All Chapters of 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Chapter 151 - Chapter 160

185 Chapters

151話

誠司とのメールで、実家の家事手伝いに関しては平日だけと、落ち着いた。 土日も実家に行って家事をしていたら、もみじは自分の仕事が遅れてしまう、と思いそれだけは拒否したのだ。 誠司も休みは必要だと思ったのか、渋々といった体ではあるが、土日は実家に行かないと言うもみじの要求に頷いた。 「お義母さんも、私を一日中拘束する訳じゃないものね……」 もみじと両親──、特に後妻である義母とはあまり良い関係では無い。 だが、それもそうだろう。 実の母親から父親を奪った女性なのだ。 不倫をした父親の事はもちろん許せないし、嫌いだがそれでも妻子が居る男に手を出した義母が、もみじはどうしても好きになれない。 大人になった今だからこそ表面上は何とか付き合ってはいるが、それでもギスギスとした関係なのは仕方がないだろう。 「……あの人の血を受け継ぐ胡桃も……、結局は人の物が好きなのかしらね」 胡桃も、結局は不倫をしているのだ。 しかも胡桃の場合はもっと酷い。 半分だけではあるが、血の繋がった姉から旦那を取るのだから、母親よりタチが悪い。 「まあ、誠司なんてもう別にどうでもいいけど……」 胡桃と誠司ほど、お似合いのカップルはいないのでは、ともみじは本気でそう思っている。 「気は重いけど……行かなきゃまた誠司にうるさく言われるし……。離婚、離婚までの辛抱よ」 もみじは自分に気合いを入れるように言い聞かせ、頬をぺちぺちと叩くと実家に行くために準備を始めた。 ◇ 支度を済ませ、タクシーに乗って実家に向かう。 車で1時間かからない場所に、もみじの実家はある。 インターホンを押したもみじの前に現れたのは、もみじの義母であり、胡桃の実の母親である嶋久志 桔梗(しまくし ききょう)。 桔梗は、40歳を超えたと言うのに未だに若々しく、美人だ。 艶々の黒髪に、真っ赤な唇。 つん、と吊り上がった目尻の、美人だ。 桔梗はもみじを見るとふん、と鼻で笑い口を開いた。 「ああ、やっと来たわね。まったく、昔っからあんたはグズでとろいんだから。家中の掃除をしといてくれる?私はこの後出かけるから、勝手に帰らないでね。私が戻ったらチェックするわ」 「──お出かけ、ですか?どちらに?」 「……あんたには関係ないでしょう?私が見ていないからってサボらないでちょうだい。綺麗に掃除し
Read more

152話

「お邪魔、します……」 そろそろ、と実家に足を踏み入れたもみじは居心地が悪かった。 だからこそ「ただいま」ではなく他人行儀な「お邪魔します」という言葉が自然と口をついてしまったのだ。 昔からこの家は、どこかもみじにとって安心できるような家ではなかった。自分だけが余所者のようで、居心地が悪かったのだ。 だからこそ、誠司からのプロポーズに、もみじは深く考える事なく即座に頷いてしまったのかもしれない。 大学を中退するのは辛かった。 だが、当時はあれだけ誠司の事が好きだったのだ。 そんな彼からプロポーズされ、居心地が悪かった実家からも出れるなら。 そう、浅はかな考えで結婚してしまった。 「……過去の浅はかな自分の行動には目を覆いたくなるけど……」 もみじははあ、とため息を吐き出すと持参した荷物をまずは自分が使っていた部屋に置きに行こうと階段を上がった。 階段を上がり、廊下を歩いて部屋に向かう。 もみじが使っていた部屋は、胡桃の部屋の真向かいだ。 もみじは躊躇いなく昔の自室の目の前まで来ると、扉を開ける。 「──埃臭い」 開けた瞬間、埃やカビ臭さにもみじは顔を顰める。 自分が出て行ってから、ほぼこの部屋は使われていないのだろう。 必要な物は結婚する時に全て持って出て行ったので、もみじも荷物を取りに帰ってくる事はなかった。 「窓を開けて空気の入れ替えからしておこう……」 少しでも風通しをして、カビ臭さを追い出したい。 窓に近付き鍵を開けて開ける。 その時、ふともみじが使っていたデスクが視界に入った。 そこには、いくつかのアルバムがまだ残されていたのだ。 「──あ、小さい時の写真を持って行くのを忘れていたのね」 懐かしさを感じて、もみじはそのアルバムを手に取る。 パラパラとアルバムを捲ると、まだもみじの母親が存命だった頃の写真がそこには残されていた。 だが、ある時を堺にもみじの表情が暗くなり、1人や、胡桃と映っている写真がちらほらと現れた。 「ああ……、この頃ね」 もみじの母親が亡くなった時期。 亡くなった直後は、祖父母の家にもみじは預けられていた。 だから、途中からもみじの年齢が突然上がっていたのだ。 恐らく、もみじがこの家に戻ってきてからの写真だろう。 その頃から、もみじの写真は極端に少ない。 胡桃が一緒に
Read more

