All Chapters of 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Chapter 161 - Chapter 170

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161話

◇ 数日後、ある日の昼下がり。 髙野辺は社長室で仕事をしていた。 そこへ、扉がノックされ、秘書2人が入ってきた。 「──どうしたんだ、2人とも?」 髙野辺は入ってきた自分の秘書、蒔田と田島を不思議そうに見た。 蒔田も、田島もどこか険しい表情を浮かべていて。 髙野辺の問いかけに、蒔田は険しい表情のまま、口を開いた。 「──社長、会長からご連絡が」 「……何だと?どんな内容だ?」 「はい。それが……支援している、とある駅舎の立て替えに関して……もしかしたら外部の人間が、情報を得ようとしている可能性がある、と」 「情報公開は来年だろう?何故そんな事が起きている?」 「はっ、それが……ここ最近になって国内で立て替え予定の駅舎の情報を探っている人間がいるようです」 「もちろんその人物の調べはついているんだろうな?」 髙野辺の目がすっと細められ、蒔田を見据えた。 社長室にぴりっとした空気が流れ、蒔田も田島も背筋を正した。 「はい。……田島さん、社長に報告を」 「はい」 蒔田に話を振られた田島は、背筋を伸ばしたまま髙野辺に告げた。 「駅舎立て替えについて探っている人物は、都内大手企業に勤める会社役員──飯島 力雄です。この飯島という人物、息子がおりまして……。その息子が嶋久志 忠の同級生でした」 「──嶋久志、嶋久志……」 嶋久志、と言う苗字に髙野辺は覚えがあった。 そして、すぐに思い出す。 「──新島さんの妹の苗字か……!?」 髙野辺が田島に向かってそう告げると、田島は何とも言えない難しい顔で頷いた。 「ええ……。胡桃様の苗字、ですね……。ご両親の苗字、です」 「じゃあ、嶋久志 忠と言う名前は、新島さんの父親の名前か?」 「おっしゃる通りです」 髙野辺は疲れたようにため息を吐き出し、額を片手で覆う。 「どうしてこのタイミングで……駅舎の立て替えに関しては限られた者しか知らないだろう?」 髙野辺の言葉に、蒔田が頷き、書類を取り出すとそれに目を落として答える。 「はい。知っているのは極一部です。支援をしている髙守株式会社の会長に社長、それに我が社の社長と……駅舎関係者。今の段階では、鉄道関係者も上層部のみかと。……あとは、駅舎のデザイナーですね」 「──デザイナー、か。そのデザイナーは誰か分かるか?」 髙野辺の問
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162話

蒔田が社長室を出て行き、田島も外に出るだろうと思っていた。 だが、田島は何か話したそうにしていて、髙野辺は眉を上げて口を開く。 「どうした?まだ何か話したい事でもあるのか?」 「その……。奥様──新島 もみじさんは、大丈夫、でしょうか?」 「新島さん?」 田島の言葉に、髙野辺ははっとする。 「そうか……。嶋久志は新島さんの実家でもあるもんな……」 髙野辺は呟き、自分の顎に手を当て考える。 そんな髙野辺に田島はこくり、と頷いた。 「はい。嶋久志家は、奥様のご実家ですから……もし、万が一ですよ……?本当に嶋久志の家が今回の件に一枚噛んでいたら……」 「それは大丈夫だ。新島さんは結婚して既に実家を出ている。それに……新島さんのご実家……ご両親は、新島さんと良好な関係じゃなさそうだろう。……良好な関係だったら、彼女はデザインコンテストで嶋久志姓を名乗ったはずだ」 「──あっ!」 「彼女が関係ないって事は、俺が何に変えても証明する」 強い力の宿った髙野辺の瞳。 それを向けられた田島は、ぐっと息を呑み、頷いた──。 ◇ 一方、もみじ。 駅舎のデザインの仕事に関する連絡が、もみじに届いた。 「──えっ?デザイナーが誰か聞かれているんですか?」 もみじに電話をかけてきた今回の仕事の仲介役が、困った様子で申し訳なさそうにもみじに説明をしている。 「……支援して下さっている会社の方が、デザイナーの情報を開示するように言っているのですね?ええ、ええ……」 デザイナーの情報は限られた人物だけが知っている。 それは、先方にも伝えており、今後の記念パーティーで、Seaのデザインだとサプライズ発表する予定だったらしい。 そういった企画も水面下で動いている状況で、Seaがデザインしている事を知っている人が増えるのは、と駅舎の方も難色を示しているらしい。 だが、情報を求めているのは支援してくれている大企業の会長。 かなり大きな金額を支援してくれている以上、駅舎としてもつっぱねる事が出来ないようで、困り果てているらしい。 もみじはその話を聞いて、悩んだのは一瞬だった。 「私の名前を出して下さって、構いません。ええ……ですが、デザインをしたのがSeaだと言う事は、その方にだけ開示してください、それが条件だと、先方にもお伝えいただけますか?」 も
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163話

