All Chapters of 一緒に美味しい朝ゴハンを。: Chapter 51 - Chapter 60

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新たなスタートとクリスマスデート PAGE8

 こうして彼と楽しく晩酌している間にも、テーブルに置いてあるあたしのスマホはブーンブーンと振動を続けている。ディスプレイに表示されている発信者の名前は幸樹さんだ。 マナーモードにしたままでよかった。着信音が鳴っていたら、楽しい雰囲気がブチ壊しになっていただろうから。 「電話、鳴ってるけど出なくていいのか?」 「いいの。放っとけばそのうち諦めて切るでしょ」 「つうかお前、彼氏と距離置くっつっといて連絡先はブロックしてないんかい」 「うん……。なんかごめん。職場の人だし、ブロックしたらしたで後々面倒そうかな……と思って」 「いや、俺に謝ってもらってもな」  そうこうしている間にも、まだ電話は鳴り続けている。どうしてだか、留守電に切り替わってくれない。 「…………ああもう、しつこい!」  プツッ。――とうとうブチ切れたあたしは、拒否ボタンをタップして電話を切った。 「お前……、切っちまったの?」 「切りましたともさ」  フンッと鼻息も荒く答えるあたしに、直也くんが吹き出した。 「だって、うっとうしいんだもん。あたしが根負けするの待ってるとしか思えないよ」 「なんかさ、強くなったな、お前」 「え? そう?」  直也くんのコメントに、あたしは彼の言った意味を理解できずにポカンとした。
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新たなスタートとクリスマスデート PAGE9

「ふう……、これでよし、と」 「由衣、よくできました」  スマホの操作を終えてテーブルの上に置くと、直也くんが向かい側から手を伸ばしてあたしの頭を優しくポンポンと叩いてくれた。 「……うん」  彼に再会した日は、彼から手を伸ばされただけで怯えていたのに。彼の手が優しい手だと分かった今は、そういう行為も安心して受け入れられる。男性に対するトラウマも少しは克服できたのかな? そういえば、管理人の佐野さんに対しても怯えなくなった気がする。 「由衣、もう大丈夫だな? 明日会社に行っても、そいつに怯えることはねえな?」 「うん、大丈夫。心配してくれてありがとね」  それはあなたがいるからだよ、直也くん。あなたと両想いになれた今、あたしはもうあんな人、怖くも何ともなくなったよ。 「そりゃよかった」  あたしの答えを聞いて、彼は朗らかに笑った。彼があたしに「もう泣いてほしくない」と言ってくれたように、あたしも彼にはいつも笑っていてほしい。あたしは昔からずっと、彼の笑った顔が好きだから。 「……あ、何かおつまみでもあればよかったね。あたし、探してみるよ」  キッチンへ立って冷蔵庫を開けてみたけれど、お酒のつまみになるような常備菜はなにもなかった。そもそも、あたしにはおかずを常備する習慣なんてないのだけれど。 「ごめん、何もないや」 「ああ、いいよ。お構いなく……っていってもお構いま
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これが本当の恋愛 PAGE1

 ――翌朝。あたしは昨日直也くんから「可愛い」と褒めてもらったロングスカート姿で、髪をハーフアップにしてメイクもバッチリ済ませ、身支度を整えた。 炊飯ジャーに残っていたご飯とカレーをタッパーに詰め、スプーンと一緒に保冷バッグに入れる。これが今日のあたしのランチだ。 そして通勤用のバッグにあるものを忍ばせて、今日もお隣の彼の部屋のインターフォンを押す。「――おう、おはよ、由衣。……お? 今日はスカートで会社行くんだな」「おはよ、直也くん。昨日、直也くんに褒めてもらったから自信が出たの。今日の朝ゴハンなぁに?」「今日はクロックムッシュとフレンチサラダ。――さ、もうできてるから上がんな」「うん。おジャマしま〜す」 あたしは玄関でロングブーツからスリッパに履き替えて、部屋に上がった。「わぁ、すごいボリュームだね! でも美味しそう」 ダイニングテーブルに着いたあたしは、並べられた朝ゴハンに歓声を上げた。「今日はガッツリめにしたんだ。由衣にはしっかり食って、元気に仕事してきてほしいからさ。コーヒー淹れてやろうな。砂糖とミルクはセルフで」「うん、ありがと。いただきま〜す」 熱々のクロックムッシュをナイフで一口大に切り、ハフハフ言いながらフォークて口に運ぶ。チーズと卵がトロトロで、カリカリの食パンと合わさった時の食感が絶妙だ。「美味しい〜♡  こんなオシャレな朝ゴハン、カフェでしか食べられないと思ってた。こんなの作れるなんて、直也くんスゴいよ」「だろ? こんなスゲえ朝メシ作れる俺って、自慢の彼氏だと思わねぇ?」「うん、思う! さすがはプロのコックさんだね」 彼が毎朝作ってくれる朝ゴハンはどれも美味しくて、栄養もたっぷり摂れる。基本的に洋食系が多いけれど、たまに和食系(ご飯とお味噌汁とお漬物、玉子焼きとか)だったり中華粥と揚げパンだったりもする。 ひとり暮らしなので忙しい朝には朝食にまで手をかけていられなくて、彼が隣に越してくるまではトーストとバナナとコーヒーくらいでササッと済ませてしまうことが多かった。 でも、彼と一緒にこの部屋で朝ゴハンを食べるようになってからは、体調もお肌の調子もすこぶるいい。何より、毎朝幸せな気持ちで出勤することができるようになった。これが〝本当の恋愛〟なんだろうな。だって、幸樹さんの〝彼女〟だった時は(って言っ
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これが本当の恋愛 PAGE2

