جميع فصول : الفصل -الفصل 50

71 فصول

ep41 治療

ぶっつけ本番だった。クローが今日まで具体的な方法の説明をしてこなかったからだ。彼がなぜそうしたのか、理由はわからない。だが、それゆえにコハクとしてはクローに言われた通りを忠実に実行するだけだった。それ以外にやりようがないのだから。それに、なぜだか安心感もあった。クローの声を聞いて、コハクの肩の力は抜けていた。「!!」一同は大きく目を見張る。コハクとルーのまわりだけが激風に揺れる。明確に何かが起こり始めた。まるでコハクの両手から、何かが吸い込まれているように見える。「これは......」ルーは驚愕する。今まで様々な治療を受けてきた。魔法を用いた試みも幾度となく体験した。しかし、そのどれとも比較にすることができないほどの感覚、あるいは過去の治療や試みのどれもが記憶の彼方へ吹き飛んでしまうほどの劇的な感覚が、彼の全身を鮮烈に駆け巡った。「もういい、そこまでだ!」ここでクローがコハクの両手をルーから離させた。何かがおかしい。コハクは焦ってジタバタしている。「と、止められないよ!」  「大丈夫だ、落ち着け」クローは自らの両の手を、コハクの両の手に握り合わせた。互いに手を握り合わせて二人は見つめ合う。「く、クロー?」「私の目を見ろ」「は、はい」コハクの紅い瞳と、クローの青い瞳が交錯する。「大丈夫だ。落ち着いて、力を解くイメージをしろ。あの時みたいに」「あの時みたいに......」「そうだ、コハク」「うん......」やがて風は収まる。やや間を置いてから、コハクは無事、自分の力が収まったことを自覚する。その途端、安堵と脱力で腰が砕けそうになった。「コハク」とクローがコハクを抱き寄せる。コハクの立った姿勢は維持された。クローと密着することによって。「あっ、ご、ごめんなさい」コハクはあたふたとする。「大丈夫か? 立っていられるか?」「だ、大丈夫だよ、ありがとう」「離しても平気か?」「う、うん」ぴったりと密着していた二人の体が離れた。クローはまだコハクを見つめてきたが、コハクは視線を逸らした。「コハク」「な、なに?」「顔が赤いぞ? 今ので熱が出たのか?」「で、出てないし、大丈夫だから」コハクは体ごと背けて顔を見られないようにした。ちなみにクローの言った「今ので」とは、コハクがルーに対して行った魔法行為(治療行為)のことであっ
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ep42 医者

  【6】「そちらの彼女が、ですか......」医者はただただ驚嘆する。魔法にも精通した彼は極めて優秀なベテラン医師で、ルーのかかりつけ医だ。彼は定期的にグレイシャ家を訪れてはルーを診ている。「コハクがやってくれたんです」ルーが診察を受けながら微笑む。ところが医者はグレイシャ兄弟を睨みつけた。「なぜ私の立ち会いを待たずにやったのですか」「申し訳ございません」と執事のフランツが口を挟んだ。「先生の許可はいただけないと判断したからです」「それで私の目を盗んで強行したというわけですね......」医者はため息をついた。しかし、その表情は複雑だった。感心できないやり方とはいえ、確かにルーの容体は改善している。「しかし、決して私は無謀な挑戦をしたとは考えていない」クローが言った。「確かに理論も理屈も間違ってはいない」医者は眉根を寄せつつも理解を示す。「魔力硬化症は、自らの魔力の流れが停滞し淀んでしまうことで身体を蝕んでいく病気。現在もっとも有効とされている治療法は、医療魔法師なり魔法薬で患者の魔力を操作し、その停滞を緩和させる方法なのだが」「特別に強い魔力を持った者にはその効果は薄い」クローがルーを一瞥する。「その通り。あなたの弟さまは、類い稀なる強力な魔力を所持しています。それは魔法使いにとっては誰もが羨む財産だが、魔力硬化症患者にとっては致命的な特徴となってしまう。なぜなら、魔力が強すぎて外的な操作を受けつけないからです。無理に操作しようとすれば、する側にもされる側にも危険が伴う。魔法薬も、早い段階でその効能が薄らいでいき、やがて効かなくなってしまう」「ルーも散々試してきたが、結局どれも有効なものにはならなかった」クローの視線がコハクへと移る。「そして私は彼女を見つけた」コハクは何となく気恥ずかしくなって頬をポリポリと掻いた。そこへ医者の視線が刺さる。「他者の魔力を吸い取る力......ですか。確かに身体を蝕む原因となる魔力そのものを吸い取ってしまえれば、理屈としては治すことは可能です。しかし、その方法はこれまでも幾多の魔法使いが試したが成功はしなかった」医者は興味深くコハクの紅い瞳を凝視する。「魔力硬化症患者は魔法が使えなくなり、その魔力を他者によって奪わせることもできない」クローが言葉を続けた。医者は大きく頷く。「それは現代魔法に
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ep43 歯がゆい気持ち

