一緒に美味しい朝ゴハンを。

一緒に美味しい朝ゴハンを。

last updateLast Updated : 2026-03-24
By:  日暮ミミ♪Updated just now
Language: Japanese
goodnovel16goodnovel
Not enough ratings
54Chapters
950views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

26歳のOL・一ノ瀬由衣は3歳年上イケメンの先輩・藤川幸樹と付き合ってもいて、周りから見れば公私ともに充実しているが、実は交際を始めてからずっと、幸樹からのDVと束縛に悩んでいたのだ。 そんな彼女の隣の部屋に、ある日幼なじみで現在はコックの秋本直也が引っ越してくる。 子供のころから由衣のことを気にかけていた彼は、彼女がDV被害者であることを見抜き、「毎朝一緒に朝食を食べながら、前の日にあったイヤなことを俺に話してほしい」と提案し、彼女に相談窓口やNPO法人などを紹介する。 「あたしは一人じゃない」――。直也という強い味方ができたことで、由衣は明るさを取り戻していく。そして、自分もまた直也に惹かれていることに気づくが……。

View More

Chapter 1

プロローグ

 ――「リア充」って一体何なんだろう? 十分に自分の能力が発揮できる仕事があって、安定した収入があって、イケメンで仕事もバリバリできる彼氏がいて? 周りの人から羨ましがられる生活?

 そんなの、ただのまやかしだ。現実はまったく違う。

 仕事ができたって、手柄は横取りされる。収入はなかなか上がらない。なのに物価は高くなる一方で、生活はいつもカツカツだ。

 彼氏はいる。同じ雑貨メーカーに勤める三年先輩で、イケメンで仕事もバリバリできる人。ただし、いいのは外ヅラだけ。その実態は束縛の強すぎるDV男だった。

 彼――藤川ふじかわこうは嫉妬深く、気に入らないことがあるとすぐ手を上げる。おかげであたし――いち由衣ゆいはいつも生傷が絶えず、全身青あざだらけだ。夏場でさえ半袖になれない。

 あたしの仕事での実績は全部彼が自分のものにしてしまうし、会社の中でもあたしが他の男性と話しているだけで、彼は不機嫌な顔になる。それがたとえ上司だとか、取引先の人だったとしても。

 そして、あたしのスマホにはいつの間にか所在確認アプリがインストールされている。もちろん入れたのは彼だ。つまり、あたしは常に彼から行動を監視されているのだ。

 実家を離れて(とはいっても同じ都内だけれど)ひとり暮らし中なので、ほとんど逃げ場がない。どこに相談していいかも分からない。いつからか、「手を上げられるのはあたしが悪いからだ」と思うことで、自分が被害者だという現実から逃げるようになってしまっていた。

