All Chapters of 腐女子の私、推しカプのはずの美人上司に抱き枕認定されました。: Chapter 41 - Chapter 50

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第四十一話:抱擁

気が付くと、私は鳩村課長と車の中だった。 「お、意識戻った?」 鳩村課長は運転しながら声を掛けてきた。 「え? 私……」 混乱していると、鳩村課長が苦笑する。 「あぁ……途中で目を開けたまま失神してるみたいだったから、麗子さんと別れて、そのまま目的地に向かってたんだ」 あははは、と笑う鳩村課長。 さすが鳩村ママ。 私の対処法をよく分かっていらっしゃる。 「ご迷惑をお掛けして、すみません」 小さくなって言うと、 「迷惑なんて思ってないよ。気にしないで」そう言われて「はぁ……」と返事をしたその時──私は視線の端に、後部座席の麗子様のお店のショップバッグを見つけてしまった。 (待って待って待って! なんであんな大きな紙袋が三つも後部座席に乗ってるの?)ぐりんっと顔を前に向け、冷や汗が流れる。いや、待って! 鳩村課長のお母さんとかお姉さんに渡すプレゼントかもしれないじゃない!ヤダ、私ったら!自意識過剰すぎ!ペチペチと軽く頬を叩く。 「どうしたの?」そんな私に鳩村課長が心配そうに声を掛けてきた。 「あはは……自意識過剰な己を律していました」そう答えると 「自意識過剰? こずえちゃんが?」鳩村課長は赤信号で止まり、私を見て首を傾げた。 「はい! 私ごとき腐った壁女が、恐れ多いことを考えてしまいまして」すると鳩村課長は少し考える顔をして 「ふぅん? でも、こずえちゃんは少しくらい自意識過剰でもいいんじゃない?」と言った。私は物凄い勢いで鳩村課長を見る。 「前から思っていたのですが……麗さんも貴生さんも、私を甘やかし過ぎです」そう答えると、信号が青になった。鳩村課長は視
last updateLast Updated : 2026-03-07
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第四十二話:嫉妬

え? 何がどうしたの? いきなり抱き締められて、私は混乱していた。 「れ、れ、麗さん?」驚く私に、麗さんは少し困ったように笑う。 「ごめん。誰にでも、触れられたくない事ってあるよね」その言葉に、私は小さく息を吐いた。 「心配させてごめんなさい。そんな大した事じゃないんです。ただ……麗さんも貴生さんも優しいから、つい……」言いながら、照れくさくなって笑った。 「自分が普通の女の子なんじゃないかって思っちゃうんです」えへへ、と笑うと、麗さんは突然真剣な顔になる。 「こずえちゃん!」私の肩を掴み、力強く言った。 「きみは普通の女の子……いや、普通より全然、可愛い女の子だよ」 「信じられないって言うなら、僕が何度だって言ってあげる」真剣な言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。 「麗さん、ありがとうございます」微笑んで言うと、麗さんがそっと私の頬に触れた。あ……これ、ヤバい空気だ。長いキス……来そう。私はとっさに自分の口を手で隠した。 「……何してるの?」 「え? 今、キスしようとしてますよね?」 麗さんは少し驚いた顔をする。 「こずえちゃん、嫌なの?」 「嫌とか嫌じゃないとか以前に……こういう事は恋人とするべきだと思うのです」私の言葉に、麗さんが「なるほど……」と呟く。 (よし……なんとか流されキスは回避できた)ほっとした、その瞬間。 「じゃあ、こずえちゃん」 麗さんがにっこり微笑んだ。 「僕の恋人になってよ」私は目が点になる。 「麗さん? 恋人いるんですよね?」 「…………はぁ?」 今度は麗さんが目を点にした。 「職場
last updateLast Updated : 2026-03-07
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第四十三話:カモフラージュ

