Lahat ng Kabanata ng 夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした: Kabanata 51 - Kabanata 60

94 Kabanata

51話

伏見は音羽の腰を抱き、倒れてしまわないように自分に引き寄せている。 そして、音羽は倒れそうになって咄嗟に目の前の伏見に縋ってしまった。 両手で伏見に抱き着く音羽を楽しげに見下ろしていた伏見は、喉奥でくつりと笑うと更に音羽に身を寄せた。 まるで、音羽の体に覆い被さるようなその行動に、音羽はぎょっと目を見開く。 「随分と大胆だな、玉櫛 音羽──」 「なっ、なん……っ」 伏見の揶揄うような態度に、音羽の顔が真っ赤に染まる──。 音羽は、自分を抱き寄せてくれている伏見から離れようとした。 その瞬間。 「──音羽、何をやっている!!」 公園に、男の声──。 玉櫛 樹、かつては音羽の夫だった男の怒声が響いた。 「──は?樹……?」 音羽は、唖然としたまま声が聞こえた方向に顔を向ける。 伏見は楽しそうに目を細めたまま、まるで樹に見せつけるように音羽を更に抱き寄せた。 音羽と伏見の密着度合いが増した瞬間、樹の瞳に怒りが募るのを、伏見は見逃さなかった。 「こんな真昼間から、こんな場所で……!男と抱き合うなど恥ずかしい真似をするな!」 「ま、まあまあ樹さん。落ち着いて?」 「裕衣!お前は口を挟むな!」 樹を宥めようとした裕衣だったが、樹にぴしゃりと怒鳴られ、裕衣は悔しそうに口を噤んだ。 ガツガツと足音荒く音羽と伏見の元へやってきた樹は、ベンチに座り、未だに抱き合い密着している音羽と伏見を苦虫を噛み潰したように見つめた。 「音羽──お前は、俺の妻だと言う自覚が──」 「やだ、樹さん。今のあなたの妻は私でしょう?音羽さんとは離婚したじゃない?」 樹の言葉が最後まで言い終える前に、すかさず裕衣が言葉を挟む。 また、離婚と言う単語──。 先程、樹の家に行った時に使用人に言われた言葉を思い出した音羽は、伏見から離れて樹に向き直った。 「──そ、そうよ樹!離婚ってどう言う事!?私は、あなたと離婚した記憶は無いわ!離婚届にだって署名していない!」 「……それは」 音羽の言葉に、樹が答えようとした時。 再び裕衣が割って入る。 「音羽さん、1回聞いて分からないの?樹は、犯罪者のあなたとはもう離婚したの。犯罪者の妻も、母親もいらないのよ。離婚届なんて、こっちでいくらでも対応出来るの。あなたはもう、玉櫛家とは何の関係もないのよ」 裕衣が憐れむ
last updateHuling Na-update : 2026-02-27
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52話

「──は。何ですって……?樹……っ、もう一度言ってみなさい!」 音羽は、樹に言われた言葉が一瞬理解出来なかった。 だが、言葉の意味を理解するなり頭の中が怒りで真っ白になる。 目の前にいる樹に飛びかかろうとした所で、樹に思いっきり振り払われてしまった。 「──おっと」 音羽が転倒してしまいそうになった所を、伏見がすかさず抱きとめる。 その様子をまるで射殺さんばかりに睨み付けた樹だったが、音羽の茫然自失といった様子に咳払いをして続けた。 「お前はもう玉櫛とは何の関係もない人間だ。息子の母親も死んだ事になっている。二度と玉櫛に関わろうとするな」 「ふふ……音羽さん、これ以上私たちの息子に近付いたら、通報するから。肝に銘じておいてくださいね」 樹の隣で、彼の腕に自分の腕を絡ませた裕衣が勝ち誇ったような笑みで音羽を見下ろす。 伏見に抱きかかえられた音羽は、ただただ樹から言われた言葉が信じられず、去って行く彼らを追いかける事も。 そして、言い返す事も出来ずにただ茫然としてしまった──。 ◇ 「──おい、おい。音羽。大丈夫か?」 どれくらい時間が経っただろうか。 音羽は、自分のすぐ近くから聞こえる低い男の声にハッとした。 まるで今にもキスでもしてしまいそうな近い距離。 自分の目の前に、伏見の端正な顔があって、音羽は慌てて飛び退いた。 「ふ、伏見先生──」 「違うだろう……」 音羽が伏見の名前を呼ぶと、伏見はむすっとしながらそう答える。 え?え?と戸惑う音羽に、伏見は「名前」と呟いた。 そこでようやく伏見が不機嫌な理由が分かり、音羽は慌てて名前を呼ぶ。 「れ、蓮夜さん──」 だが、やはり伏見はむすっとしたまま返事をしない。 音羽は更に言い直した。 「蓮夜……?」 「──ああ、それで良い」 音羽が名前を呼ぶと、伏見はぞっとするほどの色香を放ち、笑う。 音羽の心臓がどきり、と高鳴るがすぐにハッとして樹と裕衣が去って行った方向に顔を向けた。 だが、呆けてしまっていた時間が長かったのか。 そこには既に樹も、裕衣の姿も無い。 樹の姿を見失ってしまった。 途端に、音羽の視界はじわりと涙で滲む。 これから、いったいどうしたらいいのか──。 もう、玉櫛の家には行けない。 それに、樹や裕衣の近くを彷徨く事も出来ない──。
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53話

