ルミナス・ガラ本番の夜。 ランウェイを降りたあとも、拍手はまだ会場の天井に残っているようだった。 私は深い青のドレスを着たまま、会場奥の控え室へ戻った。 隣にはミナ。 少し後ろにセラフィナ。 扉の外では、取材陣と買い手と財団関係者が、MIOの名前を口にしている。 MIO SHIRAKAWA。 さっきまで、誰かが値段をつけるために探していた名前。 今は、誰もが真っ先に手を触れようとしている名前だった。 「白川さん」 ミナのスマートフォンが鳴り続けていた。 「注文です。問い合わせも。あと、投資の話が三件」 「三件?」 「今、増えました。五件です」 ミナの声が、途中で笑いそうになる。 泣きそうにも見えた。 私は深く息を吐いた。 勝った。 その実感は、まだ身体の中で形になりきらない。 でも、外のざわめきだけは本物だった。 「君は、本当に厄介な女だな」 レオーネが入ってきた。 彼はまだ笑っている。 負けた男の顔ではない。 負けたことまで自分の舞台の価値に変えようとする男の顔だった。 「今夜から、誰もが君を呼ぶ。君の服を、君の名を、君の物語を欲しがる」 「買収は受けません」 「まだ条件を言っていない」 「聞いても同じです」 レオーネの目が細くなる。 「強くなった」 「強くなったんじゃありません」 私は自分の胸元に触れた。 深い青の布が、まだ熱を持っている気がした。 「売り方を選ぶだけです」 レオーネが黙る。 私は彼を見る。 「MIOは売ります。服も、価値も、物語も、世界へ出します」 外のざわめきが、少しだけ近くなる。 「でも、MIOは売りません」 その瞬間、レオーネが声を立てて笑った。 「ははは」 楽しそうだった。 「買えなくはない。だが、檻に入れた瞬間、君のデザインは死ぬ」 嫌な言い方なのに、今日は負けた気がしなかった。 値段をつけられるためではない。 値段がつく場所を、自分で選ぶためにここまで来たのだ。 ミナのスマートフォンに、さらに通知が重なった。 「アーク・ブレイズからです。正式窓口が決まるまで、外部対応を手伝うと」 「一ノ瀬さん?」 「はい。ただし、MIOには入らない、と」 その言い方が、あまりに一ノ
Last Updated : 2026-07-11 Read more