「嫉妬……とは?」鳩村課長の言葉に、思わず聞き返してしまった。「え? 僕に彼女がいるって聞いて、胸がモヤモヤしたんじゃないの? それとも、なんとも思わなかった?」首を傾げ、きゃるるんと目を潤ませながら聞いてくる。(誰か~! 今なら野宮部長でもいい! 助けて~!)あざとかわいい顔で、鳩村課長は私をじっと見つめている。「し……嫉妬だなんて、私みたいな壁が……」「こずえちゃんは、人間でしょう?」狭い車内。遠慮なく、鳩村課長の指が私の髪に触れる。「僕ね、心配なんだ」「し……心配?」「こずえちゃん、どんどん綺麗になっちゃうでしょう?鳶に油揚げをさらわれるんじゃないかって……」熱い眼差しで見つめられ、心臓が口から飛び出しそうです。「と……鳶ですか?」「あぁ……今、差し当たっては……鷹かな?」「鷹?」「そう。黒い鷹。……でも、鷹だけに目を光らせていたら、横からカラスにかっさらわれるとか……嫌なんだよね」な、なんでしょう。いつもの穏やかな鳩村課長じゃありません。「れ……麗さん? どうしました?」必死に笑顔を作ってみても、鳩村課長は離れてくれません。「ねぇ、こずえちゃん? 僕にキスされるの、嫌?」いきなりそう聞かれ、思わず見上げる。頬に触れられ、耳元で囁かれた。「さっき……ショックだったよ。キス、拒まれて」「れ、れ、れ……麗さん?」「責任……取ればいいよね?」にっこり微笑まれて、頭がクラクラしてきました。「だ、ダメです、麗さん! 麗さんには、貴生さんという恋人が……」「じゃあ、女性の恋人は……こずえちゃんがなってよ」鳩村課長は、さらりと続けた。「カモフラージュ……必要でしょう?」その瞬間――腐った全私が反応した。「か……カモフラージュ?」「そう。カモフラージュ」一気に脳が活性化する。「それは、私が鳩村課長の彼女になることにより、お二人の愛が無事に育まれると?」目を輝かせて問いかけると、鳩村課長はそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべた。見蕩れている、その隙に。私の唇は、再び鳩村課長に奪われてしまった。
last updateLast Updated : 2026-03-08
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第四十四話:朝帰りを……してしまいました。

「ん……」寝返りを打とうとして、私は普段とは違う違和感に気付いた。目を開ける。そして――私は思わず掛け布団の中を覗き込み、秒速で閉じた。「え……?」思考が止まる。なんで……私と鳩村課長、全裸?しかもここ……どこ?そっと部屋を見回すと、どう見てもホテル。しかも、かなり豪華なスイートルームっぽい。そのベッドの上で、私は鳩村課長に抱き締められたまま眠っていた。なんでしょう。今朝の鳩村課長……色気五割増しです。状況が理解できず、頭を抱える。すると、昨夜の記憶がゆっくりと蘇ってきた。あのあと、少し遠出をして美味しいもの巡りをした。いちご狩りをして、海まで行って海鮮を堪能して。さぁ帰ろう、となったその時。突然の土砂降りの雨。「これじゃあ、帰れないね」そう言われて――なぜかスイートルームに宿泊。ルームサービスを頼み、最初は普通に並んでお酒を飲んでいた。……はずだった。お酒が進むにつれて、私はふわふわしてきて。そして――私、鳩村課長の腕に抱き着いたんだ。「こずえちゃん、もう酔ったの?」驚いた鳩村課長の声。「酔ってないれすよ」にへらと笑う私に、鳩村課長は頭を抱えた。「相変わらず酒癖悪いね。もう、飲んじゃダメだよ」グラスを取り上げられる。「嫌れす~。もっと飲みます」そう言って私は鳩村課長に抱き着き、「グラス返すまで、離しませんよ~」……なんか言っちゃってる!私のバカ! バカバカ!鳩村課長は呆れた顔で言った。「もう寝たら?」すると私は――「お風呂入ります! 麗さんも一緒に入りましょうよ~」と誘い……。それ以上は、私の口からは言えません。あぁ……。壁のはずが、壁のはずが……。頭を抱えて悶えていると、「ん……」小さく呻いて、鳩村課長が目を覚ました。
last updateLast Updated : 2026-03-09
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第四十五話:左薬指に……?