それから、数日が経った。 ◇ その日、髙野辺は緊張した面持ちの蒔田に一枚の封筒を渡された。 「社長、こちらに駅舎のデザイナー情報が」 「ありがとう、蒔田。……今どき、アナログなんてな。……それだけ、外部に漏らしたくない情報なのか」 「ええ、そのようです。しっかりと封をされている状態です。会長も、内容は未確認です。この対応は社長に一任する、と仰られておりました」 「──そうか。分かった」 髙野辺がこくり、と頷くと蒔田も頭を下げてその場から退出した。 デザイナーを確認した髙野辺の反応すら見てはいけない──。 デザイナーの確認は、必ず1人で行うように、と先方から強く言われているのが分かるような蒔田の態度だった。 髙野辺は、蒔田から渡された茶封筒をペーパーナイフで慎重に開封する。 割印もなされており、デザイナーの情報は相当厳重に隠されているのが髙野辺にも窺えた。 「……さて、デザイナーはいったい誰だ?海外のデザイナーか?それとも、国内の……?」 何枚もある書類を取り出した髙野辺は、1枚1枚目を通していく。 そして、デザイナーが描いたデザイン画を目にした瞬間、髙野辺は目を見開いた。 「──はっ、はは……っ」 髙野辺の口から、驚愕とも、興奮とも取れる声が漏れる。 デザイン画を見ただけで、もう髙野辺はこの件に関わっているデザイナーが誰かなど、分かった。 だが、答え合わせはしないといけない。 髙野辺はデザイナー名が記載されている書類に目を落とした。 そこには── 駅舎デザイナー Sea と、書かれていた。 「──Sea。……いや、新島さん、あなたはこんな事まで」 そこまで口にした髙野辺は、そこではっとする。 先日、もみじと髙野辺は立て替え予定の駅で会っているのだ。 そこで、迷子の女の子を見つけて、2人で女の子のお母さんが来るまで過ごした。 「ああ、だからか……!あの時、新島さんは自分がデザインする駅舎を見に来ていたんだな」 偶然か、必然か──。 いや、最早運命だろう、と髙野辺は心の中で呟く。 書類には、1年半後に開催される駅舎の立て替え記念発表パーティーまで、デザインにSeaが関わっている事は他言無用。 その情報が外部に漏れた場合は、いくら支援をしてくれているとは言え、相応の賠償を請求すると記載されていた。 こん
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164話

