Semua Bab 極道と、咲き乱れる桜の恋: Bab 51 - Bab 60

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51.龍之介の想い③

麗香に言われて出かけた桜が屋敷に戻ってきたようだ。……遠目に俺を見て、立ち尽くしている。「帰りは夜になる」すれ違いざま声をかけると、弾かれたように、通り過ぎる俺を振り返る桜。…優しい視線を感じる。…しばらくして、今度は俺が振り返った。白いワンピースの裾を揺らし、薄茶色のロングヘアをなびかせて歩く桜を、俺は花を愛でるような気持ちで見つめた。……齋藤という松白屋の専務と会ってきたのだろう。麗香にそう言われたときは、ただの嫉妬が心に渦巻いた。まるでガキと一緒だ。「ちゃんと、話をしよう。龍之介」桜が出ていって、麗香に腕を掴まれた。まだ、桜との未来を諦めてはいなかった。この時は……まだ。「親に、式の日取りを決めろって言われてる」「蔵之介を諦めて……組のために俺と結婚するって決めたのか」「うん。決めた」……深いため息を漏らす俺に、麗香がこれ以上ない本音を打ち明けた。「やっぱり似てるから。蔵之介の面影を乗せて、龍之介を見てる。多分それで私…結婚生活やっていける」「俺は桜以外、抱けねぇぞ」本音に本音をぶつければ、麗香は諦めたような笑みを浮かべた。「適当に欲望を発散する手助けをしてくれたらいいわ」「そんなこと…ごめんだな」「…ひど」本気で言っているわけではないことはわかったが、俺がどこまで譲歩するか確認している気がした。「計画的離婚についてはどうだ?式を挙げて1年後までに志田川の組織を変えるつもりだ。うちの後ろ盾がなくてもやっていけるようにする」「…うちの組長がどう言うか…」「組織を強くして、文句なんかねぇだろ」タバコに火をつけ、唇の端で咥えながら続けた。「志田川組を独立させたら、さらに1年後までに、俺たちは離婚」「晴れて、桜ちゃんのもとに行けるってわけ?」「うちの組織と組員、蔵之介の力があれば可能な計画だ。お前に話をつけたら、うちの組長に伝えようと思っている」自分の質問に答えない俺を見上げ、意味深に笑う麗香。「……桜ちゃんを離さないつもり?」「どうしてそんなことを聞く?」「あの子のためにならないからよ」…それは何度も頭をよぎったことだった。離してやるのが桜のためで、自分のような極道のそばに置くことは、静かな幸せから遠ざけることだと…十分すぎるほどわかっている。過去……百合にも同じことをした。結果あいつは病気になり、
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-09
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52.麗香からの話と桜の覚悟

「……意外と女らしい部屋でしょ?」龍之介の部屋に帰った桜を訪ね、麗香は自分の部屋に彼女を招いた。「意外と、っていうわけじゃないですけど、女性らしい落ち着いた部屋ですね」おしゃれな家具と観葉植物、見たことのある絵画が壁を飾っていて、上手にベッドを隠している配置は素敵だと思った。この部屋でもお茶の用意ができるようで、麗香は香り高い紅茶を淹れてくれた。「どうだった?齋藤専務は」「あ……落ち着いた大人の方で、あの…私みたいな人の手助けをするボランティアをしているって言ってました」知ってるはずの情報を改めて伝えてしまった……麗香は嫌な顔ひとつせず、優しくうなずいてくれる。「桜ちゃんは、しばらくここで働いたらいいと思う。……龍之介は自分の専属家政婦とかバカなこと言ってたけど、そうじゃなくて、屋敷の家政婦として」「……はい、ありがとうございます」美紀に借りたお金を奪われて、返金しなくてはならない。だから仕事をしてお金を得る必要があった。けれど外に働きに行くことは、龍之介や麗香だけではなく、西龍会に迷惑をかけることになりかねないと……さっき自覚したばかりだ。「わかってくれて嬉しい」それとね……と、紅茶をひとくち飲んで、麗香が続ける。「結婚式の日取りを、決めることになったの。私……龍之介と結婚する」「……はい」「愛があるわけじゃないよ。お互いの組のため。……っていうか、どっちかって言うと志田川組が助けてもらうためかもしれない。だから私は、龍之介と結婚する必要があるの」蔵之介のことを口に出すことは出来なかった。こういう決断をしたということは、必然的に諦めたということだから。「それからこれは……桜ちゃんにしか言わないけど」迷いを含んだ言い方に、桜の伏せた瞳が上がる。「龍之介は、計画的に私との結婚を終わらせるつもりでいる」「それは……計画的離婚のことですか?」「そう。龍之介は、2年かけて離婚するって言ってる。でもね、結婚したら……親が出てくるのよ。うちの父親、志田川組の組長が、娘婿になった西龍会の若頭を離すかどうか……」少しずつ、取り巻く環境に手足をとらわれる龍之介が見える気がした。「だから、離婚がそううまくいくかは、約束してあげられない」……返事はできなかった。それは仕方のないことで、自分に何かできるわけではないとあきらめるしかないのに
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-10
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53.龍之介の部屋で過ごす最後の夜