「おはよう、こずえちゃん」にっこり微笑んだ鳩村課長の笑顔は、朝の光より眩しいです。「おはようございます」戸惑いながら答えた私に、鳩村課長が「こずえちゃん、もう僕以外の前でお酒飲むの絶対禁止だよ」と言いながら、綺麗な人差し指で私の鼻先をちょんっとつついた。「あの……麗さん?」「ん?」「これは一体……」戸惑う私に、「覚えてない?」きゅるんと瞳を潤ませ、小首を傾げる。グハッ……!吐血しそうです。目眩がして左手の甲を目元に当てると──薬指に、見覚えのない指輪が。鳩が花をくわえたデザインで、花の中心は……多分ダイヤモンド?その周りの花びらがガーネットっぽい。石は小さいけど……。「これ? ラブリング」「ラブ……リング?」「そう。真ん中のダイヤは貴生の誕生石、周りの花びらは僕の誕生石。意味、分かる?」鳩村課長の言葉に首を傾げ、ハッと我に返る。「まさか……黒鷹×白鳩のLoveリング?」私の問いに、鳩村課長がにっこり微笑む。「……ということは、これは黒鷹×白鳩への愛のリング!だから、ラブリングなんですね!」目を輝かせる私。「わぁ……凄いファンサです!」「気に入ってくれた?」「はい!」「返品できないからね」「返品? そんなこと、しませんよ!」可愛いリングを見つめながら答えて、ふと思った。「あれ? なんで麗さん、私の指のサイズ知ってるんですか?」「なんでだろうね?」頬杖をつき、ベッドの上で気怠げに微笑む鳩村課長。その色気に、気を失いそうになる。私……女だけど、負けてる気がする。そんなことを考えていると、鳩村課長が私の腰を抱き寄せた。「こずえちゃん」その声が、やけに色っぽい気がする。なんか、ヤバい気配がします。「昨日のこと、覚えてる?」……覚えてるけど、覚えてると言っちゃいけない気がします。「昨日? ……あ! 海鮮丼、美味しかったですね」ここは、話題を逸らしましょう。「ふぅん? かなり酔ってたもんね。覚えてないのかな?」あれ?いつもの鳩村課長の声になりました。「飲み過ぎはダメですね」えへへ……と笑うと、鳩村課長がにっこり微笑む。私も微笑み返した──その瞬間。何故、ベッドに押し倒されているのでしょうか?「こずえちゃん、好きだよ。こずえちゃんは?」肩から鳩村課長の髪がサラサラと流れ落
last updateLast Updated : 2026-03-10
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第四十六話:こ、こ、こんにゃく……!ではなく、婚約。

「おい、これはどういうことだ?」それは、出張から帰宅した野宮部長の開口一番の言葉だった。「どういうことって、こういうことだよ。ね、こずえちゃん」鳩村課長が、私をバックハグして頭にキスをしている。「あの……これはですね」「あ、こずえは黙ってろ! お前が入ると話が斜め上に逸れちまう」相当ご立腹の野宮部長が、私の声を遮った。「麗、俺の居ない間に良い度胸だな」「それを言うなら、貴生だって僕が実家に帰る度に、こずえちゃんとデートしていたじゃないか!」二人は睨み合いながら言い争っている。だが野宮部長は、ネクタイを緩めてソファーにドカッと座ると、「まぁ、いいや」そう言って、頭をガシガシとかき回し、セットを崩していつもの髪型に戻した。「お前がそういう奴だって忘れてた俺も悪いし。こずえも満更じゃなさそうだからな」そして、ぽつりと続ける。「まぁ……なんだ。麗とこずえが婚約してても、結婚するまでは俺にチャンスが来る可能性はゼロじゃねぇしな」と言われ、「こ……こんにゃく?」思わず呟いてしまった。私の反応に、野宮部長が目を点にする。「え? ……だってお前、その指輪」「え? この指輪ですか?」「鳩村家の嫁になる人に代々引き継がれる指輪だぞ」野宮部長の言葉に、鳩村課長の顔を見る。──鳩村課長、顔を逸らした!「これ……黒鷹×白鳩のラブリングじゃ……」「あ?」「貴生さんの誕生石と麗さんの誕生石って……」呟いた私に、野宮部長が呆れた顔で言った。「俺、誕生日9月だからサファイアだぞ?」その瞬間、私はムンクの叫び顔になった。「麗さん?」「あはははは……」「笑って誤魔化さないで下さいよ!」「じゃあ、返すの?」きゅるるんとした目で、しょんぼりした顔をする。(くっそ~! その顔、反則です!)「返し……ませんけど……」「本当に?」私の返事に、鳩村課長がぱぁっと笑顔になる。「こずえちゃん、大好き」抱きつく鳩村課長を、「仕方ないなぁ~」と苦笑いしながら許してしまうのは……きっと、そういうことなんだろう。そんな私たちを見て、野宮部長が私たちを引き剥がした。「イチャつくなら、俺が帰ってからにしろ!」と怒鳴る。こうして──私と鳩村課長こと麗さんは、この日から正式な恋人になりました。でも、一言言わせて下さい。「麗さん、今日も
last updateLast Updated : 2026-03-11
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第四十七話:やばい彼氏?

