جميع فصول : الفصل -الفصل 70

70 فصول

対決 Page5

     * * * *   ――翌日の午前中に、あたしはナルミさんにメッセージアプリで連絡を取った。  両親にも昨日のうちに、今日正樹さんの実家へ行くことを伝えてある。父は「お前ひとりで大丈夫なのか」と心配そうだったけれど、飯島弁護士が同行して下さることを伝えると「それなら安心だ。頼もしい」と父も安心してくれた。  〈今日、午後から藤木家へ乗り込みます。ナルミさんも来て下さい。 藤木家の住所は分かりますか?〉  〈分かりますよ。これでも秘書ですから。 ご実家へ伺ったこともあります。 わたしは何時ごろに伺えばよろしいですか?〉  〈二時ごろで大丈夫だと思います。 まずはあたしに同行して下さる弁護士の先生の説明がありますから、ナルミさんの出番はその後です。 よろしくお願いします〉  〈了解しました〉  「――よし、ナルミさんへの連絡はこれでオッケー。そういえば飯島さんって、ウチの場所知ってたかな? クルマで迎えに来てくれるって言ってたけど」  多分知らなかったと思うので、念のため、飯島さんにもショートメッセージであたしの実家の住所を送っておいた。   母と二人で作った冷やし中華で昼食を済ませ、出かける支度をしていると、玄関のドアチャイムが鳴った。 「――はい」&nbs
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対決 Page6

     * * * *  「――うわぁ、デカい家……」  飯島さんは初めて訪れた藤木邸を、口をあんぐりと開けて見上げた。 あたしも久しぶりに赴いた正樹さんのご実家は敷地も広く、趣味が悪いくらいにバカでかい豪邸だ。これでもっと品があったら、「こんな家に住みたいなぁ」と憧れていただろうに。 「でしょう? あたしも来たのは半年ぶりくらいですけど」  インターフォンを押すと、家政婦さんが出た。ここのはカメラ付きなので、訪問者があたし一人ではないことがすぐに分かっただろう。すぐに義母と代わった。 『里桜さん、突然押しかけてきて何です? 何のご用かしら? その男は誰なの?』 「あら、お義母さま。嫁が夫の実家を訪ねてくるのに理由なんて必要ですか? ――今日は大事なお話があって参りました。こちらの方は弁護士の先生です」   矢継ぎ早に飛んでくる質問攻撃をスルリとかわし、「弁護士の」をあえて強調して飯島さんを紹介する。 義母が「弁護士……?」と呟いてからインターフォンの向こうがザワザワと騒々しくなり、「上がってもらいなさい」という義父の声が聞こえてきた。どうやら、ゴネる義母を説得していたらしい。しばらく待たされて、やっとのことで義母がインターフォンに戻ってきた。 『……まぁいいわ。お上がりなさい』 「――だそうです。飯島さん、行きましょう」  あたしは先輩を促し、半年ぶりに藤木家の門扉をくぐったのだった。いよいよ戦いのゴングが鳴る。  「――どうも、お義父
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対決 Page7

 飯島さんからズバリ指摘された藤木家の義父母と正樹さんから、すぐには反論の声が上がらない。これは図星だったからだろうとあたしは解釈した。 っていうか、先輩カッコいいな。あたし、大智より先に知り合っていたらきっと、この人を好きになっていたかもしれない。でも、飯島さんの左手薬指には指輪がはまっている。つまりは既婚者だ。 「…………なっ、何を言っているのかさっぱり分からないわね。とんだ言いがかりもいいところよ。そもそも証拠はあるんでしょうね?」  反論できない正樹さんと義父の代わりに、義母がヒステリックに反論してきた。それに対して、飯島さんがニヤリと笑った。 「疚しいところがある人間は、だいたい『証拠はあるのか』って言うんですよねぇ。おたくもご多分に漏れずそうみたいですね」 「何ですって!? 何を……バカなことを」 「証拠ならありますよ。まず、これが銀行が貸し剥がしを行った時の書類、それから藤木氏から支持された時のメモ。ちなみに知り合いの科捜研職員に頼んで調べてもらったところ、筆跡も担当者のものと一致したそうです。そしてその指示があった通話の音声データと、銀行関係者や藤木グループの関係者の証言の録音データもここに。もし潔白を証明したければ、声紋分析してみますか?」  一つ一つ説明しながら、飯島さんがローテーブルの上にズラズラと並べた証拠の書類と、ノートパソコンで再生した音声データの数々に、藤木家の親子三人の顔がみるみる青ざめていく。 「これは立派な出資法違反に該当します。そしておたくにはその教唆の疑いがあります。銀行には昨日、国税局の査察が入りました。担当者も支店長も事実を認めたそうですよ。潔く警察へ出頭されることをお勧めします」
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対決 Page8

