「今なんて言ったんだい……龍之介さんよ、」「自分の立場を佐竹に譲って、俺は組織を抜けます。麗香とも別れて」「……はっ!そんなこと、西龍会が許すはずがねぇだろ?」志田川会、と書かれた横型の掛け軸の下で、俺は志田川の組長と向き合って話をしていた。「認めさせます。どんな犠牲を払っても」「冗談じゃないよ……いつの間にか蔵之介も見えなくなってるじゃない。和哉も殺られてその上若頭までいなくなったら、西龍会に残るのは下っ端ばかりだ」「佐竹のことは、組長も目をかけているんじゃないですか?ならばあいつにこれからのことを……」「これからあんたと揉めさせようと思ってたんだよ。そのうえで、やっと勝ち取った若頭の地位じゃなきゃ、意味はねぇよ!」脅しても泣きを入れても、微動だにしない俺に、志田川の組長はだんだん苛立ちを募らせていく。「けじめはつけますんで……お言葉、待ってます」言葉、というのは、西龍会では組織を抜けるために積む金の金額を意味する。昔は指を詰める、など手荒なことをしていたが、現組長の代になって、西龍会でそういったことは行われなくなったと聞く。そもそも、命を落として組織を抜ける者はいても、別の道を行く選択をする者はいなかった。それが……組長の息子自らがそんなことになるとは、皮肉なものだと思う。「……待てやっ!」話は終わったとして、立ち上がる龍之介に慌てて声をかける組長。事務所を出ていかれたら、抜けることを認めても同じ……俺を呼び止めた声には、何の拘束力もないように聞こえたが。「……あんた、惚れてる女がいるそうじゃないの」眉間にシワを寄せ、厳しい視線を向ける俺に手応えを感じたらしい。「麗香とは別れてもいい。そんで!……その女と一緒になれば、なにもここを去る必要はないでしょうが……!」「そのつもりはありません」桜のことは、麗香や組の連中から聞いているのだろうが、多くを語るつもりはない。「麗香には話をつけてありますし、それなりの配慮はするつもりです。……そもそも俺と麗香の結婚で組織は手を組み、楓卿組、龍城組を傘下に入れて、関東最大の組織に成長したはずですよ。……俺は役割をまっとうした」「そうはいっても、中が空洞じゃ……いつバラされるかわかったもんじゃねぇっ!だからあんたの力が……」「お言葉ですが……俺は単なる若頭。現組長お2人の、鉄砲玉に
Last Updated : 2026-05-23 Read more