Lahat ng Kabanata ng 夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした: Kabanata 31 - Kabanata 40

94 Kabanata

31話

裕衣は、音羽を蔑むように見た後、顎をくいっと動かして口を開いた。 「音羽さん、座ったらどうですか?」 「──座る必要は無いわ。何の用?」 「ふ、ふふっ。私なんかと話す事は無いって事かしら?まあ、私も音羽さんと話したい訳じゃないんですけど……」 裕衣は、茶色く染まった柔らかそうな髪の毛をふわり、と手で払う。 その表示に、裕衣の首筋が顕になった。 そして、そこにくっきりと刻み込まれた赤い鬱血痕までもが音羽の目にしっかりと映る。 十中八九、樹が付けたキスマークだ。 音羽は、瞬時に理解した。 もしや、わざわざそんな痕を見せつけるために来たのだろうか。 そんな考えが一瞬、音羽の頭を過ぎるがそんな事は無いはずだ。 音羽は、樹と裕衣が体の関係を持っていた事を知っている。 ならば、一体何の用なのか──。 音羽が裕衣を睨み付けると、裕衣は余裕たっぷりの笑みを口元に乗せると、言葉を紡ぐ。 「樹さん──、ああ、失礼しました。ここ最近、社長が体調を崩されていまして」 裕衣は、わざと樹さん、と名前を口にしてわざとらしく言い直す。 その口ぶりから、2人の仲は音羽が表に居た頃よりも深まっているのが良く分かった。 「音羽さんって、社長が体調を崩された時に胃腸に優しい薬膳スープを作っていたのですよね?」 「……そんな事もあったわね」 「その薬膳スープの作り方、教えてくださいませんか?社長、とてもお辛そうにされているので……。社長の専属秘書として、作って飲ませて差し上げたいのです」 裕衣の言葉に、音羽は吐き気を堪えるのに必死だった。 裕衣の口ぶりから、裕衣は既に夫である樹の家に転がり込んでいるのだろう。 いや、もしかしたら樹が裕衣を家に連れ込んでいるのかもしれない。 堂々と妻である音羽の目の前で裕衣は、そんな事を言う。 その心は、音羽を既に妻だとも思っていない、と言う事だ。 裕衣の中で、音羽は既に樹の妻ではなく、前妻扱いなのだろう。自分が樹の妻気取りになっている。 音羽は、乾いた笑いを零した。 体調が悪い、なんて大した事はないのだろう。 そうでなければ、裕衣の首筋にあれほどくっきりとキスマークを付ける元気などないはずだ。 「──あら、音羽さん?ごめんなさい、ショックかしら?でも、奥様がいない社長を、ご家庭で支えるのは秘書の役目ですから……。
last updateHuling Na-update : 2026-02-17
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32話

音羽は、裕衣の憎悪が自分の腹に向かっている事に本能的に気が付いた。 「──何っ、その目は……っ!」 裕衣の視線から、咄嗟に音羽がお腹を庇う。 すると、裕衣は音羽の行動を見て嘲笑うかのように真っ赤な唇を歪めた。 「やだ……っ、そんな反応……っ、まるで動物みたいだわ……!」 「何ですって!?」 「メスが危険から咄嗟に我が子を守る姿、とでも言うのかしら?ふっ、ふふ……動物が我が子を守る時ってこんな感じなのかしら?……まあ、私は人間ですから、音羽さんのように本能で動きませんけど……」 くすくす、と裕衣の嘲笑う声が音羽の耳に嫌にへばりつく。 裕衣の侮辱も、嘲笑う様子を見ても、音羽は顔色1つ変えなかった。 例え「動物」と言われようと。 例え「メス」と嘲笑われようと。 子供を危険から守るためなら、我が子のためならば体を張る事すら厭わない。 音羽は、自分の子供を宝物だとそう、思っている。 だからこそ、裕衣のこんな見え透いた挑発に憤ってやる必要は無い。 この場所に無理矢理入れられてから、音羽は色々な事を体験して来ているのだ。 表に居たら、体験する事など無かった荒っぽい人達の喧嘩に巻き込まれる事も。 そして、表に居たままだったら、音羽には「友人」と呼べる人など誰1人としていなかった。 だけど、皮肉な事にここに入って失ってしまった物はあるけど、表に居たら得られなかった物だってある。 音羽は裕衣を真っ直ぐ見据え、口を開いた。 「──話は、それだけ?これだけだったら、もう話す事は無いわね」 その言葉と同時に、音羽はくるりと踵を返した。 部屋から退出するつもりなのだと察した裕衣は、慌てて椅子から立ち上がった。 「ちょっ、音羽さ──」 「話が終わりました」 「そうか、出なさい」 「はい」 看守と言葉少なにやり取りをした音羽は、裕衣の呼び止める声になど微塵も反応を見せず、そのまま面会室を出て行った。 その場に1人取り残された裕衣は、悔しさにぎちり、と奥歯を噛み締め、拳を握り締める。 「何で……っ、少しも動揺しないのよ……。もっとショックを受けなさいよ……!傷付きなさいよ!泣きなさいよ……!夫に裏切られ続けているのよ!?それなのに、どうして取り乱さないの──」 裕衣は、ネイルの施された自分の爪をギリギリと噛み締める。 そして、ある事を思
last updateHuling Na-update : 2026-02-17
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33話

