毛布のざらついた繊維が、凍えきった頬を容赦なく擦る。 窓のない薄暗い独房の中で、幾度目の浅い眠りから引きずり起こされたのか、もはや正確な時間はわからない。ただ、コンクリートの床から這い上がってくる暴力的な冷気だけが、内臓の温度をじわじわと奪い続けていた。 遠くで、金属同士がぶつかる重々しい音が響く。 複数の靴音が、硬い床を叩きながら一定のリズムで近づいてくる。 鉄格子の向こう側に、制服を着た看守の影が落ちた。 重い扉が開かれる。 立ち上がるよう促す無機質な声に従い、壁に手をついてゆっくりと身体を起こした。 丸二日、まともな食事も水分も摂っていない肉体は、鉛のように重い。ストッキングに覆われた足先は感覚を失い、膝裏の筋肉が引きつるように痛む。 それでも、背筋だけは絶対に曲げない。 監視カメラのレンズが赤く光る廊下を、ゆっくりと、だが確かな足取りで進む。 頭の中は恐ろしいほどクリアだった。昨晩の取調室でのやり取り。あの特捜部の男の、焦燥しきった顔。私が突きつけた「裏金と放免」の二択は、すでに彼の理性を完全に食い破っているはずだ。 勝負はついている。 あとは、あの男が敗北の書類を持って現れるのを待つだけ。 再び通されたのは、昨日と同じ窓のない取調室だった。 過剰に設定された空調が、微かな唸り声を上げながら乾燥した冷気を吐き出している。 パイプ椅子に腰を下ろす。ビニール製の座面が、わずかに残っていた体温を奪っていく。 机の上に両手を置き、指先を軽く組む。 早く、この無菌室のような空間を抜け出したい。 限界まで待たせている、あの熱を帯びた獣の元へ帰らなければならない。 首筋を擦り寄せてくる荒い息遣い。骨が軋むほどの強い抱擁。狂気に満ちた眼差し。それを想像するだけで、凍えた身体の奥底で小さく火が灯るのを感じた。 ガチャリ、と。 分厚い鉄の扉が、外側から開かれた。 入ってきたのは、昨日と同じグレーのスーツを着た男だった。 だが、その様子は明らかにおかしい。 机の上にバインダーを置く手は小刻
Last Updated : 2026-03-02 Read more