「場所を移すぞ」と、そう口にした伏見の提案に従い、音羽は伏見の車に乗り、伏見の家に戻ってきていた。 そう言えば、伏見のこの家は玉櫛の家と近い──。 音羽は、通されたリビングの窓際に向かい、窓から外を見回した。 「確か、玉櫛の家はあっちの方向……」 まぐれでもいいから、恭の姿が見えたりしないだろうか。 窓越しにでも、大きくなった恭の姿をひと目でも見たい──。 そう考えて音羽は窓の外をそわそわとしながら見つめ、目当ての人物の姿を探す。 だけど、やっぱりそんな簡単に恭の姿を見つける事なんて出来なくて──。 「あの家は塀が高くて中の様子を覗き見る事なんて出来ないぞ」 背後から声をかけられ、音羽はびくりと体を跳ねさせた。 いつの間に戻ってきたのだろう。 伏見は足音を立てる事なく音羽の背後にやって来ていた。 伏見の両手には、飲み物が入ったマグカップが握られていて。 その内の片方を伏見は音羽に差し出した。 「──ほら、一先ず喉を潤した方がいい」 「あ、ありがとうございます」 伏見から差し出されたマグカップを受け取った音羽は、有難くそれに口を付けた。 「気分が落ち着いたらソファに来ればいい」 伏見は、音羽の気が済むまで窓の外を眺める事を止めようとはせず、軽く音羽の肩にぽんと手を置くと去って行く。 音羽は伏見の気遣いを有難く受け入れ、暫くその場で窓の外を眺めてからから伏見が待つソファへ向かった。 伏見は、ソファに座りノートパソコンで何か仕事をしている様子だった。 だが、音羽がやって来るのを見ると、開いていたノートパソコンを閉じて口角を上げて笑みを浮かべつつ音羽に投げかける。 「子供の姿は見れたか?」 「──無理、でした。恭ちゃんを見るのは、またの機会に取っておきます」 「そうか。この家は玉櫛の家と近いからな……遠慮せず、顔を出しに来ればいい。いつかは子供の姿を見られるかもしれない」 音羽を励ますような伏見の言葉に、音羽は胸が温かくなるのを感じる。 こうして、気遣って、優しくしてくれるのはあの刑務所で伏見がカウンセラーとして働いていた頃から変わらない。 音羽は伏見の提案に、有難く頷き、笑みを返した。 「本当にありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね」 「ああ。──それで、音羽」 「──はい」 伏見の表情が、不意
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54話