 リビングへ姿を現した彼女に、正樹さんはまた目を剥く。時間は二時過ぎ。ちょうどいいタイミングで来てくれた。 「ナルミ!? どうして君がここに……」 「あらあら、下の名前で呼ぶような関係なんですね。あなたの秘書だって伺ってましたけど」  さっそくボロを出した夫を、あたしは冷やかす。 彼女とすでに関係を持っていたということは、つまりあたしに言った「初めてだったから」というのもウソだったということになる。 「正樹っ、どういうことなの!? 説明なさい! 小田切さんは本当にあなたの――」 「ええ。わたしと正樹さんは、もう半年くらい前から男女の仲です。それこそ、里桜さんと婚約されたと聞いた直後から、ご結婚されてからもずっと」  ヒステリックにわめき散らす義母を遮り、ナルミさんはあたしの右隣に腰を下ろして(ちなみに飯島さんは左隣に座っている)、口を開いた。 「なっ……何ですって!?」 「正樹さん、わたしを抱くたびにおっしゃってましたよ。『里桜さんと結婚したはいいけど、あいつは妻として物足りない』って。『ナルミと一緒にいる方が気が休まるんだ』って」  ……この野郎、彼女にはそんなふうにあたしのことを言っていたのか。あたしは正樹さんをギロリと睨んだ。「初めて会った時からずっと愛していた」なんて、一体どの口が言っているんだ。 「……ねえ、正樹さん。彼女はこう言ってますが、何か弁解の言葉はありますか? あたしを愛してたっていうのもウソだったんですね」  本当はあたしだって、これだけ騙されて、コケにされた相手に思いっきり怒鳴り散らしたい。
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対決 Page9

     * * * *   あたしはそのまま実家まで飯島さんのクルマで送ってもらえることになった。 「――飯島さん、今日はホントにありがとうございました」  クルマの中で、あたしは先輩にお礼を述べた。やっぱり法律の専門家が味方についていてくれると心強い。 「いやいや。可愛い後輩が困ってるんだから、力になってあげたかったしな。大智の頼みでもあったし」 「こんなに頼もしい先輩を持てて、あたしも大智も幸せ者です。先輩がいて下さらなかったら、この子の親権まであっちに取られてたかもしれませんから」 「それは大丈夫。妊婦が離婚した場合、お腹の子の親権は母親が持つことになってるから。向こうに親権をよこせと要求する権利はないよ。父親が夫じゃないならなおさらね」  「ああ、よかった! あたし、それだけは絶対に渡さないつもりだったんで。――でも、夫婦がそれぞれ不倫してたわけじゃないですか。その場合ってどうなるんですか?」  あたしは別に慰謝料を請求するつもりはない。ただ、あの人たちにはこれ以上、あたしの幸せを壊されたくないだけだ。父への貸し剥がしの件では社会的制裁を受けることになるので、それだけでも十分、あの親子を痛めつけることができる。 ただ、あたしが慰謝料を請求されたら……? それは非常に困る。大智との結婚や出産や、これからの生活には何かとお金が必要になる。だからといって、あの人たちに出させるつもりはないけど。 「どちらも不貞行為を行っていたなら、条件はイーブン。この場合、不貞行為は相殺されるからどちらも慰謝料は請求できなくなるね。里桜ちゃんは別に慰謝料が欲しかったわけじゃないんだろ?」 「ええ。『慰謝料代わ
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夫(あの人)にさよならを Page1

