Lahat ng Kabanata ng 夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした: Kabanata 41 - Kabanata 50

94 Kabanata

41話

◇ 律子が伏見との面会を終えて留置所に戻る。 すると、そこには既に音羽が戻って来ていた。 意外と長い時間伏見と話し込んでいたのだろう。 律子は、戻ってくるなり音羽に駆け寄った。 「──音羽!あいつとの話は大丈夫だったのかい!?恭は……大丈夫そうだったか……?」 「律子さん──」 律子の言葉に、音羽の顔がくしゃり、と歪む。 (大丈夫なはずがない……子供を奪われた母親が、大丈夫なはずがないのに……私は何を分かりきった事をこの子に聞いちまったんだ……) 音羽の顔色は、真っ白だ。 相当辛い思いをして恭と離れたのはその様子から伺える。 「大丈夫……、大丈夫です律子さん……。恭ちゃんを迎えに行った時、ちゃんとしっかりとしたお母さんだ、って思ってもらわないと……ほんの少しだけ、離れちゃうだけだから……っ」 音羽は、滲んで来ていた涙を乱暴に拭う。 「……しっかり、ご飯を食べて……ちゃんとこの中で真面目に過ごして……それで、早く出してもらえるようにします……!」 先程より、いくらか瞳に光が戻ってきた音羽を見て、律子はほっと胸を撫で下ろす。 「そうだね。まずはしっかりあんたがご飯を食べないとだ……これから、自由時間に外に出たら健康にいられるよう、体を動かした方がいい」 律子はそう話しつつ、音羽を励ますように肩を叩く。 律子の言葉に何度も頷く音羽。 音羽が少しでも元気を取り戻してくれた姿に、律子はほっとした。 「さあ、朝飯を食べて作業を終えたら自由時間だ!今日から自由時間は体を動かすよ、音羽!」 「──分かりました、律子さん」 ◇ 軽作業が終わり、受刑者の自由時間がやって来る。 律子と音羽が運動場に出て周囲の受刑者達と話をしつつ、運動場を歩き始める姿をこの刑務所の屋上から伏見はじっと見つめていた。 黒い瞳には、無理に笑顔を作り笑っている音羽の姿しか映っていない。 「あんな風に無理に笑っても……辛い気持ちはなくならないのにな」 ぽつり、と伏見は呟く。 たった、数ヶ月。 実際に音羽と関わった日数にしたら、もっと少ない。 たったそれだけの時間しか音羽とは関わっていない伏見だったが、その少ない時間だけで音羽は「善良な一般市民」だと言う事は十分分かった。 屋上でじっと音羽を見つめる伏見の胸ポケットに入れていたスマホが、着信を知らせる。
last updateHuling Na-update : 2026-02-22
Magbasa pa

42話

それからは、あっという間に時間が過ぎた。 音羽が恭を手放して、どれくらい経っただろうか。 数ヶ月はもうとうに過ぎているかもしれない。 そして、そんな頃──。 同じ留置所に入っていて、当初から音羽に良くしてくれていた律子の、仮釈放が決まった。 「おめでとうございます、律子さん!」 音羽は、律子からその話を聞くなり、まるで自分事のように喜び、律子に抱きついた。 「そ、そりゃあ嬉しいけどさ……だけど、音羽……あんたはまだまだ──……」 律子は、悔しげにぐっと唇を噛み締める。 模範囚として認められた律子以上に、音羽は真面目に過ごし、音羽こそ模範囚として認められてもおかしくない程なのに。 音羽には、2年が経つ頃になっても仮釈放の話は浮上しなかった。 「いいんです。長くても、あと1年。あと1年ここで耐えれば、恭ちゃんに堂々と会いに行ける……!ようやく、あと少しなんです……!」 「あんたが、いいなら私はこれ以上は言わないが……」 それでも、律子は悔しかった。 確実に。 いや、絶対に音羽の夫、玉櫛 樹が音羽の釈放を妨害しているのだ。 当初判決が下された刑期より長くなり、さらには模範囚にもなれず、仮釈放も認められない。 おかし過ぎるのだ。 裏で、玉櫛が動いているのは火を見るより明らかだった。 だが、それでも音羽の言葉も確かだ。 あと1年。あと1年ここで耐えれば、音羽も堂々と刑務所を出ていける。 (なら……私は音羽が出てきた時に助けてやれるよう……表の事を少し探っておこうかね) 玉櫛ホールディングスは、大企業だ。 律子が出来る事など、調べられる事などたかが知れている。 だが、それでも何かしてやりたい──。 音羽には、そう思わせる何かがあった。 律子は、自分のように喜んでいる音羽にふっと笑いかける。 「私が音羽と一緒に居られるのもあと少しか……。一足先に自由の身だが、ちょくちょく面会に来るよ」 「ふふっ、ありがとうございます律子さん!」 嬉しそうに笑う音羽に、律子も笑った。 ◇ 「ああ、もう!可愛くない!!」 女のヒステリックな叫び声が響き、次いで何か硝子か陶器が落ちて割れるような派手な音が響く。 その後に、赤ん坊の泣き声が響き、女──裕衣は苛立ちを隠しもせずにベビー用の椅子に座り、食卓についていた赤ん坊──音羽が産ん
last updateHuling Na-update : 2026-02-22
Magbasa pa