「これ、から──?」 「ああ」 伏見は音羽のきょとんとした返答に頷き、続ける。 「勝手に離婚されていた件もそうだし……玉櫛の性を諦めるのか?あの男の妻の座を諦めると、子供を取り戻すのは難しいんじゃないか?」 心配そうに紡がれる言葉に、音羽は少しだけ考える素振りを見せてから緩く首を横に振って答えた。 「──離婚の件は、どうだっていいです。むしろ、私から離婚を切り出そうとしていた所ですし。樹──夫に、書類を偽装されて勝手に離婚されていたのは少し腹が立つし、恭ちゃんの親権をどうこうする前にこんな事になってしまったのは凄く悔しいですけど……恭ちゃんは絶対に私が育てます。……あんな風に倫理観が欠如している人達に恭ちゃんを育てて欲しくないから……」 音羽は、考えていた事を一気に話し、伏見に伝える。 音羽が無理をしてこんな事を言っていないか──。 そんな心配をした伏見は、音羽をじっと見つめるが、音羽には無理をしているような感じもない。 表情も変わらず至って真剣な眼差しのまま。 伏見は音羽が無理をしていない事を確認すると「分かった」と頷く。 「一先ず……恭ちゃんを私が育てられるようにするには、仕事を探そうと思っています。それと、住む家も探さないといけないので……」 音羽の言葉に、伏見はぱっと顔を上げた。 言おうか言わまいか悩んだような顔をしつつ、口を開いた。 だが、それと同時に音羽も言葉を続けて。 「それなら──」 「律子さんに一緒に住もう、と言ってもらっているので、暫くはお邪魔になりながら仕事を探そうと思っています」 音羽は、伏見が何かを言った事に気付き、はっとして慌てて言葉を止めた。 「す、すみません!何か言いかけていましたよね!?」 あわあわとする音羽に、出鼻をくじかれた伏見だったが、それを悟られないように平静を装った。 「いや、大した事じゃない。で?知り合いの家に住んで、仕事を探すつもりだとか?」 「え、ええ……」 音羽は申し訳なさそうにしつつ、頷く。 「えっと……あの刑務所で、私と同じ留置所で親しくなった人が居るんです。律子さんって言って……伏見さ──えっと、蓮夜、が……まだカウンセラーの先生をしていた時に良く一緒に居た女性なんですが……覚えていますか?」 覚えていないはずがない。 律子は、そもそも自分の組の人間だ。
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55話

「じゃあ、今日はこれからその女性の所に向かうのか?」 伏見の言葉に、音羽は頷いた。 「はい。先に家に入っていていい、と言ってくれたので。迎えに来てくれた時に合鍵を渡してくれたんです」 「──家はどの辺だ?送って行こう」 「えっ!?で、でも──」 「今日は1日休みだと言っただろう?休みの日って何をすればいいのか分からないんだ。送らせてくれ」 肩を竦め、軽い調子で言う伏見に、音羽はこれ以上断るのも……と考える。 それに、あの刑務所で散々自分の悩みを聞いてくれた伏見だ。 今更遠慮するものも失礼か、と思い直した音羽は伏見の言葉に甘える事にした。 それから、少し世間話をして伏見の家を揃って出た2人。 「車をここに持ってくる。待っててくれ」 伏見の言葉に、音羽は振り返って頷いた。 その時。 遠くで車のエンジン音が聞こえ、停まった音が聞こえた。 その時、車を持ってくると言っていた伏見が驚いたように目を見開き、ある一定の場所を凝視していた。 伏見の驚いたような顔を真正面で見た音羽は、不思議そうに首を傾げる。 「──蓮夜?どうかしましたか?」 「いや……音羽……。あの家は玉櫛の家だよ、な……?あれ──あんたの子供じゃないか?」 「──えっ!?」 躊躇いがちに紡がれた伏見の言葉に、音羽は弾かれたように振り向いた。 振り返った音羽の視界に、一台の車が映る。 そして、その車の横──。 運転手だろうか。樹ではない、中年の男性に手を引かれた小さな子供──。恐らく、3歳前後。 音羽の息子、恭と同じであろう年頃の男の子が立っていた。 「──恭、ちゃん」 後ろ姿しか見えないが、それでも音羽は確信する。 間違いない。 あそこにいる男の子は、自分の息子──恭だ。 「恭ちゃ……っ」 「待て、音羽……!」 思わず駆け出そうとした音羽の腕を、伏見が咄嗟に掴んで引き止める。 「蓮夜っ!どうして止めるんですか!あそこに私の──」 「あんた、言われた事を覚えていないのか!?下手に息子に接触したら通報されてまたあの場所に逆戻りするぞ……!?」 「──っ」 伏見の言葉に、音羽ははっと目を見開く。 そうだ──。 そうだった。 息子には、母親は死んだ。 そう伝えていると樹が言っていた。 そんな状態で恭に近付き、自分が恭の母親だと名乗り出たとし
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56話