 でも――、そんなあたしのことを救ってくれるヒーローがとうとう現れた。それも、マンションの同じ階のお隣に。

 しかもそれは、意外にもあたしもよく知っている人だった――。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
54 Chapters
ヒーローはお隣さん PAGE1
「――藤川君、こないだの提案、先方さんもすごく喜んで下さってたわよ。『センスがいい』って」 今日も雑貨メーカー〈ユアサプロダクツ〉・商品デザイン部のオフィスで、幸樹さんが部長の江坂恭子さんから褒められている。でも、実際にそのコラボ商品の提案書を作ったのはあたしだった。それを、彼はまた自分の手柄にしたのだ。でも、それを主張したところで部長はおろか、ここにいる人はほとんどみんな信じてくれないだろう。「ははっ、ありがとうございます。いやぁ、あれはたまたまいい提案書が書けただけで……」(……よく言うよ。自分では何も考えてなかったくせに) あたしはそんな彼のことを苦々しく思いつつも、口に出しては言えずに怯えていた。そんなことをしたら、彼に殴られるだろうことは目に見えていたから。「……よく言うよねー。あの提案書って、由衣が夜遅くまで残業して作ったんじゃんねぇ」 隣のデスクから、柴崎玲奈がヒソヒソと小声であたしに毒を吐いた。彼女はあたしの大学からの親友で、この会社の同期入社組でもある。周りの人たちがみんな幸樹さんの外ヅラにコロッと騙されている中で、彼女だけが唯一あたしの言うことを信じてくれる味方なのだ。「しっ! そんなこと、あの人に聞こえたらあたしがヤバいんだからね!」「あ、ゴメン! そうだった」 あたしはすかさず玲奈を窘める。あたしの数少ない味方でいてくれるのはすごくありがたいのだけれど、あまり目立つような言動は控えてほしい。「それに、どうせ信じてくれるのは玲奈だけだよ」「そっか……。なんかそれって悲しいよね。せっかく頑張っても、誰にも認めてもらえないって。目立たない日陰の存在で、アンタはそれでホントにいいわけ?」「…………よく……はないけど。あたしはただ、平和に日常を送れたらそれでいいからさ」 下手に目立って彼から睨まれるくらいなら、波風を立てないように大人しくしていた方がいい。「アンタ……、それで息苦しくないの? あたしでよければ逃げ場所になってあげようか?」「……………………いい。玲奈までひどい目に遭わされたくないし」 多分、飲みながらグチくらいは聞こうか? という意味で言っているんだとは思うけれど。あたしの問題で、親友に迷惑をかけ
last updateLast Updated : 2026-02-02
Read more
ヒーローはお隣さん PAGE2
 ――今日もそろそろ終業時間という頃、あたしのスマホに一本の電話がかかってきた。マンションの管理人さんからだ。「――はい、一ノ瀬です。何かありました?」 オフィスをいったん出て、通話ボタンをスワイプした。電話の相手が誰であれ、男性だというだけで幸樹さんがヘソを曲げてしまうからだ。『ごめんねぇ、一ノ瀬さん。まだ仕事中だったろ?』「いえ、もうすぐ終わりますけど」『そうかい? あのね、今日君の部屋の隣に新しい人が引っ越してきたんだ。君と同い年くらいの若い男の子なんだけどね、お隣さんとして仲良くしてあげてよ。ゴミ出しのルールとか、色々と教えてあげてくれんかね』「え……、男性……ですか」 管理人の佐野さんは六十代の初めくらいで、ご夫婦であたしのマンションの管理をして下さっている。でも、マンションの住人全員の面倒まではとても見きれないだろう。ましてや、新たな住人だったら。 あたしも住人同士の助け合いは必要だと思っているけれど、相手が男性だということに引っかかった。幸樹さんがあたしの部屋へ来ることもあるので、隣人が男――それもあたしと同年代の――だと知ったら、それこそあの人の嫉妬心に火がついて大変なことになるのは分かっている。 でも……、もしその人があたしのヒーローになってくれたらどれだけいいか。