All Chapters of 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Chapter 171 - Chapter 180

185 Chapters

171話

「ちょっ、ちょっと待って……海外?もみじの妹に着いて行っているの!?もみじの旦那が!?」 なにそれ!と声を荒らげる蘭に、もみじは普通はそう言う反応よね、と飲み物を一口嚥下した。 「ええ、そうよ。誠司は胡桃がとても大事みたい。胡桃の勉強に着いて行って、同じホテルで過ごしているみたいよ」 「はあ!?もみじの妹って未就学児か何かなの?立派な成人女性よね?それなのにわざわざ同じホテルで過ごすって……ねえ、待って……。まさか同じ部屋で過ごしてるとか無いわよね?流石に、それは無いわよね……!?」 蘭は、もみじや誠司と高校が同じだ。 大学ももみじと同じだったが、大学生活は多忙を極め、あまりもみじと過ごす時間が無かった。 だが、高校生の頃のもみじとはとても仲良く過ごしていた。 もみじと一緒にいれば、必ずと言っていい程誠司がいつも傍に居た。 だが、その当時から誠司はもみじの妹である胡桃にとても甘く、胡桃が少し我儘を言えば、誠司はもみじを置いて胡桃の元に駆け付けていた。 彼女はもみじなのに、あの頃から誠司は胡桃を甘やかし、優先していたのだ。 もみじと誠司が結婚したと聞いて、蘭は安心していた。 誠司もやっともみじを大事にしてくれるようになったのか、とそう思ったのに。 それなのに、さきほどもみじの口からは誠司との離婚を考えていると聞かされて、自分の考えは間違っていたのだと理解した。 それどころか、もみじの話を聞く限り、胡桃への甘やかしは悪化し続け、とうとう妻の妹と不倫をしてしまったのだ。 「本当……あの男はどうしようもないクズだわ。もみじがあのクズと離婚しようとしてくれていて、本当に安心した」 「ええ。弁護士に依頼しているから、そう遠くない内に離婚は成立すると思う」 「もうそんな段階なのね、どの弁護士に依頼したの?ちゃんと離婚に強い人?もしいい加減な人だったら、私の会社の顧問弁護士を紹介するわよ?」 自分を心配してくれて提案してくれる蘭に、もみじは微笑む。 「ううん、大丈夫よ、ありがとう蘭。久保田弁護士にお願いしているから」 「久保田!?久保田ってあの久保田 時陽!?離婚訴訟をすれば、勝訴間違いないって言われている!?あの人の予約は今数年待ちよ!?引き受けてくれたの!?」 ぎょっと目を見開いた蘭に詰め寄られ、もみじは驚きつつ、久保田を紹介してもら
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172話

「もっ、もう!私の話はいいから、蘭の話をしてよ!」 未だ、腑に落ちていないような顔の蘭に、もみじは話を変えるべく蘭に話を振った。 それからも、2人のお喋りは止まる事がなく、場所を移動しようか、と言う事になった。 時刻は午後3時。 他のカフェに行こうかと思っていたのだが、蘭がどうしても1件だけ会社で仕事を終わらせなくてはいけないらしく、もみじは蘭に頼み込まれて蘭の会社に一緒に着いて行く事になった。 「ごめんね、もみじ!すぐに仕事を終わらせるから、部屋でお茶でも飲んで待ってて!」 「むしろ、私が部屋にいて大丈夫なの?お仕事の邪魔にならない?守秘義務とか……」 「それは大丈夫!そこまで面倒な仕事じゃないから!」 蘭の会社──蘭デザインに到着したもみじと蘭。 社長室に2人で向かい、秘書がもみじのためにお茶を出してくれる。 パソコンに向き合い、蘭がカタカタと高速でキーボードを打つ音をBGMにしつつ、もみじは用意してくれたお茶を一口飲んだ。 そして、蘭が用意してくれた雑誌に手を伸ばしたもみじは、パラパラと雑誌を捲る。 デザイン会社らしく、雑誌はデザインに関する情報や、世界で活躍するデザイナーのインタビュー、そして若手デザイナーが描いたデザイン画などが掲載されていた。 興味深く雑誌を読み耽っていると、大分時間が経っていたらしい。 「よし!終わったあ!」と蘭が喜色に満ちた声を上げた。 「わっ、びっくりした……!終わったの、蘭?」 「うん!待たせちゃってごめんね、もみじ」 「全然大丈夫。雑誌を読んでたから。お仕事お疲れ様、蘭」 にこり、と笑みを浮かべるもみじに蘭はふにゃりと様相を崩すと笑った。 「ありがとう〜!もみじにお疲れ様って言ってもらえると和むわ」 「ふふっ、そうなの?いくらでもお疲れ様って言うわよ?」 2人が和気あいあいと話をしていると、蘭のデスクにある内線が鳴った。 「──もう!何よ。今日は休みだってのに……!」 ぷりぷりとしながら蘭が電話を取る。 電話口で話された内容に、蘭の表情はみるみると険しくなっていく。 そして、たっぷり間を置いてから蘭は低い声で答えた。 「──いいわ、通してちょうだい」 「え、蘭……?」 まさか、自分が居るのに誰か……お客様を通してしまったのだろうか。 不思議に思い、もみじが部屋の扉に顔
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173話