「音羽。俺の腕に手を回せ」 「──え?」 伏見の声が聞こえ、音羽は滲む視界のまま伏見を仰ぎ見る。 すると、音羽の視線を受けて伏見は淡々と言葉を続けた。 「俺は近所に住んでいるだろう。……夫婦の振りをして……通り過ぎ様に息子に話しかけてみたらどうだ?」 「──っ!?」 「これなら自然だろう?俺たちはさっき家から出てきたばかりだし、このまま歩き出せば自然だ」 「い、いいんですか……!?」 「別に構わない。夫婦の振りをするんだから敬語は無しだ。親しそうな演技は出来るか?」 「だ、大丈夫です……!問題ありません……!」 伏見の提案を聞くなり、それまで沈んでいた音羽の表情が輝きだし、涙で滲んでいた目元を素早く拭う。 しっかりと息子の姿をこの目で見るんだ──。 そんな表情をした音羽に、伏見は腕を揺らして見せた。 「仲良さげな夫婦に見えるように」 「──は、はい……っ!」 「はい、じゃなくて?」 「わ、分かった」 こくり、と頷く音羽に伏見は満足そうに頷いて見せた。 「歩くぞ」と伏見が話し、歩き出す。 ゆっくりと歩いてくれる伏見にぎこちなく着いて行っていた音羽だったが、自分の息子に近付くにつれ、意識は恭に向かい、ぎこちなさもなくなる。 あと少し──。 あと少しで、恭のすぐ近くに──。 背後から歩いて来ていた音羽と伏見に先に気付いたのは運転手の男性だ。 だが、彼は先程伏見の家から出て来た2人の姿を見ている。 「近所の住人だ」と認識した運転手に対して、伏見は軽く頭を下げて「こんにちは」と言葉を発した。 音羽も逸る気持ちを抑えて笑顔を浮かべ、伏見に続いて「こんにちは」と言葉を発する。 運転手が2人に向き、笑顔で挨拶を返してくれた。 その瞬間──。 運転手に手を繋がれていた恭──音羽の最愛の息子も、音羽と伏見に気が付いた。 後ろを向いていた恭が振り返る。 つぶらで、大きな瞳。 顔立ちはどこか音羽に似ている。 くりくりとした大きな恭の目が音羽を捉え、行儀正しくぺこりとお辞儀をした。 「こんにちは、おばさん。おじさん」 声も、子供特有の高くて可愛らしい声。 音羽は恭の視界に入り、しまいには言葉を交わす事が出来た喜びに打ち震え、すぐに言葉が出てこなかった。 だが、そんな音羽の代わりにすかさず伏見が言葉を続ける。 「今日
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57話

恭ちゃん──。 そう、名前を呼んでしまいそうになるのを音羽はぐっと耐えつつ、まるで初めて会いました、と言うような笑みを貼り付けて息子に話しかける。 「保育園かな?幼稚園かな?楽しかった?」 音羽が、自分に話しかけている──。 それを察した恭は、ぴしりと背筋を伸ばして音羽に向き直り、言葉を返した。 「保育園、です。今日も1日楽しかったです」 「──っそう、良かったね」 僅かな、違和感──。 だが、それを感じた事を相手──運転手に悟らせてはならない。 音羽は完璧な余所行きの笑みを貼り付けたまま、恭の言葉にそう返した。 音羽と恭の会話を聞いていた運転手は、伏見との会話を切り上げ、恭と繋いでいた手に力を込めて微かに引いた。 「それでは、我々はこの辺で……」 「ああ、急に話しかけてすみませんでした」 「ぼく、またね」 運転手の言葉に、伏見はそう返し、音羽は恭に向かって手を振る。 手を振られた恭は、きょとんと不思議そうに目を瞬かせて、手を振り返そうとしてくれたのだろう。 恭のもう一方の片手がぴくりと動いたのが見えた。 だが、運転手に話しかけられた恭はハッとしたように表情を引き締め、礼儀正しくぺこりと頭を下げた。 「おばさん、おじさん。失礼します──」 「さあ、坊っちゃま。……では、失礼します」 頭を下げて、去って行く2人を見送った音羽と伏見。 音羽は2人の背──主に、恭の背中を見つめていたが、不意に伏見に腰を抱き寄せられた。 「──っ!?」 「しっ。歩くぞ……」 耳元で伏見が囁く。 音羽は僅かに頷くと、歩き出す伏見に合わせて足を動かした──。 「近所を散歩している振りを」 「──分かりました」 「少ししたら車に戻ろう」 伏見の提案に、音羽はただただ頷く。 それからは、不自然に見えない程度に「仲睦まじい夫婦」を装い、世間話をする。 そして、暫く近所を散歩した後、伏見に促されて目的である伏見の車に乗り込んだ──。 車に乗り込んだ瞬間、それまで2人は当たり障りのない世間話を笑顔でしていた。 だが、乗り込んだ今は。 2人とも笑みがなくなり、真剣な表情を浮かべていた。 沈黙が支配する車内で、音羽が先に口を開いた。 「──恭ちゃんの様子……、何だか変でした……」 ぽつり、と落ちた音羽の真剣な声。 それは確かに伏
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58話