◇ 裕衣との面会を終えた音羽は、留置所に戻ってきた。 軽作業の時間は既に終わっており、律子や他の人達も戻ってきている。 「──音羽、どうしたんだい!?顔色が悪いよ!」 「えっ、あ……律子さん……」 音羽の顔色の悪さに気付いて、律子が音羽に駆け寄る。 何があったのか、と心配する律子に音羽は無理やり笑顔を作ると「何でもない」と答えた。 自由時間まで、あと少しだ。 音羽は、自分の胸の中に生まれた何とも形容し難い感情を叫んで吐き出したかった。 自由時間になったら。 そうしたら、少しだけ皆と離れて、どこかで叫びたい。 音羽はじりじりと込み上がる何とも言えない感情を持て余しながら、その時間をただただ待った。 刑務所に入っている受刑者にも、自由時間はある。 重罪人や、禁固刑の人達は自由に動き回る事は出来ないが、比較的刑期の軽い人達──音羽や、律子のような受刑者達は、自由時間に運動場で好きに動く事が可能だ。 その日も、いつものように自由時間になった時。 律子羽音を誘って運動場に行こうとした。 だが、音羽は律子の誘いに申し訳なく首を横に振ると、今日はお腹が辛いから、と言い訳をして運動場には行かなかった。 食堂や、作業室──。 受刑者が歩いていても、入っても問題のない場所や部屋を見てみるが、全く人がいないような場所、と言うのは中々見つからない。 「──どこか、誰もいない場所はないかなぁ……」 お腹も最近は重くなって来た。 ずっと歩きっぱなしなのは、少し辛い。 音羽がうろうろと廊下を歩いていると、背後から焦るような足音が聞こえて来た。 焦るように、廊下を歩く音。 その音は、音羽を見つけた瞬間、ぴたりと止んだ。 「──568番!こんな所に居たのか!?」 「えっ」 低い、男性の声。 ここ最近は、良く聞きなれた声だ。 音羽は慌てて振り向き、その声の主の名前を呼んだ。 「伏見先生!?ど、どうしたんですか!?」 「どうしたもこうしたもない!腹の調子がおかしいって聞いた!こんな風にうろついていて大丈夫なのか!?」 伏見は、音羽の体調を心配するように大股で歩いてくると、音羽の体を上から下まで怪我がないか、と心配するように見る。 (律子さんも、伏見先生も……私とは他人なのに……こんな風に心配してくれるのね……) その事が、とても音羽
last updateHuling Na-update : 2026-02-18
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34話