髙野辺が考えれば考えるほど、もみじはそのつもりじゃないか、と思いが強まる。 「1年半後のパーティーに、新島さんがSeaとして公の場に姿を現すつもりなら……」 謎に包まれたSeaの正体が、全世界に知れ渡ると言う事だ。 男なのか、女なのか。 そして、年齢はどれくらいなのか──。 全てがヴェールに包まれていた謎の天才デザイナーSeaが、あんな美しい女性だった、と世間に知られれば。 もみじの周囲は一瞬にして騒がしくなるだろう。 そして、その事が知られれば絶対に新島 誠司はもみじを手放さないつもりだろう。 「──早く離婚が成立するように突っつくか……」 髙野辺はぼそ、と呟くといそいそと弁護士、久保田 時陽に連絡をした。 ◇ 「──やったわ!二次も通った!」 それから、1週間以上の時が流れた。 ある日の夜。 もみじは、桔梗の家から戻って夕食を食べ終わると、仕事用のメールをチェックしていた。 すると、そこで午前中に来ていたデザインコンテストの二次審査通過決定の通知が来ていたのだ。 リビングのテーブルでメールを確認していたもみじだったが、思わずその場に立ち上がってしまった。 もみじが勢い良く立ち上がったからだろう。 椅子が派手な音を立てて倒れてしまったが、そんな事には構っていられず、もみじは急いでメールの内容をチェックする。 最終審査に関しては、コンテスト主催と協賛会社の役員・重役との面談がある。 そして、その際に追加情報を登録しなければならない。 デザイナーとして活動しているのなら、その活動名を追加登録するのだ。 その時点で、もみじが「Sea」だという事は、少なくとも主催、協賛会社の面談に参加している重役達にはバレてしまう。 「……でも、いい機会だから」 もみじはそろそろ国内の仕事に重点を起き、集中しようと思っていた。 海外に渡る必要がある仕事は、今後断って行こう、と考えていたのだ。 「離婚についても、色々と忙しくなるだろうし……」 もみじは頭の中で今後の重要案件を並べ、優先順位をつけていく。 離婚に、駅舎の仕事に、デザインコンテスト。 それ以外にも、細々とした仕事を受けている。 まずは、大きな仕事ではない納品して完了の仕事から片付けてしまおう、ともみじは自分のパソコンに向き直った。 ◇ 場所は変わり、E国。
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165話

胡桃の言葉に、明らかに電話の向こうにいる桔梗の声が明るくなる。 〈まあ、本当!?一時帰国なんかじゃなくて、もう帰ってきちゃいなさいよ。この仕事をするなら、海外にいるとリスキーだわ。すぐに先方との打ち合わせも出来ないじゃない〉 「やだ、お母さん。今はウェブで顔を見て会議だって出来るわよ」 〈それはそうだけど、やっぱり実際顔を合わせて親交を深めるのが大切よ。お酒を交えて交流するっていうのは大事なんだから〉 「──……」 桔梗の言葉に、胡桃は自分の下腹部を見下ろした。 そして、そっと自分のお腹に手を当てるとにんまり、と口を歪めて笑う。 「でも私、今はお酒が飲めないから」 〈──えっ〉 誠司が買って、この国に持ち込んだ避妊具はとっくに使い果たしている。 今は2箱目だが、胡桃は1箱目のように全てに針を通した。 だが、その必要はもうなくなったのだ。 この国に来てから、誠司とは数え切れないほど肌を重ねた。 ようやく、胡桃の狙いが実を結んだのだ。 胡桃が桔梗に伝えようとした時──、誠司が帰宅した。 「ただいま。胡桃?胡桃?」 「お帰りなさい、誠司!」 胡桃は桔梗に素早く「じゃあまたね」と言い終えるとさっさと電話を切った。 上機嫌で誠司を迎えに行く胡桃。 胡桃の頭には、どうやって誠司に自分が妊娠しているかを「知られようか」を考えていた。 「最近帰りが遅いわね?お仕事忙しいの?大丈夫?」 胡桃が心配そうに誠司を見上げると、誠司は優しく微笑みながら胡桃に口付ける。 「ああ、新規取引先の開拓に奔走していてな……。大変ではあるがやり甲斐はあるよ」 楽しそうに話す誠司に、胡桃は困ったような顔になり「じゃあ、難しいかな……」と呟く。 困った様子の胡桃に、誠司は優しく問いかけた。 「ん?どうした?何かあったのか?」 「あのね、誠司……。お母さんから聞いた情報なんだけど……」 そうして胡桃は、駅舎の立て替えの件と、駅舎デザインに関してを話した──。 ◇ 深夜。 もみじが眠っていると、もみじのスマホがけたたましい音を立てて着信を知らせた。 「ひゃあっ、なんなの!?」 びくっと体を跳ねさせてその場に起き上がったもみじは、スマホの画面を確認した。 寝起きでぼんやりとしていたが、そこに表示されていた名前を見て、もみじは眉を顰めた。 「ま
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166話