「……何もかもを、捨てられたらいいな」リビングを掃除していた桜を自分の部屋に入れ、改めて抱きしめる龍之介。「でも……皆さん困りますよね。龍之介さんがいなくなったら」「皆さん……か、」ふふ…っと笑う龍之介に、少しだけ抗議したくなって見上げれば、優しい視線にとらわれて、動けなくなる。「2年で、何とかする」「……2年」「志田川組の強化と独立をさせて、麗香と離婚する。……西龍会若頭は、蔵之介に譲る」こういった組織を抜けるのは、決して容易いことではないと聞いたことがある。それは……映画やドラマだけの話なのだろうか。「待てるか?」甘い視線に、わずかな不安が宿るのがわかった。……強さと美しさを兼ね備えた龍之介のような人が、自分をそんな目で見るなんて、改めて信じられないと思う。「待ってます。……ずっと、龍之介さんだけを思って生きます」真剣に伝えたのに、フッと軽く吹き出すなんて……ちょっと意地悪が過ぎるような気がした。「笑ってごめん。可愛くてな」頬に指先を這わせ、優しくなでる龍之介。「俺は……お前しか抱かないから」「でも……」「お前以外無理だろうし、その気になれるはずがない。だからお前も、俺以外に触れさせるな」本当にそんなことが可能なのだろうか。正直なところ、いくら形式的な結婚だとしても、子供を望まれることは十分考えられる。麗香が、というより組織が、跡継ぎを望んだとしたら……そこまで考えて、胸が激しく痛んだ。……嫌だ。龍之介がほかの女性に触れるなんて、絶対に耐えられない。自分から龍之介の胸に飛び込み、広い背中に腕をまわす。ありったけの力を込めて、しがみつくように抱きしめた。気持ちを理解してくれたのか、抱きつく桜を包み込むように腕のなかに閉じ込める龍之介。「本当は、お前を家政婦として働かせたくねぇよ。だが志田川組も出入りするようになって、全員に役割が必要なんだ」自分のような若い女が、役割も持たずに屋敷をうろついていれば……龍之介や蔵之介との関係を想像させてしまうということだろう。「わかってます、大丈夫。……何もしないでお金をもらうようなこと、私にはできないので」「あぁ。桜らしいな」「頑張って、この屋敷を綺麗にしますね」ビー玉のような瞳で見上げる桜の頭をクシャと撫で、髪に、おでこに……キスを落とす龍之介。やがて貪るように桜の唇を
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-11
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54.家政婦として