「──おい、一ノ瀬。どうしてここにもみじが……」 「何の用でしょうか、新島さん。アポも取らずに弊社に押しかけてくるなど……少し常識知らずでは?」 誠司の言葉を遮り、蘭が冷たい声で言い放つ。 蘭に言葉を遮られそして「常識知らず」と罵られた誠司は明らさまに不快感を顕にした。 「何だ、その物言いは……」 「そもそも、今日は時間が取れないと言ったのにこうして押しかけてくるなんて……。まあ、でもせっかくですからお話は聞きましょう。何の用ですか?」 蘭の言葉に、誠司はちらりともみじを見遣る。 「……部外者がここに居る。部外者は退出してもらおうか」 「──はっ、部外者ですって!?」 誠司のあまりの物言いに、蘭は怒りを顕にして吐き捨てる。 「新島社長ともみじさんが夫婦関係だと私は知っておりますので、隠さずとも大丈夫ですよ。あなた方の結婚式に私が参列したのをお忘れですか?」 「そう、じゃなく……。そう言う事じゃなく……私の妻はこの話に無関係だ。それに、仕事の話をするのに、妻がこの場に居るのはおかしいだろう」 誠司の言葉を聞いたもみじは、まだ誠司の中では自分は「妻」と認識されているのか、と少し意外に思った。 ならば、ともみじは誠司と蘭の話に割って入る。 「別に私が居ても何の問題もないのでは?そもそも、私が先に蘭──一ノ瀬社長と会っていたのに、急に割って入ってきたのは誠司でしょう?お仕事の話なら、私の事は気にせずどうぞお話ください」 話せるものなら、ともみじは最後の一文だけ心の中で呟く。 先程、蘭の話から、誠司は何やら胡桃のために駅舎のデザインについて情報を得ようとしているのだろう。 蘭の実家が大きな建設会社だから、実家から何か情報を得ていないか。 その事を聞きたいのだろう、と容易に想像出来た。 だが、流石に誠司も胡桃のためにわざわざここまで来た事を大っぴらに話すつもりは無いらしい。 気まずそうに表情を曇らせ、もみじの言葉に声を詰まらせている。 そんな彼を見て、蘭はもみじの言葉に加勢するように口を開いた。 「もみじが良いと言っているので、どうぞ。それとも、ここでは話し難い内容なのですか?」 「……それ、は……。……今日はもう、良い。また来る」 言葉に詰まった誠司はそれだけを言うと、蘭から視線を逸らして扉に体を向けた。 そんな誠司の背中
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174話

