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あとがき

last update publish date: 2026-07-17 20:37:58

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 本作は、351.8Kという長編になりました。そんな長い話を最後まで読んでいただいてうれしいです。

 最初は、貧しい工房でひとり服を作っていた澪が、怜司に見いだされ、奪われた線を取り戻していく物語でした。

 第一章では、才能を見つけられること。

 第二章では、怜生を抱えながら、それでも愛だけに戻らないこと。

 そして第三章では、母の影を越え、誰かに守られるだけではなく、自分の名前で立つこと。

 書き始めた頃は、「貧乏デザイナーが圧倒的な男に見つけられ、囲い込まれる話」でした。けれど、書いていくうちに、澪はただ囲われるだけの女ではいられなくなりました。

 彼女は自分で立つことを選びました。

 自分の名前で仕事をし、自分の傷も愛も服に変えて、最後には怜司の方が澪の場所へ来る。

 その成長を書けたことが、個人的にはとても楽しかったです。

 そしてこの作品では、クリエイターの狂気のようなものをかなり入れられた気がしています。

 美しいものを作りたい。

 認められたい。

 でも、誰かの商品にはなりたくない。

 愛している人がいても、自分の手だけは離したくない。

 私自身もクリエイターの端くれとして、澪が服に向かう時の切実さや、作る人間のわがまま、飢え、執着を書くのは、とても楽しい時間でした。

 怜司もまた、ただ澪を守る男ではなく、最後には澪の才能にかしずく男になったと思います。

 強い男が、強い女を所有するのではなく、その場所へ行く。

 その変化を書けたことも、この物語の大きな報酬でした。

 苦しい場面も、甘い場面も、華やかな舞台も、小さな家族の時間も、最後まで一緒に歩いていただけていたら幸いです。

 澪と怜司、そして怜生の物語を見届けてくださって、本当にありがとうございました。

 少しでも「読んでよかった」と思っていただけたなら、とても嬉しいです。

 もし気に入っていただければ、別作品もぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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  • 極貧デザイナーの私が、冷徹CEOに溺愛されるなんて!?   あとがき

     ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。  本作は、351.8Kという長編になりました。そんな長い話を最後まで読んでいただいてうれしいです。 最初は、貧しい工房でひとり服を作っていた澪が、怜司に見いだされ、奪われた線を取り戻していく物語でした。 第一章では、才能を見つけられること。  第二章では、怜生を抱えながら、それでも愛だけに戻らないこと。  そして第三章では、母の影を越え、誰かに守られるだけではなく、自分の名前で立つこと。 書き始めた頃は、「貧乏デザイナーが圧倒的な男に見つけられ、囲い込まれる話」でした。けれど、書いていくうちに、澪はただ囲われるだけの女ではいられなくなりました。 彼女は自分で立つことを選びました。  自分の名前で仕事をし、自分の傷も愛も服に変えて、最後には怜司の方が澪の場所へ来る。 その成長を書けたことが、個人的にはとても楽しかったです。 そしてこの作品では、クリエイターの狂気のようなものをかなり入れられた気がしています。  美しいものを作りたい。  認められたい。  でも、誰かの商品にはなりたくない。  愛している人がいても、自分の手だけは離したくない。 私自身もクリエイターの端くれとして、澪が服に向かう時の切実さや、作る人間のわがまま、飢え、執着を書くのは、とても楽しい時間でした。 怜司もまた、ただ澪を守る男ではなく、最後には澪の才能にかしずく男になったと思います。  強い男が、強い女を所有するのではなく、その場所へ行く。  その変化を書けたことも、この物語の大きな報酬でした。 苦しい場面も、甘い場面も、華やかな舞台も、小さな家族の時間も、最後まで一緒に歩いていただけていたら幸いです。 澪と怜司、そして怜生の物語を見届けてくださって、本当にありがとうございました。 少しでも「読んでよかった」と思っていただけたなら、とても嬉しいです。 もし気に入っていただければ、別作品もぜひ読んでいただけると嬉しいです。

