腐女子の私、推しカプのはずの美人上司に抱き枕認定されました。 のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

78 チャプター

第五十一話:疑惑

「それ、女よ!」その日、仕事終わりに秘書課の小川さんと経理の安川さんに誘われて、ご飯に行ったときのことだった。「女って……お姉さんだから、女性ですよ?」と答えた私に、安川さんと小川さんが同時にコケる仕草をした。「違うわよ! 浮気しているのか、こずえが浮気相手なのか分からないけど、もう一人女がいるのよ!」テーブルを叩き、怒り心頭の小川さん。「待って、ひーちゃん。それは早計すぎるよ」小川さんを宥める安川さん。「で、こずえ的にはどう思うの?」肩で息をしながら、小川さんにそう聞かれた。「私は……れ、彼を信じたいです」そう答えた。「ただ……夜のアレだけの関係みたいになってて、ちょっと嫌かな……とは思ってて」えへへっと笑いながら、重くならないように話したつもりだった。……そう、つもりだったんです。しかしその瞬間、二人の目が同時に据わった。「はぁ? 絶倫ヤバ雄、デートしないくせにやることやってんの?」「はぁ? 絶倫ヤバ雄のくせに、うちらの木野ちゃんをなんだと思ってるの?」二人の顔が……怖いです。実際、実家に帰るようになってから、麗さんが私にひっつく頻度は上がっていて。最近、ソファーに一人でゆっくり座った記憶がない。必ず麗さんの前に座らされて、バックハグされた状態でソファーに座っています。夜も……実家から帰ってきてからは激しいと言いますか……何度か本気で殺されるんじゃないかと思いました。麗さんにとって、私に触れることが精神安定剤代わりだと分かっているものの、やっぱり普通に過ごす時間も欲しいんですよね。「はぁ……」一つ溜め息をつくと、「あ! ごめん。一番傷付いてるのは、こずえなのに……」私の溜め息をどう受け取ったのか、安川さんと、怒涛の絶倫ヤバ雄クレームを言いまくっていた小川さんが、私の顔を見て呟いた。「木
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第五十二話:ラスボス登場?

翌日、会社に行くと、何故か野宮部長が飛んできた。「こずえ、指輪外せ!」いきなり言われて「え?なんでですか?」と聞いた瞬間、麗さんからLINEが入った。『こずえちゃん、今だけ指輪外しておいて!』鳩がごめんねと謝っているスタンプが飛んでくる。理由はよく分からないけど、私は指輪を外して鞄の内ポケットに入れた。「おはようございます」事務所に入ると、何故か麗さんにべったりくっついている綺麗な女性が見えた。「あなたは、この部署のかた?」「はい」私の頭からつま先まで眺めると、鼻で笑われた。「良かった~。この部署には、麗の好みのタイプが一人もいなかったわ。麗、モデルみたいな人が好きだものね。歴代の彼女、みんな綺麗だったものね」その話を聞いて(そりゃあ、そうだよね)と納得していると「あら、もしかして貴生の彼女?」なんて言い出した。「その服、麗子さんのお店の服よね」事務所内がザワッとして、女性の視線が痛いです。「はぁ?違うだろ。それより、部外者は帰れよ」野宮部長が麗さんのお姉さんを睨んだ。「嫌よ!麗の女を見つけに来たんだから!」そう叫んだ麗さんのお姉さんに「はぁ?麗の女?いるわけないだろ」野宮部長はそう言うと「麗は俺の女だから」そう言って麗さんの腰を抱き寄せると、みんなの目の前で頬にキスをしたのだ。女子社員、全員心のシャッターを切っていたのを感じました!「バカじゃないの!」怒り出した麗さんのお姉さんに、麗さんは俯いて「貴生、みんなの前で……恥ずかしいじゃないか……」と、野宮部長の肩に顔を埋めた。ブラボーです!麗さん、貴生さん!全私がスタンディングオベーションしていると「そんなふうに誤魔化しても、必ず見つけ出すから!」捨て台詞を吐いて、お姉さんは事務所を出て行こうとした。「麗!なにしてるの?さっさと私を家に送りなさいよ!」すると野宮部長が電話をして「あ、お袋?こっちに麗奈が来てるんだわ。撤収よろしく」そう言うと、麗さんをバックハグして「悪いけど、麗は俺のなんで……」と言って、お姉さんにシッシッと手を振る。すると「麗……酷いわ!」と言うなり、突然倒れた。「姉さん!」「麗、麗は私を見捨てたりしないわよね?」慌てて倒れたお姉さんを抱き起こす麗さんに抱きつきながら、そう呟いた。その瞬間、女子社員
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第五十三話:げ……玄関前にラスボスが!