隣に避難場所があるというのはなかなかに恵まれた環境になるんじゃないだろうか。そのためにも、お隣同士で信頼関係を築いておかなければ。『……あれ? 男だと何か問題あるかい?』「いえ、大丈夫です! 分かりました。今日帰ったら、さっそくお隣さんに挨拶しておきますね」『いやぁ、よかった。じゃあよろしく。彼ね、さっき管理人室に挨拶に来てくれたんだけどね。なかなかの好青年だったよ』「好青年……、そうですか。あたしも会うのが楽しみです。じゃあ、失礼します」「――由衣、さっきの電話は誰からだったんだ?」「ひゃあっ!? こ……幸樹さん!」 終話ボタンをタップしてホッと一息ついていると、背後から幸樹さんの尖った声が聞こえてきて、あたしはビクンと飛び上がった。「誰からの電話だったんだって聞いたんだけど?」「マンションの管理人さんからです。今日、隣の部屋に新しい人が入居したから、色々と面倒を見てやってほしい、って」「隣の新しい住人か。それって男、女どっち?」「…
last updateLast Updated : 2026-02-03
Read more
ヒーローはお隣さん PAGE3
 ――マンションの前まで帰り着くと、一台だけ停まっていた引っ越し業者のトラックが出て行こうとしていた。 もしかして、あれ一台だけで来たの? いくらウチのマンションが家具・家電付き物件だからって、荷物が少なすぎないだろうか。「管理人さん、ただいま」「ああ、おかえり、一ノ瀬さん。今、引っ越し屋のトラックが帰っていったろう? あの一台だけで来てたんだ」「へぇ……。男の人だって言ってましたけど、そんなに荷物が少ないものなんですか?」「男の引っ越しがみんなそうってわけじゃないと思うけどねぇ。あれじゃないのかい? 今流行りのミニ……何とかって」 佐野さんはムリをして流行りの言葉を使おうとする。このマンションは若い住民が多いからだ。何だかその光景があたしにはすごく微笑ましい。「ミニマリストのことですか?」「ああ、それそれ! 教えてくれてありがとうね」「いえいえ。……じゃあ、失礼します」「一ノ瀬さん、大丈夫かい? 何だか顔色がよくないが」「…………そんなことないですよ。大丈夫です。心配して下さってありがとうございます。……じゃあ」 管理人の佐野さんにまで心配をかけるなんて、あたし、情けないな……。ため息をつきながらエレベーターに乗り込み、住んでいる四階のボタンを押す。 あたしは顔にもアザがあり、メイクでうまくごまかしているつもりだけれど、よく見たらやっぱり薄っすらと浮き出て見えるのだろうか。それとも、幸樹さんからのDVが引き金になって、男性そのものへの怯えが顔に表れてしまっているのか……。 四階に着くと、自分の部屋へ帰る前に新しいお隣さんに挨拶をしておこうと思い立った。勇気を振り絞ってインターフォンを押すと、しばらく間があり、ドアがガチャリと開いて――。「…………はい?」「あっ、あのっ! あたし、隣に住んでる一ノ瀬由衣と申しますが――」「……由衣? 由衣だよな?」「えっ? ……あっ、もしかして……直也くん? 昔、隣に住んでた」 お隣に引っ越してきたのは、なんと地元でお隣さんだった幼なじみの秋本直也くんだった。……でも、これって偶然なの?
last updateLast Updated : 2026-02-03
Read more
ヒーローはお隣さん PAGE4
 ――直也くんと会うのは、高校卒業以来だった。彼は高校を卒業した後、調理系の専門学校へ進んだので、大学に進学したあたしとは進路が分かれてしまった、 彼の実家は母子家庭で、お母さんは朝から夜遅くまで働いていたのでほとんど家にいなかった。だから、朝ゴハンと晩ゴハンはウチへ食べに来ていたし、高校の時にはあたしが彼のお弁当も作ってあげていた。 とはいっても彼に好意を抱いていたとかそんなんじゃなくて、どちらかといえば同い年なのに近所のお姉さんみたいな感じで彼のお世話を焼いていたというべきか。彼があたしのことをどう思っていたかは分からないけれど。「あ……あの、直也くん。久しぶりだね。もう……七年ぶりくらい?」