 つまり、あの人のことは信頼するに値しなかったということ。あたしが安心して合鍵を渡せる相手ではなかったということだ。そんなの、本当の恋愛関係とは言えないと思う。 「まぁ、そいつは由衣にそれだけのことをしてきてんだもんな。当然っていや当然か。お前、そいつに鍵預けなくて正解だったと思うぜ」 「だよね」 「でも、お互いの部屋の合鍵交換するってカレカノらしいっつうか。なんかいいよな、こういうの。俺、そいつに勝ったな」 「勝ったって、何のマウントよそれ?」  直也くんが変なところで幸樹さんにマウントを取ったので、あたしは笑いながらツッコミを入れた。でも、あたしもそう思う。彼はあたしが全幅の信頼を寄せられるくらい素敵で自慢できる彼氏で、幸樹さんより全然いい男だ。身長はちょっと負けているけれど(直也くんは百七十六センチ、幸樹さんは百八十センチ以上ある)、顔はあの人に負けないくらいイケメンだし、何より性格のよさであの人に勝っている。 「ね、直也くん。クリスマスデートの時なんだけど、あたしコスメを選んでもらおうと思うんだ。直也くんのセンスで」 「コスメ? ああ、いいけど……。それだけでいいのか?」 「うん、まぁ、今のところはね。街をブラブラしてて、他に欲しいものが見つかったらその時はまた相談するけど。あとは一緒に食事して……とか、そんな感じでどうかなって」 「なんか、めちゃめちゃ健全なデートプランだな。……まぁいいんじゃねえの? 付き合いたてならそんな感じで」  直也くんは納得してくれたようで、でも半分は何だかちょっと不服そうだ。男の人にはちょっ
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これが本当の恋愛 PAGE3

「うん、分かった。信じるよ」  彼の大きくて優しい手の前では、嫉妬していた自分がものすごく小さな存在に思えてくる。直也くんがあたしを裏切るなんてあり得ないことくらい、幼なじみのあたしがいちばんよく分かってるはずじゃない……。 「そういや、お前の手の傷、まだ薄っすら残ってるな。今も痛む?」  彼はあたしの左手に目を遣って、そう訊ねた。 あの夜ガラスの破片で切れたところはけっこうザックリと深い傷になっていたようで、カサブタも取れて治った今も薄く傷跡として残っている。痛むほどではないけれど、まだ時々疼くことはある。 「ううん、さすがにもう痛くないよ。時々ちょっと疼くことはあるけど」 「そっか……」  直也くんはあたしの返事を聞くと、眉根にシワを寄せて何やら考え込み始めた。優しい彼のことだから、また自責の念に駆られているんだろうか。 「直也くん、また自分を責めてるんでしょ? あれは直也くんのせいじゃないから、そんなに思いつめないで」 「お前だってあの時、『自分にも責任ある』って言ってたじゃん。言ってること変わってねえか?」 「それは事実だったもん。それに、直也くんが『お前は被害者だから悪くない』って言ってくれたから、もう自分を責めるのはやめたんだ。あれは幸樹さんが悪かった。でしょ?」 「……ああ、そうだな」 「あたし、直也くんのおかげで強くなれたんだよ。だから、あの人と別れるためにこれから色々と動いてみるつもり。DVの証拠はもう集まってるから、弁護士
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これが本当の恋愛 PAGE4

