瀬戸美夕(せと みゆ)はまる一年間「失明」していたが、どんな目の見える人よりも物事を見抜いていた。たとえば、婚約者の須藤準一(すどう じゅんいち)が、つい先ほど別の女性と婚姻届を提出したことについても――……浴室の中から、絶え間なく水の音が響いている。美夕は静かにベッドの端に腰を下ろすと、その美しい瞳はうつろに前方を見つめていた。まるで本当に何も見えていないかのように。ところが、準一のスマホの画面が新しいメッセージで光った瞬間、彼女の視線はぴたりとその内容を捉えた。【準一!嬉しくて一秒だって待てない。ずっと一緒にいたい】送信者は河野玲子(かわの れいこ)だ。心底では冷ややかな笑いがこみ上げる。それでも彼女は、従順で無垢な表情を崩さなかった。彼女は手探りで準一のスマホを取り上げ、さりげなく指先で画面をタップした。音もなくロックが解除されると、そのまま彼と友人のトーク画面を開いた。ほんの一瞥しただけで、頭の中がゴーンと爆発するような衝撃に襲われ、全身の震えが止まらなくなった。【あの時、もし玲子にそそのかされて暴走運転なんかしなければ、お前が脊椎を損傷して丸四年も寝たきりになることはなかったはずだ!】【お前が事故を起こした直後、あの女はすぐに海外へ逃げたんだ。ずっとそばで看病してきたのは美夕だぞ。お前を救おうとして彼女は視力まで失ったんだ!】【ようやく身体が回復したばかりなのに、こっそり玲子と入籍するなんて、美夕に顔向けできるのか!】相手の怒りに満ちた言葉が今にも画面から飛び出しそうだった。だが、準一の返信は冷ややかで、あまりにも当然のようだった。【もう、これでいいんだろう?玲子は俺の子を身ごもってるんだ。彼女に立場を与えねばならない……だが、これからも俺はずっと美夕のそばにいるよ】【一週間後には、これ以上ないほどの盛大な結婚式を挙げてやる。それでも、この四年間の償いにはなりやしないというのか?】【そもそも、あいつは目が見えないんだ。俺以外の誰が受け入れるというんだ?】美夕の目はその数行の文字を釘付けにし、やがて視界が霞んで、それ以降の会話は一切頭に入らなくなった。指先から力が抜け、携帯電話がばたりと柔らかい布団に落ちた。彼女の体はぐったりとその場に崩れた。――まさか、自分の婚約者がすでに別の女性
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