クチナシが咲く頃に의 모든 챕터: 챕터 11 - 챕터 19

19 챕터

第11話

翔平は息をのんだ。目の前に立つ、化粧を施した凛の落ち着き払っている姿に。凛が淡々と言った「おはよう」の一言で、翔平の全身から力が抜けていくようだった。言いたいことは山ほどあったのに、喉に詰まって言葉にならない。やっとの思いで口を開こうとした時には、凛はもう哲也の高級車に乗り込んでいた。エンジンが唸りをあげ、車は佐藤家を飛び出していった。どこへ行くのか尋ねる暇もなかった翔平は、夢中で車を追いかけた。車が止まった場所を見て、翔平は驚いた。凛は自分を役所まで連れてきたのだ。「凛、な……なんで俺をこんなところに?」翔平の声は震えた。「離婚するためだよ。離婚届には、あなたもサインしたでしょ」凛はハイヒールを鳴らし、迷いのない足取りで歩いていく。「離婚なんてしない!凛、あれは君に騙されてサインしたものだから、法的な効力なんかない。お互い弁護士なんだから、そんなこと一番よく分かってるはずだろ?」「離婚しないって?」凛は眉を上げ、鼻で笑うと、翔平に携帯をひらひらと見せた。「この中にはね、あなたが不倫した証拠と、私を騙して百合にお金を渡していた証拠が入ってるの。お互い弁護士なんだから、この証拠があったら離婚裁判でどっちが有利かなんて、言うまでもないよね?」そこへ哲也がタイミングよく割って入り、翔平に笑いかける。「この件、俺が引き受けてやろうか?松本先生が満足いく結果にしてやるよ!」翔平は怒りと焦りで、その場から逃げ出そうと背を向けた。しかし、その時、携帯が鳴った。電話の相手は父親の松本恭平(まつもと きょうへい)で、その声はいつものように威圧的だった。「午後、家に来なさい。その時に、離婚したという証明も持ってこい。凛に証拠をばらまかれては困るからな。お前の事務所がどうなろうと構わんが、松本家の名誉が傷つけば、お前には責任が取れんだろう」翔平が硬く握りしめる拳には、血管が浮かび、今にも張り裂けそうだった。役所へと続く階段は僅か10段ほど。しかし翔平にとっては、まるで一生をかけて歩いているかのように、遠く感じられた。離婚届に受理印が押された瞬間、翔平の心にも、まるで血のように赤い烙印が押された気がした。翔平は受理された離婚届を見ることができなかった。凛は職員によって処理済みの箱に入れられた離婚届をしば
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第12話

高級車の後部座席で、凛の携帯が震えた。画面には2件のメッセージが表示されている。凛は鼻で笑うと、躊躇うことなく削除ボタンを押した。哲也が横目でちらりと見て、「何がそんなにおかしいんだ?」と尋ねる。凛は携帯をバッグに戻すと、ぼんやりと視線をさまよわせ、「別に。つまらない冗談を見ただけ」と淡々と答えた。哲也は眉を上げたが、それ以上は聞かなかった。その代わりに、明るく提案する。「一日頑張ったご褒美に、食事でもどう?独身に戻ったお祝いってことで」凛は頷いた。レストランで席に着いた途端、何気なく少し離れた場所に目をやった凛の体が、ぴくりと強張った。また正人がいる。正人は煙草を吸いながら、赤いワンピースを着た若い妊婦をぴったりと抱き寄せ、親しげにしていた。凛は勢いよく振り向き、哲也に声をひそめて尋ねる。「わざとここに連れてきたの?」哲也は口の端を上げて笑った。「バレたか。さすが俺が見込んだ弁護士だ。人の考えを読むのがうまいねえ」しかし、哲也はすぐにふざけた表情を消すと、真顔で言った。「うちの事務所に入ってくれてありがとう。これは俺からの最初のプレゼントだよ」凛は人目につかない隅の席を選び、正人と妊婦の様子をこっそりと覗った。そしてすぐに、何かがおかしいことに気づく。妊婦は食事中もどこか怯えた様子で、視線をきょろきょろと彷徨わせていた。妊婦が汗を拭おうと手を伸ばしたとき、ゆったりとした袖がずり落ち、青紫色のあざがちらりと見えた。笑みを浮かべていた正人だったが、その目には脅すような色が宿っている。彼はステーキを一切れ、妊婦の皿に取り分けると、小さな声で命令した。「菖蒲、早く食べろ。お腹の子には栄養が必要なんだから」原田菖蒲(はらだ あやめ)は嫌そうな顔をしながらも、機械のようにそのステーキを口に運び、逆らうことはできなかった。凛は、菖蒲が席を立ってトイレに向かうのを見計らって、後を追った。凛は菖蒲の前に立ちふさがり、尋ねる。「原田さんの奥様ですか?お腹の子は、あなたが望んでできた子ですか?」菖蒲は一歩後ずさり、警戒した様子で凛を見た。「どなたですか?」凛は声を潜めた。「弁護士です。そして……かつて原田さんに性的暴行を受けた被害者でもあります」菖蒲は目を見開き、信じられないとい
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第13話