153話

どっ、どっ、どっと心臓が早鐘を打つ音だけが響く。 もみじの顔は、真っ青になっていた。 「な、ん……何で、これ……っ」 声が震える。 間違いなく、こんな事をしでかしたのは胡桃だろう。 「どうして、こんな……」 こんな風に画鋲を刺されるほど。 それほどまでに、胡桃に恨まれている──。 もみじは真っ青になると、震える指で写真を拾い上げ、元の位置に戻しアルバムも戻す。 「……もう、胡桃にも、誠司にも関わりたくない」 もみじは自分の部屋を出る。 すると、向かい側にある胡桃の部屋が視界に入り、ぶるりと背筋を震わせた。 胡桃が今、海外に居て良かったと心の底から思う。 できれば、今後はもう二度と顔を合わせたくないと思うくらいだ。 もみじは胡桃の部屋から視線を外し、急いで階段を降りてリビングに戻った。 ◇ それから、数時間。 これ以上綺麗にする事が出来ない、というほど家中をピカピカにしたもみじは、額に滲んだ汗を拭った。 細く息を吐き出し、窓の外を見る。 時刻は夕方に差しかかろうという頃だ。 そんな時間になっても義母は帰って来ず、もみじはどうしようか、と悩んだ。 掃除は終わった。 これ以上する事は無いのだ。 「勝手に帰ったらあの人は怒りそうだし……どうしようかな」 そんな事を考えていると、玄関の施錠が解除される音が聞こえた。 廊下を通り、リビングにやって来た桔梗は、リビングで所在なさげに立っているもみじを見て驚いたように目を見開く。 「──なっ、あんたっ、ぼうっと突っ立っていないで!びっくりするじゃない!」 「すみません……」 「掃除は終わったの!?」 桔梗はそう言うと、リビングや洗面所、多目的ホール、書斎などを見て回る。 そして満足そうに「ふーん」と呟くと、くるりともみじに振り返った。 「まあまあ綺麗に出来てるじゃない。明日からは夕食の準備も済ませておいて。近くにスーパーがあるでしょ?そこで食材を買って、夕食を作っておきなさい。2人分ね」 「──えっ」 食事の世話までしろ、と言うのか。 もみじが思わず声を上げると、桔梗がじろりともみじを睨む。 「何よ。血の繋がっていない私になんて食事を作りたくないって言うの?あんたをここまで育ててやったっていうのに?」 「いえ……とんでもない、です。明日からは、夕食も、ですね
Read more