  【7】「コハク、体の調子に変化はないか?」コハクがグレイシャ家にやって来てから三日目の朝。廊下で顔を合わせるなりクローが様子を窺ってきた。「念のためボクもお医者さんに診てもらって大丈夫だったじゃん。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」コハクはにっこりと笑って返した。「そうか。何か少しでも変化があればすぐに言ってくれ」クローの顔は真剣そのものだ。本当に本気で心配してくれている。病気の弟に対してと同様に。「うん、そうする」コハクは笑顔のまま頷いた。朝食の時間になる。コハクが居間に入っていくと、すでにルーがテーブルに着いていた。「おはよう、コハク」「おはよう、ルー」コハクは内心ほっと安堵した。ルーは引き続き調子が良さそうだ。昨日は長々と散歩に連れ出してしまったし、夜は夜でいっぱいお喋りした。ルーが望んでそうしたとはいえ、もしその影響でまた調子が悪くなってしまったら......とコハクは心配していたのだ。「どうしたの?」ルーが疑問を浮かべた。「あっ、いや、何でもないよ」コハクは微笑み返してから席に着いた。杞憂に終わって良かったと思った。「コハクお嬢さま」コハクの食事はメアリーが運んできた。コハクの身の回りの世話についてはメアリーの専任だ。「ありがとう、メアリー」コハクはメアリーにも微笑んで応える。それをルーは興味深そうに眺める。「コハクは、伝説の魔女の御令嬢なんだよね?」「そうだよ?」「なんだろう、良い意味で全然そうは見えないというか......」「それは確かにそうだな」とここでクローがやって来て席に着いた。「良い意味で庶民的だからな」「自分ではあんまりよくわからないけどね......」苦笑する。なにせ自分に宿る魂は前世のものだ。庶民的も何も、庶民そのものなのだから。「庶民的、か。なるほど、確かにそうだね」ルーはうんうんと頷く。「まだ〔マギアヘルム〕に滞在していた時に一度、私はコハクから料理を振る舞われたことがある」兄のその告白は、弟の目を輝かせた。「本当に??」「ああ。さらにコハクは私の上着のボタンを直してくれたな」クローの視線がコハクへ運ばれる。いつも通り凛々しくクールだが、やさしい目をしている。「そ、そういえば、そんなこともしたよね」コハクはつい恥ずかしくなってはにかんだ。でも、なんか嬉しい。「ねえコ
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ep44 原因

今日、ルーが体調を崩したのは、昨日のことが原因だった。それが判明したのは、クローの要請により緊急来訪した医者の往診を受けた後のこと。「病状が悪化したわけではないので、安静にしていれば普段の状態に戻るでしょう。その点はまずご安心ください」医者はこう言ってから、クローに対して厳しい顔を向けた。「いくら彼女の力で普段より症状が楽になったからといっても、体力は落ちたままです。今後はくれぐれも無理をさせないように」こうして医者は厳重な注意を与えて、グレイシャ家から引き上げていった。「私が甘かった」とクローは素直に反省していたものの、複雑な心情は隠しきれていなかった。「あんなに元気なルーの姿を見たのは本当に久しぶりだったんだ。だから本人の意志を尊重して遊ばせてやりたかった」クローは執務室の窓から遠くを眺める。いつも通りのクールな彼だが、その青い瞳にはやるせない悔しさが滲んでいるように見えた。執事のフランツは執務机の側に控えたまま黙して語らなかった。「あ、あの......」重苦しい雰囲気の中、コハクはクローに向かって口をひらく。誰よりも複雑な胸中を抱えていたのはコハクだった。「コハク?」クローが振り向く。「ボクが......」コハクは下唇を噛む。「昨日、ルーを連れ回しちゃったからこうなっちゃったんだよね?」「違う。コハクのせいじゃない」「帰ってからもボクがルーといっぱいお喋りしちゃったからこうなっちゃったんだよね!?」「それは違うぞ。すべては私のせいだ」クローがコハクに向かって歩き出す。コハクの自責を止めさせるためだろう。だが、彼よりも一歩先にコハクを止めたのは別人物だった。「この一件はコハクお嬢さまが反省すべきことではございません」メアリーが素早くコハクに寄り添った。「で、でも」とコハクが続けようとすると、メアリーはコハクの口元に手を当てた。それから何をするのかと思ったのも束の間、メアリーはクローに向かって鋭い視線を投げつけた。「グレイシャ様」「なんだ?」クローが立ち止まる。「もしも今後、同じような事態が繰り返され、コハクお嬢さまの心が苦しめられるようであれば、私はコハクお嬢さまを〔マギアヘルム〕へ連れ帰りたいと存じます」メアリーの発言に、誰よりも驚いたのはコハクだった。「えっ......?」「コハクお嬢さま。私の主人は貴女です。私にとっ
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ep45 青天の霹靂