「──は?明日一時帰国……?」 どうして、急に──。 もみじは一方的に切れたスマホを見下ろしながら、寝起きでぼうっとした頭で考える。 だが、考えてももみじには誠司が突然帰ってくる理由は分からない。 「出張は、2ヶ月の予定……まだ帰国予定にはならない……一時帰国?それなら、また出て行ってくれるのよね?」 誠司の予定を思い出すように呟く。 だが、考えても分からない。 「──もう、どうでもいいわ……」 もみじは誠司の一時帰国よりも眠気の方が勝り、再び眠りについた。 翌朝、10時頃。 もみじは朝食を食べ終え、部屋で仕事をしていた。 その時、もみじのスマホがまたけたたましい着信音を鳴らす。 「──……」 だが、今のもみじはデザインに集中している。 ちらり、とスマホに表示された名前を確認してから「これは優先すべき相手ではない」と判断した。 鳴り続ける音を無視し、もみじは再びパソコンに向き直る。 今は、誠司の相手より仕事の方が大事なのだ。 ◇ 「──〜くそ!」 誠司は空港に着き、もみじが出迎えに来ていない事を確認するなりすぐに電話をした。 だが、誠司がいくら電話をしようとももみじは一切電話に出ない。 「どうして電話に出ない!?俺が電話をしたら、今までだったらすぐに出ただろう……!?」 大荷物を持って一時帰国した誠司は、仕方なく周囲を見回してタクシー乗り場に向かった。 荷物をタクシーに積み込むと、誠司は迷わず自分の会社の住所を運転手に伝える。 今は会社に向かう事を優先しなければ。 誠司は自分のスマホを取り出し、もみじにメール連絡を入れておく。 【会社に荷物を取りに来い】 それだけを打つと、もみじに送信した。 そして、次に誠司は秘書の田島に連絡を入れようとして──。 「──あ」 小さく声を漏らす。 「そうか……田島はもういないんだったな……」 企業してからずっと誠司の隣で、こちらが指示をするより前に誠司の思いを汲み取り、先回りして仕事をしてくれる田島は、首にしてしまったのだ。 「──くそっ」 誠司は自分でやった事とは言え、やるせなさに前髪をぐしゃり、と掻き乱す。 「あれだけ俺の意を汲んで仕事をしてくれる奴はそうそういない……信頼も、してたのにどうして情報漏洩など……」 はあ、と深く溜息を吐いた誠司はある考えが
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167話

NEW ISLAND 自社が入ったビルに着いた誠司は、大きなスーツケースを転がしながらビル内に進む。 エレベーターで社長室がある階に進み、エレベーターから降りると誠司の姿を見つけた社員が驚いた顔で声をかけてきた。 「社長、お戻りになったんですか!?お疲れ様です」 「ああ、お疲れ。一時帰国しただけだがな」 「そうだったんですね、それではまた向こうに?」 「そうだ。すぐにまた向こうに戻る」 社長室に向かう道すがら、社員と話していると、だからか、と社員が納得したように頷いた。 「一時帰国だから今回は奥様がいらっしゃらないんですね」 誠司の頭の中では、一瞬奥様=胡桃の事だとは結びつかず、もみじは国内にいる、と答えてしまいそうになった。 だが、すぐにはっとして慌てて頷く。 「移動が大変だからな、胡桃はあっちに残したままだ」 「なるほど……!社長は奥様を大事にされてらっしゃいますね!」 にこにこと笑顔を向けられて、誠司は曖昧に答える。 そして、社長室に到着した誠司はそこで社員と別れ、室内に入った。 「──田島、今すぐ蘭デザインの社長にアポを取ってくれ──」 誠司は乱雑にスーツケースを部屋の隅に投げつつ、そう告げる。 が、今までならばすぐに田島の声が返ってきたが、今の社長室には誠司の声だけが虚しく響き、答える声はない。 さきほど、田島は首にしてしまったのだ、と考えたばかりだ。 それなのに、誠司の口からは自然と田島の名が出てきてしまった。 「──くそっ!」 誠司は苛立ちつつ、ネクタイを乱暴に緩めるとデスクに向かいパソコンを開いた。 ◇ 「もしもし、久しぶりね蘭」 〈久しぶり、もみじー!元気にしてた?〉 もみじは、自室で大学時代の旧友・一ノ瀬 蘭(いちのせ らん)と電話をしていた。 もみじが大学を中退して誠司と結婚してから、たまに連絡を取り合うくらいしかしていなかった。 もみじは中退してしまったが、蘭は大学在学中にデザイン会社を設立し、忙しい日々を過ごしていたのだ。 最近、ようやく会社が軌道に乗り、こうして久々にもみじと連絡を取ったのだ。 「うん、元気にしてたよ。蘭の会社の業績凄いね!」 〈えへへ、ありがとう!もみじが色々相談に乗ってくれたからこその結果だよ!ねえもみじ、ご飯とか行けないかな?家の事が忙しいのは分かってる
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168話