その日、会社では麗さんの評価が大暴落していた。「どんなに白鳩様が素敵でも……あれはないわ」「え?シスコンとブラコン?キモっ!」ヒソヒソと囁く声に、胸が痛んだ。その一方で「さすが黒鷹よね~。姫救出って感じ?」と、野宮部長の評価はうなぎのぼりだった。結局、麗さんは麗子さんが用意した車にお姉さんを乗せると、職場に戻って来た。なんとも微妙な空気が漂っていたが、野宮部長がパンと手を叩き「ほら、さっさとお前らは仕事しろ」と喝を入れてくれたので、事なきを得た。今日は散々な日だったなぁ……。そう思いながらマンションに戻り、自宅の前に人影を見つけて固まった。(れ……麗さんのお姉様!!)ビビって引き返し、マンションの一階エントランスで時間を潰していた。すると「こずえ?」野宮部長の声が聞こえて、顔を上げた。「お前、こんな所でなにしてるんだ?」驚いた顔の野宮部長に「あ……あははは。家の前に、麗さんのお姉さんが居るから……」と答えると、野宮部長は舌打ちしてスマホを取り出した。「あ、麗か?クソ女が部屋の前に居るから、こずえが家に入れないじゃねぇか。あ?知らねぇよ。取りあえず、うちに連れてくわ。はぁ?お前、よくそんな事言えんな?知らねぇよ。じゃあな」スマホからまだ麗さんの声が聞こえていたが、野宮部長は一方的に通話を切った。そしてすぐに、もう一度スマホを操作する。「あ、俺。あのクソアマ、麗の部屋にまで押しかけて来やがったよ。あ?まぁ、ジジイが来るか、お袋が来るかは任せるわ」そう言うと、さっさと通話を切った。「ほら、行くぞ」私の前に立ち、野宮部長が言った。「へ?」「へ?じゃねぇだろ。こんな所に居ても風邪引くぞ。それともあれか?お姫様抱っこでもしてやろうか?」ニヤリと意地悪な笑みを浮かべる野宮部長に、私は速攻立ち上がった。「自分で歩けます!」すると野宮部長は、ふわりと優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でた。「そうそう。こずえはそれくらい元気じゃないとな」そう言って微笑む。野宮部長はチラリと私の左手を見ると「指輪、外したままだな。よし。じゃあ行こうか」そう言って、強引に私の手を握りしめて歩き出した。相変わらずの強引さに、思わず苦笑いがこぼれる。……いつもなら困るこの強引さが、今日はやけに頼もしく感じた。
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第五十四話:ラスボスvs野宮部長

私が野宮部長に手を引かれたまま、玄関前でわざとらしく蹲る女性の前を素通りした、その時だった。「待ちなさいよ、貴生!」物凄いヒステリックな声が響き、私は身体を強ばらせた。すると野宮部長は、引き止める麗さんのお姉さんを無視して玄関を開けると「お前は中に入ってろ。それから……麗の電話には絶対に出るな。いいな?」耳元で囁かれ、私はコクコクと頷いた。次の瞬間、私は玄関の中に押し込まれた。ドアは開けたまま、野宮部長が身体で塞ぐように立つ。「ちょっと、なんであんたが麗の隣に住んでいるのよ!」「はぁ?麗と俺の愛の巣だから?」「ふざけないで!」「ふざけてるのはどっちだよ。ジジイとの約束、忘れたとは言わせねぇからな」初めて聞いた。野宮部長の、怒気を孕んだ声。(約束?)首を傾げた私に、野宮部長が言い放つ。「麗を自由にする代わりに、お前と母親はジジイから援助受けてるはずだろうが!」(え……どういうこと?)思考が止まる。「だって、すぐに戻って来ると思ったんだもの!」「戻るわけねぇだろ。あんなクソ家」吐き捨てるような声。「貴生!あんたが麗に変なこと吹き込んだんでしょう!?そうよ、そうに決まってるわ!」金切り声が廊下に響く。その時だった。「姉さん!」麗さんの、焦った声。「麗!貴生が……貴生が……いじめるの」さっきまでの半狂乱はどこへやら。突然、泣き声に変わった。「貴生、姉さんは身体が弱いんだ。あまり興奮させないでくれ」「身体が弱い?ついさっきまでキーキー叫びまくってたぞ」呆れた声。「貴生!姉さんを興奮させないでくれ。今だって、こんなに震えて……」「麗……麗……」……なんだろう。姉弟の会話には、聞こえない。私にも弟がいる。
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第五十五話:野宮麗子様、降臨