「うん、そうだな。高校出てから俺は調理師目指すことにしてたし、お前は大学に進んだもんな。今はOL? どんな会社?」 ちょっとぶっきらぼうな話し方も、昔の直也くんと変わっていない。あたしは懐かしくなった。「〈ユアサプロダクツ〉っていう、そこそこ大きな雑貨メーカーだよ。そこの商品デザインの部署にいるの。直也くんは今、何してるの?」「んー? ちゃんと調理師になったよ。池袋の洋食屋でコックやってる」「そっか、コックさんになったんだね。『忙しいお母さんに、美味しいもの作って食べさせてあげたい』って、昔よく言ってたもんね。夢、叶ったんだ?」 あたしがそう言うと、彼はちょっと悲しそうな顔になった。会えなかった七年の間に何かあったのかな?「夢は……叶わなかった。おふくろ、俺がまだ専門学校の寮に入ってる間にガンで死んじまって。だから……間に合わなかったんだ」「そっか……、それはご愁傷さまでした。残念だったね」「やめろよ、そんな辛気臭い顔! もう俺は立ち直って、今はもっとたくさんの人に、美味いもの作って喜んでもらってんだからさ」 彼はお母さんの死を乗り越えて、ちゃんと自分の道を歩んでいるんだ。いつまでも彼が悲しんでいるより、その方がお母さんも喜んでいると思う。「うん……、ごめん。あの、あたし隣だから、ゴミ出しのルールとか、困ったことあったら何でも言ってね。じゃあ、ちょっと挨拶に来ただけだか――」「由衣、……お前、何か顔色悪りぃぞ? よかったらウチで休んでくか? もう荷物は片付いてるし」「え……? そんな、悪いよ。だ
last updateLast Updated : 2026-02-04
Read more
ヒーローはお隣さん PAGE5
「お邪魔しまーす。……わぁ、確かに荷物少ないなぁ。これだけ?」 彼の1DKの部屋に上がらせてもらうと、思っていたより荷物は少ない感じだった。玄関に靴は数足しかなく(それも靴箱に収納された分も含めて)、キッチンにはお鍋などの調理道具と調味料類、作り付けの食器棚には食器が少し。さすがは料理人という感じだ。 居間兼寝室には洋服やバッグ類が入っているだろう段ボール箱が二、三個しかない。あたしの部屋も同じ間取りだけれど、もっと物が多い。片付いてはいるけれど。「直也くんってミニマリストなの?」「いや、そんなんじゃねえけど。男のひとり暮らしに必要最低限の荷物ってこんなもんじゃねえの? また増えるだろうし」「ふーん、そんなもんなのかな……」 そういえば、幸樹さんの部屋も似たようなものだった気がする。あまりまじまじとは眺めたことがないけど。「――まあ座れよ。これでも飲んでさ」「うん、ありがと。いただきます」 彼はあたしに冷たい緑茶を出してくれた。多分、近くのコンビニで買ってきたものだろう。わざわざグラスに入れてくれている。「――部屋、暑くねえか? 暖房効かせてあるから、暑かったら上着脱ぐなり袖まくるなりして調整しろよ?」 今は十二月で、外は寒いので長袖のジャケットにダウンジャケットでもおかしくはないのだけれど。さすがに暖かい室内ではちょっとムリがあるか。「ううん、大丈夫。暑く……はないから」 さすがにダウンは脱いでいるけれど、暑いのをガマンしてジャケットを脱ぐのはためらった。ブラウスが七分袖なので、ジャケットを脱いだら手首のアザが見えてしまうからだ。「……もしかして、脱げない理由でもあるのか? ちょっと見せてみろ」「わぁぁぁっ、ごめんなさい! ごめんなさい! あたしが悪いの! ごめんなさい!」 彼が手を伸ばしてきたので、あたしはついいつもの発作を起こしてしまい、その拍子に袖口が捲れあがって手首の青アザが露わになってしまった。「由衣、落ち着け! 俺は何もしないから! 急につかもうとして悪かったよ。俺の方こそごめんな。ビックリしたよな」「ううん、ごめん。直也くんは悪くないから。条件反射でつい……」「っていうか、このアザって……。お前が悩んでることってこれが原因なのか?」 彼の訊ね方は幸樹さんみたいにあたしを咎
last updateLast Updated : 2026-02-05