 ――会社へ行く前に、マンションの集合ポストへ寄ってみた。昨日は日曜日だったので郵便配達は休みだし、ネットショッピングもしていないので入っているのはチラシくらいのものだけれど、何となく予感めいたものはあったのかもしれない。 「……ふーん? 幸樹さん、昨夜来てたんだ」  郵便受けを開けてみると、そこには一枚のメモ用紙が残されていた。  『電話しても繋がらないし、メッセージもブロックされてるようなのでメモだけ置いていくことにした。 このメモに気がついたら君から連絡してほしい。 幸樹』   メモを入れていったのは、多分あたしの部屋まで行きかけて佐野さんに睨まれたから引き下がることにした。まぁ、そんなところだろう。佐野さんはあたしが幸樹さんからDVを受けていることを知っているし、こないだ通路で騒ぎを起こしかけたことも四階の他の住人から聞いていたんだと思う。 「……アホくさ。なんであたしから連絡しないといけないわけ?」  あたしは毒づきながら、手にしていたメモをグシャッと握り潰す。管理人さんの目にビビり、こんなメモ一枚だけ置いて、尻尾を巻いて退散していくような小物にあたしは今まで怯えていたのか。 「絶対、あたしから連絡なんかしてやるもんか」     * * * *  「――おはようございます、幸樹さん」  あたしは商品デザイン部に元気よく出社すると、にこやかに幸樹さんにも挨拶した。彼はあたしに連絡先をブロックされたことを知って仏頂面をしているけれど、今のあたしはそんなことくらいで怯んだりしない。 「おはよう。&
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これが本当の恋愛 PAGE5

「――おはよ、玲奈」 「おはよ。っていうか由衣、さっきのアレなに? この席まで聞こえてたんだけど」  玲奈に声をかけると、彼女は隣のデスクから挨拶もそこそこにヒソヒソとあたしに訊いた。でも、何だか抗議というよりは興味津々という感じだ。 「ああ、アレ? あたし、昨夜から直也くんと付き合い始めてね。幸樹さんに『あなたとは別れるつもりだ』ってハッキリ言ってやったの。もう連絡先もブロックしてやった」 「えっ、そうなの? で、あんたと連絡つかないことを責められたってワケね。でも、オフィスでそういう話するってどうなの?」 「それなら問題なくない? あたしと幸樹さんが付き合ってること、この部署内では周知の事実だろうし。江坂部長には彼からDV受けてることも話してあるよ」  そりゃ、毎日のようにあたしがオフィスで彼に何かしら詰られている現場を見ていたら、「ああ、あの二人ってそういう関係なんだな」と誰もが分かるだろう。 「なんだ、部長も知ってるのか。でも、そっか……。とうとう別れることにしたんだね、あの人と。あたしもその方がいいと思ってたんだ。しかも、直也さんとはもう付き合ってるって?」 「うん、そうだよ」 「それって一応、今の段階では二股かけてることになるけど、それは大丈夫なの?」 「うん、大丈夫。あたし、もう幸樹さんへの気持ちは完全に冷めちゃってるし。辛うじて名目上の繋がりが残ってるだけだもん。別れるのはそんなに難しいことじゃないと思う」  もし幸樹さんとあたしが夫婦で、離婚するとなった場合には手続きが色々と面倒なことになるだろうけれど。法律上の繋がりがなければ。別れるのにはそれほど手間がかからないはずだ。 「それに、も
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これが本当の恋愛 PAGE6