誠司に強い力で手を引かれ、もみじは蘭の会社の駐車場まで連れてこられた。 誠司は自分の車までやって来ると、キーを操作して車のドアを開け、助手席にもみじを乱暴に押し込んだ。 「──ちょっと!」 「うるさい!黙ってろ!」 もみじを車に押し込んだ誠司は、自らは運転席に回ると乗り込みドアを中から開けられないようにロックした。 「誠司……!」 「俺を迎えに来いと言っただろう!?それなのにお前はあんな女と遊び歩いていたのか!?あんな女より俺を優先しろ!俺と結婚したのなら!俺の妻なら!何よりも俺を優先し、俺が来いと言ったら黙って従え!」 「──なっ」 激昂している誠司は、感情が昂るまま、酷い言葉ばかりを口にする。 もみじは、誠司のあまりの言葉達に開いた口が塞がらなかった。 だが、言いたい放題な誠司にもみじだって黙っていられない。 もみじは誠司を強く睨み付けると、口を開く。 「──いい加減にして、誠司!私は誠司と結婚したからと言って、友人とも自由に会う事が許されないの!?誠司は自由にしているのに!?どうして私ばかりが我慢して、あなたの言う事を聞かないといけないのよ!」 「──なっ、お前っ、もみじ!」 まさかもみじに言い返されるとは思わなかったのだろう。 もみじの鋭い視線に、口調。 今まではもみじの目には確かな愛情があった。 優しく誠司を見つめ、気遣う心が確かにあった。 それなのに、今のもみじからはかつてのそんな暖かな感情は消え去り、今はただただ凍てつくように冷たいだけ。 「それに、誠司はどうして蘭の会社に来たの!?何か蘭に大事な話があって、アポも取らず押しかけたんじゃないの!?私が居ても仕事の話をすれば良かったじゃない!いつも誠司は言ってたじゃない、私はあなたの仕事なんて何にも分からないって!」 「そ、それは……っ、お前が居る前で──」 胡桃のために奔走している、など誠司は流石に言えなかったのだ。 もみじの言葉に、誠司は明らかに動揺し、狼狽える。 「うるさい……っ、家に帰るぞ!」 誠司はもみじへの返答も何もせず、車を発進させると自分たちの家まで真っ直ぐ向かった。 ◇ 家の駐車場に着いた誠司は、嫌がるもみじを車から下ろし、家の中へ入る。 「しばらくは帰らない、俺がこっちにいる間は実家にも行かなくていい」 誠司はそう言うと同時に
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175話

「……そんな苛立つな。一先ず休戦だ」 「私はお腹が減っていないから、自分で出前を取るなりしてくれる?」 もみじはそう言いながら、キッチンの棚に閉まってあったファイルを取り出して誠司の目の前に置いた。 「ここに誠司でも食べられる出前のメニューがあるわ。数日間ここに居るのなら、食事は全部これで注文して。向こうに戻る時も、別に私に告げたりしないでいいわ。勝手に帰って」 「もみじ……!まだ拗ねているのか!?俺たちは夫婦なんだぞ!?」 「そう思っていたのは私だけだったみたいだから。でも、もう別にどうでもいいわ」 誠司にそう返したもみじは、彼に振り返る事など一切せず、さっさと自分の部屋に戻ってしまった。 バタン!と音を立ててもみじの部屋の扉が閉まり、次いで鍵が閉まる音が静かな部屋に響く。 誠司はため息を吐きつつ、目の前に置かれたファイルに手を伸ばした。 「──これは……、確か結婚してすぐの頃、もみじが良く見ていたファイル……」 これだったのか、と呟くと誠司はファイルを開く。 ファイルを開いた誠司の目に飛び込んで来た物に、誠司は目を見開いた。 「……わざわざもみじはこれを作った、のか?」 誠司の胃腸が弱いのは、昔からだ。 結婚する前は、自分で気をつけていたし、誠司の家族がしっかりと対応してくれていた。 だが、誠司がもみじと結婚してから。 もみじが胃腸の弱い誠司のために全て自分が管理するから、と好きな物を食べても大丈夫なよう、胃腸を壊さないようにもみじが気遣ってくれていた。 少し胃が重く感じる朝があれば、もみじは何も言わずに朝食前に特別に処方してもらった胃薬を出してくれて。 誠司が自分で好きに食事をしても胃腸が荒れないよう、普段食べている食材にも気を使い、薬を用意してくれていたのだ。 最初は、誠司ももみじの献身的な行為に感謝していた。 だが、いつからそれが当たり前の事だと感じるようになり、もみじの行動に感謝しなくなったのか──。 誠司は、ファイルに挟まっている出前のメニューを1枚1枚捲り、確認していく。 中には、もみじが自ら手書きで誠司のために沢山のコメントが書き込まれていた。 もみじの書いた文字を誠司は手のひらでそっとなぞる。 「……こんなに、気にしてくれていたのか」 誠司は自分の胸にじわり、と温かい物が込み上げるのを感じた。
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176話