154話

「もしもし、胡桃!?」 数コールで電話に出た胡桃に、桔梗は呼びかける。 〈ちょっと待ってね、お母さん。場所を移動するわ〉 電話の向こうから胡桃が歩く音が聞こえ、ドアが閉まる音がした。 〈もう大丈夫。それで……あったの?〉 「いいえ、色々探してみたんだけど、見つからないのよ。あの家にはないのかしら?」 〈でも……もみじに遺したものなら、絶対にもみじが持ってると思うんだけど……〉 2人はうんうんと悩む。 そこで胡桃ははっとしたように明るい声を上げた。 〈そうだ、お母さん!もみじのパソコン!パソコンを隅々まで確認して!〉 「確認しようとしたけど、ロックがかかっていて……何度もパスワードを間違えたら流石に不味いでしょう?」 〈それなら心配ないわ。パスワードを突破出来るような手を考える。明日もう1度行くのよね?〉 「ええ、そのつもりよ」 〈なら、今日中に手配するわ。後でメールする〉 「分かった、お願いするわね」 話を終えた2人は、そこで電話を切った。 ◇ 一方、もみじ。 もみじは大きな家電量販店にやって来ていた。 胡桃と桔梗がそんな事を企んでいる事など知らないはずのもみじだったが、タイミング良くパソコンを新調しようとしていたのだ。 いくつかのノートパソコンを見比べ、スペックを確認する。 「最近、動作が重くなって来ていたし、買い換えるのにちょうど良かったわ。今日ここで小さめのパソコンを買って、帰ったらデータを以降しよう」 これから毎日実家に行くなら、移動時間が勿体ないともみじは考えていたのだ。 移動中のタクシーの車内でも、仕事が出来るようにコンパクトなパソコンを購入しようと悩みに悩み抜いて納得する物を選び、購入する。 もみじは晴れやかな気分でパコソンを手にタクシーを捕まえて帰宅した。 自宅に戻ってからもみじは今まで使っていたパソコンから、仕事用のデータを新しいパソコンに移動した。 学生の時にデザインした物や、ボツになったデザインなどはそのまま残し、全てを移動し終えたもみじは満足気にパソコンを閉じた。 「よし、明日からは新しいパソコンを持って移動しよう」 かなり軽量で、スペックも高い。 もみじは早速新しいパソコンを開いて仕事を始める。 晩御飯は適当にデリバリーでもとって、終わらせてしまおう。 そう考えたもみじはスマ
Read more

155話

翌日、午後。 もみじは新しく購入した小さなパソコンを持ってタクシーに乗り、実家に向かう。 タクシーの中でパソコンを開き、仕事をしているとあっという間に時間が過ぎた。 実家に着いたもみじは、インターホンを鳴らしてその場で待つ。 すると、少しして義母の桔梗が玄関扉を開けて出てきた。 「ああ、来たわね」 桔梗は既に出かける準備を終えていたようだ。 手には鞄を持って出て来ている。 そんな桔梗の姿を見て、もみじはきょとりと目を瞬かせた。 「お義母様──。もう、お出かけですか?」 「ええ。私はあなたと違って忙しいのよ。夕方過ぎには戻って来るから、夕食を作っておきなさいよ」 桔梗は目の前に立っていたもみじを「どいて」と押し退け、車のキーを手の中で遊びつつもみじに振り向いた。 「ああ、そうそう。食事の希望はダイニングに置いてあるから。その通りに作りなさい」 「あ、あの……!費用は──」 もみじは慌てて桔梗の後ろ姿に声をかける。 桔梗の希望を正直に聞き入れたら、食費がとんでもない事になりそうだ、ともみじは思った。 桔梗は絶対に高級食材をふんだんに使用したメニューを希望しているだろう。 もみじは、桔梗と言う人間の性質を良く分かっている。 それに、普段から料理人に食事を作らせているから舌も肥えているのだ。 安っぽい食材や味にはきっとすぐに気付いてしまうだろう。 この家のすぐ近くに高級スーパーがある。 そこで毎日買い物をするとなると、いくら誠司からカードを渡されているとは言え、食費が大分かさみそうだ。 そう判断したもみじだからこそ、桔梗にそう聞いたのだが、そんな事を質問してきたもみじに対して桔梗は般若のような顔で振り向いた。 「私に出せとでも言っているの!?なんの取り柄もないあんたが誠司に嫁げたのは、私があんたをここまで育ててやったからでしょう!そんな親に対してお金を無心するなんて、乞食のようだわ!みっともない事を言うんじゃないわよ!」 「そ、それはあんまりで──」 「もみじ、あんたには家事くらいしか出来ないんだから唯一の取り柄くらい快く引き受けなさい!どうせ誠司さんからカードを渡されてるんでしょう!?それで払いなさい!」 「──お義母さん!」 桔梗は自分が言いたい事だけを言い終えると、もみじの言葉を聞く事なく、そのまま駐車場に向か
Read more