「はぁ……」 私は溜め息をひとつついた。 「こずえ、どうしたの? そんな暗い顔して」 今日は麗さんが出張中なので、ランチはみんなと食堂です。 「あ~わかった。最近出来た彼氏の束縛が凄いんでしょう?」 そう言われて、私は一瞬固まりました。 「え? ……えー!」 驚いて叫ぶ私に、 「え~、驚く? だってこずえ、最近一緒にお昼食べないなぁ~って思ってたら、綺麗になるし。絶対、外に彼氏いるんだって話してたの」 と言われ、私は赤面してしまいます。 「服装だって、趣味変わったしね」 「そうそう! それ、私も思った~!」 二人が盛り上がる中で、 「あ、服はですね。れ……彼氏が、『僕が選んだ服を毎日身に付けて欲しいなぁ~』って」 と答えました。 ……そう。 あの日の紙袋は、全部私へのプレゼントだったのです。 朝帰りした日、一緒に帰宅する際に、全部の紙袋を麗さんが私の部屋へ運び込んだのです。 (あれはさすがにびっくりした) すると二人は顔を見合わせて、 「こずえ、大丈夫?」 「まぁ服のセンスは良いけど……そのうなじのキスマーク、わざとだよね? ねえ、こずえ。あんた女子校出身だからさ、免疫なさ過ぎてヤバいのに捕まってない? 大丈夫?」 と、めちゃくちゃ心配されてしまいました。 私はその言葉に、慌ててうなじに手を当てます。 「あ! 大丈夫だよ。普通にしてたら見えないから」 「まぁ、それ分かってやってるならヤバいよね……」 ヒソヒソ話す二人に、私は心の中で呟きました。 (そのヤバい人は、みんな大好き白鳩様ですが……) 「なにかあったら相談してね」 「そうだよ! 私たち、こずえの味方だからね」 二人に手を握られ頷かれ、私は意を決して聞いてみました。 「あの……恋人って、毎晩あんなに激しく……その、致すものなの?」 こっそり質問すると、二人は顔を見合わせ、 「毎晩……」 「激しく……?」 と口々に呟いたあと、 「キャー! ナイナイ! 毎晩とか、殺す気か!」 「ヤッバ! え? ちなみに、何回?」 何故か目を輝かせ、前のめりです。 「回数……? 分からないです。気付くと私、失神していて……」 「キャー!!」 私の回答に、二人は何故か抱き
last updateLast Updated : 2026-03-12
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第四十八話:閑話休題

私、経理課勤務の安川正恵。営業部の木野ちゃん、総務部秘書課の小川久子こと、ひーちゃんと三人で腐女子トリオだ。最近、木野ちゃんの様子がおかしい。気が付いたら、ぽっちゃりしていた体型がほっそりして、簡単だったメイクも品の良いナチュラルメイクになった。しかも、「髪の毛を色々やるのがめんどくさくて~」とか言っていたのに、時々ヘアアレンジをして出社してくる。この前なんて、どうやったの? その髪型? というくらい可愛い髪型をしてきた。「木野ちゃん、その髪型可愛いね」と言うと、「れ……彼が、朝、やってくれたの」ポッと頬を染めて答えたのだ。「か……彼氏?」木野ちゃんの言葉に、何気なく左の薬指を見たら……指輪してるじゃない!いつの間に!!「え? 婚約したの? いつの間に?」慌てて左手を掴んで言うと、「あ……これは違うよ。黒鷹×白鳩へのラブリングだよ」と、ほわんと微笑んだ。その瞬間、私とひーちゃんは顔を見合わせた。「私の黒鷹×白鳩愛を認めてくれててね」そう言って、うふふっと笑う木野ちゃん。待って、木野ちゃん!その人、本当に大丈夫なの?するとすかさず、ひーちゃんが言った。「こずえ、本当に大丈夫? 普通、腐女子って嫌がられるよ?」「あ……うん。その話をすると止まらなくなるから、すぐに口を塞がれちゃうんだよね~」恥ずかしそうに、へにゃりと笑う木野ちゃん。「っていうかさ、出会いは? あんた、男っ気なかったよね。てか、男性苦手だったよね?」「あ~そうなんですけど、彼は大丈夫って言うか……。最初から抱き枕だったからですかね?」木野ちゃんが、問題発言をした。「ちょっと待って! 抱き枕って、なに?」私が聞く前に、さすがよ、ひーちゃん。先
last updateLast Updated : 2026-03-13
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第四十九話:黒鷹×白鳩のいない社内