お行儀が良い──。 礼儀正しい──。 そう、語るには少し歪な感じがする。 まだ3歳程だと言うのに、あそこまで感情の抜け落ちた表情をするだろうか。 礼儀正しいと言うより。 そう、見られるように躾られている──。 そんな風に感じてしまった音羽は、自分の事のように苦しみ、胸を押さえた。 「酷い……恭ちゃんはまだ3歳にもなっていないのに……子供らしい笑顔も何も無かった……!ただ、淡々と言葉を返して……っ」 「──まるで感情の無い人形のよう、だったな……」 ぽつり、と呟く伏見に、音羽も頷く。 何も言葉を紡ぐ事が出来ない音羽を横目で見やった後、伏見は「出すぞ」とぽつりと呟き、車を発進させた。 ◇ 「音羽。──着いたぞ」 「──ありがとうございます」 不意に伏見の低い声が車内に響き、音羽ははっとして俯いていた顔を上げた。 車の窓から周囲を見回してみると、視界に入ったのは見知らぬ景色。 そして、古いアパートの前に伏見の車が停まっていた。 「ここが、世話になる知り合いの家か?」 律子の事を言っているのだろう。 音羽は伏見に頷くと言葉を返した。 「そうです、今はここに住んでいるから……暫く一緒に暮らせばいい、と言ってくれていて……」 「大人2人では少し狭そうだが……」 「十分です。暮らす事さえ出来れば良いので……。その、蓮夜。ここまで送ってくださりありがとうございました」 シートベルトを外し、ぺこりと頭を下げる音羽に伏見は頷いた。 「ああ。手助けが必要なら連絡を」 そう言った伏見の手に、1枚の名刺が握られている。 音羽は差し出された名刺と伏見の顔を交互に見る。 まさか、本当に助けてくれるのだろうか──。 社交辞令、のようなものだとばかり思っていた音羽は戸惑った。 だが、伏見が無言で名刺を軽く揺らす。 早く受け取れ、と言わんばかりの行動に、音羽は慌てて伏見から名刺を受け取った。 「ありがとうございます、本当に……」 音羽はもう1度お礼を言ってから伏見の車を降りる。 伏見は助手席側の窓を開けて、音羽に告げた。 「──今後、音羽あんたの息子を見かけたら注意深く見ておく。……じゃあ、また」 「──!ありがとうございます……っ!」 その言葉を最後に、伏見は車を出して去って行く。 伏見の車が見えなくなるまで見送った音羽は
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59話