156話

電子ロックを解除して、家に入った桔梗は真っ直ぐもみじの部屋に向かう。 もみじの部屋の扉を開き、遠慮する事なく部屋に入った桔梗は、くるりと周囲を見回した。 「──あ、あったあった」 以前は手前のデスクに置いてあったノートパソコン。 それが今は場所を移動され、部屋の隅にあるコンパクトなデスクに乗せられていた。 部屋の他の物には目もくれず、真っ直ぐもみじのパソコンに向かって行った桔梗は、パソコンを開いた。 前回同様パスワードでロックがかかっていたが、胡桃から教えてもらった手順でパソコンとスマホを繋ぎ、手順通りに操作を進める。 すると、スマホ画面に「待機」文字が出てパソコン画面上に何かが表示される。 英字がズラリと並び、それらが物凄い速度で流れ、暫くするとそれが止まった。 そして、パソコンの画面が問題なく開かれた事に、桔梗はホッとした。 「よし、これでもう大丈夫ね。後は保存されているデータを確認しましょう」 桔梗はカチカチとマウスを動かし、データを確認する。 「あら……大学時代にデザインしていたもの……?こんな役にたたないデザインなんて残していて、何を考えているのかしら……」 桔梗は、もみじが昔にデザインしたデータを発見し、それを見て鼻で笑う。 桔梗は大学時代のデザインだと思っていたが、その没デザインはもみじが高校に入学した頃にデザインした物だ。 もみじが独学で勉強しだしたのは、中学3年になってから。 それまで、祖父母の家に残されていた母舞奈のデザインは目にする事は多かった。 だが、本気でデザインを学びたい、と考えるようになったのはもみじが中学3年になってから。 将来の事を考える事が増え、漠然としたデザイナーへの憧れが、確かな夢。目標に変わったのは中学3年生あたりだった。 そして、独学でデザインを学び始めたもみじは、流石舞奈の娘というだけあり、確かに才能があった。 それまで、舞奈の素晴らしいデザインをその目で見てきたからだろう。 祖父母から母のデザインを見せてもらったことは、かなり多い。 それから、もみじは独自に舞奈のデザインした物を調べ、見る機会が増えた。 無意識ながら、母の素晴らしいデザインを見て自然に学んでいたのだろう。 素晴らしい作品に触れるだけでも、自然と勉強になるのだ。 そして、それを出来るのもまたもみじが母
Read more

157話

「──ふん、デザインに大して詳しくない私でも、分かるわ。もみじは才能が全くないわね。胡桃の方が全然才能があるわ」 桔梗は馬鹿にするように鼻で笑うと、データフォルダの中にあるデザイン画を次々開き、確認していく。 「──ん?あら、これは……重要ってフォルダに分けられてる!」 桔梗はパッと表情を明るくすると、フォルダをクリックした。 すると、フォルダの中にはいくつかのデザインラフが残されていて、それを見た桔梗は瞳を輝かせる。 「──何これ、建物……!?舞奈は、建物のデザインもしていたの……!?本当に生意気な女ね……!」 桔梗が見つけたのは、もみじが依頼を受けた駅舎の没になったラフデザイン画だ。 現在、駅舎のデザインは既に本決定している。 そのデザインも既にもみじは入稿済だ。 そのため、このパソコンには没になったラフデザインが残されていたのだが、ラフとは言えそのデザイン画はとても素晴らしいものだった。 デザインを勉強していない桔梗にも、このラフを見ただけで繊細で、貴重な物だと言う事が分かった。 だからこそ、このラフデザインがもみじの母、舞奈がもみじに遺した遺作ではないか、と勘違いした。 「これが、きっとこれが舞奈が遺した未発表のデザインだわ……!」 桔梗は興奮気味にそう叫ぶと、スマホを取り出してカメラを起動した。 画面いっぱいにそのラフデザイン画を表示し、桔梗は何枚も何枚も写真を撮る。 そして、画像を拡大しているとある部分を目にした桔梗は「えっ」と声を上げた。 「何これ……、駅、なの……?」 桔梗が見た部分には、駅の文字名までは分からないが、はっきりと「駅」と文字が書かれているのが分かった。 「これ、駅舎……!?駅舎のデザイン画なの!?」 凄い、凄いわ!と叫びながら写真を撮り終わった桔梗は、急いで胡桃に電話をする。 だが、胡桃は今寝ているのだろうか。 何度コールしても、胡桃が電話に出る気配が無い。 桔梗は「もう!」と苛立つような声を上げてメールを立ち上がる。 メールを打ち終わった桔梗は、次に自分の夫に連絡をした。 「──もしもし、あなた?」 〈どうしたんだ、こんな時間に?〉 「ねえ、国内で近々改修工事が行われる駅ってないかしら?」 〈どうしたんだ、そんな急に……〉 「胡桃のためにその情報が必要なのよ。ねえ、あなたの
Read more

