جميع فصول : الفصل -الفصل 20

29 فصول

ep11 もう戻ることのできない(2)

しかし、コハクは生きた。はたしてコハクを支えたのは、まもなく出会った親友の存在だった。その男は、やたらとモテるイケメンで、女にだらしない男だった。なのに不思議と憎めない同級生、ハヤテ。彼は良い意味でも悪い意味でも拘りのない男で、周りの目など気にすることなくコハクをイジメから救った。後になってコハクが「あの時なんで助けてくれたの?」と訊いた時、ハヤテから返ってきた答えは「女みたいに可愛い顔してるから」というものだった。本音なのか照れ隠しなのか判然としないが、コハクを救ったことは紛れもない事実だった。それからほどなくして、コハクにもうひとつ、良いことが起こる。本当の意味で新しい家族となってくれる家に、迎え入れられたのである。それは遠く海外に在住していた従姉妹の家族で、コハクの両親が存命中には会う機会もなかった。だが、そのときコハクが住んでいた同市内に帰国・転入して来たことをきっかけに、彼らはコハクの現状を知った。そしてわざわざコハクの元まで迎えに来てくれたのだった。最初はコハクにも抵抗があった。それまでのことがあったから。そんなコハクの心をやさしく解きほぐしてくれたのは、従姉の杏奈だった。彼女はコハクを本当の弟のように想ってくれて、その想いはコハクにも確かに伝わった。いつしかコハクは彼女のことを「アン姉」と呼ぶようになった。高校を卒業する頃には、暗い過去などは微塵も感じさせないくらいコハクは明るさを取り戻していた。ハヤテと杏奈のおかげだった。大学に入ってからは、心置きなく大好きな女装やコスプレに興じることもできるようになり、コハクは自分らしく生きられるようになった。ちなみに、コハクが自らアレンジして作った衣装を着て得意な料理を振る舞うという「コハクの女装キッチン」は、仲間内ではちょっとした評判になっていたという。コハクの人生はまさにこれからだった。青春もまだまだこれからだった。これからだったのに......死んでしまった。修羅場に巻き込まれた挙句の刺殺。しかもそうなる原因を作った張本人が、かつてコハクをイジメから救った親友だったというのは、人生の皮肉としか言いようがない。いずれにしても、コハクにはまだまだやりたいことがたくさんあったし、離れがたい大切な人達もいた。どれもがかけがえのないモノだった。それらのことを思うと......胸が張り裂ける想い
last updateآخر تحديث : 2026-02-13
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ep12 異常事態

  【4】翌朝。熟睡していたコハクの目を覚まさせたのは、表で鳴り響く警鈴の激しい音だった。眠気まなこのコハクは、まぶたを擦りながら気怠そうに上体を起こす。「コハクお嬢さま!」使用人の女が部屋に駆け込んできた。彼女の尋常じゃない雰囲気に、コハクは悟る。大きな事故か災害が発生したに違いない。「何かあったんですか?」「私と一緒にすぐに下まで降りてきてください!」寝間着のままでコハクは一階まで駆け降りていった。居間には屋敷中のほぼ全員が集まっていた。ナイジェルとアンの姿だけが見えない。「いったい何があったんですか?」コハクが再び尋ねると、使用人の顔に戦慄が浮かび上がる。「赤黒いワイバーンが現れたんです......」「ワイバーン??」思わずコハクは阿呆みたいにオウム返しする。知っている名称だが、架空の生物としての認識しか持ち合わせていない。「ワイバーンは、竜の一種とされている魔物です......」使用人がおずおずと説明する。「炎を吐く赤黒いワイバーンは、かつて深焔の魔女とも死闘を繰り広げたと伝え聞いております」「深焔の魔女が......それってつまり、ボクのお母さんが?」「さようでございます」コハクはドキリとする。直感的に思った。この度の襲来の原因は自分なのでは?「で、でも、そんな魔物、本当に存在するのかな......」現実逃避ではなかった。この世界に転生したばかりのコハクには、あまりに現実味のない話。実際にこの目で見てみないことには俄かに信じがたい。「今、この町の上空を旋回しています......」使用人は恐怖に身を震わせる。「指示があるまでは我々はここで待機し、コハクお嬢さまをお守りせよとのことです。ご主人さまとアンさまは、自らの役割のために出られております」コハクは考え込む。状況は理解できたが、やはり現実感が伴わない。そして次第に、この目で確かめたいという衝動に駆られてくる。「コハクお嬢さま!?」使用人が焦り声を張り上げる。コハクが居間から飛び出していったからだ。「ワイバーン、見てみたい......!」コハクは階段を駆け上がる。部屋に飛び込む。窓を開けて柵を掴んで身を乗り出して上空を仰ぎ見た。「いけません! コハクお嬢さま!」追いかけてきた使用人の制止も無視して、コハクは上空に視線を彷徨わせ続ける。すると、視界の端に大きな影の
last updateآخر تحديث : 2026-02-14
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ep13 戦闘