音羽が律子の家に着いてから、どれくらいが経っただろうか。 音羽が律子の家で大人しく待っていると、アパートの外で車が停まる音が聞こえた。 そして、部屋の鍵が開く音が聞こえる。 「──音羽!」 「律子さん!」 扉を開けて入って来た律子の顔を見て、音羽は安心したように表情を緩め、律子を出迎える。 「遅くなっちまったね、大丈夫だったかい?」 律子の言葉に、音羽は頷く。 そして律子の「大丈夫だったか」と言う言葉に返した。 「──玉櫛の家に行ってきました」 「そうかい!恭には会えたのか?」 律子はぱっと表情を明るくすると、恭の名前を口にした。 だが、恭の名前が出された瞬間、音羽の表情が一気に曇り律子は眉を顰めた。 「どうしたんだい……?家に戻ったんだろう?子供に母親だって名乗らなかったのかい?」 律子の質問に、音羽はあの場で起きた事。 そして、樹によって勝手に離婚させられていた事。 そして、恭の様子がおかしい事を順を追って説明した──。 ◇ 音羽の説明を聞いた律子は、テーブルを拳で殴り怒声を上げた。 「何だいそれ!そんなふざけた事がまかり通るなんざ……!」 「だけど、離婚に関しては別にどうでもいいんです。私から切り出すつもりだったのに、先に手続きをされていたのは悔しいけど……それだけなので」 「だ、だが……あのクソ男と離婚したら……恭が……」 気まずそうに言葉を紡ぐ律子に、音羽は何とも言えない表情を浮かべる。 「……でも、私はもう死んだ事にされているので。恭ちゃんに私が本当の母親だって知らせるのは、まだ早いかなって……」 「早いもクソもあるかい!?ちゃんとあんたが生きてるんだ!恭をあんなクソ男と女の傍に居させるのは良くないだろう!?」 「だけど、今の私は前科者です」 真っ直ぐ射抜くような音羽の視線に、律子はぐっと言葉を飲み込んだ。 「だ、だが……」 「だから私は自分の無実を証明しよう、と。そう思っているんです」 「──っ!?」 音羽の言葉に、律子が驚いたように目を見開いた。 「律子さんが出所してから……刑務所でずっと考えていんです。どうしたら堂々と恭ちゃんを迎えに行けるかなって……。だったら、私はあの事件とは無関係だって事を証明するしかありません。きっと、あの事件は裕衣が起こしたんだと思います」 「──裕衣?そ
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60話

恭を取り戻す──。 そして、自分が無実だと言う事を証明する。 そう決意した音羽は、まずは仕事探しに精を出していた。 今は律子の家に一時的にお世話になっているが、いつまでも世話になり続ける訳にはいかない。 あれから、数日。 音羽は外に出て求人雑誌を入手すると、家で色々と調べていた。 律子が置いていってくれたスマホを借りて音羽は何ヶ所か求人雑誌に乗っている箇所に電話をしたが、住所が定まっていない音羽を快く雇用してくれる職場は中々見つからない。 「どうしよう……。仕事が中々見つからない。仕事が見つからないとお金も稼げないし……律子さんの家からも出ていけない……」 音羽は頭を抱えてしまう。 このアパートだって、律子が1人で暮らす家だからワンルームだ。 そこに音羽が転がり込んでしまったせいで、随分窮屈な思いをさせてしまっている。 律子にこれ以上迷惑をかけたくない。 仕事の事や、住む家の事。そして、恭の事。 身の潔白を証明する事──。 音羽には、やらなくてはいけない事が沢山ある。 それなのにちっとも前進している気がしなくって。 音羽は日々焦りが増して行くのを感じていた。 ◇ 「音羽の様子はどうなんだ?」 都内のとある屋敷。 綺麗な和風庭園には、見事な枯山水がある。 そんな庭園を横目に、律子は目の前に座る男──伏見の質問に答えた。 「体調面には何の問題もないですね。……ただ、仕事が見つからず、焦っているようです」 「──仕事?どうして仕事なんて……」 「音羽は、早く私の家を出ていかなきゃと考えてるんですよ。長い事世話になるのは申し訳ないと思っているようで」 「──そうか」 律子の返答に、伏見は自分の顎に手を当て、考えるように視線を下に向けた。 「──若。そんなに心配なら音羽を自分の家に住まわせてやればいいんじゃ……。あの家も、音羽のために買ったようなもんですよね?」 律子の言葉に、俯いて考え込んでいた伏見は顔を上げた。 何の感情も読めない真っ黒な瞳が、律子を見返す。 その冷たさに、律子は背筋をぞっと震わせる。 (な、なんか余計な事を言っちまったのかい、私は……?) 失言をしただろうか──。 律子がそんな事を考えていると、伏見はおもむろに口を開いた。 「まだ、俺を完全には信用していないだろう。まだ家に連れ込むの
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