誠司は信じられない物を見るようにファイルを凝視する。 その瞳には、ショックの色がありありと見て取れた。 「──べ、弁当……?もみじが、作ってくれたんじゃない、のか……?」 誠司はファイルを目の前まで持ち上げると、至近距離で確認する。 どれだけ確認しても写真に映っている弁当類は、誠司がE国に滞在してからいつも食べていた弁当ばかり。 もみじが自分のために手作りをして空輸で運んでいたのかと思っていたが、それは違ったらしい。 店の食事を手配し、滞在先のホテルまで配送させていただけのようだった。 「ち、違う……、何かの間違いだ……!もみじが俺が口にする食事を作らないなんて……!店の物など、出さないはずだ……!」 目の前にある真実が信じられず、誠司はファイルを手に持ったままもみじの部屋に向かう。 ドアノブを掴み、もみじの部屋に入ろうとしたがもみじの部屋は施錠されており、ガチャン!と大きな音を立てて誠司の入室を阻んだ。 「──〜っ」 誠司は悔しげに唇を噛むと、扉を叩く。 「おい、もみじ!もみじ扉を開けろ!聞きたい事がある!」 ドン、ドン、と強めに扉を叩くが、開く気配は一切無い。 どうしてここまで拒まれるのか──。 誠司は、その理由が一切分からなかった。 (俺が帰ってきて、嬉しいはずだろう!?俺と暮らすのが本当は嬉しいくせに、俺の気を引きたいがためにこんな小癪な真似をしやがって……!) それなら、こっちだって言ってやる。 誠司は握った拳を扉に一際強く打ち付けると、怒鳴った。 「おい、もみじ!いい加減この扉を開けろ!離婚されたくないだろう!?」 誠司が大声で叫んだ次の瞬間、扉の向こうから物音が聞こえてきた。 そして、扉に向かって歩いてくる音が聞こえ、誠司はにやりと口を笑みの形に歪める。 「……はっ、ほらな。俺と離婚したくないんだろう。俺の気を引きたいのなら、こんな風に子供みたく引きこもるんじゃなく──」 「誠司」 誠司が言葉を発している途中。 扉を開けて顔を覗かせたもみじは、表情1つ変えないまま誠司に書類を突きつけた。 「本当に離婚してくれるの?それなら、この書類に目を通して、条件に何の問題もないなら署名をお願い」 「──は」 「書き終わったらテーブルに置いておいて。後で私が回収して役所に提出するわ」 「──は?」 もみ
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177話

「──はっ」 誠司は自分の胸に押し付けられた書類を手に、よろよろとテーブルに戻った。 がたん!と音を立てて椅子に座ると、もみじから渡された書類に目を落とす。 「離婚、届に……離婚協議、書……」 その文言を見た瞬間、誠司の胸がズキリと痛んだ。 「離婚」と言う、二文字。 普段、誠司がもみじに対して何度も何度も突きつけてきた二文字だ。 だが、それを今ではもみじから突きつけられるとは──。 「何で、俺が……」 離婚なんて、口から出まかせだ。 本気でもみじと離婚するつもりなんて無い。 それなのに。 今誠司の目の前にあるもみじから渡された離婚届と離婚協議書にはもみじの署名がしっかりと記載されていた。 「──っ、こんなもの!」 誠司は離婚届と協議書を2枚纏めて破り捨ててやろうとしたが、ふと離婚協議書の内容が目に入り手を止めた。 「……なぜ、もみじは俺から何も求めない?」 何度確認しても、もみじの要求は離婚ただ、それのみ。 金銭や、不動産。株などの分与に関する記載は一切無かった。 ただ、それは双方とも。 お互い、相手に何も請求しない事。 ただそれだけが条件だった。 「何故……俺と離婚したらもみじは無一文だぞ……?俺の金も、不動産も、株もいらないって言うのか……?」 誠司は信じられない目で書類を凝視した。 だが、何度確認してもそれ以外の記載は見当たらない。 「何で……どうしてだ……?」 それだけ、ただただ離婚したいと言う事だろうか。 「俺からは何もいらないから、ただ離婚したいって言うのか……?」 そんなはずは。 もみじは俺が好きなのに──。 誠司は、縋るようにもみじの部屋に顔を向ける。 その顔色は真っ白に近く焦り、焦燥感が滲んでいた。 ◇ 翌朝。 もみじはベッドから起き上がると小さく伸びをした。 欠伸を噛み殺しながらゆったりとした動きで身支度をする。 「それにしても……久保田弁護士からタイミング良く離婚協議書を送って貰えてて良かった。まさか昨日早速誠司に渡せるなんて。誠司がサインをしてくれていれば良いんだけど……」 そんな事を呟きつつ、もみじは自分の部屋の施錠を解錠して扉を開ける。 すると──。 「──ひっ、きゃあ!?」 もみじはリビングが視界に入った瞬間、悲鳴を上げた。 リビングには電気も付けられて
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178話