158話

◇ その日の夜──。 もみじが作った夕食を食べつつ、桔梗は目の前に座る自分の旦那、嶋久志 忠(ただし)に話しかけた。 「ねえ、あなた。昼間に話していた件ってどう?」 「──ああ。改修工事が行われる駅だったか?今、部下に調べさせている。だが……どうして突然そんな事を?」 「これも全部胡桃のためよ。舞奈が生前描いていたデザインが見つかったの。それがね、駅舎のデザインだったのよ」 「──あの女、の?」 桔梗がもみじの母、舞奈の名前を口にした瞬間、忠の眉が不愉快そうに跳ね上がる。 そんな忠の態度を見て、桔梗は大袈裟に心配するような表情を浮かべると、慌てて席を立って忠の側にやって来た。 そして、慰めるように忠を背後から抱きしめる。 「ああ、ごめんなさいあなた。嫌な事を思い出させてしまったわね……。あの女に騙され、傷付いたのに……またあなたを嫌な気持ちにさせてしまってごめんなさい」 「──いい、過去の事だ。別に今は気にしていない」 忠は自分を心配し、変わらず愛情を向けてくれる桔梗の腕を慈しむようにぽん、と叩くと続きを促した。 「それで?あの女のデザイン画が見つかった事で、どうして胡桃のためになる?」 「それがね、胡桃は今デザインの勉強をしているでしょう?あの子にこのデザインをプレゼントしたいの。でも、プレゼントしただけじゃあ意味がないでしょ?」 「なるほど、それで近々改修工事が行われる駅舎のデザインを胡桃に任せたいと思っているのか。だが、そういった改修工事には既にデザイナーが決まっているだろう」 「ええ、そうね。だけど忘れたのあなた?あの女は最低な女だったけど、デザインの腕だけは超一流でしょう?世界的に有名だったし。……あの女が未発表のデザインなのよ、これは。だから、デザインを勉強している胡桃がこのラフを完成させたら、既に決まっているデザイナーなんて足元にも及ばない素晴らしいデザインが出来上がるじゃない?」 桔梗は甘えるように忠に擦り寄る。 「舞奈の娘もみじには何の才能もないから、このデザインが腐っちゃうわ。それなら、才能のある胡桃が上手く料理してあげて、完成させるのよ。そうすれば、胡桃のデザインで駅舎が造られるのよ?これが成功すればきっと、誠司だって……」 「──誠司も、もみじじゃなくて胡桃を選ぶか……」 「ええ、そうよ!もみじなん
Read more