43話

情事の気配が色濃く残る部屋。 裕衣は、息も絶え絶えで胸を大きく上下しながら、隣の空になったシーツを指先でなぞった。 樹は、いつもこうだ。 抱くだけ抱いた後、さっさと自分1人でシャワーを浴びに行ってしまう。 今までだったら裕衣はそんな態度の樹に不満を抱いていたが、今の裕衣にはそんな事ちっとも気にならない。 真っ赤だった唇は、何度も樹に貪られ、赤いルージュは既にぐしゃぐしゃに乱れていた。 その唇を、裕衣はにんまりと笑みの形に歪める。 「──もう、前妻を気にする必要なんか無い」 裕衣は、室内をぼんやりと照らすダウンライトに左手を翳す。 そこには、ぼんやりとした光を受けてもキラキラと輝く美しい指輪が輝いていた。 裕衣の左手、薬指──。 そこには、かつて樹の妻だった音羽だけが指輪を許されていた場所だ。 だが、今は全て裕衣の物になった。 「──ふっ、ふふっ」 裕衣は嬉しそうにクスクスと笑い声を漏らすと、ころりとベッドに寝返りを打った。 「樹ったら……私がちょっと泣きついてみせれば、前妻の音羽をあんなに簡単に切り捨てるんだから……」 裕衣は、自分が犯した罪がバレそうだ、と樹に嘘をついたのだ。 音羽が被った罪──。 それは、裕衣が犯した罪だった。 樹の秘書として働き始め、同じ会社で働く音羽が目障りだった。 自分より顔も、学歴も良くないくせに、ただ運が良かっただけで樹の妻と言う座に着いた音羽。 そんな彼女が目障りで、日々の仕事に苛立ちを感じていた裕衣は、ある日大きな失態を犯したのだ。 重要書類を紛失し、大事になる所だった。 その時、既に樹と不倫関係にあった裕衣は樹に泣きつき──。 そして、音羽に全ての罪を被せたのだ。 「ふっ、ふふっ。樹も酷い人だわ。自分の妻に無実の罪を負わせるなんて……」 ただ、樹は音羽をすぐに刑務所から出すつもりだったようだ。 だが、そんな事をしたらせっかく邪魔者を排除したのに意味が無い。 だから裕衣は罪が明るみになるかも。音羽にバレてしまって復讐されるかも、と樹に泣きつき、音羽の刑期を伸ばさせたのだ。 「樹は、もう私の男よ」 樹はすっかり裕衣の体にも、裕衣自身にも溺れている。 「あとは……邪魔なあの女の子供さえどっかに行ってしまえば……だけど、私はまだ妊娠していない……。私が妊娠して、樹の子供を産
last updateHuling Na-update : 2026-02-23
Magbasa pa