  • 極貧デザイナーの私が、冷徹CEOに溺愛されるなんて!?   第167話 MIO SHIRAKAWAは、ここから続いていく

     その夜。  怜司は私より少し先に家へ戻り、怜生を見てくれていた。  家に帰ると、怜生はソファの上で絵本を抱えたまま眠っていた。  リビングには小さな灯りだけがついている。  テーブルの上には、怜生が描いた絵と、途中まで開いたままの契約書。  アトリエから持ち帰った布片が、椅子の背にかかっていた。  仕事と家族が、同じ部屋に混ざっている。  昔の私なら、それを散らかっていると思ったかもしれない。  今は、違った。  これが、私の生活だった。 「寝たばかりだ」  怜司が小さな声で言った。 「本を読んでくれたんですか」 「三冊」 「多いですね」 「一冊で寝ると言ったのに、約束を破られた」  私は笑いをこらえながら、怜生の髪を撫でた。 「怜生は交渉が上手ですから」 「誰に似たんだ」 「あなたでは?」 「お前だろう」  怜司が怜生を抱き上げ、寝室へ運んでいく。  大きな腕に小さな身体が預けられる。  その光景を見るたびに、まだ少しだけ不思議になる。  この人を失うかもしれないと思った夜があった。  怜生に、父親の声をもう聞かせられないかもしれないと思った朝があった。  けれど今、怜司はここにいる。  少し不器用に毛布を直し、寝顔を見て、音を立てないように扉を閉める。 「父親の顔ですね」  私が言うと、怜司は眉を寄せた。 「変か」 「いいえ」  私は首を振った。 「好きです」  怜司の動きが止まった。  言ってから、自分でも少し驚いた。  でも、取り消す気にはならなかった。  怜司はゆっくり近づいてくる。 「今のは、仕事の評価か」 「男としての感想です」  怜司が低く笑った。  次の瞬間、背中から腕が回った。  私は窓際に立ったまま、怜司の胸元へ引き寄せられる。  強くはない。  でも、逃がす気もない。 「澪」  耳元で名前を呼ばれる。  アトリエでは、白川。  契約書の前では、代表。  家では、澪。  その呼び分けだけで、私の中の境界がゆっくりほどけていく。 「今日もよく働いた」 「褒め方が上司です」 「なら、男として褒める」  怜司の唇が、首筋に触れた。

  • 極貧デザイナーの私が、冷徹CEOに溺愛されるなんて!?   第166話 退屈させない女

     二日後の朝。  MIO SHIRAKAWAのアトリエでは、海外誌の公開ページが大きなモニターに映されていた。  セラフィナ・ヴァルデ。  彼女は、銀色の古い劇場の中央に立っていた。  肩から流れるMIOのドレスは、母の影をまとわせるためのものではない。  影を踏んで、自分の顔で光を受けるための服だった。  見出しには、英語とフランス語で同じ意味の言葉が並んでいる。  新しい悲恋の女神。  そして、その下に小さく、けれど確かに刻まれていた。  MIO SHIRAKAWA. 「昨日から問い合わせが止まりません」  ノアが言った。 「表紙だけじゃないです。評論家が、ルミナス・ガラの本番動画をまた拾い直してます。『セラフィナは母の神話をなぞらず、新しい神話になった』って」  ミナが横で頭を抱えた。 「嬉しいです。嬉しいですけど、注文フォームを見たくないです」 「見なさい」  梢さんが淡々と言う。 「現実はフォームに出る」 「梢さん、名言みたいに言わないでください」  そのやり取りを聞きながら、私は画面の中のセラフィナを見ていた。  綺麗だと思った。  でも、それだけではない。  あの服は、私一人のものではもうなかった。  セラフィナが着て、観客が見て、評論家が言葉を与え、市場が欲しがる。  そうやって、私の手を離れても、まだ生きている。  その時、怜司のノートパソコンに通知が入った。 「レオーネ・ヴァルカからだ」  アトリエの空気が、少しだけ引き締まる。  怜司がメールを開いた。  本文は短かった。 『私の舞台は、いいものを生んだ』  それだけだった。  勝った、とは書いていない。  負けた、とも書いていない。  あまりにもレオーネらしい言い方だった。  私を祝福しているようで、舞台そのものは自分のものだと言っている。  でも、その一文の奥に、あの男の愉悦が見えた。  制御できないものを見た時の、あの楽しそうな目。 「上から目線で、腹が立ちますね」  私が言うと、怜司が薄く笑った。 「分かりやすい褒め言葉よりは信用できる」 「そうですか?」 「あの男が退屈していない」  怜司の声は冷静だった。  けれど、わずかに警戒も残っている。  レオーネは消えた敵ではない。  舞台を閉じた後