テコでも動こうとしないコハクに、使用人がほとほと困り果てた頃だった。二人の目が大きく見開かれる。「!!」ピカァッと凄まじい閃光が瞬いたかと思うと、轟音とともに開始した。ワイバーンと三人による戦闘である。「ああ、始まってしまったのね......」使用人が額に手を当てて嘆息する。「す、すごい......」コハクはますます釘付けになった。「コハクお嬢さま、いよいよ本格的に危険です。どうか窓からお離れください」「領主さまは......ナイジェルさんもアンさんも、すごく強いんですよね?」「ええ、それはもちろんです」「だったら、大丈夫ですよね?」「だからといってコハクお嬢さまがいつまでもそうしておいて良いということにはなりません。さあ、いい加減もうお退がりください」「あっ!」「コハクお嬢さま??」コハクが空を指さしたので、使用人もそちらを見やった。戦場では、地獄の門のようなワイバーンの口から炎が放たれるところだった。そのターゲットは領主。ゴォォォォッ!!とてつもない火炎放射だった。このままでは領主が業火に飲み込まれてしまう。「ああ!!」コハクは反射的に驚声を張り上げる。それは領主が炎に飲み込まれてしまったからではない。領主からワイバーンに向かって同等程度の強烈な氷魔法が放たれたからだ。「さすがは領主さまですね。ワイバーンの火炎攻撃を見事に氷魔法で相殺したようです」使用人がホッとしたように言った。「これが〔マギアヘルム〕の魔法使い......」目を丸くするコハク。瞳孔は散大し、口は半開きになっていた。圧倒された。圧巻だった。感動に息を吸うのも忘れていた。ところがだった。「り、領主さま!」とやにわに使用人が声を上げた。深刻を剥き出しにした声だ。何のことかと思ったコハクは、改めて領主へ向かって目を凝らしてみる。「ど、どうしたんだ?」領主は、胸を押さえて肩で息をしている。苦しそうだ。そこへナイジェルとアンが急いで近づいていく。とその時。「ま、マズイです......」と使用人の顔が青ざめる。「あっ!」コハクも気づく。苦しむ領主のもとに集まったナイジェルとアン、すなわち三人に向かって、地獄の門が開門する。その大きく開かれたワイバーンの口内には、魔法陣のようなものが見える。否が応でも一段と危険な火炎攻撃を想像させる。「ナイジェルさまとアンさま
last updateآخر تحديث : 2026-02-15
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ep14 暴炎

「い、いやだ......」コハクは声を震わせる。「コハクお嬢さま?」「二人とも、ボクにやさしくしてくれた。アンさんは、ボクをやさしく抱きしめてくれた......」「コハクお嬢さま......」「ボクにやさしくしてくれた人を......ボクはまた失いたくない!」転瞬、領主を守ろうと立ち塞がるナイジェルとアンに向かい、ワイバーンの炎が無情にも発射された。使用人は目を瞑って手を握り合わせた。だが、すぐにハッとしてまぶたを開く。「こ、コハクお嬢さま!?」なんとコハクが、窓から空へ向かって矢のような勢いで猛烈に飛び立っていったのだ。向かう先は彼らのもと。「えっ!?」精一杯の防御に構えていたナイジェルとアンが目を剥いた。突然、彼らの目の前にコハクが割って入ったのだ。しかもコハクは、迫り来る炎のすべてを掻き消した...というより、まるで吸い取ってしまったかの如く消失させてしまった。「あの邪悪で凶暴な炎を......吸収してしまったのか!?」領主も驚愕を隠せない。ワイバーンすらも仰天しているようだった。「ぼ、ボクは、いったい......」コハクは自らの掌を確かめるように見つめる。自分でも甚だびっくりしていた。ただ救いたい一心だった。無我夢中だった。自分で自分が何をどうやったのかもわからない。ただ今はこの勢いでやるしかない。コハクはワイバーンに向かって両手をかざした。「はあああ!!」今度はコハクの両手から魔法陣が浮かび上がると、先ほどのワイバーン以上の、激烈な深紅の炎が発射された。「ギィヤァァァァァッ!!」けたたましい悲鳴とともに、巨大なワイバーンの全身が深紅の炎に包まれる。生命の危機を察したのか、炎に焼かれながらもワイバーンは反対方向へ飛び立っていく。その時、不思議なことがコハクの身に起こった。「アナタハ、ホンモノノクイーンナノデスカ......?」ハッとするコハク。この声は、ワイバーンの声!?「コハクお嬢さま!!」後ろからナイジェルとアンの叫びが上がった。コハクは振り返ると、二人の形相にギョッとする。「えっ、ナイジェルさん? アンさん?」「コハクお嬢さま! 早く炎を!」「炎を?」「お鎮めください!」「えっ?」はたとしたコハクはようやく気づく。自らの体から、深紅の炎が溶岩のように溢れ出しているではないか。し
last updateآخر تحديث : 2026-02-17
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ep15 抱擁