44話

◇ 「律子さん、おめでとうございます。またお会いしましょうね!」 「ああ、そうだね。音羽、あんたもあと少しここで頑張るんだよ」 「ええ!ここを出る日が、恭ちゃんに会える日ですもの!」 恭を失い、一時期音羽は落ち込んでいた。 だが、今は。 恭に再び会うため。恭を自分で引き取り、2人で暮らす事を目標にした音羽は、以前より明るくなった。 律子は、自分が先に仮釈放で塀の外に出てしまった後の音羽を心配していたが、その必要はなくなったと悟る。 律子はいくつかの荷物が入った鞄を手に、立ち上がった。 そろそろ看守が迎えに来る頃だ。 「よし、じゃあ音羽。また、来るからね」 「はい律子さん」 「じゃあね」 ひらり、と軽く手を振って留置所を出ていく律子。 その後ろ姿を見つめた音羽の表情は、明るかった。 ◇ 刑務所の外に出た律子は、太陽の眩しさに目を細めて日差しを遮るように手を顔の前に翳した。 律子の仮釈放の日は、晴天。 今の時期は、初夏だ。 「ちくしょう……これから暑くなるな……」 ふ、と律子は刑務所を振り返る。 「──夏場のあの中は地獄だからね……音羽には色々差し入れをしてやんないと……」 その前に、まずは金を用意しなきゃだ。 律子はそう考え、気合いを入れ直して振り返る。 すると、そこには──。 「──若!?」 ゆったりとした足取りで、律子に向かって歩いて来る伏見の姿があり、律子は驚きにぎょっと目を見開いた。 たかがいち組員の出所日に、自分が所属している組の若頭が姿を見せる事など、有り得ない。 当の本人、律子だって今まで散々刑務所には世話になった。 今日のように、数え切れないくらいの出所日を迎えて来ていた律子だったが、組のトップが姿を見せる事など1度も無かった。 だが、伏見がわざわざこんな所に姿を見せたのは。 理由は1つしかない。 「ごくろうだったな」 律子の目の前にやって来た伏見は、無表情のまま律子にそう呟く。 なんの感情も籠っていないその言葉に、律子は呆れて伏見を見上げた。 「──珍しいですね、若がこんな所まで来られるなんて」 「……別に、お前のためじゃない」 はっきりと口にする伏見に、律子はへぇ、と口元を笑みの形に歪めた。 何がどうなっているのかは分からないが。 伏見がカウンセラーとしてやって来た時
last updateHuling Na-update : 2026-02-23
Magbasa pa

45話

車に乗り込んだ律子と伏見。 伏見は、車に乗るなり胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えると火を付けた。 車内には紫煙がくゆりと立ち上り、伏見は横目で律子を見やる。 「──お前も1本吸うか?」 伏見の低い声が車内に落ちる。 律子は首を横に振って答えた。 「いえ、大丈夫です」 律子の返事に、伏見は意外そうに片眉を上げる。 「やめたのか?あれだけヘビースモーカーだったのに?」 「あの中では煙草なんて高級な嗜好品ですから。それに、音羽が妊娠していたし、恭が生まれてからは煙草なんて吸えませんよ」 律子の返答に伏見は数秒考えるような素振りを見せた。 だが、すぐに運転席に向かって口を開く。 「──おい」 「はい、若」 伏見の一言で全てを察したのだろう。 運転手はさっと腕を動かし、灰皿を伏見に向ける。 伏見はすぐに咥えていた煙草を何の躊躇もなく、灰皿に押し付けて消した。 その一連の動きに、今度は律子が驚いて目を見張った。 (──は?若だって相当なヘビースモーカーだろう?それが……音羽の名前を出した途端……おいおい、まさか本当に若は……) 律子が頭の中でそんな事を考えていると、座席に背を預け直した伏見が再び口を開く。 「それで……彼女とはあの中でどんな事を話して過ごしていたんだ」 「音羽と、ですか……」 ああ、と短く返事をして頷いた伏見に、律子はあの刑務所内で出会った音羽の事を。 出会った頃の事を遡り、組に着くまで律子は伏見に話し続けた。 ◇ 律子が仮出所して、はや数日。 律子がいなくなってしまった寂しさはあれど、他の受刑者とも仲良くなった音羽は、変わらない日々を送っていた。 「あと、1年……あと1年よ」 毎朝、自分にそう言い聞かせながら起床し、食事をして軽作業を始める。 軽作業の中には、社会復帰後に就職しやすいよう、色々な技術を学べた。 様々な技術を学んだ音羽は、その中でも情報処理がとても楽しかった。 建設機械の技術や免許も取ったが、これから必要になるのは情報処理能力だろう。 出所し、すぐに必要になるスキルはこれだ、と音羽もそう感じて必死に授業に取り組んだ。 「あと、少し……あと少しよ……。あと少しで恭ちゃんと会える……!」 音羽は自分にそう言い聞かせる。 暑い夏がやってきて、体調を崩しても。 受刑者同士の
last updateHuling Na-update : 2026-02-24
Magbasa pa