「はじめまして。滝川桜と申します」鹿威し《ししおどし》の特徴的な音にビクッとしてしまう。……深く頭を下げた桜の隣には、龍之介、そして麗香がいる。「……家政婦か」「はい。うちのゴタゴタに巻き込んでしまったお嬢さんです。今外へ出すのは危険なんで、うちで働きながら時がすぎるのを待つことに」龍之介が説明したのを合図に、麗香が桜に頭を上げるよう小声で伝えた。テーブルのない広い和室。龍之介や蔵之介によく似た男性が、腕を組んでこちらを見ている。切れ長の鋭い目、高い鼻……年齢相応の渋みまで加わって、桜はこんなに美しい中年男性を見るのは初めてだと思っていた。「桜さん、と言ったか」「は、はい」「うちがどんな家業かはご存知か」桜はコクンとうなずきながら答える。「存じております。……今回、私の父親もご迷惑をかけておりまして」「そうか。私の信条として、外の世界の方はうちにはあまり関わらない方がいいとしてきた。……だが、何やら事情がありそうだな」そこへ、シャッと襖を開ける音。「組長、ただいま戻りました」背後から聞こえる声は、蔵之介だ。「この子のことは、俺に任せてください。屋敷にいる間も、晴れてここを出てからも」視線を落とした目の端に、龍之介と麗香の指先が映る。2人とも、ギュッと拳を作った。「いいだろう。……ただ、」組長は蔵之介に返事をして、改めて桜に目をやる。「君は、とても似てるなぁ。……百合さんに」龍之介、蔵之介、そして麗香に順に視線を送り、組長は立ち上がった。襖を開けると、そこに女性がいる。それは初めてこの屋敷に来た時会った、龍之介と蔵之介の母、そして組長の妻だ。目が合って、頭を下げる桜に会釈を返し、組長の後を追っていく。「……ったく、なんなんだろうな、この部屋の硬い空気は。緊張しかしねぇわ」蔵之介はその場にあぐらをかいて座り、龍之介は反対に立ち上がった。「あの、蔵之介さん……しばらくお世話になります。よろしくお願いします」正座のまま蔵之介に向き直り、頭を下げた。「うん。わからないことは俺に聞いて。……ほら、この2人は結婚式の準備で忙しいから!」「……はい、ありがとうございます」隣にいた麗香も立ち上がり、龍之介の隣に行く。……が、龍之介が動かない。「なに、寄り添っちゃって。……先に行けばいいじゃん」「蔵之介も早く出ろ。こ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-12
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55.奥さまからの話

「うちにいる女は、私と麗香さん、そしてあなたの3人だけなの」連れて行かれたのはダイニングキッチンだった。「基本的に私が家族の料理を作っているんだけど、あなたはそれを手伝ってくれるかしら」「はい。かしこまりました」「家族というのは……私たち夫婦と、蔵之介のことよ」そうか。龍之介さんは麗香さんと、間もなく夫婦になるから……「はい。3名分の食事を用意するのですね」複雑な心情を見破られないように気をつけたつもりが、つい伏せてしまったまなざしに、視線が注がれる。「あなた、知っているんでしょ。自分が誰に似ているか」「は……」突然話が変わって、桜は驚いて視線を上げた。「やっぱり、どこからどう見ても……そっくりなのよ」目尻に細く、跳ね上げるように入れられたアイラインがとても美しい。憂いを帯びた目で見つめる龍之介の表情は、この人に少し似ていると、桜は思った。「……百合さん。龍之介さんの亡くなった奥さまに、自分が似ているのは、よく理解しています」「それで……あの日から離れられなくなったの?」この屋敷に初めて足を踏み入れた翌日、奥さまと顔を合わせた正面玄関のことが脳裏をよぎった。「はい。そうです」どうしてこんなに簡単に認めてしまうのか……自分でも意外に思う。取り繕うことはいくらでもできただろう。でも、そうしたくなかったというのが本音だった。「愛し合っていた……いえ、過去形じゃないかもしれないわね」「私は、龍之介さんを愛しています」人の内側を見抜くようなまなざしを向けるこの人に、嘘は通用しないと思った。「そう。でも……龍之介は麗香さんと結婚するわ。間もなく、正式な日取りが決まるの」「存じております。……それなのに、私をここに置いてくださる皆さんに感謝申し上げます。しっかり、務めを果たします」頭を下げる桜の肩に、そっと指先がかかる。「あなたには、教えておくわね」奥さまはダイニングキッチンから離れ、別の部屋に桜を案内した。「……こ、れは」「麗香さんが着る白無垢よ」自然光に照らされて、銀色の糸で縫い込まれた華やかな刺繍が輝いて見える。……これを着て、龍之介さんの隣に立つ麗香さんは、どれほど美しいだろう。「そしてこれが、龍之介の袴」和室の中の襖を開けると、そこには黒い紋付きの羽織と、銀と黒の縦縞の袴が掛けられていた。「2人には言
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-13
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56.2人の距離