「バーさん!」ナイジェルが焦燥を爆発させる。「どうやったらコハクお嬢さまの魔法の暴走を止められる!?」「これはまさしく深焔の魔女の深淵たる深紅の炎。我々にそうやすやすと止められるものではありません」コハクの炎を凝視しつつ領主は答えた。胸を押さえながらも冷静だった。それだけに事態の深刻さがより一層うかがえる。「じゃあこのままどうすることもできないのか!?」「いや、私がなんとかします。ナイジェルとアンは町へ降りて住民の避難と消火作業を手伝いなさい」「わかった!」ナイジェルは頷き、アンの方へ振り返る、と同時に目を見開いた。「何をしてるんだ!?」アンが、己の身を顧みず無理矢理コハクへ近づこうとしていたのだ。「もし誰かひとりでも無辜の民が亡くなってしまったら、純粋なコハクお嬢さまの心は、きっと耐えられなくなってしまう......!」「ダメだ! アン!」ナイジェルはせわしなくアンに手を伸ばし、その手首をガシッと掴んだ。「止めないで!」「バカか! おまえが炎に焼かれて死んだらそれこそコハクお嬢さまは耐えられないぞ!」「いいから行かせて!」「ダメだ!」そんな中、領主はひとり、覚悟を決めていた。もはや、自らの命を賭してでもやるしかない......。「止まってよ! もう止まってよぉぉぉ!!」コハクは必死で抑えようと試みるが、気持ちが焦るばかりで炎の暴走は止まらない。このままでは本当に取り返しのつかないことになってしまう......!「大丈夫だ!!」誰の声かはわからなかった。だが、そのとき確かに聞こえた。コハクに向かってそう叫ぶ声が。聞こえたのはコハクだけではない。領主にもナイジェルにもアンの耳にも、確かに届いていた。「誰だ!?」とコハク以外の三人が声を上げた時、何処から現れた一人の男が迷いなくコハクへ肉薄した。暴れる炎を物ともせずに。「大丈夫だ、落ち着け」男は背後からコハクをふわりと抱擁した。そしてコハクの耳元へやさしく語りかける。「炎は必ず私が何とかする。だからお前は安心していい」「だ、だれ??」コハクは背後から抱きしめてくる男に冷気を感じた。氷河のように冷たく、清流のように心地良い、心を静めてくれるような冷気......。「ゆっくりと深呼吸しろ」「は、はい......」コハクは言われたとおりにする。「そうだ、そのまま、ゆっくりでいい
last updateآخر تحديث : 2026-02-18
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ep16 英雄