Read more
ヒーローはお隣さん PAGE6
「……えっ? ちょっと待って。お前……、彼氏いんの? マジか……」 そっか、まずはそこから話さないといけないのか。でも、なんか直也くんの態度がちょっとすねたみたいになっているのが気になる。「うん。同じ会社の三年先輩で、付き合って半年くらいだけど。……付き合うまでは、こんな人じゃないって思ってたの。イケメンで、優しくて、仕事もバリバリできて、あたしの憧れの人だったんだ。だから、付き合えることになった時はすごく嬉しかったのに……」「付き合い始めてから本性現したわけか。それまでは猫被ってたわけだな」 すすり泣きながら話すあたしに、彼はうーんと唸ってからそう言った。「そうなの。気に入らないことがあると、あたしのことすぐ殴るし、すごく強い力で腕引っぱってきたりするし。仕事の時もそう。あたしがが残業してまでガンバって作った提案書、自分の手柄みたいに横取りして。でも、あの人外ヅラいいから、ホントのこと言っても会社ではほとんど誰もあたしの言うことなんか信じてくれないし。また彼に何かされるんじゃないかって思うと怖くて……」「……そっか。それで今は、そいつのことだけじゃなくて男そのものが怖くなってるわけだ? さっきの怯え方もそういうことだろ?」「うん。分かってるんだよ、男の人がみんな怖い人ばっかりじゃないって。管理人の佐野さんとか直也くんみたいに優しい人もいるんだって、分かってるけど……。なんかもう、トラウマになっちゃって」 彼は間違っても、あたしを傷つけることはないと分かっている。幼い頃からあたしのことをずっと知っていて、こうしてあたしの悩みも聞いてくれてる、そして、さっきから一度も「お前が悪い」とは言わないでいてくれる。彼ならきっと、あたしの味方になってくれる。そう思ってもいいのかな……?「なるほどなぁ。……なぁ由衣。お前のために、俺にできることって何かないかな? 俺、お前のこと助けたい。お前が困ってるなら、何か力になってやりたいんだ」「え……? うん、じゃあ……、お願いしてもいい? ありがとう」 彼を巻き込むべきか、あたしはちょっとだけ迷ったけれど。彼の方からそう言ってくれているなら、素直に甘えてみようと思った。
last updateLast Updated : 2026-02-05
Read more
安全な逃げ場所 PAGE1
「――なぁ由衣、一つ確認なんだけどさ。お前が困ってるのってその……、彼氏からの暴力だけなのか? 他にもあるなら話してほしい」 彼を頼ると決めた以上、全部打ち明けた方がいいかもしれない。あたしが困っているのはそれだけじゃないっていうことを。「実はね、彼……藤川幸樹さんっていうんだけど、とにかく嫉妬深くて束縛がひどいの。相手が上司だろうと取引先の人だろうと、あたしが自分以外の男の人と笑顔で話してるだけで露骨にイヤな顔するし、『色目使った』って言われるし。極めつきはこれ。あたしのスマホに勝手に所在確認アプリ入れられて、行動までいちいち監視されてるの」 あたしはバッグから手帳型カバー付きのスマホを取り出し、直也くんにその画面を見せる。 この所在確認アプリは安全管理のために、親が子供のスマホに入れたり、高齢者や障害を持った人の家族が使ったりすることが多いのだけれど。幸樹さんはこのアプリのGPS機能を使ってあたしの行動を監視しているみたいなのだ。「あー、これか。このアプリって、こっちからアンインストールとかできねえのかな?」「それができたら苦労しないよ。あたしも何回かやってみたけど、ダメだった。しかも、消そうとしたことが向こう……つまり彼に通知されるみたいで、『なんで消そうとしたんだ』って責められて」 だからそれ以来、もう削除しようとすることすら諦めた。「う~ん、そっかぁ。……待てよ? このアプリのGPSって、部屋番号まで特定されるもんなのか?」「ううん、さすがにそこまで優秀じゃないみたい。このマンションにいるってことまでしか特定できないみたいだよ」「ふーん、そっか……。俺、今いいこと思いついた。