All Chapters of 間違い人生のトリガーを破壊して新しい人生を謳歌します!: Chapter 61 - Chapter 70

102 Chapters

第61話

颯生は、逃げて行く彼女たちを厳しい目で一瞥した後、ロルフに向かって言った。「妹を助けてくれてありがとう。後は僕達が面倒を見るから大丈夫だ。凛ちゃん、おいで。」そして両腕を軽く伸ばして凛華を呼び寄せた。凛華は颯生を見て、何事もなかったかのように微笑んで言った。「大兄様、私は大丈夫ですよ。心配かけてすみません。ロルフさん、ありがとうございました。」凛華はロルフにきちんと頭を下げてお礼を言うと、急いで颯生の方へ向かって行った。颯生も数歩凛華に歩み寄ると、右手で凛華の腕を掴んで自分の方へ引き寄せた。無防備だった凛華は、颯生に引かれるがままに彼の胸元に顔をうずめて抱きつく格好になってしまった。慌てて身体を起こして颯生から離れた凛華は、流石に少し動揺して「ごめんなさい。」と照れながら謝罪をした。颯生もちょっと驚いたような顔をしたが、「僕こそ強く引きすぎた。ごめんね。」柔らかな表情で、改めて凛華の背中に手を当てて席へと戻って行った。ロルフは、そんな二人を黙って見送った。彼女もあんなふうに甘えるような顔をするんだな。よほどあの男を信用しているからなのだろう。彼は凛華を妹と言っていたが、彼女は一人っ子で兄弟はいなかったはずだ。だとすると、それくらい特別な存在だと言うことか。また少し、彼女が遠くなっていく気がして寂しさを感じた。席で待っていた勇真は、「相変わらず過保護だなぁ。クリスがヤキモチを妬くのも仕方ないんじゃないか。」「妹を守って何が悪い。そもそも僕は彼女と一緒に留学するなんて言ってない。修士は今の教授の元で学ぶつもりだ。それを勝手に思い込んで、違っていたからって凛華に友人たちをけしかけるなんて馬鹿げてる。」「でも、彼女さんだったらちゃんと説明して欲しかったんじゃないですか?」「「彼女?」」「えっ?違うんですか?」「違うよ。誰がそんな事を?」「さっきの人達です。」「全く……。僕は今だに女性との距離感が分からないよ。」「確かに。何度か一緒に食事をしたとか、親しく話したことがあったら、知らない間に恋人認定されていたりする。一体どこが友人と恋人の境目なんだ。誰か教えて欲しいものだ。」「そうなんですか?」「ああ、僕だって知らない間に同時期に三人もの彼女がいることになってた。そんな酷い男じゃないよ、僕は。」「来栖さんは優しいですものね。
Read more

第62話

「確かに。ラストノートはかなりその人に馴染んでくるけど、その人のイメージと違い過ぎるとちょっと、えって思っちゃうね。逆にぴったり合ってると心地よく感じるし。結構大事かな。」「第一印象、外面的イメージ、内面的イメージって感じですかね。」「周りにとってはね。自分では、さぁ行くぞ!って気合が入って、ガンガン頑張って、最後に終わったぁ~ってリラックスする感じ?」「そうなんですね!参考になります!」「いやいや凛ちゃん、僕たちの勝手なイメージだからね。正解とは限らないよ。」「いえ、自分ではそんなイメージすら沸かなかったので助かります。うーん、うん!何とか頑張れるかな?」「参考になった?じゃあ、記念すべき第一作は僕たちにも体験させてくれる?」勇真が興味津々で聞いてくる。凛華は、はいと答えようとして躊躇った。もし、颯生の為のものだと気づかれたら気まずくなるかも……。「ちょっと…自信ないです。いくつか練習して、お渡しできるような物ができた時でもいいですか。」凛華の困ったような顔を見て、颯生が、「冗談だよ、凛ちゃん。勇真の言ったことなんて気にせずに、自分で納得できるものを作ればいいよ。」「そうそう、ちょっと言ってみただけだから気にしないで。」「はい。でも、いつかお二人それぞれに合う香水を作れるように頑張ります!」「凛ちゃん、将来は調香師を目指すんだったっけ?」「いえ。調香は趣味になると思います。」「そうなんだ。」一瞬遠い目をした勇真だったが、やる気に満ちた笑顔の凛華を見ると、まぁいいか、と当てにせず待つことにした。颯生達と別れた凛華は調香の工房に戻った。資料室にはマリアが一人で調べ物をしていた。「こんにちは。今はマリアさんだけですか?」「ええ、アルフは別の部屋で試作品づくりをしているわ。」「もうレシピが出来んですか?」「どうかしら。彼は元々レシピは重視しないタイプでしょ。頭で考えるより鼻で組み立てる方が捗るんじゃないかしら。」「なるほど。」「やだ、真面目に納得しないでよ。冗談よ。イメージで組み合わせた香りが実際にどんな香りになるか確かめに行ったのよ。」「それは大事ですね。私もあと少ししたら実験しに行こう。」「その様子ならやっとイメージが固まったようね。」「はい!まだ何となくですけど。マリアさんはどうですか。」「私もイメージはで
Read more