アンに手を取られながらゆっくりと慎重に地上に戻ったコハクは、極度の緊張から解放されて大きく息を吐き出す。やっぱり自分は魔女なんだと、今さらながら改めて驚愕した。「あのワイバーンを、ボクが......」自分の掌を見つめて静止する。が、ふと周囲に気づいて視線を上げた。「なんと、恐ろしき魔女さま……!」町の人々が、コハクに視線を向けられたと同時に地面に跪いて頭を垂れた。コハクは悟る。これは崇敬とは違う。恐怖だ。彼らはすくみ、その体は震えていた。「ご、ごめんなさい……」コハクは思わず声を詰まらせて謝った。ひどく悲しい気分だった。「ちょっと、コハクお嬢さまは……!」とアンが町の人々へ詰め寄ろうとした時だった。「大丈夫か?」離れたところからコハクへ向かって声が飛んできた。コハクが振り向くと、視線の先には蒼い瞳の黒髪の美男子が立っていた。「だ、大丈夫です!」一生懸命に声を出してコハクは返した。それに対して彼はこれといった反応は見せない。ただ歩き出しながらこう言った。「ワイバーンから町を救った英雄は、早々に休んでいるといい」そうして彼は再び消火活動に向かっていった。コハクは、彼の身体から感じた心地良い冷気を思い出す。彼がいなければどんな悲惨な結果をもたらしてしまったかわからない。町も、人も、自分も。そうです。だから、ボクの英雄は貴方です......。町の人々は顔を上げると、皆一様に複雑な表情を浮かべていた。
last updateآخر تحديث : 2026-02-19
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ep17 若き公爵

  【5】 「改めまして私が領主のバーバラです。この度は〔マギアヘルム〕の危機を救ってくださり誠に感謝いたします」バーバラは領主邸の応接室に男を招くと、改めて深謝した。部屋には領主と男以外にナイジェルとアンとコハクも同席していた。「たまたま旅をしていたところであのような状況に出くわし、自分の為すべきことをしたまでです」男は淡々と答えた。領主と向かい合って座る男を、コハクは側面の席から見つめる。蒼玉のように深く青い瞳が印象的な黒髪の美男子。それがコハクの第一印象だった。スラリとした体はスタイルも良く、身なりはきちんとしていて、どこかの貴族にも見える。「〔マギアヘルム〕に旅、ですか」領主は男をまじまじと見る。恩人とも言える相手に対し些か失礼に思えるが、領主として相手を見極めようとしているのだろう。「魔法について調べるために国内を回っていました」男は微塵も動じることなく粛々と説明する。「その中で、ここ〔マギアヘルム〕へも足が向かったのは自然な流れでした」「確かに、その通りですね。貴方自身も相当な魔法使いと見えますし......」領主は熟練鑑定士の目つきで男を見つめ続けていたが、横からナイジェルとアンが物言いたげな視線を領主に送った。わかったわかった
last updateآخر تحديث : 2026-02-20
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ep18 望み

「今、なんと?」領主が思わず訊き返した。「ですから私の望みは、そちらの彼女を連れ帰ることです」クロー・グレイシャは迷いなく言い放った。その声には覚悟の響きすらある。「ぼ、ぼぼぼボクを、連れ帰るぅ!?」コハクは跳び上がるように立ち上がった。この人は出し抜けに何を言っているんだ!?「それはどういう意味ですか?」アンが眼光鋭く割って入った。保護者の目であり、女の眼だ。「グレイシャ様」領主の声のトーンが低くなる。「コハクお嬢さまは特別な方です。貴方にどのような意図があるにせよ、コハクお嬢さまをお連れするということは、相応の意味が生じます」部屋内が沈黙に包まれる。当のコハクは急転直下の急展開についていけず何かを言うに言えない。「二つ、確認してもよろしいですか?」クローが口をひらいた。領主が頷くと、彼は言葉を続ける。「特別な方。相応の意味。これらが示す具体的な内容をお教えいただきたい」「コハクお嬢さまは、深焔の魔女の血を引く魔女の末裔です。それと同時に〔マギアヘルム〕の初代領主のご令嬢でもあらせられる。ここまで言えば、相応の意味は自ずとわかりましょう?」あえてひけらかすように領主は事実を突きつけた。彼を試しているのか......ナイジェルとアンはそう汲み取ったが、領主の真意は少し違った。「グレイシャ様」領主が続ける。「貴方がコハクお嬢さまに関心を寄せる理由......それはつまり、貴方の言った『大きな可能性』という言葉が意味するところと推察しますが、正直にお答えいただけますか?」領主の指摘は的を射ていたようだ。クローは観念したように吐息をつくと、事情を語り始めた。
last updateآخر تحديث : 2026-02-21
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ep19 事情

