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第7話

Author: クチナシ
おばあちゃんは、この世で一番彼女を可愛がってくれた人だった。このペンダントも、おばあちゃんが長い時間をかけてお金を貯めて買い、結婚祝いとして贈ってくれたものだ。

けれど今、そのおばあちゃんの形見が玲子のような女の手にあり、しかもそれを見せびらかす道具にされている。

胸の奥から込み上げる怒りをもう抑えきれず、美夕は何も考えずに飛び出した。タクシーを拾い、玲子が指定した場所へ向かった。

公園の人工湖に着くと、ちょうど食事時だった。公園には散歩している数人しかいなかった。

湖畔のベンチに玲子が座っており、美夕の姿を見つけるとすぐに立ち上がり、嘲るような笑みを浮かべた。

「あら、よくここまで来られたね。盲目でも意外と自立できるんだ」

美夕は彼女と無駄話をする気などなかった。拳をぎゅっと握りしめ、抑えきれない怒りを声に込めて言った。

「くだらないこと言わないで、さっさと返しなさい!」

玲子はその言葉に、顔の軽蔑の色をさらに濃くした。ポケットからあのペンダントを取り出し、指先でつまんでひらひらと見せつける。

「へぇ、そんなガラクタがそんなに大事なの?でも、一応これは準一さんが私にくれたものよ。たとえ気に入らなくても、あなたには渡さないわ」

彼女は二歩ほど前に進み、美夕の顔にぐっと近づく。声を少し低くしたが、その響きは悪意に満ちていた。

「目の見えないあんたが私と準一さんを奪おうなんて、夢見てんじゃないわよ!四年間も彼のそばでまるで家政婦みたいに尽くしてきたのに、結局どうなった?彼は私と結婚したの。しかも今、私は彼の子を身ごもってる!あんたなんか、いてもいなくても同じよ!」

言い終えると、玲子は手の中のペンダントに一瞥をくれ、手首をひらりと返して、そのまま人工湖へと投げ捨てた。ペンダントは空中で弧を描き、ポチャンという音を立てて水の中へ落ち、すぐに姿を消した。

「欲しかったんでしょ?じゃあ自分で湖に入って探せば?」

そう言い捨てると、玲子は嘲るように笑った。

「そんなに自立してるなら、自分で見つけられるんでしょ?ねえ?」

その瞬間、美夕の頭の中で張り詰めていた糸がブツンと切れた。考える間もなく、彼女は飛びかかるようにして全身の力を込め、玲子の頬を平手打ちした。

玲子の顔が一瞬で歪んだ。咄嗟に反撃しようと手を上げかけたが、美夕の背後に立つ人影を見た途端、動きが止まった。次の瞬間、その目に陰湿な計算めいた光が走った。

彼女は素早く美夕の手首をつかむと、思い切り引き寄せ、美夕を湖の方へ引きずり込んだ。

準一が遠くから駆け寄ってきて湖畔にたどり着いた時には、もう二人はもつれ合い、欄干に寄りかかって今にも湖へ落ちそうに揺れていた。

彼は焦りのこもった声で叫んだ。「やめろっ!」

玲子はその声を聞くと、口元に勝ち誇った笑みを浮かべた。

彼女は美夕の耳元に顔を寄せ、冷たく囁く。

「あんたみたいな目の見えない女が、準一さんを奪えると思うなよ」

そう言い放つと、遠くに向かって叫んだ。

「助けて!」

声が終わらないうちに、玲子は全身の力を込めて美夕を巻き込み、湖へと飛び込んだ。

ドボンッと二つの水音が響き、二人の姿は水面に飲み込まれた。

準一はその様子を見るなり、一瞬の躊躇もなく湖へ飛び込み、必死に二人の方へ泳いでいった。

周囲を散歩していた人々も騒ぎに気づき、ためらいながらも次々と湖に飛び込んで助けに向かった。

美夕が湖に落ちた瞬間、頭に浮かんだのはたった一つ――おばあちゃんのペンダントを探さなくては。

だが、人工湖の水は深く濁っており、ペンダントの形すら見えなかった。

その時、彼女は準一がこちらに向かって泳いでくるのを目にした。しかし彼は美夕のそばを通り過ぎ、まっすぐ玲子のもとへ向かい、彼女をしっかりと抱き上げて岸へと連れていった。