第63話

「そうなんですね。今まで何か作業する時は一人だったので気づきませんでした。そう言えば、知らない間に凄く時間が経ってしまってたことがよくありました……。」 「これからは気を付けた方がいいわよ。タイマーをかけておくとか、誰かに声をかけてもらうように頼んでおくとか。」 「はい。気を付けます。」 「さて、じゃあ今日はもうおしまいって事でみんなで帰ろう!」 それからも三人で相談したり、教え合いながらようやくそれぞれの作品が完成したのは実習終了の四日前だった。 その翌日、早速担当指導員のスヴェンと、工房長とオーナーの三人が集まり、ちょっとした発表会が行われることになった。 「スヴェンから今回の実習生は優秀だと聞いてね。いつもは彼の判断だけで成績を出していたのだが、ちょっと興味が出てきて私達も参加させて貰うことにしたんだ。」 工房長のフレドリクに続いて、オーナーのソフィアも、 「私もよ。ちょうど時間も空いていたし、楽しみにして来たの。」 と言ってにこにこしながら席に着いた。 ついさっきまでお互いの作品を楽しみにして燥いでいた三人は、少し顔を引き攣らせながら恨めしそうな目をスヴェンに向けていた。 『もっと早く言って欲しかった。』 三人に見つめられたスヴェンも戸惑いながら、 『僕だってさっき聞いたんだ。まさか本当に二人とも来るなんて…。』 と思いながらも、仕方なく三人の視線を無視して発表会を始めた。 最初はマリアの発表だった。 資料として既に三人のレシピはそれぞれの手元に用意されている。その上で、コンセプトや工夫点の説明をしていった。 そしていよいよ実際に香りを確かめることになった。 マリアが瓶の蓋を開けた途端、辺りに爽やかな香りが広っていく。 まず、試験官である三人がムエットで更に詳しく香りを確かめた。すると今まで気軽ににこにこしていた工房長とオーナーが、次第に真剣な表情になっていった。凛華たちも邪魔にならないように少し離れた所で香りを確認しながら小声で感想や説明を言い合っていた。 十数分して香りがトップノートからミドルノートに移って行くと、再び試験官三人が驚きと満足そうな表情になっていった。 「想像以上の出来だわ。後の二人の作品が楽しみね。」 「全くだ。本当にこの工房にあった材料で作ったのか?
Read more