◇ 「もみじー!」 「──蘭っ!」 もみじの家まで迎えにやって来た蘭は、車から降りると、久しぶりー!と蘭が叫びながらもみじに抱きついた。 都内・ホテルのラウンジ。 場所をラウンジにあるカフェに移動した2人は、久々の再会にお喋りと美味しいご飯を楽しんでいた。 「ほんっとうに久々よね、もみじ!元気そうで安心したわ!」 「蘭も元気そうで良かった。会社も凄いね」 「ふっふっふ!頑張ったからねぇ!」 蘭が得意気にピースサインをするのを、もみじは楽しそうに見つめる。 2人が会話を楽しんでいると、注文したデザートが運ばれて来た。 美味しいデザートに舌鼓を打っていると、ケーキを口に運んだ蘭がフォークを片手にもみじに視線を向けた。 「そう言えば、もみじが誠司と結婚してもうすぐ3年?くらいになるわよね?どうー?結婚生活は〜」 蘭の揶揄うような視線と声に、もみじは自分の口元に運んでいたフォークをぴたり、と止めてしまった。 さきほどまでもみじの顔に浮かんでいた笑顔が、蘭の言葉で一瞬にして無表情に変わり、蘭はもみじの表情にぎょっと驚いた。 「──えっ、え……?なに?どうしたの……」 「……蘭。私、誠司との離婚を考えているの」 「──はあああ!?」 もみじから告げられた言葉に、蘭はぎょっとして叫び声を上げた──。 ◇ 「信じられない!さいっっってい!死ねばいいのに!!」 もみじから説明を受けた蘭は激怒し、誠司へ罵詈雑言を吐く。 「あんたの妹と不倫?信じられない!あのぶりっ子、ほんっとどうしようもないわね!2人まとまて死んでしまえばいいのよ!」 「ふっ、ふふっ、蘭言い過ぎよ……!」 「だってそうじゃない!もみじはもっと怒った方がいいわよ!高校の時、誠司はあんたにベタ惚れだったじゃない!誠司にめちゃくちゃアプローチされて、もみじも誠司が好きだったから付き合ったんでしょう?それなのに、もみじは自分の夢を諦めて大学を辞めて結婚したのに……!こんなのって酷過ぎるわよ!」 「……うん」 「ねえ、もみじ!今からでも遅くないよ!もみじの夢はデザイナーでしょ?さっさと不倫馬鹿男と別れて、私の会社においでよ!私がもみじの夢を叶えるから!」 「蘭──」 もみじは蘭の言葉に胸が打ち震えた。 もみじは、Seaの正体を蘭には伝えていない。 だから蘭は、もみじ
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169話