159話

◇ そして、それから数日が経った。 今日は土曜日。 実家の掃除に行かずに済む日だ。 もみじはゆっくりと起き、朝食の準備をして食事が終わると着替えて外に出た。 公園の散歩をしていると、見知った人がジョギングをしているのが見えて、もみじは思わず声を上げた。 「髙野辺さん!」 「──新島さん?」 もみじの声に気がついた髙野辺は、ふと足を止めるときょろきょろと周囲を見回す。 そして、自分に近付いて来るもみじを見つけると、ふわりと笑みを浮かべた。 「奇遇ですね、新島さん。お散歩ですか?」 「ええ、食後の運動に。髙野辺さんはジョギングしていたんですね?」 「ええ。今日は少し寝坊してしまって」 少し恥ずかしそうに笑う髙野辺に、もみじは確かに以前髙野辺がジョギングしていた時間はもっと早かったはず、と思い出す。 「ふふ、髙野辺さんも寝坊してしまう事があるんですね?」 「ええ、昨夜は少し遅い時間まで会食──その、飲み会があったので」 「まぁ……!でも、金曜日ですものね。1週間頑張ったご褒美で飲みに行く方も多いですもんね」 ふふふ、と楽しそうに笑うもみじ。 髙野辺も柔らかな笑みを浮かべつつ、2人はゆっくりと歩き出した。 土曜日の午前中。 公園内には同じように散歩をしている人や、家族連れで遊んでいる人達が多く居る。 もみじと髙野辺は並んで歩きながら、近場にあったベンチに並んで腰掛けた。 だが、髙野辺は「あっ」と小さく声を出すと、すぐにベンチから立ち上がり目の前にある自動販売機に向かって行く。 「喉が乾いてしまって。新島さんは何を飲みますか?」 「あっ、私は……お茶があれば」 もみじはそう答えつつ、自分のポケットから小銭を取り出す。 その間に髙野辺が飲み物を買い、ベンチに戻ってきた。 「どうぞ、新島さん」 「ありがとうございます、髙野辺さん。お金を──」 「そんな!これくらい大丈夫ですよ。次の機会があれば新島さんが出してください」 「ええっ、前もそう言っていたのに、髙野辺さんは出させて下さらないじゃないですか……」 「ははは。今日は喉が乾いてて、我慢出来なかったんです。次は忘れないので、お願いします」 「──もう、分かりました。ありがとうございます、いただきますね」 「ええ、どうぞ」 2人は穏やかに笑いながらぽつりぽつり
Read more

160話

「わ、ほ、本当だ……」 もみじは、髙野辺が見せてくれたスマホに映っている自分の写真を見て驚きに目を見開いた。 誠司にあんな事を言われたのだから、カフェでの事が出回っているのだろうな、とはもみじも思っていた。 だが、髙野辺も知っているほどSNSに出回っているなんて、ともみじはいたたまれない気持ちになる。 「優しくなんてないですよ……それに、あの日カフェを手伝ってくれた人は沢山いて、私だけじゃないんです」 「それでも、新島さんが率先して動いたんですよね?新島さんがすぐに動いてくれたから、勇気をもらって自分もお手伝いができたってコメントが書かれていますよ」 「えっ、ほ、本当ですか……?」 もみじは、髙野辺が表示した画面に釘付けになる。 画面には確かに髙野辺の言う通りのコメントが書かれていた。 自分が、誰かに勇気を与えてあげられるような存在になれた──。 Seaではなく「もみじ自身」がそんな存在になれたんだ、ともみじはふわりと嬉しそうに笑みを浮かべた。 「な、何だか恥ずかしいけど……こんな風に言っていただけるのって、嬉しいですね」 「恥ずかしくなんてないですよ。新島さんは困っている人を見て見ぬふりをせず、協力した……。それを当たり前に出来る人はあまりいないと思います」 だから、新島さんは優しい人ですよ。 髙野辺は、穏やかな声と表情でもみじにそう告げた。 そんな風に自分を肯定して、認めてくれるなんて──。 もみじは、じわじわと自分の頬が嬉しさで熱くなって行くのが分かった。 「あ、ありがとうございます……」 「いえいえ」 それから、もみじと髙野辺は暫く世間話をしてから、別れた。 ◇ 同時刻──E国。 「もしもーし?お母さん?」 胡桃は、パタパタとバスルームから出てくると自分の母親からの電話に出た。 〈こんな時間にごめんね、胡桃。誠司がいるんでしょう?大丈夫?〉 「ああ、誠司なら大丈夫。何か今日はE国にいる友人と飲むからって、まだ帰って来ないわ。それより、何かあったの?」 胡桃が電話の向こうに問いかけると、途端に桔梗の声が明るくなる。 〈そう──!聞いて、胡桃!あの人がやってくれたわ!〉 「えっ?お父さんが?」 〈ええ、そうよ!知り合いから近年立て替え予定の駅舎の情報をもらったわ!相当大きな駅よ!都内の主要駅だもの!〉
Read more
PREV
1
...
141516171819
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status