「不倫──、不倫ですって……?私が……?」 もみじは誠司の言葉を聞いた瞬間、はっと嘲るような声が出てしまう。 よりにも寄って、自分がその言葉を言うのか──。 自分こそ、妻の妹と不倫をしているくせに。 もみじは目の前にいる誠司を何の感情も籠っていない、冷たい目で見据える。 もみじからのそんな視線に、誠司はたじろいだ。 全てを見透かしているようなもみじの目に、誠司は咄嗟に視線を逸らしてしまう。 その行動こそ、疚しい事があるのは正に自分だと言っているような物なのだが、胡桃と関係を持っている事がもみじに知られているとは微塵も思っていない誠司は半ばパニックになっていた。 (どうして俺がもみじにこんな目で見られなきゃならない……!?) もみじは自分との対話から逃げた誠司にため息を零すと「もう良いわ」と呟いた。 「私は、配偶者がいるのに不貞行為を働くなんて恥ずかしい真似はしていない。私が不倫していると言うなら、確たる証拠を持ってきて。そうしたら、法廷で争いましょう。そうじゃないなら、早く書類にサインをして」 「なっ、なん……っ、俺はお前と離婚するつもりなんてないぞ……!」 「……それなら、お互い弁護士を立てる事になるけど、それでもいいの?誠司は大事にしたくないんじゃないの?」 「──〜っ、い、1度内容をしっかり確認する!」 誠司はそれだけを言うと、離婚届と離婚協議書を慌ててファイルにしまい込み、自分の寝室に向かってしまった。 バタン!と大きな音がして、鍵の閉まる音が聞こえる。 誠司の行動を目で追っていたもみじは、まさか誠司が離婚に応じてくれない事に驚いていた。 ひとつ返事で喜んで署名してくれると思っていたのだ。 サインさえしてくれれば、後は役所に提出してしまえば誠司ともみじは他人に戻れる。 誠司だって、胡桃と再婚する事が出来るではないか。 自分の会社の社員に胡桃が妻だと堂々と言えるじゃないか。 それなのに、離婚を渋る意味がもみじには分からなかった。 「……意味が分からないけど、私が外出から戻った時にはきっとサインしてくれているわよね」 もみじはそう言葉を零すと、自分の部屋に戻り外出の支度をした。 ◇ 自分の部屋に逃げて来た誠司は、未だ動揺していた。 手にはもみじから渡された離婚届と離婚協議書が握られていて、誠司はそれらに目を
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179話