翔平が屋敷のドアを開けた時はもう夜の9時だった。リビングでは、父親の恭平が不機嫌な顔をして待っていて、持っていた杖を床に強く叩きつけた。「よく帰ってこれたものだな?お前のために見合いをセッティングした村上家の娘さんを、どれだけ待たせたと思っているんだ!」しかし、翔平は何も言わず、戸籍謄本を取り出してテーブルの上に置いた。恭平の目に、ほんの一瞬だか安堵の色が浮かぶ。書類を手に取って目を通した恭平は、少し口調を和らげた。「ようやく、まともなことをしたな」恭平が立ち上がる。「お前が身分を隠して、一介の弁護士から始めたいと言った時、俺は折れた。その後、松本家の跡継ぎの座を捨ててでも凛と結婚すると言った時も、俺は折れてやった」恭平は少し間を置くと、嘲るように言った。「だがどうだ?結局、お前の女癖の悪さは治らなかっただろ?」そして振り返り、デスクから分厚い書類の束を手に取った。それは、株式譲渡契約書と不動産の所有権に関する書類だった。恭平は、全てお見通しだと言わんばかりの態度で翔平を宥める。「男なんて、みんなそんなものだ。それに、お前は私の息子だから、俺が一番よく分かっている」恭平はリビングのソファを指さした。「今夜、村上家の娘と結婚し、村上家との政略結婚を承諾するなら、これらは全てお前のものになる」翔平は、恭平が指さした方を見る。シャネルのスーツを着た女性が、静かに座っていた。肩まで伸びた長い髪、整った横顔。凛とどこか似たその面影に、翔平の心臓が跳ね上がる。翔平はふと、凛と初めて会った時のことを思い出した。凛は背丈よりも高い法律資料の山を抱え、真っ赤なワンピースを着て、生き生きとした様子でオフィスに飛び込んできた。まるで軽やかに舞う蝶のように、自分の心に飛び込んできたのだった。親しくなるにつれて、凛の魅力が美しさだけではないことに気づいた。凛は冷静で理性的な頭脳を持っていて、複雑な案件にも、細やかな気配りで対応していた。彼女は正義感にあふれ、悪を憎んでいたので、社会的弱者の弁護案件を引き受けた時には、寝る間も忘れ没頭していたものだ。そして何より、決して挫けない粘り強さがあって、簡単に諦めることなんて絶対になかった。「翔平さん」いつの間にか、村上由理恵(むらかみ ゆりえ)が翔平の前に
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第14話

1週間後、江市裁判所。開廷の時間が10分後に迫っていた。廊下で翔平はネクタイを締め直す。顔を上げると、向かいから歩いてくる凛の姿が見えた。凛はきっちりとした黒いスーツを着こなしていた。足取りは落ち着いていて、その瞳には迷いのない強い光が宿っている。なんだか、雰囲気が以前と変わったような気がした。「久しぶりね、松本先生」凛はあくまで事務的な口調で話しかけた。翔平の胸に、まるで細い針が突き刺さったかのような痛みが走る。「凛……まさかこんな形で会うことになるなんてな。俺たちが法廷で戦う日が来るなんて、思ってもみなかったよ」凛は丁寧にお辞儀をした。「そうだね。私もクリーンなイメージで売ってた松本先生が、まさかお金のために、良心を捨てて悪質な事件の弁護をするとは思わなかったよ」翔平は一瞬ぽかんとしたが、なんとか気を持ち直す。「この案件の資料は読んだ。二人は夫婦だし、女性側は完全に同意の上で、男性側から多額の金品も受け取っている。振り込みの記録もちゃんとあるんだ。この裁判、君に勝ち目はないよ」凛は軽く微笑んだ。「お手並み拝見といかせてもらうね」翔平はなぜか胸騒ぎがした。「開廷!」裁判官が開廷を宣言し、法廷槌が鳴り響く。正人の弁護人として、翔平はまず、正人と菖蒲の婚姻届を根拠に、二人が法律上の夫婦であることを強調した。正人は被告席に座り、勝ったも同然とばかりに凛に挑発的な視線を送ると、さらには中指までも立ててみせる。凛は資料を強く握りしめ、こみ上げてくる吐き気を必死に抑えた。数回深呼吸をし、意識を完全に書類へと集中させる。「裁判長。原告側より証拠第1号を提出します」凛が提出したのは、事件当夜のバーの防犯カメラの映像の一部だった。そこには、明らかに意識が朦朧としている菖蒲を、正人が無理やり引きずっていく様子がはっきりと映っていた。続いて、菖蒲の診断書。写真には生々しいアザが無数に写っており、見るだけで痛々しい。傷害の時期は結婚前から結婚後にまで及んでいた。最後に、数本の音声データ。そこには正人が「お前の一家、皆殺しにしてやるからな」と脅迫する怒鳴り声が、はっきりと録音されていた。「証拠が示す通り、原告は性的暴行を受けた後、家族の安全と卑猥な動画を盾に脅迫され、やむなく被告と入籍しまし
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第15話