 ――翌週からあたしは正樹さんと五ヶ月間暮らしたマンションを出て、大智と同棲を始めた。 妊娠も三ヶ月目に入り、お腹の赤ちゃんも順調に育っている。大智の会社での仕事もバリバリこなし、産休を取得する八ヶ月までは働けるまで働くつもりだ。いざとなったらリモートによる在宅勤務という手もあるし。  ただ、両親を原告とする訴訟も始まるなど周りが何かと忙しすぎて、あの部屋に置いたあたしの荷物はそのまま引き上げられていない。とりあえず、当座の生活に必要なものは持ち出せたけれど――。  「――里桜、明日あたり休みだし、向こうのマンションに荷物引き取りに行くか? オレも付き合うし」  オフィスで仕事をしていると、大智が思いっきりプライベート全開の調子で言った。今日は金曜日で明日からは週末だし、確かにちょうどいい機会ではあるけれど。 まだあの人が離婚届を役所に提出したという話は耳に入ってきていないので、あたしは今のところ人妻のままである。同僚のルナちゃんはあたしと大智の関係を知っていて協力してくれているけれど、他のメンバーもみんな知っているとは限らないのだ。迂闊な言動はやめてほしい。 「ちょっと大智、会社でそういうプライベートな話は――」 「飯島先輩から聞いたけど、もう離婚成立しそうなんだろ? だったら堂々としてればいいんじゃね?」 「えっ、そうなの? あの人、離婚届出す気になったんだ?」  さすがはあたしの離婚問題と両親の訴訟、両方に関わった弁護士先生だ。そんなことまで知っていたなんて。 「らしいな。つうワケで、どうするよ?」
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夫(あの人)にさよならを Page2

     * * * *   ――翌日は朝食を済ませてから、あたしと大智は彼のクルマで赤坂のマンションへ行った。 「……う~ん、住んでた時は立派なマンションだと思ってたけど。いざ離れてみたら大したことなかったんだなぁ、ここって」  住人でなくなった今、訪問者の目で見た感想はそんなものだ。少し大きいだけでごくありふれたオートロック付きのマンション。それを立派だと思っていたのは、少なからず藤木家の権威を感じていたからかもしれない。 「確かに、ウチのマンションとそんなに変わんねえよな。住み心地はどうよ、里桜?」 「もちろん、今大智と一緒に暮らしてるあのマンションの方が断然いいよ。やっぱり、好きな人と一緒っていうのが強みかな。もちろん、間取り的にもそうなんだけどね」 「だろうだろう。今オレの仕事部屋にしてるあの部屋もな、いずれは片付けてちゃんと使えるようにするつもりだから。将来的に子供部屋とか」  大智はあたしのお腹に目を遣りながら言う。〝子供部屋〟とかサラリと言えてしまうところに、あたしや生まれてくるこの子との将来を真剣に考えてくれているんだなぁと嬉しくなる。   ――持っていたカギでオートロックを抜け、最上階までエレベーターで上がり、ペントハウスにあたる元住まいのドアノブを回してみると。 「……開いてる。あの人、いるみたい」 「インターフォン、鳴らしてみるか?」 「いいよもう。開いてるなら入っちゃおう?」  ただ置いてある荷物を引き取りに来ただけだし、別にコソコソする必要もない。堂々と上が
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エピローグ Page1