「麗奈、あんた何してるの?」麗子様の声が聞こえ、私、こっそり野宮部長の背後から外を覗き込んだ。そこに広がっていた光景は、衝撃的だった。麗さんのお姉さんを抱き締める麗さんと、そんな麗さんにしがみつく麗さんのお姉さん。·····そして、そんな二人を腕を組んで見下ろすように仁王立ちする麗子様!背中に·····背中に·····炎が見えます。「麗子さん、だって·····」「だっては聞きたくないわ」聞いたことのない、低い怒気を孕んだ麗子様の声。声は荒らげていないのに、静かに話す声が逆に怖い。思わず、野宮部長の背中にしがみついた。一瞬、野宮部長が振り向いたみたいだったけど、直ぐに前に向き直したから、私はそのままで成り行きを見つめていた。「それから麗、あんたも何しているの?お父様との約束を、忘れたの?」目を据わらせ、二人を静かに見下ろしたまま呟いた。「すみません。ですが·····身体が弱い姉を、放っておくなんて僕にはできません!」真っ直ぐに麗子様を見つめて答える麗さんに、麗子様は深い溜め息をつくと「それで? じゃあ、どうするの?」麗子様はそう言って、野宮部長の後ろにいる私を指さした。「彼女を·····ずっと隠し通す事は出来ないわよ」そう呟いた麗子様の声に、弾かれたように麗さんのお姉さんは麗さんの胸にしがみつき「麗·····まさか、彼女を作ったりしていないわよね? 結婚なんて、考えていないわよね?」そう呟いた。麗さんは、その問に何も答えない。「嫌·····、嫌よ! 麗は、麗は·····私だけの王子様なの。誰にも渡さないわ!」そう叫ぶと、こちらにツカツカと向かって歩き出した。私はその狂気の目に、思わず縮み上がった。すると、野宮部長が「大丈夫だ。お前は俺が守るから」そう言って、前を見据えた。「貴生、退きなさいよ。あんたがさっき連れて歩いていた女が、身の程知らずにも麗を口説いた悪役令嬢なんでしょう?」と言い出した。·····はて?リアルに悪役令嬢と言われたのはびっくりです。すると、無言で麗子様は麗さんのお姉さんに歩み寄ると、ゆっくりと平手を上げた。『パシィッ』と鈍い音が響き、私は息を飲んだ。麗さんが·····お姉さんを庇って、麗さんの右頬に麗子様の平手打ちを受けたのだ。
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第五十六話:別れ

「麗……あんた」「麗子さん。姉を責めるなら……僕が代わって責めを受けます。ですから……」そう言って頭を下げる麗さんの姿を見て――私は確信した。麗さんは、こうやって生きてきたんだ。そして、それを引き離すために――きっと麗子様や、そのお父様が動いたのだろう。この家族の、異常さに気付いて。でも……。麗さんが変わらない限り、この関係は変わらない。私は野宮部長の背中にしがみついたまま、静かに泣いた。それは――私たちの関係の終わりを、意味していた。きっと麗さんは、家族を捨てられない。そして――私と別れることも、出来ない。だからこそ。私は、この別れを選ばなければならない。声を押し殺しながら、すぐそこにある別れを見つめていた。その間にも、外の会話は進んでいく。「麗……あんた、この五年間、何を学んだの?ただ自由を謳歌しただけ?……ガッカリだわ」麗子様の言葉は、重かった。「麗奈。約束を破ったから、うちの援助は打ち切るわ。麗、あんたもさっさと自宅に戻る準備をしなさい」そう言い残し、麗子様は一瞬だけ――私を見た。唇が、小さく『ごめんね』と動いた。「……っ」堪えていた涙が、溢れる。「貴生。引っ越しの準備をしなさい。彼女と一緒にね」その言葉に、麗さんがハッと顔を上げる。私は目を合わせることができず、野宮部長の背中に顔を埋めた。野宮部長は、ゆっくりと麗さんを見下ろす。「こずえ、指輪寄越せ」驚いて顔を上げると「いいから寄越せ」低い声。私は戸惑いながら、鞄から指輪を取り出した。その瞬間。野宮部長はそれを奪い取り――麗さんの顔へ投げつけた。「二度と、こずえに近付くな!
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第五十七話:新しい生活