パンッ。乾いた平手打ちの音が、法廷内に響き渡る。菖蒲は手を下ろさずに、少し膨らんだ自分のお腹を指さしながら、声を震わせて叫んだ。「正人!あなたの大事な息子は昔裏社会の人たちに殺されたんでしょ。だから跡継ぎの男の子が、どうしても欲しかった!そのために、どんな手を使ってでも私を妊娠させて、子供で私を縛りつけようとした!でも、あなたの思い通りにはさせないから!今すぐ病院へ行って、この子を堕ろしてやる!この子にレイプ犯の父親なんていう重荷を背負わせるわけにはいかないから。一生苦しませるなんて、絶対にできない!」正人は雷に打たれたようなショックを受けた。さっきまでの傲慢な態度は一瞬で崩れ去り、顔には恐怖だけが浮かんでいる。正人はなんとか菖蒲に近づこうとしながら叫んだ。「やめろ!菖蒲!頼むから、原田家の子供を産んでくれ。金ならいくらでもやる!俺の全財産をやるから!」しかし、菖蒲は冷たく笑った。「そんな汚いお金、刑務所の中ででも数えてなさいよ!この人でなし!」正人はそのまま廷吏に引きずられていった。菖蒲は凛の手を握ると、目を真っ赤にして言った。「藤井さん、ありがとうございました……あなたがいなかったら、私の人生は真っ暗なままでした」凛は菖蒲の手を握り返し、静かに首を振る。「お礼なんていりません。あなた自身の勇気が、あなたの未来を照らしたんですから」凛は腕を広げ、菖蒲を抱きしめた。そんな瞬間をマスコミは見逃さない。翔平は少し離れた場所で、ただ呆然とその光景を見ていた。記者たちがインタビューしようと群がってきたが、翔平はいらだたしげにそれを押し返す。自分の甘さと油断のせいで、失ったのはこの裁判だけではないと、翔平は分かっていた。弁護士としての信頼も失ってしまったのだ。これからしばらく、仕事を依頼してくれる人は現れないかもしれない。しかし、悲しみはなかった。凛は5年前に受けた心の傷のせいで、レイプに関わる事件はずっと避けてきた。だが彼女は、今日自らの手でこの戦いに勝った。凛はついにあの悪夢から完全に抜け出したのだろう。そして、人生の舵をその手にしっかりと取り戻したのだ。今の凛が放つ勇気と強い意志は、あまりにも眩しくて、自分がみすぼらしく感じられるほどだった。翔平は無意識のうちに前に出て、
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第16話

