Semua Bab 間違い人生のトリガーを破壊して新しい人生を謳歌します!: Bab 81 - Bab 90

103 Bab

第81話

ところが、そこには既に凛華がいて二人で静かに寄り添っていた。二人の親密な様子を見た途端に胸の辺りがちくりと痛んだ気がした。その為にすぐに声を掛けることができずに控室のドアの前に佇んでいた。少ししてビョルンが身体を起こして凛華の方を見て言った。「ありがとう、凛華。もう大丈夫。凛華も疲れてるだろう?そろそろ戻って休んで。」凛華は、目元に力が戻り落ち着きを取り戻したビョルンを見て、ほっとした。「よかった、じゃあ……。」と言って立ち上がりかけた所で、「ビョルン、お待たせ!凛華も一緒?ちょうどよかった。いっぱい買ってきたから一緒に食べよう。少しくらいなら時間あるだろ。」フローデが今戻ったかのように部屋に入って来た。「フローデ。あなたもお疲れ様たったわね。本当に私もいいの?」「もちろん!ビョルンもいいだろう?」「ああ。」3人はそれぞれ好みの飲み物とパンやデザートを分け合って空腹を満たした。一息ついたところでフローデが尋ねた。「ビョルンのママの容態はどうなの?」「腹部の傷は何とか処置をして落ち着いているわ。内臓の損傷部位はそんなに大きくなかったから回復後の後遺症は殆どないと思うわ。でも骨折はそれなりに時間がかかるから当分は入院になると思う。問題は目ね。街灯が壊れてその破片が入っていたの。全部取り除いたのだけど、一つだけ少し刺さっていたのがあってね。視力にかなり影響が出ると思う。今は傷の手当てをしているだけで、見え方については患者さんが目覚めてからになるわ。」「視力が……?」言葉を失うビョルンに凛華が慌てて説明を加えた。「そんなに深い傷ではなかったから、全く見えなくなったりはしないわ。ただ、暫くはお仕事をお休みする事になると思う。」ビョルンの母はこの国の伝統刺繍の技術者だ。作品は何度も見せてもらったことがある。繊細な技術と鮮やかな色彩のとても美しい作品だった。彼の父はその作品を扱うインテリア雑貨の会社を営んでいる。今は商談の為にD国に出張中で、中々戻って来られないらしい。「そうか。今は急ぎの仕事はなかったと思うから大丈夫だ。」「よかった。だったら焦らずに治療に専念してもらえそうね。」その後ビョルン達と別れた凛華は、外科の医師の執務室に向かった。院長に呼び出されたロルフが気になったからだ。ロルフは既に戻っていた。「ロルフ先生、お疲れ様でし
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第82話

あの患者の代理人?息子の保証人のことか?ということはこの人が凛華の父親?凛華は確か“若桜凛華”という海外からの留学生だったはずだ。だが、この男性はこの国の人だ。しかもロックスマンといえば有名な名家のはず…。黙り込むロルフに気付かないかの様に院長が話を続ける。「今日の救急患者の受け入れについてなのだが。なぜスサンナさんは外科外来になったのだ?事前の交渉では当院は重症者4名を救急センターで受け入れる事になっていただろう?眼科医も待機していたはずだ。なのに別の眼科医が外科外来へ呼ばれたらしいな。それらの不手際のせいで患者に後遺症等の影響が出たなら、責任の追及も検討しなくてはならないとお考えだ。」「院長先生も既にご承知だと思いますが。僕は所謂”割り込み“が入り、そのせいで重症者が1名拒否されそうだとの話を耳にしました。今回当院に来られる予定の方は重症者ばかりです。そんなことがあってはならないと考え、手が空いていた自分が救急のサポートに向かったのです。危惧した通り、患者が到着した時待機していたのは研修医1名と看護師2名、事務職員1名だけで、受け入れ拒否の寸前でした。そこで自分の判断で外科外来へ移動していただき、そこで対応させていただいたのです。眼科医は昼食の約束をしていた友人で、手が空いていると確実に分かっていたので呼びました。」「なるほど。ロックスマンさん、いかがでしょうか。」「お話を聞く限り、受け入れの不手際で処置に大幅な遅れを出したわけではないと判断できますね。ご説明ありがとうございました。」「納得いただけて良かったです。君、もういいよ。」「はい、失礼します。」部屋を出た後、ロルフは幾つかの疑問点が浮かんで来て混乱していた。一つは、凛華のこと。彼女に初めて会ってからもう8年になる。お医者さんになりたいと真剣に語る可愛らしい子供だった。年の差はあったものの、同じ学園の医学部に進学したのでたまに会うこともあった。その度に、軽く挨拶を交わしたり、たまに食事やお茶をしたりする程度の関係だった。 この春、彼女は夢を実現しほぼ最年少で医師免許を取得した。そして、半ば冗談で言っていた“同僚”になったのだった。幼くしてこの学園に留学して、稀に見る優秀さで目標に辿り着いたのは彼女の努力と優秀さは勿論、多額の学費を提供出来る裕福な家庭があってのこととは想像に難くな
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第83話