第64話

二人は何事かと真剣な顔になり、マリアの話の続きを待った。 「私ね、二人のそれぞれの作品は素晴らしかったって心から思っているわ。それは確かなの。だからかしら。二人のレシピを元に別の材料を使って私なりの香りを作ってみたいの。レシピの盗用になっちゃうけど、素敵な香りだからこそ自分風にアレンジして作ってみたいの。わがまま言ってごめんなさい。」 「「………。」」 二人は暫く考えていた。 先に口を開いたのは凛華だった。 「素敵です!私も自分のをそうやって作り直してみたいとは思っていました。それをマリアさん風にやってもらえるならぜひお願いしたいです。ただし、完成したら必ず私にも分けてください。それから、マリアさんのレシピを使うことを許してくれたらもっと嬉しいです。」 「もちろん、構わないわ。だけど、私も必ず分けてね。」 「ちょっと!僕を仲間外れにしないでよ。その案、僕も参加するよ。今日の3種類の香りが9種類になるんだね。楽しみだ!ねぇ、いつ頃までにできそう?取り敢えず次に集まる日だけでも決めておこうよ。」 実習発表の日は、3人の次の段階へのスタートの日となった。 凛華は発表会のあった日、両親と夕食を取りながらその日の出来事を報告した。そして二人に調香の作業ができる部屋と設備が欲しいとお願いした。 するとグドムンドは、 「分かった。早速秘書に連絡して凛華専用のアトリエを用意させよう。」 と言い出した。しかし芙美華がすぐに止めた。 「ちょっと待って。いきなりそれはだめだと思うわ。まずはどこかに間借りして、どんなアトリエにしたいかを考えてからでないと。後からいろいろ変更が必要になると思うわ。」 「そうなのか?だったら兄に相談してうちの系列の工房にでも頼んでみるか?」 「そんなのもあるの?」 「あるよ。」 「ところで凛華。まずはあなた達の作品を披露してくれないかしら。さっきからずっと気になっているの。」 芙美華に言われてようやく気づいた凛華は、 「あっ、忘れてた。」 と言って横に置いていたポーチから3つの小瓶を取り出した。 「えっと、これが……。」 「待って、凛華。どれが誰のか当てさせてくれない?」 「それは面白そうだ。僕も挑戦したい!」 二人はいそいそとリビングに移動して準備を始めた。
Read more

第65話

「確かにそれは心配ですね。」てっきりグドムンドを諌めてくれると期待していた凛華と芙美華は驚いて颯生を見た。グドムンドもまた、同志を得たとばかりに颯生を見て、「分かってくれるか!だから芙美華の家みたいにして、凛華も家族も安心して思う存分に好きな事をさせてやりたいんだ。」『えっ?若桜家の離れってそんな理由で建てられたの?』凛華と颯生と勇真は驚いて、一斉に芙美華を見た。芙美華はばつが悪そうに視線を反らした。『『『そうだったんだ……。』』』「まぁ、取り敢えず今は叔父様に紹介してもらった工房の部屋をお借りできてるから充分です。先のことはまたそのうちに……と思っています。」凛華は話題を変えるように言った。「ところで、お姉様はお元気でしたか。確か今年は中学部になられたんですね。」「ああ、彼女は呑気に学校生活を楽しんでいるようだよ。音楽部に入ってバイオリンの練習を頑張るそうだ。」「そうなんですね。じゃあ、今度帰ったら一緒に演奏してみたいなぁ。」「凛ちゃんもまだピアノの練習しているの?」勇真が意外そうに聞いた。「いえ、ピアノは数年で止めてしまいました。三年ほど前からチェロの練習を始めたんです。寮にいた時は音楽室を借りて練習していたんですが、この家に住むようになって家で練習できるようになって嬉しいです。」凛華が答えると、「君たち、凛華のチェロを聴いたことないのかい?僕はもう何回か聴かせてもらったよ。中々の腕前で感動したよ。君たちはまだ聴けていないんだ。それは残念だね。」グドムンドが自慢げに話し始めた。複雑な表情の二人を見て芙美華がグドムンドを諌めた。「グム、大人げないわよ。どんどん親バカになってきちゃって、ごめんなさいね。」「いえ、今度聴かせて貰う楽しみが出来たので大丈夫ですよ。そうだ、凛ちゃんそのうちに同じ曲を練習して一緒に演奏しないか?」「ええ、いいですよ。来栖さんはピアノですよね。」「ああ、三人で弾ける曲を探して連絡するよ。」「楽しみです。」「僕もビオラなら弾ける。」話がまとまりかけた所で、颯生が参加の意思を示した。「へぇ〜。珍しいな。じゃあ翔月にも連絡しとく?」「そうだな。一人だけ知らなかったら寂しがるかもな。」どんどん話が膨らんでいく三人を、芙美華とグドムンドは微笑みながら見守っていた。9月に入っていよいよ医療実習が始
Read more