「えっ?」コハクが部屋に戻りながらクローに疑問の目を向けると、クローはそのまま執務机まで歩いていって引き出しを開けた。「コハクお嬢さま」メアリーがコハクに駆け寄ってくる。「申し訳ございません。私がコハクお嬢さまを動揺させてしまいました」メアリーが頭を下げてきた。コハクは迷う。何と言葉をかけるべきなのか。メアリーに対して悪感情の欠片もない。むしろ逆だ。メアリーこそが一番の味方になってくれる存在だということを身をもって証明された気分だった。まるでアンのように。「メアリー。ボクのことを一番に考えてくれてありがとね」コハクはやさしく微笑みかけた。直後、メアリーがその目を見開いてじっと見つめてきた。普段はいつも伏し目の彼女が、なぜそんな顔をするのだろうか?「あ、アンさま......」「えっ、ボクはコハクだよ?」「あっ、いえ、大変失礼いたしました」はたとしてメアリーは再び頭を下げた。コハクはきょとんとする。そこへクローが一枚の書類を出してコハクへ持ってきた。「コハク、これを見てくれ」「この紙?」受け取ると、コハクは文面に視線を落とした。色々と書いてあるが、即座に目を引いたのはひとつの固有名詞。「それは魔法大学に関する書類の一部だ」クローからそう言われても、コハクの頭は理解が追いつかない。「ええと......なぜこれをボクに??」コハクが小首を傾げると、クローよりも先にメアリーが口をひらいた。「特別入学が許可されたのですね」「これでまたひとつマギアヘルム領主には借りができてしまった」クローとメアリーの交わす会話は、明らかに何かがあらかじめ水面下で進行していたことを物語っている。「どういうことなの?」コハクは目を丸くしてクローとメアリーを交互に見る。クローはメアリーに許可を取るような視線を送ってから、コハクに向けて真相を明かした。「これから私とコハクとで、魔法大学に入学することになる」「......はっ!?」晴天の霹靂。あまりの急展開にコハクは絶句する。魔女の末裔のボクが、魔法大学に入るだって!?「このような形でお伝えすることになってしまい大変申し訳ございません」メアリーが言う。「もし入学が許可されなかった場合に、コハクお嬢さまへご迷惑を被らないための配慮だったのです」「そうなんだ」クローも言う。「これは裏技を使った、いわば裏口
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ep46 運命の不思議

「......ということなんだ。あとはコハクが承諾するかどうかなんだが......」クローの説明がひと通り終わる。ひたすら黙って聞いていたコハクは、冷静に頭の中を整理していた。要するに結論はこうだ。コハクは魔法大学で自分の力を磨く。クローはコハクを側で支えつつ大学関係者しか知り得ない魔法関係の文献や研究について調べる。無論すべてはルーの病気を治すためだ。 そしてこの話には、クローだけでなく領主も関わっている。というより領主の力がなければ実現できていない。魔法大学の理事長はかつて、現マギアヘルム領主バーバラとは昵懇の仲だったらしい。「ここまで話が進んでから言われたら、断るに断れないよね......」コハクは吐息をついた。自分の知らぬ間に自分に関わる話がどんどん進んでしまっていたことに当然ながら不満を覚えた。だがそれも今さら感はある。身も蓋もないことを言えば、この転生そのものが、まさにそんな感じなのだから。賢明なコハクはその辺りのことをよく自覚している。「コハクお嬢さま。嫌なら断ってください」メアリーはコハクを気遣うように言った。おそらく本当に断っても、メアリーは支持してくれるだろう。それどころか断ったコハクを全力で守ってくれるはずだ。「コハクお嬢さま」メアリーが言葉を重ねる。「たとえ領主さまのお考えに反しても、私はコハクお嬢さまの意志を何より尊重します
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ep49 謎の貴婦人