あの院長の事だ。何も感じない訳がない。ロルフはそれとなく情報を集める事にした。凛華は、翌日のお昼前にビョルンの母の様子を見ようとICUに寄ってみた。まだ昏睡状態が続いていたが、容態は落ち着いているようだった。念の為に通りかかった看護師に声をかけた。「すみません。こちらの患者さん変わり無いですか。」「スサンナ=エーヴェルスさんですね。まだ目覚めてはいませんが落ち着いていますよ。ただ、目についてはまだ分からないですね。今朝も眼科の先生が傷の具合を確認されていましたけど、もう少し様子をみないとっておっしゃってました。」「そうですか。ありがとうございます。」「はい。」凛華自身、刺繍を趣味にしているので彼女にとっての目の大切さはよくわかる。目覚めた時にパニックにならなければいいのだが。そこで再びさっきの看護師に頼むことにした。「度々すみません。この患者さんは知人のお母さんなんです。もし目覚めたら私にも連絡いただけませんか。私は研修医の若桜凛華です。」「若桜先生ですね。わかりました。担当看護師に引き継いでおきます。」「ありがとうございます。お願いします。」大事にならなければいいのだが……。という願いも叶わず、夕方になり凛華の勤務時間も終わろうかと言う時に院内用の携帯が鳴った。「はい、若桜です。」「若桜先生、こちらICUです。エーヴェルスさんが目覚められたのですが、右目が見えないことでひどく取り乱されて大変なんです。ご家族にも連絡したのですが、先生もすぐに来ていただけませんか。」「わかりました。すぐ行きます。」凛華が辿り着いた時もまだスサンナの泣き叫ぶ声が聞こえていた。「大丈夫ですから、落ち着いてください。お腹の傷に障ります!」「何が大丈夫なの?こんなにお腹は痛いし、右目は何も見えないのよ!左目だけじゃ無理よ!仕事が出来なくなったらもう私には生きてる価値なんてないわ!」「そんなことありません!」「離して!もうだめ!だめなのよ!」凛華は早足でスサンナの側に行き、両手で包み込むように彼女を抱きしめた。そして出来るだけ落ち着いた声で話しかけた。「おばさま、落ち着いてください。凛華です。フローデの従兄弟でビョルンの友人の凛華です。覚えていらっしゃいますか?」凛華は落ち着かせるようにゆっくりと背中を擦りながら、やはり落ち着い声で語りかけた。「
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第84話

