【9】クロー・グレイシャの滞在期間は伸びていた。その理由は、二人の結婚を見届けてからになったからだ。アンとナイジェルの結婚である。その日は二人の結婚のために盛大な祝宴が執り行われた。領主の息子であるナイジェルの結婚なので当然と言えば当然だ。だが、領主が正式に認めなければ、こうはならなかっただろう。花婿となったナイジェルは誰よりも誠実そうだった。花嫁となったアンは誰よりも美しかった。コハクは憧れの眼差しで、夫婦となったばかりの二人を紅い瞳に焼きつけた。「ボク、良いことができたのかな」祝宴の後。コハクはひとり、人気のない桟橋に立って夜の川を眺めた。川面には町の灯りが揺れている。「コハクは不思議な女だな」と誰かの声がコハクの耳に届く。振り向くと、相変わらず凛としている若き公爵が近づいてきていた。「不思議って、どういう意味?」コハクは素直に尋ねる。クローは何も答えない。彼はコハクの隣に立って川に視線を落とした。「私が言うのも何だが、本当にいいのか?」「えっ、何のこと?」コハクがきょとんとしていると、クローの端麗な顔がこちらへ向けられた。「私との婚約だ」「あっ、ああ、うん......」コハクは意味の無い笑顔を浮かべてから、川の方へ向き直った。どうリアクションすればいいかわからなかった。「私たちは......」クローの視線も川の方へ戻る。「あの二人とは何もかもがまるで違う」「アンとナイジェルは、ずっと想い合っていた仲だからね。ボクの前ではできるだけそういう部分を見せないようにしてたみたいだけど」「コハクに気を遣っていたのか?」「だと思う。たぶん、ボクが寂しくならないようにね。特にアンの方がそうしようって強く決めていたんじゃないかな」「優しい人たちなんだな」「二人とも大好きだよ」「コハク」とクローが改まったように体を向けてきた。「そんな二人と離れ、貴女は私と行くことになる」「は、はい」とコハクも体を向け、彼と向き合った。「本当に嫌じゃないのか?」「嫌だったら、一緒に行きたいなんて言わないよ......」「病気の弟を救うために、私は貴女を連れて行こうとしている。そのために必要だからと、私は貴女に婚約を申し込んだ」「そうだね......」「私のことを、悪くは思わないのか?」「恩人だと思ってるよ」「それはたまたま私が貴女を助
اقرأ المزيد