もみじのために大変な思いをして作った会社に来ればいい、と躊躇いなく提案してくれた蘭。 そんな蘭に、もみじはすぅっと息を吸い込むと、蘭の目を真っ直ぐ見つめて話し出した。 「あのね、蘭──」 ◇ もみじが、Seaだと話し、これまでの経緯などを順を追って説明していく。 そして、Seaは己なのだと公表する事も考えている、と言う事を蘭にゆっくりと、だがしっかりと説明し終わったもみじ。 「──蘭、ずっと黙っていてごめんね……」 親友の蘭に、この事をずっと打ち明けたかった。 だが、もみじとは違い蘭は会社を設立し大変な時間を過ごしていたのだ。 時折連絡は取るものの、それは簡単なメールでの連絡が主だった。 今日のように時間を取って、顔を合わせて話す機会はほとんどなかったのだ。 だから、こうして今日まで話す事が出来なかった。 ずっと黙っていた事を、蘭はどう思っているだろうか──。 怒って、いるだろうか。 もみじは、無意識の内に俯いていた顔をそろり、と上げて蘭の表情を見た。 すると、そこには──。 怒ったような顔をした蘭がいて、もみじはひゅっと息を呑んだ。 だが──。 「なにそれ……っ、酷い……!その妹、もみじが頑張って築いたデザイナーとしての信頼も、信用も、能力も!楽して掻っ攫おうっての!?そんなの、絶対に許しちゃ駄目だよ、もみじ!」 「──蘭」 まさか、胡桃にこれほど怒ってくれるなんて。 もみじが唖然としていると、激怒していた蘭がもみじに視線を向けて首を傾げる。 「何で不思議そうな顔して……、あっ!まさか私に隠していた事を私が怒ると思ってたの!?」 「え……、だって……怒ってない、の……?私、ずっと大事な事を蘭に黙っていたんだよ?」 「そりゃあ、話してくれなかったのは寂しいけど……。私が忙しくて、もみじは遠慮してくれてたんでしょ?それに、Seaの仕事って守秘義務が厳しい物もあるでしょ?ぺらぺら喋っちゃ駄目な事が多いと思うもん」 蘭は途中で止まっていたデザートを再び食べ始める。 「それに……もみじはもう立派なデザイナーになってたんだね、良かった。私の会社に来なくても十分だね!」 まるで自分の事のように嬉しそうに笑う蘭に、もみじは感動して視界が滲んできた。 こんな風に、あっさりと受け入れてくれるなんて。 もみじは滲んだ涙をハン
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170話

もぐもぐ、とデザートを食べながら蘭はどこか納得したように話す。 「……何か、もみじから色々聞いて納得したかも」 「──え?」 何が?と言うように蘭を見たもみじに、蘭はフォークを置くと、真面目な表情で答えた。 「あのね、もみじ。もしかしたら、あなたの旦那……その不倫馬鹿女のために仕事を取ろうとしているのかもしれない」 「え……、どう言う事?」 「……さっき、私の秘書に連絡があったみたい。NEW ISLANDの社長って……もみじの旦那でしょう?」 「誠司が、蘭に……?どうして──」 「さあ……もしかしたら、私の実家を頼って連絡して来たのかもしれないわね。……馬鹿よね、私は実家に勘当されているから、調べる事なんて出来ないのにね」 誠司を小馬鹿にするように鼻で笑った蘭。 蘭の──一ノ瀬 蘭の実家は、かなり大きな建設会社だ。 もみじは守秘義務があるため、今回の駅舎立て替えのデザインにSeaが関わっている事は蘭に伝えていない。 (もしかしたら……誠司が蘭に連絡したのは、駅舎の立て替えに関連する内容かもしれないわね……) もみじがそんな事を考えていると、蘭は言葉を続けた。 「ねえ、もみじ……。うちのデザイン会社は、そこそこ大きくなったでしょ?だからね、色々な所から情報が伝わってくるようになったんだけど……」 「──うん」 「どうやら、数年後に主要駅の駅舎の立て替えがあるみたいでね。その駅舎デザインにうちも一枚噛めないかなぁ、と思ってたんだけど……どうやらもう既にデザインは決定してるみたいで」 「……そう、だろうね。大きな駅の場合は、数年単位での工事になるから……。今の段階でデザインが決まってないと……」 「そうよね?だからうちや、他のデザイン会社も諦めたんだけど……どうやらもみじの旦那はそれを諦めてないみたい」 蘭は自分のスマホに目を落とし、不機嫌そうに眉を顰めた。 「ねえ、もみじの旦那ってこんな人だったっけ?こんな失礼な態度を取るような人だった……?」 「──えっ?ご、ごめん……!蘭に対して酷い態度なの!?」 「いや、そうじゃないんだけど……不遜な態度が透けて見えているって言うか……」 蘭は誠司のメール内容を思い出したのだろう。 むっとした表情を浮かべていて、もみじは申し訳なく思ってしまった。 「ごめん、蘭……。誠司の連絡な
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