第66話

箱の中には、三色の綺麗な硝子の小瓶がびっしり入っていた。数えてみると、30個もある。しかも一つ一つ工夫を凝らした手作りのようだ。驚いて瓶を見つめる凛華に父が、「気に入ったかい?一足早いクリスマスプレゼントだよ。工房長に頼んで作ってもらったんだ。出来上がったと連絡をもらったので早速君に見せたくて届けに来たんだ。」「凄いです!とっても素敵です。ありがとう、お父さん。そうだ!もう出来てる香りがあるんです。ぜひ、試して見てくれませんか。」「いいのか。」「もちろん!」凛華はすぐに既にできている凛華のレシピのを持ってきた。そして、グドムンドの手首にひと吹き吹きかけた。辺りに爽やかな香りが広がる。以前試したのよりもすっきりした感じがする。「どうですか?お水を替えてみたんです。それと、精油の産地を替えてみたりもしたんです。」「うん。爽やかさが増して普段でも使えそうだ。」「ふふっ。ちょっとお父さんに合うかなって思ったのでそう言ってもらえて嬉しいです。」「……僕?僕をイメージしてくれたのか?」グドムンドのあまりの喜びように、少し慌てて、「いえ、ただ、ちょっと、合うかなって思っただけですけど……。」「ちょっとでも思い浮かべてくれただけで嬉しい。プレゼントを届けに来たのに逆にプレゼントをもらった気分だよ。ありがとう、凛華。あっ、この香り、芙美華にも感想を聞かなくては!早く帰らなきゃ。じゃ、凛華またな。無理をしてはいけないよ。」父はお茶も飲まずに慌ただしく帰ってしまった。少しイメージしたと言っただけで、あんなに喜んでもらえるなんて予想もしなかった。もし、颯生さんに最初からあなたをイメージして創りました、なんて言ったらどんな反応をするのだろう。ただの知り合いの妹のような存在からそんな事を言われたら……、やっぱり迷惑に思うのだろうな。これは絶対に秘密にしなくては…と密かに心に決めた。マリア達とは、学園のミーティングルームを借りてそこで集合した。「凛華、アルフ、久しぶりね。どう?満足のいくものができたかしら。」「はい。今の私にとって最高の物ができたと思います。」「僕もだよ。この3カ月間、とっても楽しかった。」三人で近況報告をした後、それぞれの作品を交換して鑑賞し合った。「同じようなレシピなのに材料や成分の僅かな差でこんなに印象が違ってくるのね。」「
Read more

第67話

「友人?嘘言わないで。あなたみたいな子供が友人な訳ないでしょう?どこから盗んで来たの?正直に言いなさい。」「嘘じゃありません。本当に友人が創ったものを本人から分けて貰ったんです。」「惚けるつもりね。まぁ、あなた位の年頃には背伸びしたくていたずらすることもあるかもしれないわね。でもね、これはそんな風に扱ってはいけない貴重なものなのよ。」「貴重?」「やっぱり。価値も分からずに勝手に付けたのね。今ならまだ許してあげるから正直に言いなさい。どこで盗んで来たの?」「いえ、本当に盗んでなんかいません。あなたこそなぜこの香りを知っているのですか?」「聞いているのはこっちよ。あくまで惚ける気ね。仕方ないわ。警察に行きましょう。」「ええ!?」彼女は凛華の右手首を強く掴んで誰かに電話をかけると、どんどん門の方へ歩いて行った。もちろん、凛華の手首を捕まえたまま。凛華はそのまま彼女の護衛らしき人たちによって、強引に車に乗せられて警察署まで連れて行かれた。途中で、「こんな事をしたらあなたの方が罪に問われますよ!」と言ったが、「脅しても無駄よ。私は善意の一般市民よ。罪になんてなるものですか。」彼女は全く取り合おうとしなかった。警察署に着いて、彼女は凛華を警官に引き渡しながら、「泥棒の現行犯を連れてきたわ。ちゃんと調べてしっかり罪を償わせなさい。」そう言うと、あとは護衛の一人に任せてさっさと帰ってしまった。凛華を託された警官は、訳が分からないまま、「とにかく話を聞かせてもらいます。中へ入りなさい。」と言ったが、凛華は入る前に警官に言った。「これは冤罪です。弁護士を呼びます。それまで待ってください。」と言って玄関口でオーロフに電話を掛けた。凛華は電話が繋がるなり、「叔父様、助けて。誤解で警察に連れて来られてしまったんです。お父さんに言ったら感情的になって心配だから、誰か弁護士さんに迎えに来てもらえませんか。」「警察!?弁護士?一体何事だ!怪我は?凛華に怪我はないのか。」「大した怪我はしてないです。とにかく訳が分からないんです。お忙しいのは分かっているんですけど、お願いします。」「大したと言うことは怪我をしているんだな。心配するな。すぐに迎えに行く。どこの警察署だ。」オーロフはその言葉の通り、二十分位でエイナルを伴って迎えに来てくれた。オーロフは
Read more