冷たい湖水が美夕の体の奥深くに染みわたり、内臓まで凍りつくようだ。体は自由を失い、ゆっくりと沈んでいく。

その瞬間、美夕の心は完全に冷え切った。

冷たい湖水が内臓の奥まで凍えさせるように浸透し、意識が少しずつ薄れていく。体はもう自分に従わず、ただ深みへと沈んでいくばかりだ。

心に浮かんだのは、ただ一つの思いだけだ――

この人生でいちばんの過ちは、準一を好きになったことだったんだ……

息が途切れそうになったその瞬間、力強い両手が彼女を水面へと引き上げた。

胸を激しく押されるたびに、美夕の意識は少しずつ戻ってきた。

周りに集まっていた人々は、二人が無事だと分かると、次第にその場を離れていった。

準一は玲子を落ち着かせてから駆け寄り、美夕を強く抱きしめ、涙混じりの声で言った。

「美夕、ほんとに怖かったんだ!俺……さっき、本当にお前を永遠に失うかと思ったんだ、分かるか?」

美夕は彼の胸に寄りかかりながら、体を震わせていたが、心の中はもう何の感情も湧かなかった。

準一が真っ先に玲子を助けに向かうのを見たあの瞬間から、美夕の心は空っぽになっていた。今はただ、この気まずい場所から逃げ出したい――それだけだった。

ぼんやりと家に戻ると、美夕はバスルームに入り、シャワーを浴び始めた。

温かい水が頭上から降り注ぎ、頬を伝って流れ落ちる。そのぬくもりに包まれて、ようやく少しだけ生きている実感が戻ってきた。

だが、湖の中で味わったあの息苦しさは、まだ頭から離れない。ドアの外から時折聞こえてくる準一の表面だけの気遣いが、彼女にはひどく皮肉に響いた。

美夕は浴室の壁にもたれ、ゆっくりと考えを巡らせた。

この四年間、彼女はずっと自分が準一の救いであり、彼の最も苦しい時期を支えてきた恋人だと信じてきた。

けれど、もしかしたら準一は最初から彼女の救いなど必要としていなかったのかもしれない。二人の始まりは、最初から間違いだったのだろう。

シャワーを終えた美夕が浴室から出てきた瞬間、準一が駆け寄ってきた。手には乾いたタオルを持ち、おずおずと彼女の髪を拭い始めた。

「美夕、お前が落ちたあと、すぐに俺も飛び込んだんだ。でも泳ぎが下手でさ、助けに行くのが遅くなって……本当にすまなかった」

準一は一呼吸置いて、続けた。

「明日は俺たちの結婚式だろ?体調は大丈夫か?もし無理なら、数日延期することだってできるんだ」

準一の止まらない嘘を聞きながら、美夕はふいに、もうこれ以上は嘘に付き合いたくないと思った。

「大丈夫よ、準一。あんなに楽しみにしていた結婚式だもの、延期なんてできないわ。予定通りに挙げるよ」

美夕の揺るがない表情を見て、準一は何か言いかけたが、突然鳴り響いた着信音に遮られた。

彼は「妻」と名を登録した番号を見て、すぐに立ち上がり、その場を離れて通話に出た。声を落として数言交わすと、戻ってきて美夕の頭をそっと撫でた。

「そこまで言うなら、予定通りに進めよう。お前には最高の結婚式を贈るよ。

明日の式の準備のために、今夜はホテルで泊まるから、いい子で家で待っててね」

そう言い残し、準一は美夕の冷たい表情に気づかないまま、大股で立ち去った。

美夕はスマホを取り出し、画面のフライト情報を見つめると、スーツケースを引っ張ってタクシーを拾い、空港へ向かった。

朝の光が差し始めるころ、準一は迎えに家の前に到着した。

家に入った瞬間、彼は呆然と立ち尽くした。

家中を見渡しても美夕の姿はなく、あのスーツケースさえ消えていた。

虚ろな目で何度も確認した後、混乱と焦りが一気に押し寄せた。周囲に声をかけられてようやく我に返ると、慌ててスマホを取り出し、美夕に電話をかけた。

美夕は今まさに離陸しようとする飛行機の中で着信表示を見ると、一瞬のためらいもなく通話を切った。

短いメッセージを打ち終えると、準一のすべての連絡先を素早くブロックし、削除した。

【準一、もうあなたの顔を見るのも嫌。結婚なんて、とうに諦めていたの】
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