「──?胡桃が出ないな、どうしたんだ?」 あれから、いくら電話をしても胡桃が誠司の連絡に出る気配がない。 だが、それもそのはず。 時差があるため、こちらが朝の今、E国はまだ夜中だろう。 時差の事を思い出した誠司は、慌てて電話を切るともみじから渡された離婚届と離婚協議書を写真に撮り、胡桃へ送った。 誠司は、もみじがまさかこんな事を言ってくるとは思わなかった。 それに、協議書に記載されている条件がどうしても引っかかる。 そのため、もみじの妹である胡桃の意見も聞いておきたいと思った誠司は細部までしっかり写真に撮り文章を打つと、胡桃に送信する。 「……後は、胡桃から返信があるのを待つのみか。……昨日は一ノ瀬社長に門前払いを食らったが、今日こそは会ってもらって……駅舎の情報を持ち帰らねば……」 全ては、胡桃のために。 「もみじのせいで、胡桃が諦めてきた物を……俺が全部叶えてやるんだ」 誠司は使命感に燃え、拳を強く握った──。 ◇ 久保田法律事務所。 もみじは自分の目の前に出された紅茶を一口飲むと、その紅茶の美味しさにほうっと息を吐いた。 目の前には、弁護士の久保田。 久保田は難しい顔で顎に手を当て、考え込んでいるようだった。 今日は、久保田との約束があったため、もみじは誠司との会話を切り上げてから急いで外出の支度をし、家を出たのだ。 約束の時間ぴったりに事務所に到着し、もみじは誠司との間に起きた事を全て久保田に話していた。 (数日前に久保田弁護士から離婚協議書が送られてきていて本当に良かった。タイミングが良かったわ) もみじがそんな事を考えていると、それまで考え込んでいた久保田が顎から手を離し、顔を上げた。 「……このタイミングで帰国した理由、新島さんは不倫相手のために旦那が仕事を取ろうとしていると予想されていると?」 「ええ、そうだと思います。昨日、デザイン会社を経営している友人と会っている時、その友人に夫からその仕事に関連する連絡がきた、と。そして、その後アポもなく不躾にも突然訪問してきたんです」 「──夫が、ですか?その場で訪問の理由は告げましたか?」 「いいえ、はっきりとは認めていません。だけど、私が居るからその話を切り出さなかったのかと……」 「ならば、新島さんが居ない時にご友人の会社に旦那さんが再び訪問する可能
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180話

──トントン、と書類を纏めた久保田はもみじに向かって口を開く。 「さて……それでは離婚についてはこの流れで進めて行きましょう」 「はい、お願いします久保田先生」 「こちらこそです、新島さん。絶対に新島さんの条件を相手に飲ませましょうね」 ぐっ、と拳を握って笑顔で声をかけてくれる久保田に、もみじも自然と笑みを浮かべた。 「はい!絶対に夫に条件を飲ませます!ありがとうございました、久保田先生」 「ええ、それではお見送りいたしますね」 もみじと久保田は席から立ち上がり話をしながら出入口に向かう。 久保田に見送られたもみじはエレベーターに乗り込み、事務所を後にした。 「さて、これからどうしようかしら」 事務所を出たもみじは、腕時計で時間を確認しつつ歩き出す。 「あまり早く家に帰って、誠司と顔を合わせるのも嫌だし……あ、でも書類にサインをしてくれたかな?」 もしそうだったら、一刻も早く家に帰り書類を役所に提出しに行きたい。 「誠司が会社に行ってくれていればいいんだけど……」 そして、早くE国に帰ってくれればいいのに。 もみじはそう思ってしまった。 ◇ 「──はあ!?また来たって言うの!?」 蘭デザイン、社長室。 社長室には一ノ瀬 蘭の不機嫌な声が響いた。 彼女の秘書である蜂須賀 絢(はちすか あや)は、蘭の声に肩を竦めて困ったように答えた。 「ええ……お断りしているのですが、会ってくれるまで帰らない、と……。どうなさいますか社長?」 「……仕方ないわね。私には協力出来ないって事をきっぱり言って帰ってもらいましょう。いいわ、通して」 「かしこまりました」 蘭の言葉に、蜂須賀は一礼すると部屋を出て行く。 蜂須賀が出て行ってすぐ、再び社長室の扉が開かれた。 開いた扉から入ってきたのは誠司だ。 「……今日はもみじは居ないんだな」 ふん、と鼻を鳴らす誠司の言葉を無視した蘭は、デスクに座ったまま口を開いた。 「新島社長、このようにアポもなく来られては迷惑です。要件をおっしゃってください、そしてすぐにお引き取りください」 「……この会社では、来客にお茶の1つも出さないのか?」 「生憎と新島社長は私がもてなしたいお客様ではございませんので」 冷たい態度の蘭に誠司は鼻を鳴らすと、許可されていないと言うのに、室内にあるソファーに
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