46話

音羽の服装は、普段の囚人服ではなく、3年振りに色合いの華やかなワンピースに着替えていた。 刑務所内はメイクも不可だが、今の音羽の唇には薄く色が付いている。 メイクをしていなくても美人な音羽だったが、今は薄くナチュラルメイクを施しており、美しさに磨きがかかっている。 音羽は嬉しそうに笑みを浮かべながら、看守に「はい」と答えた。 実に3年振りとなる、自由の身だ。 音羽は看守に着いて歩きながら様々な思いが胸を駆け巡っていた。 (今日、これから恭ちゃんを迎えに行って……2年振りにこの腕に抱けるのね……!) 嬉しくて嬉しくて、たまらない音羽は、自分の顔が自然と笑みを浮かべている事に気付いていない。 高い塀の向こうに、ようやく出られる──。 看守に案内されるまま歩いていた音羽の前で、重い扉がゆっくりと開かれた。 音羽は、緊張に高鳴る胸を押さえて1歩足を踏み出した。 外に出た音羽の背後で、再び重い扉が閉まる音が聞こえた。 「──私、本当に外に出られたんだ……!」 太陽が眩しく照り付け、音羽を照らす。 音羽は思わず眩しさに目を細め、顔の前に手を翳して陽を遮った。 音羽が立ち止まっていると、少し離れた場所から音羽の名前を呼ぶ声が聞こえた。 「──音羽!」 この3年間、良く聞いた声だ。 音羽は自分の名前を呼ぶ声が聞こえた方向に顔を向けて、その人物を視界に入れた瞬間、ぱっと花が咲いたように笑った。 「律子さん!」 「音羽、あんたもようやく出所だね、おめでとう!」 「ありがとうございます、律子さん」 律子が音羽に歩み寄り、音羽の肩をぽん、と叩く。 嬉しそうに笑っていた音羽だったが、そこで本来の目的を思い出してはっとした。 「そうだ、律子さん!私、早く家に戻らないと……!」 「あんたの旦那は迎えに来ていないようだけど……1人で大丈夫かい?」 「ええ、大丈夫です。この後樹にはもう1度連絡を入れておきますし……」 「分かった。なら、近くの駅まで車で送って行ってやるよ。そこから新幹線だろう?」 律子はそう言いながら、車のキーを音羽に見せて笑う。 「た、助かります律子さん!よろしくお願いします!」 今度お礼をさせて下さいね、と話す音羽を車に促した律子は、音羽が車に乗った事を確認してから自分も運転席に乗り込んだ。 ◇ 律子に駅まで送っ
last updateHuling Na-update : 2026-02-24
Magbasa pa

47話

いくつか乗り換えをして、ようやく目的の駅に着いた。 音羽が、樹と結婚した時に移り住んだ街だ。 高級住宅街として有名で、3年前まではこの場所にドキマギしていた。 いつまで経っても慣れない音羽に、樹は笑っていた。 自分の家がある場所なんだから、早く慣れろと良く言っていたものだ。 これから先、樹との間に子供が生まれた時。 公園で近所の人との交流を考えるだけで音羽は楽しかった。 そんな、自宅がある街にやって来た音羽の今の心境は、驚くほど凪いでいる。 経った3年で、様変わりしている訳ではない。 だけど、音羽にはどこか見知らぬ街に見えた。 「──私たちの家は、確かこっちよね」 音羽はぽつり、と呟き歩き出す。 音羽の背後に、黒塗りの高級車がすぅっと音もなく着いて来ている事には気が付かなかった。 ◇ 少し歩き、音羽はかつて自分の家だったそこに、やって来ていた。 頑丈な門構えに、高い塀。 至る所に防犯カメラがついている。 音羽は、以前と同じように電子ロックを解除しようとボタンを押した。 だが、音羽が数字を押し終わり解錠ボタンを押してもエラー音が鳴るだけで、ロックは解錠されない。 「待って……どうなっているの……?」 何度入力しても、ロックが解除される事はなく、エラー音がなるばかり。 「どうして!?樹はもしかして、番号を変えたの!?」 どうして自分に教えてくれなかったのか──。 そんな事を思いつつ、焦りで頭がパニックになってくる。 何度目かのエラー音を出した時。 正面の門の奥から、人の近付く音が聞こえた。 「何の御用でしょう──……っ、お、奥様──っ、いえ、弥栄様……」 「弥栄様……、ですって……?」 門の向こうには、音羽がまだここに住んでいた時からいる使用人だった。 初老の男性使用人は、音羽の顔を見るなりハッとして「奥様」と最初は口にした。 だが、何故か音羽の苗字を改めて言い直したのだ。 その表情は気まずそうで。 音羽の胸にもやり、と嫌な予感が込み上げる。 音羽はしっかりと男性使用人の顔を見つめ、口を開いた。 「暗証番号を変更したのは、樹ね?中に入れてくれるかしら。息子に会いに来たの」 「弥栄様──その……」 音羽の言葉に、男性使用人は気まずそうに目を逸らした後。 それでもしっかりと音羽の顔を見つめ返し、は
last updateHuling Na-update : 2026-02-25
Magbasa pa