今週、野宮部長と麗さんは二人で仙台の出張所へ応援に行っていて留守だ。私は毎日、麗さんからテレビ電話が来ていたので顔を合わせてはいたけど、事務所はお通夜のようだった。最初こそ「え? 黒鷹×白鳩で出張!? しかも部屋は一つ!? ヤバくない?」と盛り上がっていたが、いかんせん潤いが足りない。「ねぇ、お二人って……いつ出張から戻るんだっけ?」二人が出張に行って三日目には、誰もがそう口にしていた。「あぁ……白鳩様の、あの王子様スマイルが恋しい!」「黒鷹様の、あのオラオラ系なのに仕事となると紳士になるあのギャップ! 見たい~!」皆、まるでゾンビのようになりながら呟いている。お二人の出張が残り二日となった日のことだった。「ただいま戻りました」社内で、あと定時まで残り三十分という時間に、突然麗さんの声が響いた。その瞬間、屍だった女子社員たちの顔に生気が戻った。「鳩村課長? お戻りは二日後でしたよね?」「あぁ、うん。でも……残りは野宮部長がいれば大丈夫そうだったから、先に戻って来たんだ。はい、これ。みんなにお土産だよ」爽やかな王子様スマイルで、麗さんが営業部の古参の先輩にお菓子の箱を手渡した。あぁ……。麗さんがいるだけで、まるで社内に空気清浄機がついたみたいに空気がクリーンになった気がする。そんなことを考えていると、麗さんと目が合った。にっこりと微笑んだ麗さんの目の下には、うっすらとクマが出来ていた。みんなでお菓子を頂いている間に、就業時間の終わりを告げるベルが鳴り響く。麗さんはそそくさと帰り支度を済ませ、女子社員たちからの「あと少しでいいから残って下さい」という視線に見向きもせず帰宅して行った。「白鳩様、やつれていたわね」「目の下のクマ、見た?」そんな皆の会話を横目に、「お先に失礼します」と、私もそそくさと帰宅した。自宅に帰ると、案の定。「こずえちゃん、会いたかった~」と、麗さんが抱きついてきた。「貴生さん、置いて来て良かったんですか?」「はぁ? あいつと一週間も同じ部屋とか、マジで無理!」そう言いながら、麗さんは私の髪をくんくん嗅いでいる。「やっぱり、こずえちゃんがいないと安眠出来ないし」そう呟いた麗さんの言葉に、私はホッとした。じゃあ、今夜は速攻寝落ちですね?と。――そう思ったのに。「……嘘つき~
last updateLast Updated : 2026-03-14
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第五十話:異変

それは、麗さんと食事をしている時のことだった。スマホの着信音が鳴り響き、麗さんは画面を見ると深く溜め息をついた。「ごめん、こずえちゃん。ちょっと席を外すね」「はい」麗さんはスマホに出ると、「はい、麗です。姉さん、どうしたの?」そう言いながら部屋の奥へ歩いて行った。(お姉さん?)この時の私は深く考えず、食事を続けていた。──しかし、この日を境に、麗さんのお姉さんからの電話は頻繁になった。この日も、麗さんにキスされて押し倒された瞬間、家の電話が鳴り響いた。「こずえちゃん、無視してていいよ」そう言われたものの、留守電に切り替わった瞬間。「麗……麗……どうして電話に出ないの? 誰か一緒にいるの?」明らかに泣いている声だった。麗さんは深く溜め息をつくと、「ごめん、留守電切るの忘れてた」そう言ってベッドから起き上がり、サイドテーブルのスマホを手にした。「姉さん、こんな夜遅くに何? ……誰もいないよ。……違う、疲れて寝てただけ」明らかに疲れた表情で会話している。額に手を当てながら、「姉さん、分かったから。もう泣かないで。今週末? それは……」そう言って私を見た。私がジェスチャーで『どうぞ』と伝えると、麗さんは片手を上げて『ごめん』の仕草をする。「分かったよ……帰るよ。どこに行きたいの?」麗さんは優しい声でそう言いながら、リビングへと移動していった。私がうとうとした頃、麗さんはベッドに戻ってきた。そして背後から私を抱き締めると、「こずえちゃん、ごめんね。映画……見る約束だったのに……」ポツリと呟いた。「麗さん? ……大丈夫ですよ。映画なら、まだ上映されたばかりですし、今度観に行きましょう」「本当に……ごめんね」私に縋り付くように抱き締める麗さんに、私は小さく笑って頷くことしかできなかった。──結局、行こうと話していた映画は、観ることが出来ないまま、月日は流れた。
last updateLast Updated : 2026-03-15
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