翌朝早く、凛がいつものようにネットニュースを見ていると、百合が複数の男といかがわしいことをしている写真が、ネットで大々的に拡散されていた。吐き気がこみ上げてきた凛は、コーヒーカップを握る手に力を込めた。哲也は凛のタブレットを取り上げる。「見るな。どうせ松本先生がやったことだろう。君を取り戻すために、わざとこんなことをして誠意を見せようとしてるんだ。あんなクズがやるくだらないことに、いちいち君が影響されることはない」凛は落ち着いた表情で言った。「菖蒲さんの裁判をやり遂げたことで、こういうことにも向き合えるようになった気がする」哲也は、林檎をむいていた手を止めた。「5年前の事件の後、翔平が私のためにいろんなことをしてくれたから、無理やり『回復したフリ』をしていたの。だって、汚された自分なんて、翔平以外に誰も受け入れてくれないと思ってたから。だから翔平を愛そうと努力したし、普通の人みたいに生活しようとした。でも、本当はずっとあの影から抜け出せていなかったの」凛は哲也の向こう側を見つめ、過去を思い返すように言う。「よく悪夢にうなされたし、事務所に来る性犯罪の案件は、全部断ってた。でも、あなたが私にチャンスをくれた。菖蒲さんの裁判を、自分の手で勝ち取らせてくれたおかげで、ようやく『回復したフリ』をやめることができたの」凛の眼差しがますます強くなっていく。「これからは、もうこういう事件を怖がったりなんかしない。性被害に遭った女性たちをきちんと守ってあげたいの」哲也はうつむいて少し黙り込んだ。そして、探るように尋ねる。「松本先生が君を取り戻そうとしてるけど……あいつの元に戻るのか?」凛は哲也の強張っている顔を見て、ふっと笑った。「どうして『まだ彼を愛してる?』って、はっきり聞かないの?」哲也は勢いよく立ち上がった。でこぼこに剥いてしまったりんごを凛の手に押し付ける。「俺には関係ないことだし、答えなんて聞きたくもない」凛の答えを聞くのが怖いみたいに、哲也は慌てて逃げ出した。凛は俯いてりんごを一口かじり、小さく笑った。「すっぱい……てか、本当馬鹿。やきもちの焼き方も知らないんだから」3日後、翔平の記者会見が予定通り開かれた。凛は客席で静かに座っていた。翔平がカメラに向かって、涙ながらに語る。5年前、凛の事件を
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第17話

凛が背を向けた瞬間、翔平は彼女に飛びついた。凛の足に必死でしがみつき、悲痛な声で泣き叫ぶ。「凛、俺は君に一目惚れだったんだ。でも、君は弁護士として上に上り詰めることに夢中で、恋愛なんて考えてもいなかっただろ?何度告白してもうまくいかなくて……だから、あんな方法しか思いつかなかったんだよ……本当はタイミングを見計らって、原田さんが君に手を出す前に助けに入るつもりだったんだ。でも、渋滞に巻き込まれて……俺が駆けつけた時には、もう全部手遅れだった……」凛の体は強張り、胸が締め付けられるような痛みで息もできなかった。明かされた真実は、想像していたよりもずっと残酷で……いっそのこと、翔平が自分を一度も愛していなければよかった。そうすれば、心置きなく彼を憎めたのに。愛の中に卑劣な計算を隠していた翔平。それはまるで、甘い蜜をひと口飲み込んだつもりが、気づけば中に針が隠れていて、心の奥深くに突き刺さっていた……そんな痛みだった。そのやるせない痛みは、深くじわじわと凛の心を蝕んでいく。抜くことも、忘れることもできずに一生刺さったまま。凛は何度も口を開こうとしたが、喉からは声が出せなかった。やがて、歯の間から途切れ途切れの嗚咽が漏れた。「翔平。初めから、私を原田さんのところに売り飛ばすつもりだったって、そう言ってよ……だって、どれだけ綺麗なバラが彫られたナイフだって、それで刺されたら痛いことに変わりはないでしょ?」まつ毛を震わせる凛は、立っていられなくなり、最後は哲也の腕の中に倒れ込んだ。そして、涙でかすむ翔平の視界から、完全に姿を消した。その瞬間、記者たちが一斉に押し寄せ、マイクやカメラを翔平の顔に突きつけた。屈辱的な質問が、次から次へと浴びせられる。「松本先生!藤井先生の告発は事実ですか?藤井先生を手に入れるために、悲劇を自作自演したと?」「ヒーローを演じようと思ったら、それが裏目に出て藤井先生を被害に遭わせてしまったというのは、本当なんですか?」「この5年間の藤井先生の愛情は、全て演技だったのですか?それとも、藤井先生を本当に愛していたんですか?」「18歳の少女との浮気が原因で、自分の子供を死なせたことについて、今、何か言いたいことはありますか?」一つひとつの質問が、見えない縄のように翔平
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第18話