それなら、俺の部屋を逃げ場所にすればいいんじゃね? 何かあったら、ここに逃げてくりゃいいんだよ」「えっ? いいの、ホントに? それじゃ、直也くんに迷惑かかっちゃうよ?」 幼なじみで、それもお隣に住んでいるというだけで、彼に迷惑がかかるようなことはあたしも望んでいない。これはあくまであたし個人の問題だから、極力彼のことは巻き込みたくないのに……。「俺がいいんだっつってんの。むしろ、迷惑だなんて思ってねえし。俺、お前のこと本気で救いたいから」「ありがと……。でも直也くん、どうしてあたしのためにそこまでできるの? あたしたち、ただの幼なじみだよね
last updateLast Updated : 2026-02-06
Read more
安全な逃げ場所 PAGE2
「あたしを……好き? だから、あたしの隣の部屋をわざわざ探して引っ越してきたの?」  もし本当にそうだったら、直也くんはストーカー予備軍かもしれないとちょっと怖くなった。 「あー、違げーよ。隣に越してきたのはマジで偶然だって。でも、昔からお前のこと好きだったのはホントなんだ。……つっても迷惑だよなぁ。お前、一応そんなんでも彼氏いるワケだしな」 「ううん、そんなことない! 確かに彼氏持ちで今は直也くんの気持ち、受け止められないけど……。でも、好きって言ってくれたのは嬉しいよ。で、隣に来たのは偶然なんだね? 分かった」  むしろ、迷惑をかけるのはこっちなのに。彼は自分から、この部屋を避難場所にしてもいいと言ってくれた。 「とりあえず、明日から毎朝、お前はここの部屋に来て俺と一緒に朝メシを食うこと。その時に、前日にあったつらかったこととか困ったことを、俺に吐き出してほしい。今は聞いてやることしかできねえけど、この先もしかしたら何かしてやれることが見つかるかもしんねえから」 「うん、分かった」  同じマンションの中なら安全だ。まさか違う部屋にいることまで、幸樹さんに分かるはずがないもの。 「DV被害者だったら、相談ダイヤルとかあると思う。ネットで調べたら出てくるはずだから、登録しといたほうがいいな。あと、警察に被害届は?」 「証拠としてアザの写真とかは撮ってるけど……。診断書も必要とかだったらお金かかっちゃうし。他に相談できそうなところってないかな?」  警察って案外アテにならない
last updateLast Updated : 2026-02-07
Read more
安全な逃げ場所 PAGE3
「――由衣、もう一回手首見せて」 「うん」  さっきはつい発作を起こしてしまったけれど、もう直也くんは大丈夫な人だと分かったので、あたしは素直に彼の方へ腕を伸ばして袖口を捲った。 「ひでぇもんだなぁ。由衣はいっつも、こんなに痛くて怖い思いしてんだな……。めちゃめちゃ痛々しい」  彼はあたしの手首や腕に残された暴行の跡を、つらそうな表情を浮かべながら優しくさすってくれる。彼の手は人を傷つける恐ろしい手じゃなくて、美味しいものを作ってたくさんの人を笑顔にする優しい手だ。 「アザはいつか消えるだろうけど、心の傷はそうもいかねえよな。でもな、由衣。世の中の男がみんなお前の暴力彼氏みたいなわけじゃねえから。俺も男だけど、お前のこと殴ったりなんか絶対しねえし、お前のこと本気で守ってやりたいって思ってるからな」 「……うん。ありがと」  あたしはよく知っている。直也くんは弱い者イジメなんて大キライな人だった。強い人には立ち向かっていくけれど、自分より立場や力の弱い子、特に女の子に暴力を振るったりなんてしたことがない。それはきっと、大人になった今も変わっていないはず。 だから、あたしは彼のことを本気で信じると決めた。まだ彼に惹かれているかどうか、自分でも分かっていないけれど。彼があたしにとって心の拠り所となる存在であることは間違いないから。 「――ところで
last updateLast Updated : 2026-02-08
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status