「そういうことだったのか......」ナイジェルが腕を組んで宙を見つめた。ひと通りの説明を聞き、事情はよく理解した。だが彼の表情は曇っていた。「しかし......」とアンが切り出す。「すでにご存知のように、貴方の弟様のご病気は、現代の医療はもちろんのこと魔法による治療でも治らないと結論づけられております」「その通り」領主が重ねる。「いくら我々〔マギアヘルム〕の魔法使いでもどうすることもできません。自らの魔力により自らの身体を蝕み、やがては免れざる死に至らしめる〔魔力硬化症〕は、紛れもなく不治の病。グレイシャ様自身も魔法の使い手ならば百も承知でしょう」「それでも私は彼女に賭けてみたい」クロー・グレイシャの決心は揺るがない。それこそこのような反応をされることなど百も承知だったのだろう。「ボクで良ければ、助けてあげたいけど......」コハクはクローの凛々しく端麗な顔を見つめる。弟の病を治すため、その手段を探すため、はるばるこの地までやって来た若き公爵の顔を......。「コハクお嬢さまをお連れすることは私が許しません」不意に鋭い声が上がった。皆の視線が彼女へ集まる。アンだ。「もちろんタダでとは言わない。結果如何に関わらず、グレイシャ家の当主として最大限の対価を支払わせていただく」クローも譲らない。アンは立ち上がってコハクに近づき肩を寄せる。この子を守るのは私だと言わんばかりに。「貴方の弟様が助からなかった時、きっとコハクお嬢さまは深く傷ついてしまいます。確かに貴方はコハクお嬢さまとこの町を救ってくださいました。貴方には恩があります。それでも、わざわざ悲しみの待つ可能性がある場所へ、コハクお嬢さまを行かせるわけには参りません」「申し訳ありません」と断ってからナイジェルも言った。「私も同意見です」クロー・グレイシャは、コハクを守ろうとする二人と対立する形となった。そのやり取りを見守っていた領主は、おもむろに口をひらく。「グレイシャ様。貴方は恩人ですが、それでもやはり他人です。救っていただいた御礼に、コハクお嬢さまを他人である貴方とともに行かせることなど到底承服いたしかねます。貴方が他人であるかぎり」もっともな台詞だったが、どこか含みがあるようにも聞こえた。そこをクローは見逃さなかった。「では......私と彼女が、他人でなくなるとすれば、ど
last updateآخر تحديث : 2026-02-22
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ep20 それぞれの想い

しばらくの間、クロー・グレイシャは〔マギアヘルム〕に滞在することとなった。彼の滞在期間は結論がいつ出るか次第になる。強引に婚約話が進んでいってしまいそうな所をアンとナイジェルが食い止め、そのような形となったのだ。「しかし、ずいぶんと大胆な公爵様だよな」自分の屋敷へ戻るなり、ナイジェルは疑問に満ちた顔をする。彼には未だにクロー・グレイシャの行動意図が測りかねていた。本当に弟を救いたいがためだけなのだろうか。「領主さまは......」アンも言う。「婚約期間と結婚の時期、将来の政治上および経済上の利益等についても条件を出されていたけれど、あの様子ならグレイシャ様は承諾されるでしょうね」「それだけ弟さんを救いたいということなんでしょうね。弟思いの優しいお兄さんなんだなぁ」コハクは何の気なく言ったが、アンの眼がギロリとこちらへ向く。「そんなのん気なことをおっしゃっている場合ではありませんよ。これはコハクお嬢さまの人生に関わる大きな問題なのですから」「わ、わかってますよ」「私から言わせてもらえば、自分の弟を救うためならば一人の女の人生など厭わないと言っているようなものです」「そ、そこまで言わなくても......」「悪い人間ではないかもしれません。良い人間かもしれません。しかし私は認めません。弟さまのこととは別に、彼がコハクお嬢さまのことを本気で想っていらっしゃるならばまだしも、あれでは納得できません」「アンさん......」「領主さまにとっては政略結婚。公爵さまにとっては弟を救うため。利害は一致している。しかし私は......コハクお嬢さまの女としての未来が、目的を達成するための手段として利用されることに耐えられないのです。コハクお嬢さまが、まるで道具のように扱われることが、私はどうしても許せないのです」 アンの激昂ぶりに、コハクよりもナイジェルが驚いていた。「俺の縁談話の時は、そこまで怒ってくれたかな?]「それとこれとはまた別なの」「そういうことにしておくよ」「それにこれはナイジェルも領主さまもわかっていることでしょうけど」「なんだ?」「今のコハクお嬢さまは魔力と魔法が安定していない」アンは怪訝な表情を浮かべる。「なので仮にコハクお嬢さまのお力で公爵様の弟さまを救えるとしても、すぐにというわけにはいかないでしょう?」「それに
last updateآخر تحديث : 2026-02-23
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