「そう。それで……。」スサンナがその先を少し言いづらそうに口ごもった。凛華は一瞬首を傾げたがすぐに気付いた。「おじ様はお昼前の便で戻られたそうですよ。面会時間にビョルンと来られたと聞いています。」「リカールが?」「はい。ビョルンからメールが来ていました。」「そう……。彼が……。凛華ちゃん、ありがとう。」「はい、お大事になさってくださいね。」凛華が去った後少しして、ビョルンと彼の父が再び面会に来てスサンナの無事を喜んだそうだ。凛華はその日の勤務時間は終了していたが、念の為救急センターに戻ってみた。特に変わりはなさそうなので帰ろうと思いスタッフルー厶に入ると、3人の看護師達が何やら話し込んでいるのが聞こえて来た。「あの患者さん今夜も入院するそうよ。」「どうして?元々ただのショックによる気絶だけだったんでしょ?」「そうよ。なのに彼女は1人暮らしで万が一のことがあったら心配だ。とか言って付き添いの男性が入院させるって言い張ったらしいわ。」「あの男性BMC社の社長らしいわよ。」「BMC社って医療機器の会社でしょ?」「そう、数年前には再生医療の研究所を立ち上げたって言う噂の?」そこまで聞いて凛華は思わず立ち止まった。会社名を聞いてふと気になったからだ。凛華はそのまま何気ない振りをして会話に加わった。「その秘書さんてどんな人なんですか?」「?……、若桜先生?」いつもはあまり噂話に興味を示さない凛華が、突然話に入り込んで来たため看護師達は戸惑った。しかし凛華はそんな様子に気付かないかのように、気軽な感じで話の続きを促した。「社長自らにそんなに気遣って貰えるなんてどんな人なのか気になって。ちょっと羨ましいじゃないですか。」そう言ってニコリと笑って軽く首を傾げて見せたのだ。いくら優秀とはいえ、凛華も若い女性である。やはりそういうことに興味を持つのかと親近感をもった看護師達は、話の続きを始めた。「年齢は28歳で知的な感じの人ですよ。脳神経内科の個室に入っています。ご自身は無口で物静かな感じに見えるのですけど、昨日から何人もお見舞いに来られているそうですよ。」「そうなんですよ。来られる方皆さん受け付けやナースステーションとかで詳しく容態を尋ねたりされて。よほど皆さんに慕われているんですかね。」「同僚の男性秘書さんなんてわざわざ主治医の先生
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第85話

それからの2日間は教授の指示に従い、救急センターの仕事に専念した。休憩時間にはスサンナを見舞ったり、同僚達と雑談をしたりといつもよりはのんびりと過ごしていた。 例の女性秘書は、流石に事故から3日目には退院したそうだ。その翌日、警備会社の人の姿を度々見かけた気がしたがそれも1日で終わり、夕方には教授から連絡が入った。 「はい、若桜です。」 「どうだ。少しはのんびりできたか。」 「ええまぁ……。」 「それはよかった。こっちは大分データが溜まってしまって大変なんだ。今夜からまた来てくれ。事情はその時に話すよ。」 「わかりました。」 その日の救急センターでの仕事が終わった後、凛華は脳神経外科のグスタフソン教授の研究室を訪れた。 彼は凛華の指導教授であると同時に、この大学病院で内密に進められているあるプロジェクトの責任者でもある。 凛華は学部を卒業後修士に進もうと考えていたが、教授からこのプロジェクトへの参加を勧められた。今の凛華の役割は主にデータの整理だが、もう少し研究が進むと移植外科医としての役割も期待されている。その為に、今はひたすら現場で実技の経験を積むことに励んでいる。 「失礼します。若桜です。」 「入れ。」 少し緊張の面持ちで室内に入ると、室内には既にこのプロジェクトに参加している医師たちが集まっていた。 「これで全員だな。今回の事では心配をかけたと思う。済まなかった。しかし、はっきりしたことが分からなければ説明もできなかったので仕方なかったんだ。」 教授の説明はこうだった。 今回の事故を調査し始めたある弁護士から問い合わせが入った。それは、今回の事故は偶然では無いような感じがする。一番の違和感はBMC社の秘書の強引な入院だ。何か心当たりはないか、というものだった。 BMC社と言えば、今一番関連がありそうなのはこのプロジェクトだ。そこでその患者周辺を注視していた所、やはりその患者の関係者が院内の情報収集に動いていることが分かった。そしてその標的は脳神経外科であることもほぼ間違いない。そこで、プロジェクトの情報を守る為にメンバーの医師を一時待機させたのだ。 「廊下の手摺や受付カウンターとかトイレにまで盗聴器をつけたりして迷惑この上ない奴らだった。」 教授は憮然とした顔で説明していた。が、一呼吸お
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第86話