「ちょっと待てって……俺にも桜ちゃんには見られたくないものがあるわけよ。……先に確認させてくれない?」「そんなこと気にしなくていいですよ。私は今日からこの屋敷の家政婦なので、掃除をするのが仕事……」ベッドやソファに散らかった服を片っ端からカゴに入れていくと、積み重なった中に派手な色の女性ものの下着……「……わっ!だいぶ前に来た女が忘れてったものだっ」慌てて桜の視界から消した蔵之介だったが、その後もあちこちから色取りどりの下着が出てくる。「……あの、蔵之介さん?」「今は誰も呼んでないから!これは過去の遊びの痕跡……全部処分する!」慌てた姿がなんだか可愛らしくて、ついクスクス笑ってしまった。「……なんで笑うの」「ごめんなさい……!それにしても、下着を置いて帰るなんて、女性もよっぽど慌ててたんですかね?」人さし指を唇の中央に立て、内緒……のポーズを取ったのは、きっと口外されたくないだろうと思ったから。「なんだよそれ……」「はい?」気分を害してしまったかと、桜は少し焦って、蔵之介を見上げる。「ナイショのポーズが可愛い……」伸びてきた手に捕まり、引き寄せられた。「あの、仕事中なので……」「終わったらいいの?」「そういうことじゃないです」「だったら今は特別な?……可愛い仕草を見せる桜ちゃんが悪い」龍之介より少し細身の体に閉じ込められながら、それでもきっと、力は同じくらいあるのだろうと思う。龍之介より甘い香り。体温は……少し低い。「……はい、もう終わりです」胸を押せば、簡単に離れてくれる蔵之介。「桜ちゃん、屋敷にいる間に、もっと俺を知ってくれない?」「知る……とは?」「わかんないけど、とにかく仲良くなりたいんだよ。それにさ」見られたくないものを見られてしまい、蔵之介は開き直ったようだ。積み重なった服がなくなって、久しぶりに顔を出したであろうソファの座面に軽やかに座り、長い足を組む。「ここじゃ龍之介は使えないから。若頭って立場もあるし、麗香との結婚式も控えてるし」「別に……頼るつもりはないです」「だとしてもさ、ここで見たり聞いたりすることは、桜ちゃんにはつらいことが多いと思う。そんな時、俺を利用しなよ」飄々としてつかみどころのない蔵之介だが、今日はどこか雰囲気が違う。「もう、百合を重ねて見てないよ。滝川桜って女の子
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-14
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57.まさかの人物

「桜ちゃん、今のうちに私たちの部屋を掃除してくれる?」「かしこまりました」組長からの話のあと、龍之介と蔵之介は組長と別の部屋に入っていった。桜は奥さまと麗香に続き、部屋を出る。その足で来るよう言われ、ついていくと、麗香は部屋に入るなりソファにドサっと腰を下ろす。「うふふ……あの様子じゃ、龍之介は戸惑ってるわね。まさか私も1ヶ月も早まるなんて思ってなかったけど!」つぶやく声が、弾んで聞こえる。……何か言った方がいいのだろうか。まるで、言葉が浮かんでこないのだけれど。「組長、意味深なこと言ったと思わない?」ソファの背に顎を乗せ、掃除機を滑らせる桜に話しかける麗香。「そう……ですね」「あれ、子供のことを言ってるのよ!うちもそうだけど、西龍会も跡継ぎを望んでるのね」龍之介と麗香の子供……彼に大人の女にしてもらった桜に、2人のしどけない姿を想像するのは容易い。麗香に悪気はないかもしれないが、聞きたい話ではなかった。「私、極道の子供なんて増やしたくないって思ってたけど、結婚するとなったらやっぱり産みたい」ごめんね桜ちゃん……と謝罪の言葉を言われ、私は「いいえ」と言うべきなのか。麗香は親が子供を望んでいる事実と、自分の気持ちを正直に伝えているだけ。ならば私は、それに対して言葉がないのが本音。だったらそれでいい。必要なことだけ伝えればいいんだ。桜はうつむきがちの顔を上げ、麗香をまっすぐ見て言った。「お掃除終わりましたので、これで失礼いたします」「あ、ちょっと待って」呼び止める麗香の表情は、桜の目に、初めて見るような感覚を呼び起こす。「これからも掃除は、私が櫻川に行く前に済ませてくれる?」「……はい。かしこまりました」麗香の意図は、きっとこうだ。龍之介が1人でいる部屋に、桜に入って欲しくない、ということ。最終的に龍之介は自分に任せてくれ、と言ったのは、麗香が彼の子供を産み、人生のパートナーになる未来なのだ。とっくに、私は龍之介との未来を手放していた……再び頭を下げ、部屋を出ようとドアを開けると、目の前に龍之介がいた。「……桜」「ただいまお掃除が終わりました。失礼いたします」龍之介の顔を見れば、涙が浮かんできてしまう。桜は急いで2階へと上がった。一旦自分の部屋に引き上げ、気持ちを落ち着ける。夕飯の支度まで、まだ時間がある。
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-15
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58.美しい人をもてなす