  • 極貧デザイナーの私が、冷徹CEOに溺愛されるなんて!?   第165話 それぞれの選んだ場所

     翌日の午後。  MIO SHIRAKAWAのアトリエには、ルクソリアからの正式書類が届いていた。  差出人は、東雲綾乃。  件名は、次季協業ラインに関する基本合意書。  怜司は向かいの席で内容を確認し、私は作業台の端に立ったまま、最後のページに置かれた署名を見つめていた。  東雲綾乃。  かつてその名前は、私にとって、怜司の隣にいる女の名前だった。  完璧な家柄、完璧な立場、完璧な指輪。  私には持てないものを、全部持っている人。  けれど今、その名前は違う意味を持っていた。  ルクソリアを背負う経営者。  怜司を手放し、会社を選び、その選択を敗北にしなかった女。 「条件は悪くない」  怜司が言った。 「悪くない、ですか」 「かなりいい。MIOの独立性を明文化している。ルクソリア側の広報資料にも、白川澪の名前を主体として出す条項がある」 「綾乃さんが?」 「あいつは安い支援をしない」  怜司の声には、かつて妻だった人への労わりと情があった。  けれど、それは私を不安にさせるものではなかった。  それが少しだけ嬉しかった。  誰かを悪者にして得た幸福ではない。  それぞれが自分の席を選び直したあとに、ここへ届いた書類だった。 「白川」  怜司がペンを置く。 「最終判断はお前だ」 「分かっています」 「綾乃への遠慮で受けるな。俺への遠慮で断るな」  その言い方が、あまりにも怜司らしくて、私は小さく笑った。 「厳しい参謀ですね」 「代表が情で契約を結ぶなら止める」 「では、仕事として受けます」  私がそう言った時、ノアが入口から顔を出した。 「白川さん、オンライン会議つながりました。相手、アーク・ブレイズの一ノ瀬さんです」  画面の向こうで、一ノ瀬蓮が軽く手を上げた。  以前と同じ、少し力の抜けた笑み。  けれど、その後ろに見える会議室は、日本ではなく、どこかの展示会場の控室らしかった。 「澪さん、久しぶり」 「一ノ瀬さん。お忙しいところすみません」 「忙しい人に忙しいって言われると、返しに困るな」  彼は笑って、画面の横に資料を出した。 「ルクソリアとMIOの協業の件、外部窓口として一件だけ相談を受けた。アーク・ブレイズの名前は前に出さない。けど、市場の見え方だけ確認しておきたくて」

