数時間後。 私は、ルクソリアのショールームに隣接する特設会場で、まばゆい照明の洗礼を受けていた。 目の前には、世界各国のモード誌を代表するエディターたちが顔を揃えている。 ニューヨーク、パリ、ミラノ。 かつては雑誌の向こう側の世界だった人々が、今は私の「声」を一言も聞き漏らすまいと、真剣な眼差しでボイスレコーダーを向けていた。 しかも、その視線にあるのは好奇心だけじゃない。 渇きだ。 昨夜のランウェイで見せたものの正体を、どうしても知りたいという、貪るような熱。 「白川さん、あなたの線には暴力があるのに、同時に祈りみたいな静けさもある。あんなドレスは初めて見たわ」 「次のコレクションはいつですか。あなたの名前を、私たちは覚えて帰ることになる」 「昨夜のあの一着で、アジアの新しい時代が始まったと書くつもりよ」 矢継ぎ早に飛んでくる言葉に、胸の奥が熱くなる。 信じられなかった。 私の線が、私の名前で、こんなふうに世界へ届いている。 誰かの手柄でも、誰かの添え物でもなく。 白川澪として。 それはたしかに、欲しかった報いのはずだった。 「白川さん。昨夜の『アウローラ』は、ファッション界に起きた奇跡だと評されています。あの圧倒的な『渇望』を、どうやってドレスに封じ込めたのですか?」 ……渇望。 質問を投げかけられた瞬間、私の指先がわずかに震えた。 (……わからない) どうやって描いたのか。あの時、何を食べて、どんな風に呼吸をしていたのか。 今の私には、もう思い出せない。 「それは――」 答えに窮した私の肩に、後ろから温かい手が置かれた。 怜司だ。 彼は、昨夜の情事の名残を感じさせるような距離感で、ごく自然に私の隣に立った。 「彼女の才能は、極限の孤独と、美への執着から生まれました」 怜司が、私の代わりに淀みなく答える。 「そしてこれからは、その才能を私が、ルクソリアという完璧な環境で守り、育てていく。彼女の次なるステップは、さらに洗練された、真のラグジュアリーへと向かうでしょう」 流れるような受け答えだった。 社長としても、恋人としても、非の打ちどころがない。 私が答えに詰まった一秒の隙さえ、美しい物語に編み直してしまうくらいに。 記者たちのペンが一斉に走る
Last Updated : 2026-03-20 Read more