「ふっ、伏見先生──!?」 音羽は、突然自分の手を掴み、歩き出す伏見に驚いてしまう。 音羽を見る事なく、ずんずんと歩いて行く伏見に音羽は引っ張られて行った。 暫く歩き、伏見が音羽を連れてきた場所は、刑務所の屋上だった。 普段は施錠されていて、何か特別な事がないと、屋上に入る事は出来ない場所。 音羽は、ここに服役してから1度も屋上にやって来た事はなかった。 伏見は、この刑務所で働くカウンセラーだ。 だから屋上に入る事が出来る鍵を持っていたのかもしれない。 屋上にやって来ると、伏見は見晴らしの良い場所まで音羽を連れてくると、ベンチに座るように促した。 ここは、都心部から離れた場所にある。 そのため、周囲は山々に囲まれていて、自然豊かだ。 晴れた今日は、景色も良い。 「ふ、伏見先生──?」 音羽が伏見に話しかけると、伏見はがしがしと後頭部をかいて音羽に答えた。 「泣きそうになっていただろう……?あんたは、他の人に泣き顔を見られたくない、と思って……。泣かれても、気の利いた事が出来なくて悪いな……ここで、暫く1人でいるか?」 「──!」 伏見は、音羽が泣きそうになっている事に気が付き、1人になれるようにここに連れて来てくれたらしい。 少しぶっきらぼうだけど、伏見の真っ直ぐな優しさが音羽の心に真っ直ぐ届く。 「──〜っ、ありがとうございます、伏見先生……っ」 「気にするな……。俺は、中に戻ってるから──」 音羽を気遣い、1人にしようとする伏見に、音羽は慌てて伏見を呼び止めた。 「ふ、伏見先生!もし、良かったら一緒に居てくれませんか!?」 「──っ、お前が、それで良いなら」 音羽の言葉に、伏見の胸がどくん、と高鳴る。 伏見は動揺を悟られないように音羽から顔を背けつつ、音羽の隣に座った。 伏見が座った後、音羽は口を開いた。 「──今日、私に面会の申し出があったんです」 「……面会?」 「ええ。……その人は、夫の秘書で……不倫相手です」 「──っ!?」 「その人は、わざわざ私に教えに来たんです。今、夫と家に住んでいるのは、自分だと」 「はっ。不倫女が随分と偉そうに……」 「ふふっ。でも、それはもうどうだっていいんです。夫の浮気癖は……もう十分に分かっていますから。……だけど、その不倫相手は、私のお腹の子を……凄い目
last updateHuling Na-update : 2026-02-18
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35話

あの日。 自由時間いっぱいまで、ただ黙って音羽を慰めるように背中を撫でてくれていた伏見と言うカウンセラーは、それから程なくして、刑務所からいなくなってしまった。 見目の良い伏見が、退職してしまったと言う噂はあっという間に刑務所内に知れ渡り、音羽は刑務所内で仲良くなった受刑者からその話を聞いて、愕然とした。 伏見が、退職した──。 「先生……どうして何も言ってくれなかったの……」 音羽が、この刑務所にやって来て。 まもなく1年が経つ。 音羽も、もう出産間近だ。 つい先日も、カウンセリング室で伏見は音羽の腹の子が生まれるのはもうすぐだな、と話してくれていた。 どんな子が生まれるのか顔を見てやる、と言って笑っていたのが、つい先程のように鮮明に思い出せるのに──。 「──音羽」 「律子、さん……」 呆然とする音羽に、律子が歩いてきて肩を抱く。 「大丈夫さ。音羽が外に出たら、きっとどこかですぐに会えるよ……」 「そう、でしょうか……?でも、外に出ても……私は犯罪者のレッテルが貼られています……。この中では、臆する事なく伏見先生と話せたけど……外に出たら、表に出たら、伏見先生は……私と関わりたくないと思います……」 「……きっと、あの先生も音羽を心配しているよ……あんたは、もうすぐ生まれてくる子だけを考えな……」 律子の言葉に、音羽は自分のお腹を見下ろす。 かなり大きくなったお腹。 予定日は、もう来月だ。 「……そう、ですよね。そう……今は、お腹の子だけを考えます」 弱々しく笑う音羽に、律子は何とも言えない笑みを返し、しゅんと落ち込む音羽の肩を引き寄せた。 ◇ 翌月。 雨が激しく振る日だった。 その日。 刑務所内で、1人の女性受刑者が赤子を出産した──。 ◇ ふやふや、と赤ちゃんの泣く弱々しい声が留置所内に響く。 我が子の泣き声に反応し、一瞬で飛び起きた音羽は、泣いている自分の愛息子を抱き上げ、あやした。 「どうしたの、恭(きょう)ちゃん?お腹が減った?それとも、おむつかな?」 あやしながら声をかける音羽は、もうすっかり母親の顔だ。 一緒の留置所に入っていた律子が起き、音羽に話しかける。 「おむつが汚れちまったんじゃないかい?」 「律子さん!すみません、寝てたのに起こしちゃいましたよね……?」 「気にすんじ
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36話