「貴女がクーちゃんのフィアンセ?」コハクが応接間に入るなり、女が着座したまま口をひらいた。「えっ??」コハクは面食らってドギマギしてしまう。客人は、燃えるように美麗な朱色の長髪を揺らせて顎を上げる。長いまつ毛に縁取られた彼女の目は、まるで鑑定するように鋭く光っている。「お座りなさい」なぜか客人の方が主人のようにコハクを手招いた。コハクは一度メアリーと視線を交わしてから、客人の誘いに応じて席に着く。メアリーは壁際に控えた。「あ、あの......」コハクは客人に圧倒されていた。見るからに高慢そうな客人は、どこぞの貴婦人だと推察される。髪型も服装も高級かつ上品に整っている。しかもかなりの美人。だが多分に気が強そうだ。気位も高いに違いない。思わず委縮してしまうような圧迫感がある。「ふーん、貴女がねぇ......」女は挨拶もせず無遠慮にコハクを凝視してくる。「え、ええと......」コハクはどうしていいかわからない。「ふむふむ」女は何やら小さくコクコクと頷いた。「とりあえず外見は及第点といったところかしら」「エリザさま」とここで執事のフランツが近づいてきて女に声をかけた。見るに見かねたのだろう。「コハクさまがお困りです」「あら失礼」女は急に礼儀正しくなって丁寧な口調になる。「わたくしはエリザと申します。クローとは古い付き合いで、時々こうしてこちらにお邪魔させていただいております」「そ、そうだったんですね」コハクも気持ちを切り替えて応じる。相手がどんな人物であれ、グレイシャ家への客人に非礼は許されない。自分は当主の婚約者なのだから。「ボクはコハク・インフェルドと申します。クロー・グレイシャ様の婚約者として、先日からこちらで暮らしております」「貴女、魔女の末裔なんですってね」不意にエリザが微笑を浮かべた。コハクはあっとなって執事のフランツへ視線を投げる。フランツは問題なさげに頷いた。「コハクさま。エリザさまは問題ございません」「そ、そうなんですね」どうやらクローにとって機密を共有できる人物のようだ。古い付き合いと言っていたが、二人はどういう間柄なのだろう。「わたくしとクーちゃんの関係、気になる?」エリザはコハクの心を見透かしたようなことを口にした。図星のコハクは返答に戸惑ってしまう。「あっ、ええと、その......」「貴女は、どう思
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ep50 ふたりのカンケイ

「フフフ」エリザは不敵に笑っている。はなはだ艶っぽい。やっぱりそうだ。彼女はきっとクローの......と、コハクが絶望しかけた時だった。「おい!」と応接間の扉が慌ただしく開かれた。コハクとエリザが振り向くと、そこには問題の張本人が立っていた。「あら、クーちゃん。思ったより早いのね」「早いのね、じゃない!」クローは貴婦人に向かって厳しい口調を浴びせながら肩をそびやかせて歩いてきた。「コハクと何を話していた?」「別に、まだ何も話してなくってよ?」「コハク、本当か?」クローの顔がこちらへ向けられた。美男子の真剣な顔だ。「あ、ええと、その......」返答に窮するコハク。「とりあえず」クローは大きく溜息を漏らす。「エリザの話を真に受けなくていい」「えっ?」「何を話していたのか知らないが、どうせコハクのことをからかっていたに違いない」「でも......」「そういう人なんだ、エリザは」「じ、じゃあ!」コハクは勢いよく立ち上がった。「クローとエリザさんは何でもないの!?」ハッとしてコハクは口を押さえる。つい口走ってしまった。でも、やはり確認せずにいられなかった。「何でもないとは、何のことだ?」クローは質問を質問で返してきた。しかしその視線はエリザに向けられる。エリザは口元に小悪魔な笑みを浮かべた。「わたくしとクローが、トクベツなカンケイって言ったからよ」「どうせそんなことだろうと思った......」クローは額を押さえて嘆息した。コハクはひとりキョトンとする。「ええと......結局、二人はどんな関係なの?」「私たちは」クローはうんざりしながら答えた。「確かに特別な関係という表現もできるが、いわゆる男女の関係ではない」「そ、そうなんだ」コハクはほっと胸を撫で下ろす。心底安心した。「そもそも私とエリザに限ってそのような関係は十中八九ありえない」「う、うん」コハクの胸には嬉しさが広がっていた。クローが殊更に強調して否定してくれたことが、とても嬉しかった。「ふーん」このときエリザは二人をカウンセラーのように観察していた。コハクは気づいていなかったが、とりわけコハクには女の眼差しが向けられていた。
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