「まさか、百合姐さん……」「お前……本当に百合、なのか」和哉と龍之介、2人の問いかけに笑顔を見せるこの女性が、自分に似ている人だとするなら、それは大きな間違いだ。目の前の人は、手入れされた美しい髪をなびかせ、シンプルなワンピースを着て決して華美ではないのに、どうしょうもなく目を引かれる姿で立っている。まさに……百合の花のような人。亡くなったはずの百合さん……それは何かの間違いで、この人が本当に龍之介の胸に描かれた百合さんだとしたら……私は、いらない存在だ。「……お荷物、お持ちします!」「ありがとう和哉。でも荷物って、この小さいバッグひとつだけど?」「それでもお持ちします!龍之介さんはいつも『百合の小さな手には何も持たせるな』って言ってましたから!」「そんなこと言ってたの?……いやだ!」1人近づけない桜を残し、3人は和やかな様子で正面玄関に近づいていく。そして、ここからでも見える。……龍之介さんの表情が、柔らかくなっていることに。「……桜」視線を落とし、立ちすくむ自分に気づいてくれたらしい。2〜3歩戻ってきた龍之介が言った。「お前は、裏口から部屋に戻ってろ」その顔は、笑顔ではなかった。「……おかえりなさい……って、えぇっ?!おいっ!みんなっ!……」玄関が開いて、閉まるまで動けなかった。龍之介が戻って玄関に集まった組員たちの驚きの歓声。その賑やかさに、百合さんという人が、どれほど愛されていたかがわかる。正面玄関を閉めた組員の1人が、少し先で立ちすくむ桜に気づいた。困ったような顔でペコリと頭を下げられ、桜は我に返って挨拶を返し、踵を返す。これからどうなるのか……重たい不安を抱えながら、桜は部屋まで小走りに走った。「……桜さん、失礼します」部屋に戻って何も考えられず、床に座ってぼんやりしていたらしい。ドアの外から声をかけられ「…、はいっ」と返事をして慌てて出ていった。「えっと……あの、夕食の支度をするようにと、姐さんからの伝言です」「あ……わかりました。今行きます」「よろしく……お願いします」伝えに来てくれたのは和哉だった。とっさに、あの女性は本当に百合さんなのか聞いてみようとして……聞いてどうするんだと思いがよぎる。どちらにしても私は、龍之介さんと結ばれない。……一旦離れても、ずっと愛していると言われたば
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-16
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59.女の正体

