LOGIN26歳のOL・一ノ瀬由衣は3歳年上イケメンの先輩・藤川幸樹と付き合ってもいて、周りから見れば公私ともに充実しているが、実は交際を始めてからずっと、幸樹からのDVと束縛に悩んでいたのだ。 そんな彼女の隣の部屋に、ある日幼なじみで現在はコックの秋本直也が引っ越してくる。 子供のころから由衣のことを気にかけていた彼は、彼女がDV被害者であることを見抜き、「毎朝一緒に朝食を食べながら、前の日にあったイヤなことを俺に話してほしい」と提案し、彼女に相談窓口やNPO法人などを紹介する。 「あたしは一人じゃない」――。直也という強い味方ができたことで、由衣は明るさを取り戻していく。そして、自分もまた直也に惹かれていることに気づくが……。
View More――「リア充」って一体何なんだろう? 十分に自分の能力が発揮できる仕事があって、安定した収入があって、イケメンで仕事もバリバリできる彼氏がいて? 周りの人から羨ましがられる生活?
そんなの、ただのまやかしだ。現実はまったく違う。
仕事ができたって、手柄は横取りされる。収入はなかなか上がらない。なのに物価は高くなる一方で、生活はいつもカツカツだ。
彼氏はいる。同じ雑貨メーカーに勤める三年先輩で、イケメンで仕事もバリバリできる人。ただし、いいのは外ヅラだけ。その実態は束縛の強すぎるDV男だった。
彼――
あたしの仕事での実績は全部彼が自分のものにしてしまうし、会社の中でもあたしが他の男性と話しているだけで、彼は不機嫌な顔になる。それがたとえ上司だとか、取引先の人だったとしても。
そして、あたしのスマホにはいつの間にか所在確認アプリがインストールされている。もちろん入れたのは彼だ。つまり、あたしは常に彼から行動を監視されているのだ。
実家を離れて(とはいっても同じ都内だけれど)ひとり暮らし中なので、ほとんど逃げ場がない。どこに相談していいかも分からない。いつからか、「手を上げられるのはあたしが悪いからだ」と思うことで、自分が被害者だという現実から逃げるようになってしまっていた。
でも――、そんなあたしのことを救ってくれるヒーローがとうとう現れた。それも、マンションの同じ階のお隣に。
しかもそれは、意外にもあたしもよく知っている人だった――。
つまり、あの人のことは信頼するに値しなかったということ。あたしが安心して合鍵を渡せる相手ではなかったということだ。そんなの、本当の恋愛関係とは言えないと思う。「まぁ、そいつは由衣にそれだけのことをしてきてんだもんな。当然っていや当然か。お前、そいつに鍵預けなくて正解だったと思うぜ」「だよね」「でも、お互いの部屋の合鍵交換するってカレカノらしいっつうか。なんかいいよな、こういうの。俺、そいつに勝ったな」「勝ったって、何のマウントよそれ?」 直也くんが変なところで幸樹さんにマウントを取ったので、あたしは笑いながらツッコミを入れた。でも、あたしもそう思う。彼はあたしが全幅の信頼を寄せられるくらい素敵で自慢できる彼氏で、幸樹さんより全然いい男だ。身長はちょっと負けているけれど(直也くんは百七十六センチ、幸樹さんは百八十センチ以上ある)、顔はあの人に負けないくらいイケメンだし、何より性格のよさであの人に勝っている。「ね、直也くん。クリスマスデートの時なんだけど、あたしコスメを選んでもらおうと思うんだ。直也くんのセンスで」「コスメ? ああ、いいけど……。それだけでいいのか?」「うん、まぁ、今のところはね。街をブラブラしてて、他に欲しいものが見つかったらその時はまた相談するけど。あとは一緒に食事して……とか、そんな感じでどうかなって」「なんか、めちゃめちゃ健全なデートプランだな。……まぁいいんじゃねえの? 付き合いたてならそんな感じで」 直也くんは納得してくれたようで、でも半分は何だかちょっと不服そうだ。男の人にはちょっ