48話

「何で……どう言う事……?」 音羽の頭の中は真っ白で。 地面にへたり込んだまま、呆然とする事しか出来ない。 「離婚……、新しい奥様……?」 待って、待って。 その言葉しか、音羽の口からは出ない。 音羽が門前にへたり込んでいる姿を、不審な人物を見るような目で見る周辺の人達。 誰かが「警察に通報した方が」と話しているのが聞こえて。 そこでようやくやっと音羽の肩がぴくり、と動いた。 (警察を呼ばれてしまうのは、さすがに不味いわ……出所したばかりなのに……っ) 音羽はその場に立ち上がろうとしたが、衝撃が大き過ぎて足に力が入らず、上手く立ち上がる事が出来ない。 「は、早く立たなきゃ──」 焦れば焦る程、上手く足に力が入らず、音羽は焦りで頭の中がパニックになってしまう。 そんな時──。 音羽の背後で、靴音がした。 「立てるか……?」 低く、艶のある声。 どこかゾッとする程の色香を含んでいる男の声に、音羽はぴくりと反応した。 「──え」 聞き覚えのある声、だ。 音羽は信じられない思いで慌てて振り向いた。 音羽の背後には、以前音羽が入所していたあの刑務所で。 1年近く、あの場所でカウンセラーとして働いていた伏見が、何故か音羽の目の前に居た。 「立てなさそう、だな」 音羽に向かって手を差し出していた伏見だったが、音羽が唖然としているのを見るなり、小さく息を吐き出す。 そして、驚きに目を見開いている音羽の腕を取り、立たせるとそのまま音羽を抱き上げた。 「──きゃあっ、ふ、伏見先生……!?」 どうしてここに──。 音羽が疑問を口にする前に、伏見がなんて事ないようにその答えを口にした。 「俺の家が近場なんだが……。帰る途中に見知った姿を見かけてな。……こんな所で何をしてるんだ?」 伏見は呆れたように音羽に目を向ける。 音羽は、自分をしっかりと抱き上げている伏見の力強い腕と、伏見からふわりと香る、爽やかだけどどこか刺激的な香水の匂いにくらり、とした。 こんなに、刺激的な男性だっただろうか──。 音羽が目を白黒させていると、伏見はふっと口元を緩めて笑う。 「一先ず俺の家に行くが、構わないな?」 「──!は、はいっ!」 音羽の耳のすぐ近くで紡がれる伏見の言葉。 低くて色気のある声が直接脳内に響くような気がして、音羽はび
last updateHuling Na-update : 2026-02-25
Magbasa pa