第68話

「それならば資料を提出して調べて貰うことにしよう。結果が出るまでには時間がかかる。私が身元の保証をするので連れて帰って構わないだろうね。」オーロフが厳しい目で警察官たちを見た。「まだ容疑は晴れていないのですが……。」恐る恐る答えた警察官に、今度はエイナルが言った。「警察は、まだ犯罪だと決まってもいない事で未成年者を長時間拘束するつもりか。まして彼女は怪我を負っている。にも関わらず治療すらしていない。その事実が彼女に与える悪影響について責任が取れるのか。ちなみに、彼女はロックスマン家の令嬢だ。その彼女が窃盗容疑で長時間警察に拘束されたことが世間に知られたらどうなる?怪我の影響で活動に支障が出たら?後で間違いでしたで済むと思うのか?」「えっ!令嬢…?」「そうだ。彼女が盗んだと言う事実は絶対にない。それが証明された後、通報した女性を名誉毀損と傷害罪で訴えるから、そのように相手に通告しておけ。」そう言うと、オーロフは凛華を連れて警察署から病院へ向かった。エイナルは残って無実を証明する資料を提出してくれるらしい。凛華は治療を終え、帰りの車に乗ってすぐにオーロフにお礼を言った。「叔父様、お忙しいのにすみませんでした。すぐに来てくださってありがとうございました。」「いや。構わない。」「父に連絡しようかと思ったのですが、何だか心配になってしまって…。」「確かに。私に頼んでくれてよかった。グムだと君の傷を見た途端に、きっと感情的になってしまって余計に拗れていたかもしれないな。」「なのでこのまま黙っているという訳には……。」「それは無理だ。エイナルの調査報告を聞かないと分からないが、おそらく何らかの事情がありそうだ。そうなると親の庇護が必要になる。その時に初めて聞かされたら、二人とも悲しむだろう。」「……そうですね。わかりました。今日話します。」しょんぼり答える凛華に、オーロフが一言加えた。「必ず芙美華も一緒に聞いてもらいなさい。グムだけの時は、ちょっと心配だ。」「はい。」返す言葉もなく、家まで送ってもらいオーロフと別れた。凛華が家に帰ると、元気のない様子を見た芙美華が心配そうに尋ねた。「凛華、どうしたの?お友達と喧嘩でもしたの?あんなに楽しみにして出かけたのに……。」「ううん。してない。」そう答えた凛華の右手首と膝の包帯を見て「だったら
Read more