「あの……」百合と名乗る女性は、案の定キッチンにいた。まな板と包丁を出して、冷蔵庫を遠慮なく覗いている。「鯛の骨でだしを取って、おみそ汁にするわ。……それからお刺身は薬味を添えて盛り直すの」菊の花、大葉などを取り出し、リズミカルに包丁を入れ、彩りよく盛り付けた刺身。それは見違えるほど新鮮に、美味しそうに見えた。「お上手、ですね。……それに、」「……なに?」「この屋敷のことも、よくご存じのようで」本当は誰なの?自分が気にする問題ではないかもしれないが、知りたい気持ちが勝った。「……私はね、百合じゃないわよ?」意外にも素直に……そしていたずらっぽく笑って、彼女はあっさり答えた。程よく目尻の上がった大きな瞳は大人の女性の色気を放っていて……桜はそんな瞳をじっと見つめ返し、次の言葉を待った。「私は百合の妹の、真理。一卵性の双子なの。……大人になってもこんなに似てるなんて、自分でも気味が悪い」「それは、龍之介さんはご存知なんですか?」真っ先に聞いてしまった。……だって、騙されていたら可哀想だ。亡くなったのは何かの間違いで、どこかに隠れていた百合さんが帰ってきたと信じているかもしれない……「まだ顔を合わせたはかりだもの。何も話していないわよ。……でも」みそ汁が出来上がったようで、3つお椀を出して注ぎ始めた真理という女性。ここでも、どこにお椀があるのか知っているかのように、スムーズに動く。「龍之介はもう信じちゃってるんじゃない?私が百合だって……」真理は赤い唇の口角をキュッと上げ、首を傾げて微笑みながら……少しずつ目を見開いて、桜に近づいてきた。何を言われるのか、すぐにわかった。「それにしても、よく似てるわね……私たち。あ、でも……」額にかかった髪をパッと上にあげられ、見開いた目がさらに近づき、桜は思わずあごを引いた。「百合の方が似てる。顔型が、私はちょっと丸いけど、あなたはあごがシュッとしてるもの」「……何をしてる?」ふいに、龍之介の低い声が響いた。真理はサッと桜から離れ、弾むような足取りで龍之介に近づく。「お刺身を盛り直してたのよ!……見て!薬味を添えたら美味しそうになったでしょ?」「……組長が待っている。部屋に戻るぞ」「はぁい!」ちゃっかり刺身の皿を龍之介に持たせ、真理はみそ汁を取りに戻ってきた。「あなたがここ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-17
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60.すべてが壊れた朝

翌朝、いつも通りキッチンに向かい、朝食の準備に取り掛かった。昨夜、蔵之介は帰らなかったようだ。きっと驚くだろうに……真理を見て、百合が帰ってきたと錯覚して。桜は泣き腫らした重いまぶたを伏せ、4人分のだし巻き玉子を焼く。組長夫妻と龍之介、そして真理の朝食だ。きっと龍之介はこちらで朝食をとるだろう。……あの正面玄関から、間もなく真理と一緒に入ってくる姿を簡単に想像できた。そして……「おはようございますっ」組員たちのドスの効いた声をまといながら、龍之介がキッチンを通り過ぎて行ったのがわかった。……すぐ後ろに真理を従えて。フライパンに玉子を流し込み、ジュッと焼ける音を聞きながら、桜は思う。配膳は誰かがやってくれたらいいのに。今朝ほど、龍之介の姿を見たくないと思うことはなかった。それは、昨夜見た光景を思い出し、悲しみで胸が押しつぶされそうになるから。見てしまった。龍之介が真理の泊まる離れの部屋に入っていくのを……昨夜、離れの部屋を整えて戻り、代わって和哉が真理を部屋に案内する後ろ姿を見送った後の話だ。後片付けを終え、自分の部屋に引き上げた後、カーテンを閉めようと窓辺に寄ってみると……離れの部屋をノックする龍之介、招き入れる真理が見えた。どうして……桜を愛している自分の気持ちに変わりはないと言ったばかりなのに、百合に瓜二つの真理が現れた途端、まるでその言葉にひと言付け加えられたように感じる。変わらないのは、百合への愛も同じだと。でも彼女は違う。百合ではないのに。真理の泊まる離れの部屋に入った龍之介は、夜のうちに出てくることはなかった。気になって眠れなくなり、椅子を持ってきて窓にへばりつくなんて、まるで監視しているようだ。それでも、わずかな後ろめたさを抱えながら、目を離せなかった。結局、龍之介が離れから出てくることはなかった。真理だと知っているのか……それとも、彼女が来ることを知っていたのか……百合さんが亡くなって2年だと、以前聞いたことがある。そんなに時間がたってから……そもそも真理さんは、何のために屋敷に来たのだろう。龍之介と麗香の結婚は……影響を受けないのだろうか。「……お待たせいたしました」出来上がった朝食をワゴンに乗せ、昨夜と同じ紅の間に持っていった。襖を開けると、同じ位置に座る人たち。……案の定龍之介は、真理の
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-18
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