音羽が恭を産んでから、ひと月。 そのひと月は、あっという間に時間が過ぎて行った。 慣れない子育てにバタバタしていて、気づけばひと月が過ぎていたのだ。 だが、音羽は恭が居るだけで幸せだった。 辛い刑務所での生活も、恭が居て。律子がすぐ隣で支えてくれている。 それに、同じ刑務所内の受刑者達も、赤ん坊には優しく、あまり話さなかった人達とも交流が出来た。 音羽が自由時間に恭を抱っこして運動場に出れば、不思議と音羽の周りには人が集まり、皆が恭を構ってくれた。 恭が生まれてから、音羽は再び樹に連絡を入れるようになった。 自分の刑期が、3年のままだと、恭と離れ離れになってしまう。 乳児院なんかに、預ける事なんて出来ない。 「──音羽、あいつとの離婚は考え直したらどうだい?」 「律子さん……」 留置所で、恭にミルクをあげていた音羽は、律子に話しかけられて振り向いた。 離婚──。 そう、音羽はずっと考えていたのだ。 夫である樹は、裕衣と不倫を繰り返している。 それに、音羽の連絡にはちっとも返してくれず、掛け合うと言っていた刑期についても、何の音沙汰も無い。 だから、音羽は夫である樹との離婚を決意していたのだ。 樹が面会に来てくれたら、それを話すつもりだった。 だが、あれから。 以前音羽が怪我をして、病院に搬送されたあの時。 樹が音羽を無理矢理抱こうとして、それを拒絶してから、樹は音羽に全く会いに来なくなってしまった。 音羽は樹に対する愛情など、とうに尽きていた。 だからこそ離婚を考えていたのだが、律子の言葉に悩む。 「そう、ですね……。樹と離婚したら……このままだと、恭ちゃんが乳児院に入れられてしまう……。だけど、夫がいるなら……私がここを出られなくても、恭ちゃんは夫の元に預けられる……」 そう。 離婚してしまえば、恭は乳児院に預ける他なくなる。 迎えに行くにしても、音羽が出所した時には既に恭は2歳になってしまうのだ。 その間、肉親からの愛情を注がれず、寂しい思いをしてしまうかもしれない。 「夫──樹も、子供が出来た事は、喜んでいました……。自分の子供に、辛くは当たらないだろうし……私が出所したら、恭ちゃんを迎えに行けば……」 音羽の呟きに、律子はうんうんと頷く。 「そうだよ、音羽。今はあのロクデナシを利用してやるって
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37話

◇ 恭が生まれて、3ヶ月が経った。 首もすわり、恭がひとりで「あー」とか、「うー」とか、おしゃべりする事も増えた頃。 それは、突然やって来た。 その日、朝から音羽は看守に呼び出された。 「568番。面会だ」 「──面会ですか?誰……」 誰だろうか、と思った音羽の頭に、一瞬裕衣の姿が過ぎる。 また、裕衣だろうか。 生まれた子供を、見に来たのだろうか。 でも、何故──? 音羽は、嫌な予感を覚えて抱っこしていた恭をきゅっと抱きしめる。 あぶあぶと声を出し、音羽の頬をぺちぺち、と叩く恭。 音羽はにっこりと恭に笑いかけると、その場に立ち上がった。 「音羽、大丈夫かい?」 「律子さん、ありがとうございます。ちょっと行ってきますね?」 「あ、ああ──……」 不安そうに見送る律子に、音羽は小さく手を振って留置所を出る。 面会室に向かって廊下を歩きながら、胸の中は不安が渦巻いていた。 「入りなさい」 「……はい」 面会室に到着し、看守が扉を開ける。 嫌な予感に、心臓が早鐘を刻む中。 面会室に入った音羽を待っていたのは、思いもよらない人物だった。 「──随分久しぶりだな、音羽」 「……っ、樹?」 そこに居たのは、玉櫛 樹──。 正真正銘、音羽の夫だ。 以前、病院で無理に事に及ぼうとして、拒絶されてから音羽の前には1度も姿を表さなかった樹が、何故か今はこうして音羽に会いに来た。 「どうして、今更──」 音羽が腕の中の恭を守るように抱きしめ、樹を睨みつける。 すると、音羽を見つめていた樹は、腕の中にいる恭に視線を移し、感情の読めない声で音羽に問う。 「その赤ん坊は俺とお前の子だろう。性別は……男だそうだな。良くやった。体は?体調は大丈夫なのか」 「──いまさらっ、わざとらしい!今まで私の連絡に1度も返してくれなかったくせに……っ!私には樹と話す事なんて無いわ、帰って!!」 音羽がそう叫ぶと、樹はくつくつと喉奥で楽しそうに笑った。 「おいおい、いいのか?音羽、お前の刑期はまだ2年以上ある。その赤ん坊は、母親の刑期が長いと取り上げられるだろう?」 「──っ、どうして、それを……」 音羽の顔色が真っ青になっていく。 それを見ていた樹は、ふんと鼻で笑うと、言葉を続けた。 「息子は、俺の子供でもある。母親が刑務所から出
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38話

