◇ 律子が伏見との面会を終えて留置所に戻る。 すると、そこには既に音羽が戻って来ていた。 意外と長い時間伏見と話し込んでいたのだろう。 律子は、戻ってくるなり音羽に駆け寄った。 「──音羽!あいつとの話は大丈夫だったのかい!?恭は……大丈夫そうだったか……?」 「律子さん──」 律子の言葉に、音羽の顔がくしゃり、と歪む。 (大丈夫なはずがない……子供を奪われた母親が、大丈夫なはずがないのに……私は何を分かりきった事をこの子に聞いちまったんだ……) 音羽の顔色は、真っ白だ。 相当辛い思いをして恭と離れたのはその様子から伺える。 「大丈夫……、大丈夫です律子さん……。恭ちゃんを迎えに行った時、ちゃんとしっかりとしたお母さんだ、って思ってもらわないと……ほんの少しだけ、離れちゃうだけだから……っ」 音羽は、滲んで来ていた涙を乱暴に拭う。 「……しっかり、ご飯を食べて……ちゃんとこの中で真面目に過ごして……それで、早く出してもらえるようにします……!」 先程より、いくらか瞳に光が戻ってきた音羽を見て、律子はほっと胸を撫で下ろす。 「そうだね。まずはしっかりあんたがご飯を食べないとだ……これから、自由時間に外に出たら健康にいられるよう、体を動かした方がいい」 律子はそう話しつつ、音羽を励ますように肩を叩く。 律子の言葉に何度も頷く音羽。 音羽が少しでも元気を取り戻してくれた姿に、律子はほっとした。 「さあ、朝飯を食べて作業を終えたら自由時間だ!今日から自由時間は体を動かすよ、音羽!」 「──分かりました、律子さん」 ◇ 軽作業が終わり、受刑者の自由時間がやって来る。 律子と音羽が運動場に出て周囲の受刑者達と話をしつつ、運動場を歩き始める姿をこの刑務所の屋上から伏見はじっと見つめていた。 黒い瞳には、無理に笑顔を作り笑っている音羽の姿しか映っていない。 「あんな風に無理に笑っても……辛い気持ちはなくならないのにな」 ぽつり、と伏見は呟く。 たった、数ヶ月。 実際に音羽と関わった日数にしたら、もっと少ない。 たったそれだけの時間しか音羽とは関わっていない伏見だったが、その少ない時間だけで音羽は「善良な一般市民」だと言う事は十分分かった。 屋上でじっと音羽を見つめる伏見の胸ポケットに入れていたスマホが、着信を知らせる。
Huling Na-update : 2026-02-22 Magbasa pa