――翌朝。あたしは昨日直也くんから「可愛い」と褒めてもらったロングスカート姿で、髪をハーフアップにしてメイクもバッチリ済ませ、身支度を整えた。 炊飯ジャーに残っていたご飯とカレーをタッパーに詰め、スプーンと一緒に保冷バッグに入れる。これが今日のあたしのランチだ。 そして通勤用のバッグにあるものを忍ばせて、今日もお隣の彼の部屋のインターフォンを押す。「――おう、おはよ、由衣。……お? 今日はスカートで会社行くんだな」「おはよ、直也くん。昨日、直也くんに褒めてもらったから自信が出たの。今日の朝ゴハンなぁに?」「今日はクロックムッシュとフレンチサラダ。――さ、もうできてるから上がんな」「うん。おジャマしま〜す」 あたしは玄関でロングブーツからスリッパに履き替えて、部屋に上がった。「わぁ、すごいボリュームだね! でも美味しそう」 ダイニングテーブルに着いたあたしは、並べられた朝ゴハンに歓声を上げた。「今日はガッツリめにしたんだ。由衣にはしっかり食って、元気に仕事してきてほしいからさ。コーヒー淹れてやろうな。砂糖とミルクはセルフで」「うん、ありがと。いただきま〜す」 熱々のクロックムッシュをナイフで一口大に切り、ハフハフ言いながらフォークて口に運ぶ。チーズと卵がトロトロで、カリカリの食パンと合わさった時の食感が絶妙だ。「美味しい〜♡ こんなオシャレな朝ゴハン、カフェでしか食べられないと思ってた。こんなの作れるなんて、直也くんスゴいよ」「だろ? こんなスゲえ朝メシ作れる俺って、自慢の彼氏だと思わねぇ?」「うん、思う! さすがはプロのコックさんだね」 彼が毎朝作ってくれる朝ゴハンはどれも美味しくて、栄養もたっぷり摂れる。基本的に洋食系が多いけれど、たまに和食系(ご飯とお味噌汁とお漬物、玉子焼きとか)だったり中華粥と揚げパンだったりもする。 ひとり暮らしなので忙しい朝には朝食にまで手をかけていられなくて、彼が隣に越してくるまではトーストとバナナとコーヒーくらいでササッと済ませてしまうことが多かった。 でも、彼と一緒にこの部屋で朝ゴハンを食べるようになってからは、体調もお肌の調子もすこぶるいい。何より、毎朝幸せな気持ちで出勤することができるようになった。これが〝本当の恋愛〟なんだろうな。だって、幸樹さんの〝彼女〟だった時は(って言っ
「ふう……、これでよし、と」「由衣、よくできました」 スマホの操作を終えてテーブルの上に置くと、直也くんが向かい側から手を伸ばしてあたしの頭を優しくポンポンと叩いてくれた。「……うん」 彼に再会した日は、彼から手を伸ばされただけで怯えていたのに。彼の手が優しい手だと分かった今は、そういう行為も安心して受け入れられる。男性に対するトラウマも少しは克服できたのかな? そういえば、管理人の佐野さんに対しても怯えなくなった気がする。「由衣、もう大丈夫だな? 明日会社に行っても、そいつに怯えることはねえな?」「うん、大丈夫。心配してくれてありがとね」 それはあなたがいるからだよ、直也くん。あなたと両想いになれた今、あたしはもうあんな人、怖くも何ともなくなったよ。「そりゃよかった」 あたしの答えを聞いて、彼は朗らかに笑った。彼があたしに「もう泣いてほしくない」と言ってくれたように、あたしも彼にはいつも笑っていてほしい。あたしは昔からずっと、彼の笑った顔が好きだから。「……あ、何かおつまみでもあればよかったね。あたし、探してみるよ」 キッチンへ立って冷蔵庫を開けてみたけれど、お酒のつまみになるような常備菜はなにもなかった。そもそも、あたしにはおかずを常備する習慣なんてないのだけれど。「ごめん、何もないや」「ああ、いいよ。お構いなく……っていってもお構いま
こうして彼と楽しく晩酌している間にも、テーブルに置いてあるあたしのスマホはブーンブーンと振動を続けている。ディスプレイに表示されている発信者の名前は幸樹さんだ。 マナーモードにしたままでよかった。着信音が鳴っていたら、楽しい雰囲気がブチ壊しになっていただろうから。「電話、鳴ってるけど出なくていいのか?」「いいの。放っとけばそのうち諦めて切るでしょ」「つうかお前、彼氏と距離置くっつっといて連絡先はブロックしてないんかい」「うん……。なんかごめん。職場の人だし、ブロックしたらしたで後々面倒そうかな……と思って」「いや、俺に謝ってもらってもな」 そうこうしている間にも、まだ電話は鳴り続けている。どうしてだか、留守電に切り替わってくれない。「…………ああもう、しつこい!」 プツッ。――とうとうブチ切れたあたしは、拒否ボタンをタップして電話を切った。「お前……、切っちまったの?」「切りましたともさ」 フンッと鼻息も荒く答えるあたしに、直也くんが吹き出した。「だって、うっとうしいんだもん。あたしが根負けするの待ってるとしか思えないよ」「なんかさ、強くなったな、お前」「え? そう?」 直也くんのコメントに、あたしは彼の言った意味を理解できずにポカンとした。