来週、樹が恭を引き取りに来る──。 その言葉を聞いた音羽は、暫く呆然としてしまって。 面会室で、看守に促されるまで部屋を出る事など出来なかった。 ◇ 「何だって!?赤ん坊を、音羽の夫が引き取るだって!?」 音羽と律子の留置所に、律子の鋭い声が響く。 律子の怒声に、それまで音羽の腕の中ですやすやと眠っていた恭は、びっくりして起きてしまい、泣き出してしまった。 「すっ、すまない恭……!起こしちまったね……!」 「大丈夫です、律子さん。私も驚いたんですから、律子さんが驚くのも当たり前です」 音羽は、恭をあやしながらどうしよう、と考える。 だが、どれだけ考えても良い案など浮かんでは来ない。 恭の父親である樹が、引き取ると言うのだ。 音羽にはその申し出を断る事など出来ないし、樹の言葉は確かに頷けるのだ。 恭を、こんな所で育てたくは無い。 例え、音羽が無実を訴えていたとしても、司法は音羽に有罪を突きつけ、実刑を受けているのだ。 事情を知らない人から見れば、音羽は犯罪者なのだから。 そして、あまり環境の良くないこの場所で恭を育てる事も、音羽は心配をしていた。 医務室はこの建物内にありはするが、恭に何かあった時。すぐに病院で診てもらう事は不可能なのだ。 「……っ、悔しいけど……、寂しいけど……っ、恭ちゃんは、樹に引き取ってもらうしかありません……」 「音羽……」 10ヶ月もの間、自分の腹で育てた、我が子だ。 本当は一時たりとも離れたくない。 だが、このままでは恭の発育には良くないのだ。 「週明け……樹が迎えに来るから……恭ちゃんを託します……」 「そうかい……あんたが納得しているなら、仕方ないね」 音羽の言葉に、律子はそれ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。 ◇ 翌日。 自由時間に、音羽は運動場に恭を連れて出た。 音羽が外に出ると、他の受刑者達が恭に会いにやって来る。 わらわら、とあっという間に音羽達の周りには受刑者が集まり、恭を構ってくれる。 恭が楽しそうにきゃっきゃ、と笑えば、受刑者も皆笑顔になる。 寒いだろうから、と受刑者の中には家族から差し入れしてもらったマフラーや手袋を音羽や恭にくれる受刑者も居た。 音羽は、集まってくれた受刑者達に、週明けには恭はいなくなってしまうことを伝えないとと、皆に事情を説明した。
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39話