「――里桜、元ダンナに言いたいこと全部言ってスッキリしたか?」  汐留のマンションに帰るクルマの中で、運転席の大智に訊ねられた助手席のあたしは「うん」と大きく頷いた。 「今思えば、ウチの親子三人、何であんな人たちにヘコヘコ気を遣ってたんだろうって。ほんとバカみたい。あー、スッキリしたぁ!」  借金苦からも、藤木家との柵からも解放されて、あたしはやっと自由と本当の幸せを手に入れることができた。 これからは大智と、生まれてくるこの子と一緒に自分の人生を生きていけるのだ。 「すぐには正式に籍を入れられるわけじゃないけど、とりあえずもう、あたしたちは〝夫婦〟ってことでいいよね? 大智」 「ああ。……あ、そうだ。里桜、オレのバッグの中見てみ?」  ちょうど信号待ちに引っかかったタイミングで、大智はあたしが預かっている斜めがけバッグへ顎をしゃくった。 「……? うん」  何が入っているのかと首を傾げながらファスナーを開け、中を探ってみると、ラッピングされた小さな箱が手に触れた。 「大智……、これって」 「里桜、二十六歳の誕生日おめでとう」 「…………え、そっち?」  あたしは思いっきりツッコんでしまった。 確かに今日はあたしの二十六回目の誕生日だし、彼がちゃんとプレゼントを用意してくれていたのは嬉しい。嬉しい……けど、この箱の形状はどう考えたっ
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エピローグ Page2

     * * * *   ――それから二ヶ月後。すでに大沢姓になり、お腹も大きくなって胎動が分かるようになってきたあたしに、思いがけないある朗報が舞い込んできた。  この頃、〈Oプランニング〉ではルナちゃんがリーダーとなって、新たな事業としてアプリを配信することになり、あたしもそれに携わっていたのだけれど。 「…………ん!? 出版社からメール……、何だろ?」  オフィスで仕事中、あたしのスマホに届いたのは「あなたが投稿サイトに連載していた小説を、ぜひ当出版社で書籍化したい」という知らせだった。 趣味程度に投稿していたあのTL小説はすでに完結していて、さて次はどんなのを書こうかと構想を練っているところだった。 「……ねえ大智、これ、あんたが何か関係してる?」  今日は社員たちのワークスペースで仕事をしていた夫(!)に、あたしは訊ねてみる。 あたしや〈田澤フーズ〉の経営権を取り戻していた両親にはそんな繋がりなんてあるわけがない。でも、顔の広い大智になら……。 でも、彼は「いや?」と首を横に振った。 「オレにも出版社とのコネなんかねえよ。つうかオレじゃなくて、飯島さんじゃね?」 「ああ~……、あり得る」  あたしと大智の大学の先輩である飯島弁護士は主に企業法務を担っていて、顧問を務めている企業も数多い。その中には出版社が含まれていても不思議じゃないかも。
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エピローグ Page3

「……そうだ。この子の名前、考えてやらねえとな」 「名前ならもう決めてあるよ。自由の〝由〟に〝羽〟で〝由羽〟」 「由羽?」 「うん。この子にはあたし以上に、自分の人生を自由に羽ばたいていってほしいから、その願いを込めたの」  間違ってもあたしみたいに、好きになった人の手を離さないように。周りの環境に振り回されないように、自由な人生を歩んでいってほしい。 子供の名前は、親がいちばん最初に贈るプレゼントだ。あたしがこの子に贈りたいのはその願いだけ。 「……うん、いい名前じゃん。里桜とおんなじくらい、いい名前」  よかった、大智も気に入ってくれたみたいだ。あたしの名前を決めた時の父も、きっとこんな気持ちだったんだろうな。 「でしょ? 由羽、ママですよー。これからよろしくね」 「由羽、パパだぞー。生まれてきてくれてありがとな。――里桜、頑張って産んでくれてありがとう」 「ううん。大智こそ、あたしに由羽を授けてくれて、あたしを幸せにしてくれてありがと。愛してるよ」 「うん、オレも里桜のこと愛してる」  これからどんなことも三人で……ううん、まだ増えるかもしれないけれど、遠回りした分うんと幸せを積み重ねていこう。 だってあたしはもう、籠の中の鳥なんかじゃない。自由に羽ばたいていける。大好きな人の|
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