東都中の誰もが、ある茶番劇が終わるのを待っていた。セレブ界の御曹司、黒崎雄太(くろさき ゆうた)が、病弱な恋人の内田綾菜(うちだ あやな)と別れる、その瞬間を……3年だ。この3年間で、絢香は20回も健康診断を受けていた。そして、その結果で婚姻届が提出できないのも、20回となった。綾菜は何度も希望を胸に健康診断を受けに行ったが、結局は結果が芳しくなく、項垂れて病院から出てくるのだった。それでも、雄太は綾菜を世界一大切な宝物のように、甘やかし続けた。綾菜が初日の出を見たいと言えば、雄太は自分が39度の高熱だとしても、一晩中山頂で付き添い、肺炎になりかけたほどだった。全国絵画コンクールで、綾菜が最優秀賞を受賞した際、彼女はライバルからひどい誹謗中傷を受けたうえに、実力ではなく、裏でコネを使ったなどと、根も葉もない噂を立てられた。しかし雄太は、百年続く黒崎グループの名誉にかけて、綾菜の潔白を証明した。「綾菜の才能は誰にも汚させはしない。今日この場で、これ以上なにか言うやつがいれば、この俺が相手になる」と、人々の前で言ってくれたのだった。しかし、黒崎家は家柄も釣り合わず、おまけに病弱な綾菜との結婚を許さなかった。そして雄太に、最後通牒を突きつける。綾菜を諦めて莫大な資産を相続するか。あるいは、この病弱な女と一緒になり、全てを捨てて家を出るか。雄太は一秒たりとも迷わなかった。「俺は綾菜を選ぶ」書類にサインする雄太の手は一切震えておらず、その瞳はまっすぐだった。20通もの「健康状態に問題あり」という診断書を前に、綾菜の罪悪感は、つる草のように心を覆い尽くしていった。もしかしたら、これは自分みたいな人間は雄太にふさわしくないという神様からのメッセージなのかもしれない。綾菜がそう口にする度、雄太は彼女を腕の中に抱きしめ、まるで祈るかのような口調で言った。「綾菜。どんなお前でも俺はずっと愛してる。たかが診断書一枚だろ?そんなもので、俺たちの愛が引き裂かれることはないよ」雄太の低く優しい声は、どんな言葉よりも甘く、心を惑わせるようだった。綾菜は雄太がくれる優しさの中に溺れていった。一生、正式な夫婦になれなくてもいい。ただ雄太の傍にいられるなら、それで構わないと覚悟もしていた。そう。21回目の、あの日までは
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