音羽が扉を開けて面会室に入ると、既にやって来ていた樹が顔を上げた。 「──来たか」 椅子に座り、腕を組んでいる姿は、傍から見ればとても絵になる男だ。 まさか、こんな男がどうしようもないロクデナシだなんて殆どの人は気づかないだろう。 樹は、音羽の腕に抱かれている恭をちらり、と見やる。 その視線は、我が子を見るにはとても冷たく、何の感情も籠っていないように見て取れた。 「──……本当に、今日……このまま恭ちゃんを連れて行く、の……?」 「そうだ。先日話しただろう」 今日の面会室は、恭を引き渡すため、仕切りがある普段使われている面会室ではない。 普段より看守の人数は多いが、音羽はそんな事などどうでも良かった。 震える腕で恭を抱いていると、樹が足音を立てて音羽に近付いて来る。 室内には、緊張が走るが樹は特に気にせず、音羽に向かって手を差し出した。 「──寄越せ。連れて帰る」 「ちょっと、樹……赤ちゃんをちゃんと抱っこ出来るの?まだ首がすわったばかりなのよ?」 「抱くくらい俺でもできる。我が子だぞ?馬鹿にしているのか?」 音羽の言葉に、樹がむっとした表情を浮かべ、半ば音羽の腕から強引に恭を奪い取った。 「わああん!」 その瞬間、音羽から引き離された事で、恭は泣き声を上げる。 恭の泣き声に、煩わしそうに眉を顰めた樹は、恭を乱雑に抱くと、そのまま音羽に背を向けて面会室の出入口に向かって歩き出してしまった。 「恭ちゃん──!」 「ぎゃああああ!!」 音羽が思わず恭を追いかけようとしたが、看守が音羽の行く手を阻む。 「568番!大人しくしていなさい!」 「追いかけては駄目だ!」 音羽の体を抑え、看守が叫ぶ。 だが、音羽はがむしゃらに暴れながら、遠ざかる恭に必死に手を伸ばした。 「恭ちゃん!恭ちゃん……っ!」 音羽の声に、恭が反応して泣き声を上げる。 樹は、音羽には一切振り返る事なく、そのままあっさりと面会室を出て行ってしまった。 遠ざかる恭の泣き声に、音羽は力が抜けてしまったようにその場にへたり込んでしまう。 「……568番」 「刑期を終えれば、すぐに会える……」 音羽の憔悴しきった様子に、流石に看守達も哀れみの感情を浮かべ、音羽の肩に手を置く。 「落ち着いたら、出て来なさい……」 看守達は、地面に拳を叩きつけ、
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40話

◇ 「──若、どうしてカウンセラーを辞めてしまったんです……?」 別の面会室。 律子は、目の前の透明なガラス面越しに座っている男に恨めしそうな視線を投げ、そう口にした。 目の前の「若」と呼ばれた男性──伏見は、気怠そうな態度を隠しもせず、律子を見返す。 その様子は、以前までここで働いていた「カウンセラー」の伏見先生とはまるで別人のような雰囲気を醸し出している。 目の前にいる人間を圧倒させる程の圧を放っている。 「伏見先生」の時のような親しみやすさなど、最早目の前の伏見には微塵も無かった。 カウンセラーだった伏見と、今の伏見がまるで全くの別人のような気配を持っている。 他人には、まさか同一人物だとは信じられないだろう。 律子の言葉に伏見は気怠そうな様子を崩しもせず、足を組み替えて答えた。 「──少し、本職でな」 「……組に何かあったんですか?」 「大した事では無い。気にするな」 含みのある伏見の言葉に、律子は眉を寄せつつ続ける。 「それじゃあ、そっちが片付いたら……ここに戻る予定は──」 「戻る予定は無い」 律子が僅かな希望を抱いて告げた言葉に、伏見はキッパリと切り捨てるように答えた。 もしかしたら──、と、そう淡い期待を抱いていた律子だったが、伏見のはっきりとした返事に肩を落とした。 「そう、ですか……。音羽──あの子、赤ん坊と離れちまうんです……日に日に元気が無くなっていくあの子を見ていらんなくて……」 「……いずれは我が子を手放さなきゃならない。ここに入っている以上、半年が限界だろう?遅かれ早かれ、子供とは離れる事になっていたんだ」 「だけど、まだ3ヶ月もあったのに──」 律子にちらりと視線を向けた伏見は、足を組み替えて再び言葉を落とす。 「……それに、お前の刑期もあと数ヶ月だろう。それに、模範囚となった事で、仮釈放が決まったと聞いた。玉櫛 音羽の傍にはずっといられない」 「──っ、どこでそれを!?」 「ここの所長とな」 恐らく、元々ここの所長と伏見は面識があったのだろう。 言葉を濁して答えてはいるが、伏見の態度からそれが分かった律子はそこでようやく納得した。 「──なるほど、だから若がカウンセラーでやって来たり……急に辞めたり……自由に出来たんですね」 律子の言葉に、伏見は口角を上げるだけで何も答え
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