49話

伏見から紅茶の入ったカップを受け取った音羽は、申し訳なさそうに頭を下げた。 伏見自身は、コーヒーの入ったマグカップを手に持ち、何の気なしに音羽のすぐ隣に腰を下ろす。 どさり、とソファに音を立てて座った伏見の距離の近さに、音羽はどきりとした。 伏見がすぐ隣に座った事で、刺激的な香水の香りが音羽の鼻に届く。 どこか落ち着かない、そわそわとした気持ちで、音羽は渡されたカップに口を付けた。 そんな音羽の様子を横目で見ていた伏見は、足を組み替え呟く。 「それで……あんたはどうしてあんな場所に?」 伏見の低い声が静かな部屋に響く。 音羽はカップを握る手にぐっと力を込めると、カップをテーブルに置いた。 「伏見先生には、話していたと思うんですが……。さっき居た家が、私が刑務所に入る前まで住んでいた……家なんです」 「──玉櫛の家って事か?」 伏見の言葉に、音羽はこくりと頷いた。 「ええ、そうです。夫、玉櫛 樹の自宅です。……実は私、今日出所したばかりで。それで……自宅に戻って来たんですけど……施錠の番号が変わっていて、そして顔を知っている使用人が、何故か私と樹は離婚した、なんて変な事を言っているんです」 「──自分の子供は?子供は無事に出産出来たんだろう?あの家にいるのか?」 伏見の言葉に、音羽は頷く。 音羽の目的は1つ。誰よりも大切な息子に会いに来たのだ。 音羽は正直に言えば、樹の家に戻るつもりなんてなかった。 離婚だって、音羽から切り出してしてやるつもりだった。 それなのに、どうして既に離婚した事になっているのか──。 あの使用人が言っていた「新しい奥様」はまさか──。 音羽の頭に、次々と嫌な予感が浮かぶ。 こんな風に紅茶を飲んでゆっくりしている場合じゃない。 音羽は慌ててその場に立ち上がろうとした。 「伏見先生!紅茶ありがとうございました……!私、もう1度あの家に行ってみます──!」 「待て、勢いだけで行くのは不味い。使用人に通報されたらどうするんだ。あんたは出所したばかりだろう?不審者扱いをされて通報されたら、また刑務所に逆戻りする可能性があるぞ」 「──っ、じゃ、じゃあ私はどうすればいいんですか……っ」 伏見の言葉は、尤もだ。 間違った事は何1つ言っていない。 音羽の信用は、地に落ちている。 通報され、身元を調
last updateHuling Na-update : 2026-02-26
Magbasa pa

50話

◇ 玉櫛ホールディングス。 ビルの目の前にある小さな公園。 そこにやって来ていた音羽と、伏見。 ベンチに座る音羽の隣に、伏見がゆったりと座っていた。 刑務所に居る時の伏見は、何というか今目の前にいる伏見と比べて柔らかい雰囲気で、太陽の下にいても何ら違和感など無かった。 だが、今音羽の目の前に居る伏見は太陽の明るい日差しはどこか似合わない。 全身が真っ黒だからだろうか。 音羽はそう考えたが、それだけじゃないような気がする。 刑務所に居た頃の伏見と、今の伏見では全身から醸し出される雰囲気がまるで違う。 どこか夜を感じさせるような伏見の雰囲気──空気間、とでも言うのだろうか。 どこか危険な雰囲気を感じさせる伏見の姿に、公園を利用していた人達がちらちらと伏見に視線を向けているのが音羽でも分かった。 玉櫛ホールディングスから出てくる会社員も、この公園に似つかわしくない雰囲気の伏見はとても目立つようで。 ビルからは離れているはずなのに、社員達の視線も感じられて、音羽は居心地が悪かった。 「そう言えば……伏見先生にここまで連れてきてもらいましたけど……夫──玉櫛 樹は、車移動が殆どですから、ここにやって来る事はないかもしれません……」 「まあ、待ってみればいいんじゃないか。時間はたっぷりあるんだろう?」 「確かに、そうですけど……。伏見先生こそお時間大丈夫なんですか?お仕事は──」 「俺は大丈夫だ。カウンセラーも辞めているし、今日は1日休みだ」 ベンチに両手を付き、頭上を見上げつつ答える伏見。 そんな彼を困ったように見つめながら、音羽は「そうですか」と答える。 すると、伏見が不意に音羽に顔を向けて言葉を続けた。 「そう言えば、その先生ってのは辞めてくれ。もうカウンセラーはやっていない」 「──なら、伏見さん?」 「苗字では呼ばれ慣れていない。気持ち悪いから辞めてくれ」 「えっ、ええ……」 そんな事を言う伏見に、音羽は焦る。 苗字呼びも、先生呼びも断られてしまったら、もう名前で呼ぶしかないのだろうか──。 音羽が困っている様子を見て、伏見は違う理由で困っていると思ったのだろうか。 少しばかりムッとしたような様子で、音羽に問う。 「──まさかあんた、俺の名前を知らないとか言わないよな?」 ぐっ、と身を乗り出した伏見にそう
last updateHuling Na-update : 2026-02-26
Magbasa pa
PREV
1
...
34567
...
10
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status