あれから――私は何故か野宮部長に強制連行されて、野宮邸にいた。しかも。私は「インフルエンザに罹患したことになっていて」、一週間会社を休むことになった。その間の私はというと――「こずえちゃん、今日はショッピングに付き合いなさい!」「こずえ、今日はワシとでぇとじゃ!」「あら!私とショッピングよ!」「麗子、お前は今日仕事じゃろうが!」野宮邸の当主様(野宮部長と麗さんのおじいちゃん)と、麗子様の朝のバトルである。「仕事?こずえちゃんとのショッピングに比べたら、そんなモノどうでもよいわよ!」麗子様……仕事の方が大事です。「はぁ?お前、そんないい加減な気持ちで仕事をしとったのか!」「はぁ?我が家には女の子がいないんだから、未来の娘とのショッピングは夢なのよ!」「はぁ!ワシじゃって、未来の孫とのデートは夢なんじゃ!」完全にアウェーな私は、ただただ戸惑うしかない。すると「ジジイ、お袋、こずえが困ってるだろうが」美しい所作で食事をしていた野宮部長が、呆れたように言った。「……それに、こずえと俺は付き合ってないんだから、勝手に嫁呼びするな」その一言に「貴生、さっさとこずえを嫁にしろ!」「貴生、あんたが横からかっ攫われるからでしょう!」二人から一斉に責められている。私はハラハラしているのに、野宮部長は慣れた様子で食事を終えると、私の頭をぽんと撫でた。「お前は気にすんな。ゆっくりしてろ。何せ、インフルエンザなんだからな」そう言って、ニヤリと笑う。「あははは……」思わず苦笑いがこぼれる。「ジジイもお袋も、あんまりこずえを困らせるなよ」そう言い残して、ジャケットを羽織り、玄関へ向かう。私も慌てて立ち上がり、見送りに行こうとすると「こずえは嫁じゃないんだから、飯食ってろ
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第五十八話:麗さんの過去

中に入ると――そこには、野宮部長が歳を重ねたらこんな顔になるだろう、と思わせるロマンスグレイの男性がいた。重厚なアンティーク調の机に向かい、何か作業をしている。私たちに気付くと、静かに顔を上げた。そして、机の前に置かれた応接用のソファーへと手で促す。私は一礼し、野宮部長と並んで三人掛けのソファーに座った。男性はゆったりとした足取りで歩み寄り、私の正面に腰を下ろす。「木野……こずえさん、だね。今回は、麗とその姉の麗奈が迷惑をかけてしまったようで……申し訳なかった」そう言って、深々と頭を下げた。「そんな……頭を上げてください。今回の件は……私と麗さんの問題ですから」苦笑いしながら答えると、祖父は悲しそうに目を細めた。「ようやく……まともな子と付き合ったと思っていたのに……」ぽつりと呟き、深いため息をつく。「どこから話すべきかな……」そう言って、遠くを見つめた。「麗の母親、紫乃はな……姉の麗子に強く憧れていてな。麗子のような男でなければ結婚しない、と言い出して……」苦い表情を浮かべる。「無理やり鳩村家の長男と結婚させたのが、間違いだったんだろうな」静かな声。「麗が生まれて間もなく、その男は外に愛人を作り、家に帰らなくなったらしい。紫乃はますます殻に閉じこもるようになってな……」言葉が、重い。「子供ができれば変わると……思っていたんだがな」一度、目を閉じる。「麗奈は生まれつき身体が弱くてな。紫乃と麗奈は……麗に、自分たちの理想を押し付けるようになった」そう言って、祖父は立ち上がると、机から一枚の写真を取り出し、私に手渡した。そこには――やんちゃそうに笑う野宮部長と、まるで人形のように整った顔の、幼い麗さんが写っていた。「麗はな……大人の顔色ばかり見て、笑わない子供だった」胸が、ぎゅっと締め付けられる。「慌ててあの二人から引き離した。ようやく笑うようになった頃だった」少しだけ、優しい声になる。「だが……学校帰りの麗を、あの二人が連れ去った」空気が、張り詰める。「なんとか取り戻そうとしたが……腐っても親だ。親権を盾にされてしまってな」悔しさが滲む。「久しぶりに会った麗は……笑顔で、上手く感情を隠すようになっていた」──笑顔で、隠す。その言葉が、深く刺さる。(だから……)胸が、軋むように痛んだ。不
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第五十九話:鳩村麗という人