あの記者会見の後、翔平はまるでこの世から突然姿を消したかのようだった。法律事務所は倒産し、翔平も弁護士資格を剥奪され、その後の行方を知る者はいなかった。一方、凛はすぐに記者会見のショックから立ち直っていた。次々と舞い込む案件で、スケジュールは真っ黒。翔平のことを思い出す時間なんて、ほとんどなかった。もともと、凛が突然翔平と離婚し、松本家の宿敵である佐藤家に身を寄せたことで、マスコミは彼女に批判的だった。しかし、菖蒲の件とあの衝撃的な記者会見を経て、凛を見る世間の目は一変した。凛は家庭裁判所から表彰され、ますます多くの社会的支援を得るようになった。その3ヶ月後のある深夜、凛は弱い立場に置かれた女性の権利を守るための事件を終えたばかりだった。法律事務所を出たところで、突然、聞き覚えのある声に呼び止められた。「凛さん?」凛は呆気に取られながらも、ゆっくりと振り返る。「百合?どうして……そんな姿に?」凛は息を呑んだ。目の前の百合の姿に、思わず鳥肌が立ってしまったからだ。まだ18歳なのに、髪はパサパサに傷んで黄色く、目は落ち窪んでいる。そしてその瞳は、異常な光を放っていた。凛の心の中で、警鐘が鳴り響く。これは明らかに……凛はとっさにバッグを胸の前で抱え、数歩後ずさると、厳しい口調で言った。「来ないで!何か話があるなら、そこから話して!」百合がにやりと笑う。「凛さん、私のこと汚いって思ってるの?でも、私……凛さんのことがすごく羨ましいの。あんな汚されたのに、二人の男から宝物みたいに大事にされてる。それに比べて、私は?」百合は笑っていたが、その瞳には涙が浮かんでいた。「写真、見たでしょ?凛さんみたいな正義の味方なら、私のために裁判を起こして一肌脱いでくれるよね?だって、同じ目に遭ったんだもん。あの時の私の苦しみ、理解してくれるでしょ?」凛は氷のように冷たい声で言い返す。「あなたは被害者だし、法的支援を求めるのは当然の権利。でも、あなたの案件を私は引き受けない。うちの事務所には他の弁護士もいるから、そっちに頼んで」そう言うと、凛は背を向けてその場を去ろうとした。すると甲高い奇声を上げた百合が、凛の腕を掴み噛みつこうとしてきた。百合の歯が凛の腕に触れる寸前、黒い影が猛然と飛び出
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第19話

それから1年後、法曹界についに朗報が舞い込んだ。哲也は5度目のプロポーズの末、ようやく凛の愛を手に入れたのだ。結婚式では、豪華なウェディングドレスを身にまとった凛が、真っ白なクチナシのブーケを手に、新郎である哲也のもとへゆっくりと歩みを進めていた。凛の後ろに控えるブライズメイドたちは、みな凛が担当した事件の依頼人だった。彼女たちはかつて、未来への美しい希望を抱いていたが、次々と現れる悪魔のような男たちに地獄へと引きずり込まれてしまったのだ。目の前にいるこの勇敢な女性がいなければ、彼女たちはいまだにどん底から抜け出せずにいたかもしれない。菖蒲は微笑みながら凛のドレスの裾を整え、からかうように口を開いた。「昔は『仕事だけの関係で、恋愛はしない』なんて言ってたのは、どこの誰でしたっけ?すっかり考えが変わっちゃったみたいですね!」哲也は照れくさそうに頭をかきながら笑った。「あれは作戦のひとつだよ。いわゆる『時間稼ぎ』ってやつ!まあいいさ。口で言っても分からないだろうからな。この俺がちゃんとパワポで説明してやるよ!」照明が落ち、スクリーンが明るくなる。凛は驚きに目を大きく見開き、スクリーンに映し出されたものを見つめた。それは、自分が弁護士になってから初めて担当した事件から、昨日勝訴したばかりの事件までの全ての記録だった。薬を盛られて暴行された女性インターンのために、警察に駆け込んだ時のこと。バーの監視カメラの映像と、被害者の体から24時間以内に採取された体液の検査結果を証拠として、加害者に懲役10年の実刑判決を言い渡させたこと。長年にわたってモラハラに苦しんでいた専業主婦のために、親権を勝ち取ったこと。夫が婚姻期間中に隠した財産も、一円残らず取り戻してみせたこと。3年間も給料を支払われなかった作業員たちを連れて、現場監督の高級車を取り囲んだこと。ドライブレコーダーに残っていた音声から、現場監督が別荘を買ったと自慢する部分を抜き出し、それを使って汗水たらして稼いだお金を取り戻した。そしてそのお金で、依頼人の病気の子供を救ったこと。……パワーポイントの上映は10分にも及んだ。上映が終わると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。しかし、腕を大きく上げ誰よりも大きな拍手を送っていたのは、会場の隅にいたやつ
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