「おばさま。目もお腹も傷は順調に回復していますよ。ずっと頑張って来られたのですから、今はゆっくり休んでください。」「ありがとう。でもね……。会社の事もエルシー達の事も気になって落ち着かないの。」「私達のこと?私達はちゃんと練習を続けられますよ。」「それは分かっているわ。でも、技術はともかくデザインはまだまだだから商品としてはちょっと……ね。」「それは……。」スサンナの弟子のエルシーは、情けない顔で俯いてしまった。少し暗くなってしまった雰囲気を変えようとビョルンが明るい声で言った。「ママの怪我が治るまでくらいパパがちゃんと頑張るよ。心配しないで。」しかし、二人の表情は変わらなかった。何かいい方法はないものかと考えた凛華は、はっと思いついて顔をあげた。「【AKOGARE】は?」「それって香水ブランドの?それがどうしたの?」「そのブランドに私の知り合いがいるんです。それで先日、次のキャンペーンで何かいいアイデアがないか相談されたんです。私はキャラクターを刺繍した限定グッズを考えたんですけど、機械のは味気ないし特別感がないけど、手刺繍は引き受けてくれるところがないんじゃないかって却下されたんですよ。もし引き受けて貰えれば……。」「それ、やるわ!」「いや、まだ詳しい話もしてないんですけど……。」「何言ってるの!【AKOGARE】のキャラクターってあのマキ・フカサワさんのデザインでしょ?それを刺繍できるなんて最高の練習になるじゃない。ね!先生もそう思いません?」「ええ、そうさせていただけるなら私も暫く安心出来るわ。でも、大丈夫なの?」「多分、大丈夫です。以前試しに作った物を見せたら、かなり気に入っていたので。」「凛華ちゃんが作ったの?それ、私も見たいわ。」「いえ、私のは伝統刺繍ではないのでちょっと……。」「構わないわ。ぜひ見せて。」「わかりました。では近い内に持って来ますね。あと、友人を紹介させてください。詳しいお話はその方とお願いします。」「分かったわ。ありがとう、凛華ちゃん。」「お役に立てたら嬉しいです。お大事になさってくださいね。」凛華はそう言って病室を後にした。凛華が廊下に出ると、そのすぐ後ろをビョルンがついて来ていた。「凛華、ありがとう。ママはあの事故以来ずっと元気がなかったんだ。あんなに嬉しそうな顔、久しぶりに見たよ
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第87話

「そう言われればそうかも。もしバレたらとんでもないことになってしまうわね。そこまでしなくても入院くらいできるんじゃない?」芙美華はグドムンドに同意した。「じゃあ他に何か意図があったってこと?」「僕はその可能性が高いと思うが、今の所分からない。」「ねぇお父さん、私にも監視カメラの映像を見せて貰える?何か気付くことがあるかも。」「う〜ん。事務所まで来られるか?そうしたら見せてあげられる。幾つかは極秘扱いで持ち出せないんだ。」「大丈夫。明日は夜勤だから午前中は空いているわ。」凛華は翌日朝9時過ぎにグドムンドの事務所に着いた。そしてすぐに映像が見られる部屋に籠もって、大量の映像を次々と見ていった。それらはグドムンドの調査チームが集めた、事故現場近隣の監視カメラの物から通行していた車のドライブレコーダー、近隣にいた人達の携帯画像等様々な物があった。よくもこれだけ集めたものだと感心しつつもひたすら画像に集中し、11時半近くになってしまった。それまでに見た映像の中には、スサンナが怪我を負った瞬間の物もあった。それには、追突され街灯にぶつかり、さらに歩道にまで乗り上げた車が、街灯の欠片を浴びて体勢を崩した彼女の腹部に衝突し、ようやく停止する様がはっきりと映っていた。最初にそれと気付いた凛華は、あまりの傷ましさに直視できなかった。けれど、今後の事を思ってもう一度しっかりと確認した。まだ確認できていない物は沢山あったが、時間もなくなって来てしまった。最後に、と、一つの映像を選びしっかりと見始めた。この後数秒後、あの大事故が起こるとは誰も予想していなかった平穏な事故現場。人も車もいつも通りに移動をしている。凛華は何気なく歩道を歩く人物に目を向けて一瞬目を見開いた。慌てて巻き戻し、今度はその部分を拡大してじっくりと見直した。そしてその人物が間違いなく自分の思った人物であると確信した。「どうしてこの人がここに?」疑問に思いながらも、すぐにグドムンドに報告した。今度は、グドムンドと彼の秘書も一緒にその映像を見た。映像は事故のあった車線とは反対の車線に面した建物の、2階の部屋から撮った携帯の映像だった。凛華が見つけた人物と、BMC社の社長が乗っていた車がすれ違ってすぐに、その車が急停車した。その動きに反応できなかった後続車が追突し、次々と衝突が連鎖していった
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第88話