「――みなさん、ちょっといいかしら? 私からここで報告があります」  午前の業務が始まって間もなく、江坂部長が立ち上がり、もったいぶって口を開いた。報告って、何の報告だろう? 何だか表情が明るいのでいい報告みたいだけれど。 「その前に一ノ瀬さん、ここに来てくれる?」 「はい」  あたしは部長に呼ばれ、彼女のデスクの側へ行く。その報告というのには、どうやらあたしが関係あるようだ。 「えー、我が社が春から発売される新ブランドに、一ノ瀬さんのデザインが採用されることに決まりました! 週末の重役会議で、満場一致で決定したんです」 「……えっ? あたしのデザインが……新ブランドの顔になるってことですか?」  あたしは信じられなかった。だって、美大で本格的にデザインの勉強をしてきたわけでもないのに、新ブランドの顔にそんな自分のデザインが採用されるなんて本当にいいんだろうか? この部署には、美大卒でそれこそ本格的なデザインをガッツリ学んできた人もいるというのに、そういう人を差し置いて? 「そうよ、一ノ瀬さん。おめでとう!」  部長がそういってあたしを拍手で称えると、商品デザイン部のほぼ全員にその拍手は広がった。……ただし、幸樹さん一人だけは渋々、という感じだったけれど。 「部長、みなさん、ありがとうございます! すごく嬉しいです!」  とはいえ、あたしはこの身に余る栄誉(……と言ったら大ゲサだろうか?)を受け止めることにした。嬉しいことに変わり
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恋と責任と PAGE1

 ――あたしはさっそく江坂部長から、会社のWEBサイトに載せる春の新ブランド紹介のページ制作を依頼された。 「これはデザインを担当したあなたの仕事だから、あなたにしか頼めないの。実際の商品のイメージ画像がこのUSBに入ってるから、担当デザイナーとしてのコメントとか、このデザインにしたあなたの狙いとか、何でもいいの。文章にしてこの画像と一緒に一つのページにまとめてくれる?」  そういうのは広報部の仕事じゃないのかと疑問をぶつけたあたしに、部長はそう言った。 担当デザイナーであるあたしにしかできない仕事。つまり、あたしにはこのブランドの売れ行きを左右する大きな責任があるということだ。いかにこのデザインが素晴らしいかを、どう文章にまとめるのか――。 「……なんか、由衣一人だけが別の次元にいるみたいだね。バリキャリになったみたい」  玲奈が隣のデスクから、頬杖をついてそんなコメントをしてきた。みんなが各々タブレット端末に向かってデザイン画を描いている中、あたし一人だけが今はノートパソコンのキーボードを一心不乱に叩いている光景は、確かにそう見えるかもしれない。 「んー、今だけだよ。あたし、デザイン画描くのは得意だけど文章書くのは苦手なんだよね。責任重いし大変だよー」  部長の注文は、あたしにはなかなか難しい。あたしなりに文章にしてみてはいるものの、これで正解なのかあたし自身ではよく分からない。 「どれどれ? 今どんな感じで書いてるの? あたしがちょっと見てあげるよ」  玲奈が中腰で隣から身を乗り出してきて、あたしのパソコンの画面を覗き込んだ。あたしも一度誰かに読んでもらった方がいいと思っていたので、椅子をスライドさせて場所を譲ってあげた。 「ありがと、玲奈。一応ね、あたしなりにちょっと書いてみたんだけど、……どう?」&nb
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恋と責任と PAGE2

「直也くん、わざわざ仕事の合間に抜け出して返事くれたんだ……。ってことは、厨房にスマホ持ち込んでるってこと?」  すぐに返事をくれたことは嬉しいけれど、同時に判明した意外な事実にあたしは首を傾げる。それは料理人としていかがなものか。 すると、多分声に出して言ってしまっていたからだろう。玲奈が横から疑問の答えなのかどうか微妙な茶々を入れてきた。 「多分、仕事中でも大好きな由衣と繋がってたいんだよ。それだけ愛されてるってことだよね。まあ、仕事中はマナーモードにしてるだろうし、水仕事してなきゃ大丈夫なんじゃないの?」 「……はぁ、そういうもんなの? でも、あたし大学時代に飲食系でバイトしてたけど。みんな仕事中はスマホ、ロッカーに置いてたよ。そういうルールになってた」 「それは大手のチェーン店だったから、ルールが厳しかったとかじゃなくて? 直也さんの働いてるお店って個人でやってるところなんでしょ? だったらそういうルールも緩いんじゃない?」 「……さあ、どうなんだろ?」  スマホ持ち込みのルールはさておき、彼が仕事中にもあたしのことを考えてくれているのは、彼女として素直に嬉しい。思わずフフフッ、と笑みがこぼれてしまう。 「っていうかさ、幸樹さんがなんかこっちをすごい怪しい表情で観てる気がするんだけど。由衣、気をつけた方がいいよ」  と、幸せな気分に浸っていたあたしを、玲奈が不穏な指摘で現実に引き戻した。 「……えっ? 怪しいってどんな?」 「なんかねぇ、よからぬことを企んでそうな顔してるっぽい。何
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