未完成の仮ドレスを手に取った。 白に近い灰色の布は、背中から肩へ流れ、腰で一度受け止めて、腕の外側へ抜ける。 愛されても飲まれない。 守られても消えない。 抱かれても、自分の名を明け渡さない。 昨夜、怜司の腕の中で降りてきた線だった。 「着せます」 セラフィナは何も言わず、腕を上げた。 梢が背中側へ回り、私は前で布を支える。 布が彼女の肌へ落ちた瞬間、美しいと思った。 でも、ただ美しいだけなら負ける。 セラフィナの美しさは、すぐに商品になる。 誰かが言葉をつけ、値段をつけ、伝説という箱に入れてしまう。 それを、服が許してはいけない。 「少し歩いてください」 セラフィナが動くと、布が背中で遅れて揺れた。 見られるための背中ではない。 見た人間の視線を、一度受け止めて、外へ弾く背中だった。 レオーネが黙った。 その沈黙に、セラフィナが反応する。 彼女はレオーネを見た。 短い視線だった。 けれど、その目には慣れた甘さがあった。 見られ、選ばれ、値段をつけられる。 その感覚を、彼女は憎みながら、どこかで気持ち
Zuletzt aktualisiert : 2026-07-01 Mehr lesen