「言いそびれていてすみません。彼女はとてもしっかりしていて素敵な人です。いいお話し合いが出来ると思います。」「そうなのね。ますます楽しみだわ。」「それから、これ、持ってきました。いろいろ拙くておばさまにお見せするのは恥ずかしいんですけど。」凛華は鞄の中から、横長の楕円形でがま口の付いたポーチを取り出した。それには、3人の妖精が大きな葉っぱの上で仲良く木の実を食べている刺繍がしてあった。「あら、可愛い!こんなデザインは初めて見たわ。」「未発表のを許可を得て使わせて貰ったんです。自分で楽しむのに使うだけならっていう条件で。」「そうなのね。少し借りててもいいかしら。参考にさせて。」「こんな物でよろしければどうぞ。」スサンナは惜しげもなく気軽に作品を預ける凛華に、内心驚きながらも平静を保ちポーチを受け取った。凛華が帰った後、スサンナはポーチをじっくりと観察し、感心しながら呟いた。「お医者さんにしておくのは惜しい才能ね。伝統技術は入っていないけど、色使いやステッチの選択が絶妙だわ。」スサンナはひとしきり眺めて楽しんだ後、ベッド横の棚にポーチを置いてから横になって休んだ。スサンナがぐっすり寝入った後に、弟子の一人のメイブリットが面会に来た。彼女は弟子になってまだ日が浅い。にも関わらず、今日【AKOGARE】のチームリーダーが来ると聞いて一番にスサンナの付き添いに名乗りをあげた。後の二人は今日はおそらく顔合わせ程度だろうと思い、仕方なくその役割を譲る事にした。彼女は【AKOGARE】の妖精のような、可愛いレースをふんだんに使ったライトグリーンのワンピースを着て意気揚々と病室に入って来た。「先生、おはようございます。お加減はいかがですか。」声を掛けてみたが返事はない。そっと枕元に近寄ると、スサンナはぐっすりと寝入っている。起こさないようにと静かにベッド脇の椅子に座り、何気なく部屋の様子を見回してみた。この部屋は来客用の応接セットやミニキッチンも付いた豪華な個室だ。壁に沿って設置されている棚には華やかなアレンジフラワーなどお見舞いの品々が幾つも並んでいる。おそらく多くの見舞客が訪れたのだろう。病室ではあるが、華やかな応接室にいるような居心地の良い部屋だ。 一通り見回した後ベッド横の棚に目を向けると、楕円形のポーチが目についた。手に取って見て
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第89話