第69話

「まずはエイナルさんの調査の結果を待ちましょう。二人の保護者の方には彼か警察から話して貰った方がいいわ。二人にはその後に説明したらどう?」「そうだな。家庭の事情もあるだろうし、まずはそうしてもらおう。それからどうするか考えよう。」「凛華、大丈夫よ。あなたが罪に問われることはないわ。私達がそんな事をさせないわ。」「そうだよ。それにしても……。」グドムンドが辛そうに俯いて言った。「僕はやっぱり頼りない父親なのか……。確かに兄さんの方が頼りがいはありそうだが…。」芙美華と凛華は思わず顔を見合わせた。また彼が拗ねてしまったと気付いたからだ。二人は仕方ないなぁと思いながらも、何だか愛おしく感じて優しく慰めた。エイナルの仕事は早かった。その結果、翌日の夜には3人の作品が既に商品化されていることが分かった。彼の調査に拠ると、3カ月程前にまだ十代に見える青年が知人を通じて売り込んで来たらしい。『お金が必要なので、作品のレシピを買って欲しい。自分は調香が趣味で調香師に習って技術を身に着けた。今回自信作が出来たから、買い取ってもらって今後の資金にしたい。』と言うことだった。オーナーはレシピを元に作成した作品を気に入って、すぐに承諾した。その後工房では、まず試しに少量を売りに出してみた。すると、若い年齢層にすぐに売れてしまった。これは行けると判断して、この香水は優れた調香師のレシピで作られた貴重品である、と言うそれらしい付加価値を付けて価格を引き上げて販売することにした。その準備の為に一旦店から引き上げていたはずが、うっかり置き忘れたサンプルをあの女子学生が見つけてしまった。彼女は熱心に売ってくれと言ってきた。しかし、現地点で売れる状態の物はなかった為に断らざるを得ず、今回の事態へとなっていったと言うことだ。「その、レシピを売り込んで来た男については分かったのか?」グドムンドが聞くと、「ああ。どうやらマリアと言う子の幼馴染らしい。」「マリアさんの?」「そうだ。それ以上詳しい事情は今のところ分からない。明日にでも調査員がマリアの保護者に説明と聞き取りに行く予定だ。」「あの、マリアさんは自分の作品が売りに出されていることを知っているのでしょうか?」「私の推測だが、おそらく幼馴染の男が勝手に売ってしまったのだろう。彼女が知ってショックを受けるような経
Read more

第70話

「とは言え、今回の事で彼女に責任を問うのも気の毒だと思う。」「お父さん、エイナルさん。私、その男の人が許せない。私達の作品が他人の手で商品として扱われるのも嫌です。何かいい方法はないですか?」「凛華個人としては、レシピを無断で売られてしまった事に対して、窃盗や詐欺の罪を訴える事は出来るだろう。しかし、そう大した罪には問えない。それに、管理を怠った事でマリアも責任を問われるだろう。」「それは嫌です。他に何かありませんか?」「そうだな…。少し時間と手間がかかるが彼とその女友達に反省を促す程度なら出来るだろう。それには凛華とマリアとアルフの協力も必要だ。」「何をすればいいですか?」「あと幾つか香水を作って欲しい。若い子向けのオードトワレやオーデコロンでいい。それから、それらに名前を付けて欲しい。」「それで何をするのですか?」「ブランドを立ち上げる。そして、ある程度注目を集めたあと、今回の事を公表する。」「……。それって結構非難されそうですね。」「ブランドが成功すればするほど大規模で痛烈になるだろうな。どうだい?やる自信はあるか?」「マリアとアルフに相談してみます。」夕食後、不安を抱えつつマリアにメッセージを送った。『お話したいことがあります。電話してもいいですか。』 暫くして、電話がかかって来た。マリアからだ。「……凛華、私のせいで嫌な思いをさせてごめんね。私から連絡するべきだったのに、中々できなくて……。本当にごめんなさい。」いつもの快活な様子は微塵もない、不安と疲労による弱々しい声だった。「マリアさん。」今回の事は凛華の想像以上にマリアを傷付けたようだ。痛ましさに一瞬言葉に詰まった凛華だったが、気を取り直して話を続けた。「マリアさんのせいじゃないですよ。泥棒に誤解された事は気にしていません。それよりマリアさんのことが心配です。辛いかもしれませんが、詳しいお話を聞かせてくれませんか。内容によっては私から一つ提案があります。」「……?情けない話だからあまり話したくないけど、アルフと凛華には大きな迷惑を掛けたから話すわ。明日時間ある?」「大丈夫です。アルフさんにも連絡してみます。何時頃にどこに行けばいいですか。」「迷惑だろうけど、凛華の家に行ってもいい?家ではちょっと話しづらいの。」「もちろん構いません。住所を送るので気を付け
Read more
PREV
1
...
56789
...
11
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status