その日の夕方、《アーク・ブレイズ》のアトリエには、ショー後特有のざわめきが残っていた。 次の商談へ向けた資料づくり。 バイヤーとの調整。 追加生産の確認。 チームは成功の余韻に浮かれている。 その中心で、私は最後の修正案を見つめていた。 数字はいい。 反応もいい。 この方向が正解なのだと、誰もが言う。 なのに胸の奥だけが、静かなままだ。 「成功した顔じゃない」 気づけば、一ノ瀬が隣に立っていた。 「そんなに分かりやすいですか」 「昨日からずっと」 彼は私の手元のボードを見る。 そこには、新しい提案ラインのラフが並んでいる。 美しい。 整理されている。 届く形だ。 でも、どれも少しだけ足りない。 「悪くない」 「ありがとうございます」 「褒めてない」 思わず顔を上げると、一ノ瀬は少しだけ笑った。 「売れるよ。通る。評判にもなる。でも」 「でも?」 「澪さんの喉元に噛みついてくる感じがない」 その言い方に、ぞくりとした。 やっぱり、この人も分かっている。 「……それ、仕事相手に言うことじゃないですよ」 「本音だから」 一ノ瀬は私のラフの一枚を、指先で弾いた。 「綺麗にまとめたね」 「まとめないと、届かないから」 「うん。でも、まとめたのは市場のためだけじゃないでしょう」 何も言えない。 その通りだった。 私は無意識のうちに、自分の牙を少し削っている。 人に届くように。 拒絶されないように。 失敗作と呼ばれないように。 そしてたぶん、傷つかないように。 「昨日、久世社長に何を言われました?」 ぴたりと手が止まる。 「……どうして」 「顔」 一ノ瀬は肩をすくめた。 「あの人に会ってからの方が、むしろ不満そうになってる」 見抜かれた。 そう思った瞬間、少しだけ苛立ってしまう。 「そんなに分かりやすいですか、私」 「僕には」 静かな返事だった。 責める響きはない。 ただ事実を置かれただけなのに、心の深いところが熱を持つ。 「……売れなかったデザインがありました」 気づけば話していた。 「私の中では、たぶんあれがいちばん私だった」 一ノ瀬は黙って聞いている。 「でも数字は伸びなかった。だか
Última atualização : 2026-04-09 Ler mais