二人は自己紹介の後、凛華のことを少し話題にしてから本題へと話を進めて行った。凛華の予想通り、二人は大人の対応が出来る上に気も合い、どんどんと話も進んだ。ただ一人、話題についていけないメイブリットは不機嫌を隠そうともせずスサンナのベッド脇に突っ立ったままだった。それでもマリアのアシスタントが素早く記録を取っていたので問題はなかったのだが、見かねたスサンナが指示を出した。「メイブリット、お客様にお茶の用意を。」「え?私がですか?」「あなたは何のためにここにいるの?」「……。」彼女は流石にこの場で自分の目論見を口にはできなかった。渋々ミニキッチンに向かったものの、慣れない手つきで手間取り、挙句に茶葉の缶をひっくり返して駄目にしてしまった。大きな物音で状況を察したスサンナは、マリア達に申し訳なさそうな視線を送った。マリアは全く気にする様子もなく薄く笑みを浮かべて首を振った。スサンナはもう一度メイブリットに指示をした。「メイブリット、あなたはもういいから控室に下がっていなさい。」「えっ?おばさま、でも……。」「早く言うとおりになさい。」 スサンナの冷たい声に、これ以上は無理だと悟った彼女は静かに部屋から出て行った。マリアはふと 、彼女が思わず言った“おばさま”という一言が引っかかった。そこでさりげなく尋ねてみた。「さっきの彼女はお弟子さんの一人ではなかったのですか?」「何度も頼まれて、つい最近仕方なく引き受けたんです。彼女はご近所さんなんです。息子と年が近くて、以前は兄妹のように仲がよかったのですけど……。」スサンナは困ったような顔でその先を詰まらせた。それを見たマリアは何となく先を察して話を終わらせた。「そうでしたか。立ち入ったことをお聞きしてすみませんでした。もう少し、さっきの続きをよろしいですか?」スサンナはほっとした表情でそれに応じた。病室から追い出されたメイブリットは、悔しそうな顔のまま付き添い人用の控室に入って行っ彼女の予定では、今頃マリアと今後の予定について相談しているのは自分のはずだった。というのも、彼女にとって【AKOGARE】はまさしく”憧れ“の対象だった。イメージキャラクターたちの愛らしいイラストも洗練された香りも大いに彼女を魅了していた。ところが昨日、その責任者が師であるスサンナに仕事の依頼の為に会いに
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第90話

病室で話し合いをしていたマリア達が、そろそろ終えようとした時だった。マリアのアシスタントの携帯が鳴った。少し離れて彼女が電話に出ると、会社からの何やら急な連絡のようだった。彼女は慌てて画面を操作し、知らされた投稿を見て驚いた。すぐにマリアに駆け寄り画面を見せた。「お話中すみません。マリアさん、これを。」「何、これ。これって、これのことよね。」マリアが凛華のポーチを指差してアシスタントに確認した。「そうだと思います。」「と、言うことは……。」二人の様子を不審に思ったスサンナが、マリアに尋ねた。「凛華ちゃんのポーチが何か?」「それが……。このポーチ、いつからここに?」「今朝です。凛華ちゃんが夜勤明けに寄ってくれたんです。その時に。昨日私が見たいってお願いしたからわざわざ届けてくれたんです。」「そうなんですね。」マリアは驚きから一転してうんざりした顔になりながら、スサンナに投稿画面を見せた。二つの投稿とコメントを見たスサンナの顔はみるみる青ざめていった。「あの子、なんてことを……。すみません。まだ子供で事の重大さも分からずにやったのだと思います。責任は私が取ります。何でもおっしゃってください。」青褪めた顔色に苦悩の表情を浮かべて謝罪をするスサンナを見て、マリアはこの場でこれ以上話すことを躊躇った。「頭を上げてください。取り敢えず彼女にこの投稿を削除させてください。こちらでも対応を検討して改めて連絡します。すみませんが、今日はこれで。」慌ただしく帰って行くマリアたちを見送ると、スサンナはすぐにメイブリットを呼び出した。いよいよ自分に目を向けて貰えたのかと上機嫌で部屋にやって来た彼女は、室内にスサンナしかいない事に気付いて首を傾げた。「先生、お呼びですか。お客様達はどちらへ?」そこで初めてスサンナの顔に目を向けて、驚いた。「先生、どうされたんですか?傷が痛みだしたんですか?」「違うわ。メイブリット、携帯を出しなさい。」「?」「すぐに携帯を出して午前中とさっきの投稿を消しなさい。」「先生がどうしてそれを?まさかあの女が文句を言ってきたんですか?」「あの女?誰の事を言っているの?そんな事よりすぐに消しなさい!」「あんな事位でそんなに怒らなくても……。」文句を言いながら渋々携帯を取り出すメイブリットを見て、怒りを抑えきれなく
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