  • 極貧デザイナーの私が、冷徹CEOに溺愛されるなんて!?   第164話 この人に求められる夜

     夜になると、ようやく家の中だけが静かになった。  怜生は眠っている。  小さな寝息が、寝室の扉の向こうで規則正しく続いていた。  私は自宅のリビングで、ソファに沈み込んだ。 「疲れた」  声に出すと、怜司が隣に座った。 「明日は午前を空けた」 「勝手に?」 「代表の体力管理も仕事だ」 「それは過保護です」 「業務だ」  そう言って、怜司は私の髪に触れた。  アトリエでは、触れない。  仕事中は、私を白川と呼ぶ。  契約書の前では、決して甘やかさない。  でも、家では違う。 「澪」  名前を呼ばれただけで、肩から力が抜けた。  最初にこの人に見つけられた時、私はまだ、自分の線に値段がつくことも、怒りが服になることも知らなかった。  黒崎に奪われたものを取り返すだけで精一杯で、怜司の視線が欲しいと思う自分を、どこかで許せずにいた。  それなのに、私は逃げた。  怜生を抱えて、ひとりで生きるしかないと思い込んで、怜司の手からも、自分の幸福からも逃げた。  そしてまた、戻ってきた。  MIO SHIRAKAWAという名前で立ち、黒崎を画面の向こうから消し、美玲をライバルと呼べる場所まで来た。  その夜に、怜司がここで私の名前を呼んでいる。  それだけで、身体の内側が静かにほどけていく。  怜司の指が、髪から頬へ落ちる。  私はその手に頬を預けた。 「今日、格好よかったです」 「何が」 「MIOで働いているところ」  怜司の目が、少しだけ柔らかくなる。 「俺は役に立っているか」 「腹が立つほど」 「ならいい」  唇が近づいた。  軽いキスのつもりだった。  けれど、怜司の手が腰に回った瞬間、身体の奥に残っていた一日の熱が、別の温度に変わった。 「怜司さん」 「嫌なら止める」 「嫌じゃ、ありません」  その答えを待っていたみたいに、怜司のキスが深くなる。  ソファの背に身体が沈む。  シャツ越しの手の温度が、ゆっくりと私の輪郭を確かめていく。  肩、背中、腰。  服の上から触れられているだけなのに、そこだけ布が薄くなったみたいに熱が残った。  怜司の指は急がない。  奪うためではなく、戻ってきたものを確かめるみたいに、私の髪を撫で、頬に触れ、顎を上げさせる。  見上げると、怜司の

  • 極貧デザイナーの私が、冷徹CEOに溺愛されるなんて!?   第163話 情けない男と、私の参謀

     ルミナス・ガラから三ヶ月が過ぎた。  MIO SHIRAKAWAのアトリエは、もう小さな工房とは呼べなくなっていた。  壁には次のコレクションのラフ。  作業台には仮縫いのドレス。  窓際には、モンフォール服飾文化財団から届いた正式契約書の控え。  そして中央のテーブルには、ミナが広げた納期表が、まるで戦場の地図みたいに置かれている。 「白川さん、パリ分が二着前倒しです」  ミナが言った。 「前倒し?」 「先方の撮影が動きました。あと、ニューヨークのバイヤーから追加で三型見たいと」 「見たいだけなら見せます」 「見せたら買います」 「納期表は」 「まだ崩壊していません。ぎりぎり」  その言い方があまりに確信に満ちていて、私は返事に詰まった。  梢さんが、奥の作業台から顔を上げる。 「買うのは勝手だけどね。人間の手は増えないよ」 「分かってます」 「分かってる顔じゃない」  ミナが笑いそうになり、ノアがタブレットを抱えて駆け込んできた。 「MIO、またタグが増えてます。セラフィナの表紙、公開されました」  画面には、セラフィナがいた。  深い黒の背景。  肩から胸元へ静かに落ちる、薄い灰青のドレス。  もう母の影を背負う女ではない。  自分の顔で、こちらを見ている女だった。  その下に、大きく文字が出ている。  MIO SHIRAKAWA.  胸のどこかが、静かに満ちた。 「浮かれている時間はない」  低い声がした。  怜司だった。  彼はアトリエの入口ではなく、すでにテーブルの前に立っていた。  黒いスーツではない。  白いシャツに、袖を少しだけ捲った姿。  ルクソリアのCEOだった男は、今はMIOの契約書を束ね、海外窓口の予定を組み替え、私が見落としそうな条件を赤で潰している。 「ミナ、ニューヨークは二型まで。三型見せれば納期を崩す」 「はい」 「ノア、セラフィナの表紙は公式に拾う。ただし、財団の名前を前に出しすぎるな。MIOの服が財団の所有物に見える」 「了解です」 「梢さん、パリの二着は生地を変えずにいけますか」 「型紙をいじらないならね」  指示が速い。  でも、王のようにふるまうわけではない。  怜司は最後に、私を見る。 「白川」 「はい」 「この契約は、お前

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