静まり返った室内で、ため息だけが静かに響いた。「そんな麗が……初めて自我を出したのは、きみだったんだよ。こずえさん」その言葉に、私はゆっくりと顔を上げた。「今までの麗なら、貴生が好きな相手に手を出したりは絶対にしなかった。初めて、貴生と張り合って……あなたを奪い合ったんだ」その言葉に、私は目が点になった。「え? 貴生さんって、私が好きだったんですか?」思わず聞いた私に、野宮部長は軽くコケたような仕草をした。「まさかとは思ってたけど……マジで分かってなかったのか?」「はい……すみません」「俺、好きだって言ったよな?」「犬とか猫とかが好きな感じかなぁ……って」笑って誤魔化すと「あんだけ言ったのに分かってなかったとは……。ある意味、麗はすごいな……」ぼそっと呟いて、慌てて口元を押さえていた。私は小さく笑って「麗さんは……私が理解するまで、何度も何度も『好きだ』とか『愛してる』って言ってくれました」思い出すと、胸が軋む。でも同時に──温かい気持ちになる。「キスやハグをして、『僕がどれだけ好きか、理解するまで諦めないから』って……。時々強引で、困りましたけど……」そう呟いた私に二人は、まるで信じられないものを見るような顔をした。「麗が……」「強引?」野宮部長と祖父の声が重なる。「はい。すぐ拗ねますし……」その先の言葉を、私は飲み込んだ。──そんな所も、好きだった。そう、言ってしまいそうで。二人は同時に、深くため息をついた。「こずえ、俺たちが知ってる麗はな……」野宮部長が静かに言う。「人に執着しない。甘えない。本音も見せない」祖父が続ける。「ましてや……強引に行動したり、拗ねるなど……あり得ない」──違う。私の知っている麗さんは。喜怒哀楽がはっきりしていてすぐ拗ねてすぐ嫉妬して暇さえあれば、私にハグしてくる人だった。『こずえちゃん、好きだよ』抱き締める腕は優しくてでも夜は、少しだけ強引で――どんな麗さんも全部、好きだった。──今更、気付いた。その時。野宮部長が、そっとハンカチを差し出した。不思議そうに見上げると「こずえ、涙拭け」そう言われて――私は初めて、自分が泣いていることに気付いた。
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第六十話:あれから……

「こずえちゃん、次のお客様お願い」「はい、わかりました」──あれから、一年が経った。あの日、麗さんの過去を知って、私はこれで良かったのだと思った。きっと麗さんは、私と家族の間で苦しむことになる。それなら──いっそ、別れた方がいい。そう決めた。野宮部長の予想通り、その日のうちに麗さんから電話が来た。『こずえちゃん?』「はい」『今、大丈夫?』その声は、ひどく憔悴していて、胸が締め付けられる。「はい」『……ごめん。守ってあげられなくて』その一言で、涙が込み上げた。──違う。麗さんは悪くない。でも、それを言ってしまえば、きっと私は戻ってしまう。だから。「麗さん……もう終わりにしましょう」少しだけ息を整える。「先程、うちの会社の会長であるお二人の祖父にお会いしました。麗さんは、ご実家の近くの支店へ異動になると聞きました。私は……遠距離恋愛はできません」沈黙。そして、小さく息を呑む音。(ごめんなさい、麗さん)心の中で、何度も謝る。「麗さんとの日々は……幸せでした」『本気で言ってるの?』初めて聞く、怒りを含んだ声。「はい。だから……さようならです」『こずえちゃん!』何かを叫んでいた。でも、それを聞いてしまえば──私はきっと、全部許してしまう。麗さんの逃げ場所でもいいと、曖昧な関係に甘えてしまう。本当は、それでもいいと思っている自分がいた。だけど、それはきっと──お互いを不幸にする。だから。野宮会長は、私に麗さんの過去を話してくれたのだと思う。最後にこう言って、頭を下げた。「麗が本気で家族を断ち切らない限り……あの家族も麗も変われない。辛
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